第20話『メスガキ! わかれ! わかれ!』
呆然としながら体育座りをしていたガレス卿にモードレッド卿を押し付け、オレと麻子ちゃんとケイ卿は家に戻っていた。
三人して体力の限界が来たのか、布団に転がった瞬間に爆睡。長い長い夜が過ぎ、朝がやってくる。
「………………ん……」
……オレの隣の布団で爆睡していたケイ卿が目を覚ましたようだ。オレは狸寝入りの状態で薄目を開けてケイ卿を見る。
「………………今のうちに……」
このメスガキは、恩義を感じていないのか、あろうことか抜き足差し足でそのまま逃げようとする。
「……はぁ、甘イキしろ」
魔眼起動。
「んんんんんんんん~~~~~~~~~っ!?」
ケイ卿はすっ転び、畳の上でぱたぱたと、陸に打ち上げられた魚の様に跳ねる。
できるかな? と思ってやってみたら、甘イキが出来た。
「おお、魔眼ってこんなことも出来たのか……昨日の戦いの後、なんとなく成長した気がしたけれど……甘イキ設定もできるようなったのか」
旋風機の弱中強設定みたいなものだけれど、大きな進歩だ。
「はぁ、はぁ……け、警察、呼ぶわよっ……? おっさんが……中二にエッチな事してるってぇ……!?」
メスガキは恩知らずにもオレに向かってそう生意気に続ける。
「味方になったんじゃなかったのか?」
「だ、だって……! 普通に考えたら、おっさん達が私の事信じるとかありえないでしょ!!」
「うーん、まぁ、そうなんだけれども」
「あ、起きたんですね~」
ひょっこり、と麻子ちゃんが現れる。エプロンをしていて、どうやら朝ご飯を作ってくれているみたいだった。可愛い。
「くっ……どうして私が……」
ケイ卿は、麻子ちゃんを睨みつける。怯まず、麻子ちゃんは真正面からそれを受けとめた。
「……モードレッドさんが裏切るとかはショックでした。でも色々事情があってそうしたのなら……しょうがないと思ってます」
「しょうがないとか、ノー天気よね……」
「……あたしは今、貴方が逃げようとしている事がとてもショックです。ぷんぷんです」
「…………」
平和なような、麻子ちゃん的には真面目なような。
「でも、一度間違えたからといって……ゴメンナサイしている人に対して、許さないとか、あたしはヤです」
ずい、とケイ卿に向かって近づく麻子ちゃん。
「誰かを許せなかったり、誰かを信じられなかったりしたら、心がどんどん苦しくなります」
麻子ちゃんは真摯な瞳で、分かってほしい、と純粋にケイ卿に訴えかける。
「だからあたしは、騙されるかもしれないけれど……ゴメンナサイって想う人の事、信じてあげたいです」
その麻子ちゃんの一言に、ケイ卿は分かりやすく顔をしかめた。
「……ふん、ばっかじゃないの? 綺麗事ばっか」
甘イキの余韻に頬を染めながらも、ケイ卿はただただ不機嫌そうにした。
「私の考えが普通なのよ、そうそう簡単に他人の事――にゃぁああああああん!?」
ケイ卿は甘イキしながら畳の上をのたうち回った。
「し、ししょー!?」
「すまん、魔眼がすべった」
「なによ、なによ、なによ、なによっ……!! やめなさい、ばかぁ! にゃああああああん!? はにゃああああああ!?」
びくっ! びくっ! びくくくくん! と、エロゲーでよく聞く絶頂音みたいな感じで(そもそも絶頂音ってなんなんだろう)ケイ卿はのたうち回る。
「……甘イキ十連発!」
……オレはいつの間にかそんな事もできるようになっていた。たのしい。
「ししょー! エッチなのは! エッチなのはダメですー!?」
「にゃにゃにゃにゃにゃぁああああああ!? ひゃにゃああああああああ!?」
畳の上で悶えまくるケイ卿。
「このメスガキ……わからせてやる……! わかるまでイカセ続けてやる……!! そらそらっ! わかれ! わかれ! そらっ! ソイヤっ! ソイヤソイヤっ!」
メスガキわからせってこういう事だろ(多分ちがう)! ソイヤソイヤ!
