次へ
1/34

第01話『トラックズギャギャギャギャギャギャギャ!!』

 トラックズギャギャギャギャギャギャギャ!! ドゥルルルルルルルルルルルルルルルル!!

 がいんっ!! オレぐわー!!


 はいっ!! 異世界転生!!

 という訳で、オレは無事異世界転生を果たすのであった。

 見渡す限り、謎の雲海が広がっている。オレは何故か雲の上に立ち、金色の玉座に座った女の子に見下ろされていた。


「確か、オレは……コンビニに買い出しに行って……その帰り道に……青信号だったのに、なんかトラックが突っ込んできて……」


「死んだのよ」


 女の子は、なんかこう、絵画とかに出てくるローブ系の神様っぽい格好はしておらず、ちょっとスペーシーなコスチュームを着ていた。


「死んだのか」


「そうそう、流行りの異世界転生ものの流れで」


「あの流れかぁ……」


「一応説明はしておく? みんながみんな、異世界転生を知ってる訳じゃないわよね」


「いや、大丈夫。この流れだと、この後はチートスキル伝授の流れだよな?」


「話が早くて助かるわ。そう、貴方はかくかくしかじかでトラックに轢かれて死にました。そして異世界に転生することになるのでした」


「あ、その流れは大体把握してるから大丈夫です」


「いや、貴方一応死んでるからね? オタクこっわ……状況を把握するスピードがえぐい」


「チートスキル伝授フェイズ、はよ」


「もう少し状況を咀嚼しなさいよ。丸呑みかよ」


 食い気味のオレに対して、引き気味の女の子。


「い、一応ね? ちょっとはこの状況に対して疑問に思ってほしいのよ。一応、異世界に転生する理由とか、説明してあげてもいいのよ?」


「あー……確かに、神様側もちゃんと理由があるパターン、あるもんな」


「こほん、という事で……今回の異世界転生の理由を説明いたしましょう」


 女の子は勿体ぶりながら指で空間をスワイプすると、いくつもの惑星が空間に出現する。


「この世界は、私達カミサマの創作物です」


「はぁ……」


「んー……どれぐらい伝わるか分からないけれど、カミサマっていうのはね、人類の進化の最果てなの」


「最果て?」


「うん、最果て。貴方達人類は長い時間をかけて順調に進化を果たしたの。まず、自分の身体を機械に置き換える事で不老不死を完全に実現しました」


「……サイバーパンクみたいなの?」


「そうそう、サイバーパンクの超凄い版。最初の方はある程度の有機体を残しつつ、身体の機械化をしないといけなかったんだけど……これまた長い時間をかけて、完全な生命のデータ化に成功しました」


「生命のデータ化……?」


「あ、うん。ここまで来ると倫理観も価値観も違う貴方達には分かんないよね? なんとなくでいいんだけれど『生命』っていう単位が『USBメモリ』とかの記憶媒体に、完全に保存可能になったって感じ?」


「それって命って言えるのか……」


「ほほーう。専門家でもない貴方一人で『生命』の定義ができると思ってるの?」


 オレは何も言えなくなった。


「ふふ、難しいよね。ともかく人類は肉体という枠組みから外れたの。食事も睡眠も生殖活動も必須ではなくなった。時間と言う概念も曖昧だから、子供とか大人とかの区別も無くなった……あはは、伝わらないか」


「ちょっと難しいかな」


「分からなくていいよ。ともかく、貴方の目の前にいるのは、神様っていうよりは、超未来の人類って感じ?」


「……まぁ、それならギリギリ理解できる……かな」


「ま、理解しやすいように、貴方達が信仰する神様って思ってもらったほうがいいかな? とにかくなんでもできる凄い存在って事」


 正直、何もかも理解できないし、今のこの状況はただの悪夢と言い切ってもいいのかもしれない。

 けれど、夢と言い切るにはあまりにも鮮明で、クリアな会話が続いている。


「んでね。カミサマはね? 世界を創れるようになったの」


「はぁ……」


「お、ここにきて一番の戸惑い。まぁ、しょうがないか……ともかく、カミサマは世界を創れるの。貴方達がイラストを描くように、ラノベを書くように、映画を撮るように……世界そのものを創れるの」


「ええと……その、オレも街をつくるゲームをプレイした事があるけれど」


「あ、そう! それの超凄い版! 細かな説明は省くけれど、『世界のサイズ感』とか、『生まれる文明の愚かさ』とか『何の動物に知恵の実を授けるか』とかを設定して、後はAIに任せて演算すれば、世界が出来ちゃうの!」


