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第19話『魔眼OverKill』

 ざんっ! とオレはスーパーヒーロー着地を決める。(膝に悪い)


「……遅くなったな、弟子よ」


「ししょー……! ああ、よかったですー!」


 ところどころ切れて、泥がついた制服のまま、麻子ちゃんはオレに抱き着く。


「……犬のちんちんスタンプは分かりにくいよ」


「ごめんなさい……よく使うスタンプだったから……」


 ……そんな事ある?


「オレも寝ちゃってごめん、よしよし」


 流石に心細かったのだろう、小さく震える麻子ちゃんの頭をオレはゆっくりと撫でる。


「怖かったです……」


 女子中学生に抱き着かれたというのに、オレに邪な気持ちは全くなかった。今はただ、麻子ちゃんが無事な事が嬉しい。


「……今のうちに、円卓心機を……って、うわぁああああ!? モードレッド卿!?」


 芋虫の様に転がる味方のモードレッド卿がオレの目の前に。

 あれ……またオレ何かやっちゃいました!?


「なんか多いなって思ったけど……とりあえずぶっ放したのかまずかったかな!? 誠にごめんなさいなんですけど!」


「あ、大丈夫です、敵です」


「そうなの!?」


「ちょっと確認しましょう……えい」


「やめなひゃいよぉ……ふぇええええ……♪」


 麻子ちゃんはむちむち体型のモードレッド卿のロングスカートを捲り、太腿の紋章を確認する。


「出会った時は太陽の紋章でしたよね、ししょー」


「うん……月の紋章になってるね」


 そこには、月の紋章が刻まれていた。


「寝返りシステムとかあるのかな」


「ううん……分かんないです」


 そうこうしているうちに、オレの知らない女の人……おそらく、敵の円卓騎士の周囲に光が灯り始める。


「なにっ!?」


 その女の人は円卓心機をもう一度展開し、その手に握ろうとしていた。


「この短期間で……! 絶頂から……!?」


「創、成……!! はぁ……はぁ……こんな、のっ……慣れてるっ……つうのぉ……」


「エクスカリバーダッシュ切りー!! やーっ!!」


「ぎぃいいああああああああああああああああああ!」


 すぐに麻子ちゃんの発生の早いダッシュ切りで、立とうとしていた円卓騎士の円卓心機は砕かれた。大体のゲームで大剣キャラの抜刀攻撃とかダッシュ攻撃は強いのだ。それが世の真理だ。


