第11話『ヘッドショット・フレンドリーファイア』
翌朝、朝早くに麻子ちゃんが『ごめんなさい!! 寝ちゃいました!!』と泣きそうになって謝りながら起きてきたので、オレも交代で睡眠をとる。
昼過ぎに起きて、ちょっと寝足りないけど、これからの行動の作戦会議をする事にした。
「ししょー、とりあえず暁陣営での合流が最優先でいいですよね」
「暁陣営? また知らん単語が……」
「ああ、チーム分けの名前です。うさぎさんチームと、くまさんチーム……みたいな」
「それだと戦力差がえぐいね」
「円卓騎士は、暁陣営と宵闇陣営に六人ずつ別れるんです! 今分かってるのは……」
暁陣営、麻子・ブルストロード。円卓因子はアーサー王。
暁陣営、鳥巣一貴。円卓因子はトリスタン卿。
宵闇陣営、本名は不明。円卓因子はパーシヴァル卿。(脱落済)
宵闇陣営、本名は不明。円卓因子はアグラヴェイン卿。(脱落済)
「こんな感じですね」
かきかき、と麻子ちゃんはノートにボールペンを走らせる。
「あたし達は、残り四人の暁陣営の円卓騎士と合流するのが目標です」
「宵闇陣営はもう二人倒したから、残り四人か」
……あのバトルで、相手の戦力の三分の一を削ったのか。えぐい事をしてもうた。
「あたし達が合流しちゃえば、六対四で圧倒的に有利ですー!」
「結局、戦は数だもんなぁ」
ひょっとしたら、この双極円卓大魔法陣はあっさり終わるのかもしれない。
「魔凛さんはもう、円卓因子を配り終えたみたいですね」
「そうなんだ……何で知ってるの?」
「全部オッケーっていうスタンプが来ました」
「魔法使いと……アプリで繋がってるのか……」
緊張感が無いなぁ、もう。
「今日はどうしますか、ししょー」
「……んー、とりあえず、家から出よう。家を特定されると面倒だから」
「確かに、ここを拠点に出来なくなっちゃったら、ヤですね」
「もし相手がモラルの無い奴だったら、家をぶっ壊してくる可能性もあるかもしれないし」
「うえー、いやです……」
「その場合は魔凛に弁償してもらえばいいのかな……」
魔法でぶっ壊されたら保険とか適用されるのかな。
「とりあえず街を歩いて……円卓騎士の気配を探るとかでどうかな」
「了解であります、ししょー!」
びしっ、と麻子ちゃんはオレに敬礼する。
「……えっとさ、元ネタのアーサー王伝説だったら、麻子ちゃんのほうが上司じゃない?」
詳しくは知らんが、多分王なんだから一番偉いんだろう。
「そうなんですか?」
「そりゃ、王様だし。トリスタン卿っていうのは……」
オレはスマホで軽く情報収集する。
「アーサー王の元に集う、有名な円卓騎士の一人って所かな? 円卓騎士のランスロット卿よりは強いわけじゃないけれど……トリスタン卿って弓の名手なんだって」
あとやっぱり『別の物語の主人公』という事が強調されている。ふーん。
「ま、どうあれ、元ネタではオレは麻子ちゃんに忠誠を誓う騎士なんだよ」
「えー、そうなんだ……ししょー、交換しませんか? 円卓因子」
「できるの?」
「さあ……」
……まぁ、魔凛に聞いてみれば分かるかもしれない。
「いや、麻子ちゃんがアーサー王であってくれたほうがいいかな。オレは王って柄じゃないよ」
「そうですか?」
「特に綺麗な願いも、何かを成し遂げたいっていう熱い想いも無いよ。けれど、誰かが頑張るのなら、それを守っていきたいなとは思う」
「なるほど……」
「円卓騎士ナンバースリー……いや、ナンバーファイブぐらいのほうが気楽でいいかもね」
ナンバーツーはおそらく、有名な『ランスロット卿』と『ガヴェイン卿』のどちらかだろう。
「そうですか。まぁ、ししょーがそういうのであれば! 分かりました! あたしはみんなを笑顔にする王として頑張ります!」
うん、ぴったりだ。オレは心の底からそう想えた。
「よし、それじゃ……とりあえず人が多く集まる場所に行ってみようか」
「はいです!」
宵闇陣営は大きく戦力を失った状態。つまり総力戦はもう出来ないという事。これから先はこちらの戦力を分断して、闇討ちや不意打ちをしてくる確率が高いだろう。
「麻子ちゃん、オレの魔法はね、相手を一撃で無力化できるんだけど、流石に見えない奴には発動できないものなんだ」
玄関に向かい靴を履き、麻子ちゃんと軽く打ち合わせ。
「そうなのですね」
がらがら、と玄関のドアを開け、オレ達は二人で外に出る。
「だから、敵が来たらすぐに教えてほしい。逆に見つけてしまえば一発で何とか出来るから」
