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第02話『覚醒する魔眼(笑)』

「お、おお……」


 オレは空中に表示されたステータス画面を操作しようとして……


「慣れてないのでやりにくい……」


 断念する。すまない、オレの人生の中で、空中のステータス画面を操作する経験が無かったから……


「あ、じゃあ紙にしようか」


 ぶぶぶん、という謎のサウンドが鳴り、雲海にちゃぶ台が出現。ちゃぶ台の上には筆記用具とダイスとTRPGのキャラクターシートみたいなものが用意されていた。


「こっちのほうが落ち着くなあ」


 オレは胡坐をかいて座る。


「なんかいっぱい、チェックシートがあるんだけど」


「ふふん、いいでしょ。私が作ったの。名付けてチート作成シート」


「チート作成シート」


 思わずオウム返す。


「欲しいチート能力にチェックをつけて、自分だけのチート能力を創り出せるの!!」


「あー、なんとなく分かってきた」


「チート能力の効果にはそれぞれ必要な転生ポイントが設定されてるの、合計一〇〇点まで好きにチート効果を上乗せできるよ」


 ステータスを割り振れるタイプのキャラクター作成はオレも生前(?)やった事がある。それのスキル版みたいなもの、かな。


「異能無効化は三〇点。効果範囲を全身にするとプラス二〇点。右手だけにすると五点で済む……みたいな感じ?」


「へえ、なるほど」


「オススメなのは取得経験値一億倍かな? まぁこれだけで九〇点使っちゃうけど……カンスト限界突破一〇点とセットでとると、神になれる」


「神になれる」


 思わずオウム返す。


「あ、あとね? デメリット能力をあえて取得する事によって、最初の持ち点を増やせるの。オススメは味覚消失。これでプラス一〇点されるから」


「やだよそんなの」


「語尾が強制的に『ゴブ』になるデメリットで、プラス五〇点」


「い、いやゴブ! 雰囲気ぶち壊しゴブ!」


「よく出来てるでしょ? ふっふーん、さあ悩め悩め」


「そうだなぁ」


 ……正直、この世界の衝撃的な事実を知らされて、全てがカミサマの掌の上にある事を知って、端的に言うと萎えていた。

 これから先のオレの冒険や活躍は、全てカミサマに捧げる暇潰しなのである。

 どうしたもんかな、とオレは何も選べずにいると……


「あ、ダイスで決めるって言うのもありだよ! 下振れのリスクがある分、めちゃくちゃな点数のチート能力を組み合わせる事もできるかも?」


「へえ、なるほど」


「ダイスで決めるって宣言して、後は何回かダイスを振るだけでチート能力が完成するの! よくない?」


「……振り直しは?」


「できるわけないじゃ~ん♪」


「まぁ、振り直しできたらみんなダイス振るよな」


 正直、オレはあまりこういうキャラクター作成的な事が好きではない。どういうゲームで、どういうキャラクターが有利か分からない状況で、キャラクター作成しろというのも酷な話だと思う。

 特に『幸運』とか。幸運でクリティカルが上がるのか、上がらないのか。アイテムのドロップ率が上がるのか、上がらないのか。曖昧なゲームも多いし、そもそもゲームバランス的にアイテムのドロップそのものが軽視されるゲームだってある。

 とりあえずこんなものは『力』に全振りしておくしかないのだ。流石に星の数ほどのゲームがあれど、脳筋が全くの役立たずである事は少ない……少ないような気がする?

 それにデメリットで割り振れるポイントが上がるとかも、考え出すとキリが無い。味覚が無くなったとしても、ゲーム中に味覚を復活させるアイテムがあるかもしれないじゃないか。

