第16話『再起の朝、これから』
鳥巣一貴が魔眼を覚醒させた同時刻。誰もいない廃ビルへと、ガヴェイン卿とケイ卿が宵闇陣営の円卓騎士と合流しようと移動していた。
先程の戦闘の前段階で、宵闇陣営は暁陣営よりも早く集結を済ませていたのである。
鳥巣一貴の魔眼により、宵闇陣営は大きく戦力が削れ四人になってしまった。その事は誰にとっても想定外ではあったが……ガヴェイン卿のガラディーンによる一撃で、残る暁の円卓騎士は三人。戦局は宵闇陣営に圧倒的に有利に傾いていたのだ。
廃ビルの一角にガヴェイン卿とケイ卿が降り立ち、残り二人の宵闇陣営の円卓騎士に話しかける。
「お待たせしました」
「もうばっちり! 相手は残り三人! ぶいぶい!」
ガヴェイン卿は勝利に溺れる事無く冷静な表情を浮かべ、それに対して生意気そうな声の女の子は気楽に笑っていた。
その報告を聞いて、柱の影から二人の円卓騎士が現れる。
「そうか、ならこのまま一気に全員で攻めて終わりにしちまおうぜ……なぁ、ガレス」
豪快に両手の斧を振るい……円卓因子『ベイリン』を継承した女性は笑う。
「私も同意見だ……回復の時間を与えないのも立派な作戦だと思うけれど」
聡明で冷静に……全てを見通すような声色で、円卓因子『ガレス』を継承した女性はそれに続いた。
「あれ? 彼女は?」
「すぐに合流というのも怪しまれますからね」
「そうか、それもそうだね」
ガレス卿は少しだけ疑問を抱いたが、すぐに納得する。
「そんな細かい報告はどうだっていい。それよりガヴェインさんよ。俺とケイとガレスは同意見なんだ。多数決って事で話を進めないか?」
ベイリン卿は生意気な女の子をケイと呼んだ。
小柄な女の子は円卓因子『ケイ』を継承している。
ガヴェイン卿、ケイ卿、ベイリン卿、ガレス卿……この四人の女性が現在の宵闇陣営の円卓騎士四名であった。
「何もかも多数決が正解であるのならば、この世界はもう少しまともな世界になっていますよ……あまり浅慮な事を言わないでください」
「お前、マジでうぜーな」
ベイリン卿は不服そうな顔でガヴェイン卿を睨みつける。
「ふふ、どの道私はガヴェイン卿に従うよ。リーダーはキミなのだから」
ガレス卿はそれをクスクスと笑い、夜空を見つめた。
「私はどうも、団体行動が苦手でね。リーダーよりもエースでありたいと思うんだ。だから大局を見るのはガヴェイン卿に任せる」
「あァ? エースは俺だろうが」
「ダブルエースと言うのはどうかな?」
「ウゼー」
双方、円卓騎士としての存在感は非常に強い。特にガレス卿はここにいる誰よりも異質で強大な深遠なる魔力を漂わせていた。
「……ケイ卿、ベイリン卿、ガレス卿。今は動くべき時ではありません。乱戦を避け、ただ確実に討ち取れる、勝ち戦の状況まで待つのです」
「話、合わねぇなぁ……」
「万が一の大博打なんて、最低最悪の軍師がする事でしょう。負けない事は勝つ事よりも重要な事です」
「うわぁ、俺、お前の事嫌いだわ」
「先程から感情でしか話をしていないようですが?」
ベイリン卿は大袈裟に肩を竦め『……勝手にしろ』とだけ呟く。
「とにかく勝手な行動は避けるように。引き続き、私は情報収集、ケイ卿はそれを元に陽動と攪乱。ベイリン卿とガレス卿は敵陣営に補足されないよう、待機でお願いします」
そのガヴェイン卿の指示に、静かに他の三人は頷いた。
「……では、解散します。円卓騎士と遭遇した場合は即時場所を連絡してください。人数差で上回らない限りは絶対に戦闘をしないように」
廃ビルから人影が飛び立つ。ガヴェイン卿は夜の闇に消えていった。
「やれやれ、あいつ人生楽しいのかね」
「……ぷはー、正直、あの人と一緒に居るの、しんどい」
「悪い人ではないのだけれどね。融通が利かないだけで」
残された三人はガヴェインが去った後、愚痴のような事を言ってしまう。
「さて、どうする? ベイリン卿。大人しく待っているかい?」
ガヴェイン卿に聞かれていない事を確認し、ガレス卿はベイリン卿に話しかけた。
「……お前、サイテーだな?」
そう言うベイリン卿は獰猛な笑みを浮かべていた。
「このままだと私の出番が無さそうだからね。ふふ、一度ぐらい戦ってみたいじゃないか」
「俺、お前の事は好きだわ」
ベイリン卿は大きな音を立てて立ち上がり、ゴキゴキと指の骨を鳴らした。
ガレス卿も軽やかに跳躍し、音も無くベイリン卿の隣に立った。
「お姉ちゃん達、やっぱり行っちゃうんだ」
「お前、チクんなよ?」
「いや、行くんなら私も行くし。正直ここで一気にやっつけないのってありえないっていうか……」
はー、とケイ卿は溜息をつく。