「ぶいっ」


「偉いぞ、麻子ちゃん……んで、この人はどなた?」


「ベイリンさんです。円卓騎士ですって」


「ふーん、聞いたことないな、ベイリンって円卓騎士がいるんだ。マイナー円卓騎士なのかな?」


 色々あったが、これでベイリン卿は双極円卓大魔法陣から敗退だ。

 ……それにしても、慣れてるって……どういう意味なんだろう。ベイリン卿、ひょっとして……物凄くエッチな女の子なんだろうか……


「ししょー?」


「はっ、麻子ちゃん。そこの生意気なメスガキの円卓心機もやってしまいなさい」


「めすがき?」


 すみません、メスガキはスラングでしたね。


「あ、ごめん……女の子の……」


 首を傾げながら、麻子ちゃんはメスガキ……ケイ卿の円卓心機に向かっていく。


「ちょっ……ちょ、ちょっとまってぇ! はぁ、はひっ……♪ み、みかたにぃ、わたし、みかたになるからぁ……おねがいぃ……」


「……何を言っているんですか?」


 麻子ちゃんはその言葉に戸惑い、エクスカリバーを引っ込める。


「ん、くっ……ぅううっ……も……ど……れっどお姉ちゃんが陣営を変える事ができたのは……私の円卓心機の能力……なの……」


 ぴよぴよ……と弱々しい光を放ちながら、カッターぐらいの大きさの、すごく小さなナイフがケイ卿の手に握られていた。


「円卓心機の能力だったのか……正直、もう何でもありだな」


 一番のイレギュラーであるオレが言うなよって感じではあるけれど。

 ケイ卿はその小さなナイフの刃を、弱々しく自分の肌に押し付ける。


「はぁ、はひっ……んぅんっ……偽承宝剣リリバーン……んんっ……ケイ卿の……陣営を……宵闇から、暁へ……」


 偽承宝剣リリバーンと呼ばれた小さなナイフは、オモチャみたいな点滅を何度か繰り返す。そしてケイ卿はずりずり、と身体を動かして肩を露出させた。

 ……身長の割には、だいぶ生意気なサイズのおっぱいがぶるりと揺れる。このメスガキめ。


「ごくり……」


「ししょー、おっぱい見てます?」


「見てますん」


 否定とも肯定とも取れないナゾの台詞を言って、オレは露出した肩を見た、


「……太陽の紋章だ」


「……はぁ、はぁ……こ、これで……私は、おっさん達の……味方……」


「おっさん?」


「ひっ……!? お、お兄さん! お兄さんたちの味方だからぁ……う、うう……円卓心機、壊さないでぇ……」


「……それ、通ると思ってる……?」


 間接的ではあるけれど、オレはメスガキに酷い目に合わされたのだ、後で詳しくモードレッド卿に問い質すけれど……まぁ、大体はこのメスガキが裏切りの手配とかを色々暗躍したのだろう。

 オレはこのメスガキに……巨乳のメスガキに、ひどい目にあわされたのだ。巨乳の……ん、よく見たら日焼けしているじゃないか。低身長で巨乳な日焼け褐色ツインテールメスガキに……騙されたのだ。

 よく見ると……あれ、可愛いなこいつ。属性が妙に多いぞ。

 くっ……メスガキめ! 大人をバカにしやがって! くそっくそっ。


「ししょー?」


「こほん」


 オレの頭がエロ同人的に展開していきかけた時、麻子ちゃんがじっとりとした目でオレを見てくれた。助かる。オレ一人だと大変な事になるかもしれなかった。


「ししょー……味方なら、私は何もできないです」


「ええー、でも……」


「何か事情があったかもしれないです、お話だけでも……」


「麻子ちゃん、いい子というか……」


 それは甘いというか、傲慢かもしれない。


「あたしよりも多分年下の女の子が、どうしてこんな事したんだろうって……気になります」


 ……でも、この戦いで、まだそんな優しさがあるというのなら、オレにはそれが尊いもののようにも思えた。

 ま、何かあったら激イキからのダッシュ切りコンボで秒殺できるだろうし。いいか。


「……うん、まぁ。アーサー王がそう言うのなら」


「え!? ししょー、急に王様だなんてっ」


「我が主がそういうならなぁ」


「も、もー! ししょー! それはやめてください!」


 オレが麻子ちゃんを茶化すと、麻子ちゃんは照れたように頬を赤くした。


「何……二人で……イチャこいてんだコラァ……」


「なんだメスガキコラ」


「ふん……」


 ケイ卿は身を捩りながら、少しずつ呼吸を整えていく。

 『どんなミスも、一度なら無条件で許す』そんな一節を、オレは思いだす。

 ……確か、今はもう鍋敷きとして使っているビジネス書に、書かれていたような気がしないでもない。

 一度ミスをしたのなら、同じミスに対して一番対策をとれているのがそいつだから。そんな理由だったかな。


「許そう、メスガキ」


「……んっ……くぅっ……何このおっさん……くぅんっ……」


「お兄さん、な」


 ケイ卿に偉そうにそう言って、オレはモードレッド卿のほうを見る。


「んー……そうなると、モードレッド卿も味方にしたほうが……」


 そんな事を考えていると、モードレッド卿の身体ががさごそと動く。


「……ん?」


 ぎら、と怪しい赤い光が放たれたかと思うと、モードレッド卿がゾンビの様に立ち上がった。


「こわっ!!」


 四肢をだらんとさせて、モードレッド卿がオレを見る。


「え……?」


「ししょー! ぞ、ゾンビ!? モードレッドさん、ゾンビになってます……!?」


 しばらくの睨み合いが続いた後、オレは意を決し、魔眼を起動する。


「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? イってるから、イッてるからぁああ!!」


 エロゲーでよく聞く台詞を放ちながら、ゾンビなモードレッド卿はむちむちした身体から汗を飛び散らして激イキする。


「え!? どういう事!? どういう意味!? なんで!?」


 オレは残念ながらゾンビを激イキさせる事が初めてだったので、かなり混乱する。そりゃそうだけれども。


「はっはぁ! やっぱり発動条件はあるみてーだな……じゃあ……これなら!」


 どこからかベイリン卿の声が聞こえ、かつん、と音が鳴った音、閃光と共に煙が一気に拡散する。


「あっ……これ知ってる! FPSとかで見たことある! スタングレネードだ! スタングレネードだろこれ!」


 なんかちょっとだけテンションが上がってしまうオレ。ゾンビもスタングレネードもハリウッド映画ぐらいでしか見たこと無いんだもん。


「し、ししょー! ベイリンさんに逃げられちゃいます!!」


 ベイリンは激イキさせたし円卓心機も潰した。なのに、どうして……?