 ………………面倒くさくなってきた。


「ダイスで決めよう」


「お、チャレンジャーだねぇ」


 どうせ何を選んでも後悔しそうなので、運に任せる事にする。


「じゃあねじゃあね、こっちのダイス専用シートを使って? ふふ、どんな効果なのかは全部ダイスロールで決まるの! エンタメでしょ~」


「はいはいそうですかっと……」


 ダイスロール。

 がらがらとちゃぶ台にダイスが転がる。


「まずは射程! うおお! 視界内!! すごーい、視界内に入れてしまえば効果が発動します! いいじゃん」


「どんな効果か分からないけれど、いい感じだな……さて、次」


 ダイスロール。

 がらがらとちゃぶ台にダイスが転がる。


「お次はサブ効果……あ、すごーい、時間停止無効だって。相手が時を止めてもそれを阻害できるよ~」


「え、オレの行く異世界って時止めてくる奴いるの?」


「いるかもね?」


「怖……危なかったな……」


 部のラスボスかよ。幸い、オレは訳も分からず殺されるのは回避できるようだ。

 しかし、いまいちピンと来ない。ごめん、オレの人生で時間停止された経験が無いもので……


「ふふ、出目の合計値が規定ラインを超えたから、もう一度サブ効果追加のダイスロールをしていいよ」


「マジで? すげー好調じゃん。がらがら」


 何やら好調のようだ。よく分らんがオレはチートにチートを重ねていく。


「サブ効果二つ目! えーと……おおおおお!! 能力無効化貫通!! すごいよこれ!」


「いや、ピンと来ないって。そもそも無効化って何よ」


「無効化は無効化だよ。どんな魔法も呪いも特殊効果も、全部無かった事にするみたいに無効化しちゃうんだ」


「ほほう」


「んで、能力無効化貫通はそれを無効化する」


「末期のソシャゲじゃん」


 サ終の匂いがした。


「すごーい。視界内の対象を、時間停止無効で、能力無効化貫通で……何かする能力になってるね!」


「確かにこれで『対象を燃やす』とかだったら、最強かも」


「やーん、すご~い! ささ、最後のダイスロールをどうぞ!」


「振りまーす、がらがら」


 がらがらとちゃぶ台にダイスが転がる。


「………………あちゃー」


「あちゃー!?」


「え、えっとね? ウケ狙いで入れてた奴なんだけど」


「えええ……やめてよそういうの……」


「……『対象を激イキさせる』ってチート」


「はい?」


「はい、ということで、貴方の転生チート能力は、『視界内の対象を、時間停止無効で、能力無効化貫通で……激イキさせる』チート能力でーす」


「激イキ?」


「うん。激イキ。性的絶頂」


「バカなの?」


「盛り上がるかなって」


「出オチでしかねぇよ! こんなので一体どうしろってんだ!! 振り直しだ振り直し!!」


「ごめん、できない。うーん、ベタな異世界転生モノにしようと思ってたのに、アダルトものになっちゃったなぁ」


「一応カミサマにもアダルトとかあるんだ?」


「まーね、一応ね? カミサマに年齢とか無いけど、マナー的な……?」


 マナーとかカミサマに一番縁遠いかと思ったが……ジャンル分けに関しては、カミサマといえども慎重になっているようだった。性癖はカミそれぞれだもんね。


「じゃねーよ! やだよ、そんな間抜けな異世界転生!!」


「んー、私としても不本意だけど、面白いからありかな? ギャグエロって感じ?」


「とにかくこんなチート能力認められるか!!」


 オレが必死にゴネていると……何故か雲海が狭まっていく。


「……あれ? おかしいな」


「ど、どうしたんだよ」


「あれ? ちょっと待って……? 貴方、本当にちゃんと死んだ?」


「どういう質問?」


「ああいや、何故かこの空間を維持できなくて……貴方がちゃんと死んでいれば、このまま上のほうに昇天する筋書きなんだけど」


 見渡す限り広がっていた雲海が、見る見るうちに消失していく。


「あ、ごめん。トラックの当たり所が悪かったみたい」


「そんなことある!?」


「ちゃんと死ねば転生の手続きがされるんだけれど……今から貴方は元の世界で生き返るみたいだね」


「マジか」


 それはかなり助かるというか、今の激イキ能力の事も含めて、無かったことにできるのは非常に嬉しい。


「じゃ、ごめんだけど、この空間での記憶と、チート能力を削除するね」


「お、おう……何だったんだ、今までの時間」


 カミサマは頭をかきながら、空間をスワイプして……


「あれ、削除ってどうやるんだっけ? やったことないからわかんない……」


「ちょ、早く」


 雲海がどんどん狭まっていく。ちゃぶ台が筆記用具とダイスをまき散らしながら地に落ちていく。


「あ、ごめん、間に合わない」


「嘘だろ!? えっ……ちょ、この場合どうなんの!? この場合どうなんの!?」


 雲海、もはやオレの片足の範囲しか残っておらず。オレはフラミンゴのように片足で立つ。


「え、えっとね……この世界って実は私の世界じゃなくて、お姉ちゃんの世界で……だから私ももう一回干渉できるかって言われると……あ」


「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 上空何メートルかも分からない蒼海にオレは投げ出される。

 尋常じゃない風圧に、口がべろべろになって、オレは真っ逆さまに地上に堕ちていき……

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