「なるほど……敵って例えばあの、でっかい狼とかですかね?」
「ん?」
玄関の先には、我が家の前には。
「ばう?」
軽トラぐらいのサイズのクソでかい狼が、くりくりの瞳でオレを見つめていた。
「ばぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううん♪」
一切の躊躇無く、とりあえずオレはチートを起動。
狼、遠吠えっぽい鳴き声で激イキして、ぱたりと倒れる。
「し、ししょー、いったい何が……」
麻子ちゃんが警戒しつつ顔を出すと……
「きゃああああ!! だ、大丈夫!? ゴルちゃん! 急にどうしたの!?」
クソでかい狼をかばうように、女性が飛び出してくる。
「いったいゴルちゃんに何を!? このっ……ゆるさなァああああああああああああ♪」
チートを起動。オレと同い年ぐらいの女性はべしゃあ! と地面に倒れ伏す。
「こんなに早くやってくるとはな……」
「いきなり襲い掛かってくるなんて、です……!」
「ちょ、ちょっとぉ……♪ ま、まちなさいよぉ……ふにぇ……♪」
「待つか! やってしまいなさい! 麻子ちゃん! ダッシュ切りで!」
「はいです!」
「ほんとまちなさいよぉ……ふにゅうううっ……私……味方……味方だってばぁんっ……♪」
「……ん?」
「あー……」
しまった、その可能性を全く考慮してなかった。
丁度タイミングよく、オレと麻子ちゃんのスマホに着信音が鳴る。メッセージがアプリに届いていた。
「連絡先、交換した覚えないんだけどな」
「魔法使いは怖いですねー……」
すごいな、魔法。
「え、えーと、何々……昨日、夜なべして頑張って円卓因子を全て配り終えました。なので今日から双極円卓大魔法陣が本格始動しました……と」
メッセージには続けてこう書かれていた。
『ごめん、双極円卓大魔法陣ガチ勢……つまり『過去の双極円卓大魔法陣』を知る人からしたら常識的なルールも、伝えていない人が多かったのを忘れてしまっていました』
『後出しで申し訳ない……宵闇陣営と暁陣営の見分け方は、円卓因子継承時に、体のどこかに紋章が現れるから、それで判別できます』
『太陽のマークが暁陣営。月のマークが宵闇陣営』
「え、そうなの?」
そう呟いた瞬間、オレのスマホだけにダイレクトメッセージが届く。
『トリスタン卿の紋章の位置は背中ね♪』
「気づくかバカタレ!」
……というか魔凛はこの状況を全部見ているのだろうか、怖い。
「ししょー! あたしの紋章は首元だそうです! 確認してもらっていいですか?」
「ああ、うん……」
麻子ちゃんはあっけらかんに髪をかきあげて、首元を晒す。
……む、無防備だなぁ。若々しい綺麗なうなじが晒されて、オレはちょっとドキドキ。
「あ、ほんとだ。太陽のマークがある……なになに。メッセージによると、これは円卓騎士にしか見えない特殊な紋章……なるほど」
「なるほどです、ししょー! 背中見せて!」
「あ、こらこら、やめなさい、脱がせないの」
「ししょー! 脱ぐです!」
三〇歳、倍ほど離れた年下に脱げと言われる。オレはちょっと恥ずかしくなりつつも、麻子ちゃんに背中を見せる。
「ありました! 太陽のマークですー!!」
……念の為、後でオレも背中の紋章をスマホか何かで確認しとくか。
「まったくもう、無益な激イキが行われてしまったじゃないか」
「魔凛さんったら……じゃあ、あたしが襲われたのも、それで判別していたって事なんですね……」
「円卓騎士の気配に加えて、首元の紋章が確認できたから、襲撃してきたって事か」
……それなら、この芋虫のように転がっているお姉さんは……
「ひぐぅうう……♪ う、うう……わ、私の紋章は……ひゃううん……♪」
ゴルちゃん、と呼ばれた狼が、はぁはぁ……と荒い息をしながらお姉さんに近づいてくる。お姉さんの肩を甘噛みして、ずるりと服をめくる。
肩には、太陽の紋章が刻まれていた。
……つまり、バキバキの味方である。
……つまり、オレはフレンドリーファイアでヘッドショットをキメた感じなのである。
「…………本当に申し訳ないと思っている」
「何よぉ……♪ これ……何の感覚なのよぉ……ひぃいいいんっ……♪」
お姉さんのエッチな声が玄関先で響き続ける。
……色々あったが、どうやらオレ達は他の円卓騎士との合流を果たすのであった。
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