「んひぃいいいいい? わ、わかったぁ! わかったからぁ! やめへぇ、んひぃいんっ!?」
エロ漫画の終盤で何億回も見た流れである。
「し、ししょー!? だめですー!! もうこれ、拷問になっちゃってますからぁ!!」
「なんだか楽しくなってきてな! はははは!」
……しばらく、家にはケイ卿の断末イキ声が響き渡るのであった。
借りてきた猫の様にすっかりしおらしくなってしまったケイ卿。どう考えてもオレもやり過ぎである。
ケイ卿はとりあえず座布団に正座をさせておいた。逃げようものなら即イキの刑である。
「ぐすっ……うぅ……なによう………もうやだ……なんでおじさんの前であんな恥ずかしい声を……」
「ごめんて……」
「わかったわよう……逃げないから……アレはやめて……ぐすっ……」
「ごめんて……」
罪悪感が凄い。エロ漫画のわからせおじさん、よくこの罪悪感に耐えられるな。
「何度も裏切ったという過去はありますけれど、今はもうあたし達の味方なのですから。ちゃんとお話が出来れば嬉しいです」
麻子ちゃんが真摯にそうケイ卿に伝える。
「あ、そうだ……あたしは麻子・ブルストロードって言います!」
そういえば、自己紹介がまだだったか。
「オレは鳥巣一貴」
オレと麻子ちゃんがそう言う……けれど、ケイ卿はノーリアクション。
「…………なによ」
「いや、この流れだと自己紹介では」
「慣れ合うつもりは無いんだけれど」
「うぉおおおおおおお!!」
オレはガバっと魔眼を発動させるふりをした。念じるだけでいいのに。
「ひぃいいいい!!」
ケイ卿は震えながら涙目になる。こいつはいいぜ。
「わ、わかったから!! 私は阿垣! 阿垣ケイ! 円卓因子はケイ! 名前と円卓因子が一緒! あーはいはい分かりやすくて良かったわね!」
……魔凛、間違いなく円卓因子を本名で選んでやがるな。今回に関してはそのままだし、どんどんオレの仮説が真実味を帯びてくるな。
「何て呼べば?」
「ケイ様と呼べ」
「ええ……」
十四歳に様づけする三〇歳……ううん、背徳的でありっちゃありかもしれないけれども。
「阿垣さん?」
苗字呼びを提案してみると。
「おじさんにそう呼ばれるのも、なんかゾワってする」
「おじさんってやめてよね! まだ三〇歳だって!」
「……え? 三〇歳っておじさんよね……? アンタだってそう思うでしょ?」
アンタって、麻子ちゃんの事だろうか? この生意気なメスガキは麻子ちゃんに同意を求める。
「あたしは全然そう思いませんけど、クラスのみんなはそう思ってるかもです!」
「あっ……まぁ……うーん……そ、そうかぁ……」
そりゃそうか。十代前半からすると……三〇歳はオトナもオトナ。オトナになって十年って感じに見えるんだろうな。
……実際には、三〇歳らしい三〇歳なんてあんまりこの世にいないんだけどね。成長してもしなくても年齢を重ねる事なんて誰にでもできるのだから。
「おじさんは……やめてください……」
「ああもう、面倒ね。じゃあ私は適当におじさん以外で呼んであげる。そっちは適当にケイって呼んでいいから」
「そ、そっか、ありがとう……えっと、年齢はいくつ?」
「……ロリコン? そこ、気にする?」
「ロロロロロロロリコンちゃうわ! いや、色々……世間体とか色々ありますし……」
「きっしょ……はぁ……中二よ、中二。十四歳」
「あたし中三です! 十五歳! よろしくね、ケイちゃん!」
「若いなぁ、青いなぁ」
麻子ちゃんの方が年上だったか、逆かと思った。
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