「ポニテのお姉ちゃん、慎重過ぎ。私は実際見てきたから、残った奴がどれだけ弱ってるか知ってるし……絶対このまま終わらせた方がいいって」
「なるほどな、まーお前は別に戦わなくていいけど」
「はいはい、どうせ私は戦うとか興味無いし。ま、ちょっかいかけたりとか、戦いやすくはしてあげられるかな」
「助力感謝するよ、ケイ卿。ふふ、それじゃあ……双極円卓大魔法陣、第二戦と行こう」
三つの影は闇夜に消える。
獰猛な三騎士は、アーサー王を討ち取ろうと夜を駆けるのであった。
オレと麻子ちゃんはオレの家へと撤退していた。ベディヴィエール卿は戦意喪失したが目立った外傷も無いので、ガラハッド卿を病院に連れていくよう頼んでいた。
モードレッド卿とも一緒に居たかったが……『少しでも偵察して情報を集めないと、このまま一気に嬲り殺されるわよ』と言われてしまい、オレは何も言えなくなってしまった。
……あれだけ単独行動をするなと言われていたのに、少し妙だが……今は情報が少しでも欲しいのは確かにそうだった。
麻子ちゃんはぱたりと布団に倒れて、そのまま意識を失うように寝てしまう。精霊加護クラレントでの回復もあまり大きな効果は得られていないようだった。それだけ大きく消耗してしまったのだろう。
「ごめんな、麻子ちゃん」
こんな形で分かりたくはなかったが、麻子ちゃんのエクスカリバーは相当優秀な円卓心機なようだ。三人を即時に消し飛ばしたガラディーンの一撃から、オレを完全に守り切ったのだから。
……年下の足を引っ張りまくってどうするよ。オレ。
でも次は迷わない。一切の躊躇無く魔眼で相手を仕留めてやるんだ。オレは麻子ちゃんの隣に座り、麻子ちゃんの回復を待つ。
オレの身体はそこそこに疲れていたが、眠れそうになかった。ただただコチコチと時計の音を聞き、麻子ちゃんの傍に居続ける。
……どれだけそうしていただだろうか。
「ん……ししょー……」
「麻子ちゃん」
麻子ちゃんは目を覚ます、回復したのかな。
「……やん」
麻子ちゃんは恥ずかしそうに布団で顔を隠す。
「どうしたの」
「…………寝顔、見てました?」
「え? あ、あー……そうかな」
「やん」
なんとも気の抜けた、可愛らしいリアクションである。
「ありがとう、麻子ちゃんのおかげで、オレは怪我は無いんだ」
「えへへ、弟子がししょーを守るのは、当たり前の事です」
その善意が、ちょっとささくれだったオレの心を癒してくれる。
「……ごめん、あの時、魔眼を使えなくて」
「ううん、よく考えたら……あたしもししょーにちゃんと魔眼の事を聞いておけば良かったです」
……確かにそうだ。効果が効果だから恥ずかしくて話せずにいたけれど、話していればもっとやりようがあったかもしれない。
「引いちゃうかもしれないけど……」
オレは麻子ちゃんに魔眼について説明を行う。といっても、カミサマの事は流石に荒唐無稽すぎるので、オレが生まれつき元から持っていた魔眼という体での説明である。
「……激イキ……?」
「……あー……うん……な、なんていうのかな? その生命が根源的に持つ欲求を強制的に引き出す事で、相手を戦闘不能に陥れる……みたいな……?」
「その……ち、知識としてはあるのですが、実体験としてはないので……よく分んないです……」
「え」
……なるほど、麻子ちゃんはそういう経験が無いのか。男子だったら中学生になっても『その感覚』を知らないのはありえないけれど……女子はそういうものなのかもしれない。
なんだかこっぱずかしくなってしまって、二人で黙る。
「……こほん、とにかく……オレは視界内に敵を入れてしまえば問答無用で無力化できちゃうんだよ」
「ほええ……でもおかしいですね。円卓騎士には円卓騎士以外の力で傷つける事はできないはずなのに……」
「んー……生まれつき覚えていた魔眼を、円卓騎士になったオレが使う事で、そこらへんのバリアーは無効になるんじゃない? オレという存在から出力されれば、それは円卓騎士判定になる……みたいな」
……まぁ、まず間違いなく『能力無効化貫通』の特権が働いているんだろうけれど。それは麻子ちゃんには説明できない。
「よく分かんないですけど、考えてもしょうがないですね! とりあえずししょーの視界に円卓騎士を入れてしまえば勝てるって事ですよね!」
「うん、それで間違い無い」
「ししょー、すごいです……えっと、今ここで、ししょーが念じれば、あたしも?」
「そう、だけど」
「そ、そうですか」
……麻子ちゃん、激イキにご興味が? いや、やる訳無いですけれども。
「…………」
なんだかこそばゆい時間が流れてしまう。
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