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第14話『月光烈滅ガラディーン』

 始まらないみたいだ。


「なんだあの……生意気そうな女の子」


 港に高く積み上げられたコンテナの上、二人の女性がオレ達を睥睨していた。

 また新キャラか。もうやめてくれ、正直全然覚えられてないんだ。


「餌に群がるハトみたいに固まっちゃって……バカなの? こんなのまとめて倒してくれって言ってるようなもんじゃん?」


「だ、誰よ! 名を名乗りなさい!」


 モードレッド卿がまるで台本があるかのようにオレの言いたい事を言ってくれる。助かる。


「は? 何で私が名乗らないといけないの?」


 確かにそうかもしれないけれどそこは名乗れよ。空気読んでくれ。覚えられないんだ。


「……下がっていなさい。ここは私が片付けます」


 生意気そうな女の子は、んべ、と舌を出して姿を消した。。

 生意気そうな女の子と入れ替わりに……冷たく、無感情な声色が響く。一人の女の子が前に出る。

 高く括った長いポニーテールが印象的な女の子は、長い日本刀を手に持ち、塵芥を見るような瞳でオレを見た。


「新キャラが……新キャラが、多過ぎる……!!」


「し、ししょー、大丈夫ですか?」


「もうダメかもしれない……なんやあいつら……」


 ゆっくりと、力を込めるようにポニーテールの女の子は日本刀を抜刀する。それを見て、暁陣営の円卓騎士は円卓心機を起動し、構える。


「……ふむ、不味いか」


 ランスロット卿(最強お爺さん)が不穏な事を言う。ランスロット卿の構えられた剣に淀みは無く、一騎当千の迫力があったが……それでも不味い状況なのか。


「ししょーも構えて!」


「え!? あ、うん……創成!!」


 特に使う事も無い『必中必滅フェイルノート』をオレは構える。


「……ししょー、弓の構え方、それであってます?」


 オレは弓を剣道の正眼のように両手で握って構えていた。やべ、弓道警察に殺される。


「えっとね、ししょーはね。魔法メインだから……弓はサブっていうか……」


「流石ししょーです!」


 そんなオレ達を見て、ポニーテールの女の子は眉をしかめた。


「緊張感に欠ける円卓騎士がいるようですね」


「すみません、一般参加枠なんで……」


「ふん……愚かな」


 ポニーテールの女の子は、月を背にして日本刀でゆっくりと円を描く。


「……手向けとして名乗りましょう、私の名は久坂部院聖義くさかべいんせいぎ。円卓因子はガヴェイン。今この場で双極円卓大魔法陣を終わらせる為、馳せ参じました」


 日本刀は夜だというのに蒼く発光し、不気味に揺らめく。それを見たモードレッド卿は味方を鼓舞するように声を張り上げた。


「あはは! 馬鹿正直に自己紹介ありがとう。紋章を確認するまでも無いわ、あんた、宵闇陣営の円卓騎士ね」


 モードレッド卿は彼女の迫力に圧倒されながら、何とか大きな声を出す。


「貴方は数を数えるのが苦手なのでしょうか? そちらに六人いるのであれば、私が敵対する陣営の円卓騎士だと分かりますよね」


「分かってるわよ! 生意気な女ね……!」


 その言葉がガヴェイン卿の地雷だったのか、ガヴェイン卿から放たれる覇気がさらに増していく。


「今、性別は関係ありますか?」


 ……質量をもっているかのような、極大の覇気。魔法使いではないオレや麻子ちゃん、ベディヴィエール卿には感覚としてしか伝わらないが、その目に見えない感覚に圧倒されてしまう。


「ししょー……あの人やばいです……」


「そうだな……や、ヤバいな……フェミの人かな……?」


「語彙が浮かばないぐらいヤバいわね……」


 悲しき一般参加枠の三人は、口々にヤバい事を伝えあう。とにかくヤバい。

 モードレッド卿は怯みながらも、ガヴェイン卿を睨みつけた。


「知らないわよそんな事、どうでもいいわ……! 貴方こそ頭湧いてんじゃないの? この人数を貴方一人でどうにかできると思ってる?」


「はい、どうとでも」


 空気が乾いていくような緊張感の中、ガヴェイン卿は淡々とそう告げた。


「その円卓心機、まず間違いなくガラディーンよね? 形状は私の知っているものじゃないけれど、ガヴェインが持っているという事は、ガラディーンで間違いないはず。過去の双極円卓大魔法陣で、それが違ったことは無いわ」


 モードレッド卿は焦るように言葉を続ける。


「こんな時間にガラディーンでどうするっていうのよ。ガラディーンの真価がアーサー王伝説通りだったとしたら……そのガラディーンは正午に近ければ近い程、真価を発揮するものよ!」


 その言葉が正しい事を祈るかのように、早口になりモードレッド卿は続けた。


「……ランスロット卿、今のって、正しい情報なんでしょうか」


 オレはチート発動の為にガヴェイン卿を視界に入れながら、傍にいるランスロット卿に問いかける。


「アーサー王伝説に登場する聖剣、ガラディーン……正午に近ければ近い程、剣を持つものに強き加護を与える聖剣よ。お主、エクスカリバーぐらいは知っておろう?」


「えっと、はい……流石にそれぐらいは」


「双極円卓大魔法陣の主役であるアーサー王が持つ、エクスカリバーの姉妹剣がガラディーン……そういえばお主にも伝わるか」


「……つまり、一番ヤバい剣の色違い的な……?」


「うん? まぁ、そうかの」


 麻子ちゃんが持つエクスカリバーの姉妹剣……!


「ししょー、ヤバそうですか……?」


「う、うん……」


 世界最高の知名度を誇る聖剣エクスカリバー。ありとあらゆる媒体でほぼ最強の剣として描かれている。

 その姉妹剣、ガラディーン。その性能は計り知れないものだろう……ただ、モードレッド卿の情報が正しいのであれば、今は深夜であり、ガラディーンの加護は無いはずだ。

 モードレッド卿はそれを信じ、ガヴェインに向けて挑発するように口を開いた。


「ちょうど一二時間間違えてるのよ! 今は丁度……午前〇時じゃない!」


 ……ん? 丁度?

 間違えるにしても、そんなに丁度間違えるか? ……何か、嫌な予感が……


「ああ、ガラディーンの特性を少しだけ魔凛に変えて貰ったのですよ。大昔ならともかく……現代において正午にあまりにも大規模な殺戮を行うのは、双極円卓大魔法陣にとっても益が無い事ですからね」


 モードレッド卿は愕然とした表情でガヴェイン卿を見た。


「そんな無茶苦茶な……!?」


「愚かですね、貴方達は……どうして魔凛が無茶苦茶をしないと思ったんですか?」


 その笑みを見て、ランスロット卿は声を張り上げる。


「できるだけ遠くへ――!」


「――!!」


 オレは即座にチートを発動しようとして――

 ――♪♪


「はれ」


 何故か絶妙なタイミングで鳴ったスマホの着信音に『意識を持っていかれた』

 刹那。


「月光烈滅、ガラディーン」


 ガラディーンに纏った蒼き閃光が世界を灼くように閃く。

 ガヴェイン卿は容赦無くガラディーンを暁の円卓騎士達に振り抜く。


「双極円卓大魔法陣は、この一撃で終幕です」


 蒼き光が爆裂し拡散した。津波の様に逃げる事そのものが不可能な、圧倒的な質量の殺戮が六人の円卓騎士を蹂躙した。

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