 閃光と煙で、オレの視界は塞がれる、この状況では魔眼の発動は難しいが、オレは朧げに見えた人影に対して、とりあえず魔眼をぶっ放す。


「ぎゃひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい♪ イキ死ぬぉおおおおおおおおおおおん♪」


「ああああ! またモードレッド卿じゃん!! ごめん! ごめんて!」


 また誤射してしまう……くっ、このままでは……!!

 しゅばぁ! という何かが飛び立つ音。


「くそっ……何がどうなってるんだ……?」


 オレは麻子ちゃんと共に、とりあえず煙の範囲から逃げ出す。まだ目がチカチカする。

 ……しばらくの間、不意打ちに備えて、麻子ちゃんと背中合わせでやり過ごす。

 風で煙が流され、次第に視界が戻っていく。


「麻子ちゃん、大丈夫?」


「目がしぱしぱしますー……」


「スタングレネード……実在していたとは……」


 いや、まぁ、実在はしてただろうけど、人生でそれをくらう事になるとは。


「……あれ、でも、円卓騎士って、そういうのって無効化されるんじゃ……」


「ししょー、見てください」


 煙の中心には、何やら毒々しい緑色の卵の殻が落ちていた。


「なんだ魔法か……まぁ、スタングレネードと煙のコンボみたいなものだったし、現代兵器じゃないみたいだね」


 『なんだ魔法か』ってどういうツッコミなんだよ、我ながら。


「それよりも……」


 激イキを三度受けたモードレッド卿は見るも無残な姿になっていた。具体的にはロングスカートの股間部分が。


「なんてむごい……」


 犯人は誰だ。オレか。


「ベイリンさんがいない、という事は、逃げたのでしょうか」


「……そうだろうね。あれ? モードレッド卿の円卓心機、麻子ちゃん壊したっけ」


「壊してないです」


「麻子ちゃん、モードレッド卿の紋章を確認できる?」


 分かりました。と言って、麻子ちゃんはぐっちょりしたロングスカートをエクスカリバーの先端でずらして、紋章を確認。


「…………紋章は無いです」


 さっきまでそこにあったはずの月の紋章は無くなっていた。


「つまり、モードレッド卿は敗退……でも、オレ達二人は円卓心機を壊した記憶が無い」


 今までの経験から、オレが魔眼で円卓騎士を絶頂させたとしても、円卓心機がすぐに消滅するわけではない事は分かっている。過去、オレがベディヴィエール卿に対して魔眼を誤射しても、その後に円卓心機を破壊しない限り、ベディヴィエール卿が円卓騎士であった事がその証明だ。


「絶頂の魔眼を食らわせて、円卓心機を破壊して、それでもまだ動けるベイリン卿……」


「んー……モードレッド卿の円卓心機を……奪った……?」


 まぁ、その考えに至るよな。


「そんな事、できるのか……?」


 こればっかりは分からない。『できる!』と魔凛が言えば出来てしまうのだろう。でも一度円卓騎士として完全に敗退したベイリン卿がそんな事できたとしたら、取り留めがないというか、もう何でもあり過ぎて物語の体を成していない。


「魔凛に連絡を取ってみるか」


 一応、ルールの確認と言ってオレは魔凛にスマホでメッセージを飛ばす。すぐに返信は来ない。オレは唸ってしまう。


「……はぁ、んっ……何かひと悶着あったみたいだけど……」


 よろよろと、ようやくケイ卿が立ち上がる。そこに残されたのは、オレ、麻子ちゃん、ケイ卿、三度激イキしたモードレッド卿。

 あと、なんかよく分らないけれど、ちょっと離れたところに電柱の傍で倒れ伏しているガレス卿。

 オレは残された円卓騎士を確認する。

 暁陣営がアーサー王、トリスタン卿、円卓心機の効果によって暁陣営になったケイ卿の三名。

 宵闇陣営がガヴェイン卿、ベイリン卿の二名。

 半分以下になった双極円卓大魔法陣は、混沌とした物語ながらも、すでに終局が見えつつあるのであった。

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