「夏休みの実験のノリ」


「そうそう、そんな感じ。そうして生み出されたのが貴方達の世界って事」


「つまりこの世界は、ゲームみたいなもの?」


「んー、定義が難しくない? 何をゲームとして、何を現実とするか、貴方一人で決められる事なのかな?」


「オレ一人じゃ、無理かな……」


「で、この世界は……今の神様の遠い遠い過去、全ての始まりである『地球』という惑星をベースに設定。『生まれる文明の愚かさ』に手を加えず、『猿に知恵の実を授ける』にして創ってみたの」


「ピンと来るわけねぇだろ!!」


「あはは、ですよね~」


 正直、全くピンと来ていない……来るわけがない。


「カミサマ達はね、ここまで文明が発達しちゃうと、解決すべき問題も無くなっちゃったのよ。全部均一にデータ化を果たす事によって、全人類の飢えも差別も戦争も無くなっちゃったんだから」


「そんなことあるか? どれだけ満たされても人は過ちを繰り返すんじゃ……」


 少なくともオレが読んだSFでは大体そうなんだけれども。


「それがそうでもなかったの。意外よね? 時間、距離、生命……それらの制限が全て無くなる事によって、人類はようやく平穏を手にする事が出来たってわけ」


「スケールがでかすぎる」


「戦争する事によるメリットが完全にゼロだったら、流石に戦争も起こらないって事。それに、もうカミサマ達は感情すら完全に制御しているから、憎しみとかそういうのも無くなってしまったのよ」


「やっぱりもう、それって生命じゃないような」


「そうね、そうかもね。とっくに人類は滅んで、全員がカミサマになっちゃったのかも」


 オレにとって、それは悲しい事のように思えたけれど……カミサマがその感情さえも制御しているというのであれば、もう何を言う事はできなかった。


「なんていうか、つまらないな……」


「そう! つまんないの! カミサマはずっとつまんないの! だってさぁ、不老不死なうえに、データだから忘れるって概念がないんだよ? この世にある、ありとあらゆるコンテンツに既視感を覚えてるって訳!」


「はぁ……」


 知らんがな、と言いそうになった。


「そこで、カミサマ達は必死になって暇潰しの方法を考えた。それで生まれたのが世界創造って訳。ハチャメチャにランダムに、カオスにする事によって、まだ見た事もないコンテンツを生み出そうとするのが、世界創造の目的」


「…………な、なるほど……?」


「貴方達にわかりやすく言うと、ある程度のキーワードを入力すれば、自動的に超大作ゲームが出力される……感じ?」


 例えば……と言って、オレの知るコンテンツが空中にぶわっと浮かぶ。


「百五十一匹の女の子モンスターを捕まえて、対戦させたりエッチできたりするエロゲー。ハクスラ要素もありつつバトルはやり込み度抜群。主題歌は超豪華有名声優を起用。原画は○○さんをベースに、HCGは一万枚……っていうキーワードを入力すると、次の瞬間には開発完了してる」


「うわぁあああああああ!! 十万出しても良いわそんなエロゲー!!」


「まぁ、貴方達の時代だとそういうリアクションになるよね。もうそんなの腐る程プレイしたから飽きたけれど……それの超凄い版が世界創造って事」


 超凄い版ってさっきから乱発してるけれど適切な説明なのだろうか。まぁ、オレが分かるからいいか。


「いい感じの世界を創れたら、カミサマワールドってサイトに配信するの。そこで『いいね!』 とか『シェア』を得るのがカミサマのトレンドなの」


 今の『サイト』とか『配信』っていう概念は、分かりやすく貴方達に向けて翻訳してるだけだけどね、カミサマは笑いながらよく分からない事を言う。


「『いいね!』『シェア』とか……いきなり俗っぽくなったな」


「何かを創るのが一番の娯楽なの。貴方にも心当たりは無い?」


「……ま、確かに、オレ達の世界でも、セカンドクリエイターが増えてきたしな」


 ただ消費するだけで満足は出来なくなった……そんな感じだろうか。


「さて、大体わかったかな?」


「全然わからん」


 言っている事の内容は半分ぐらい理解できるけれど、感情が全く追いついていない状態。

 不老不死で肉体の無い、感情さえも制御できる存在が言う事なんて、感情的にさっぱり共感できないのは当たり前なのかもしれないが。


「察しが悪いなぁ……ま、大体でいっか。ともかく、貴方の世界はカミサマによって創られた世界で、貴方は私に選ばれた異世界転生者って事」


「え、つまり……オレを轢いたトラックもそっちが!? それはちょっと許せないんだけど!!」


「知らんがな」


「知らんがな!?」


「いや……例えば、例えばね? 貴方がキーワードを入力してラノベをAIに書かせたとするよ? それで、ちょっと手を加えようって思って、登場人物を殺したとするよ?」


「は、はぁ……」


「それでそのキャラクターにキレられたとするよ? 意味わかんなくない?」


「でも、オレは生きている人間で……」


「その定義をするのはカミサマであって、人間じゃなくない?」


 絶句する。

 でも、もし目の前のカミサマにとって、オレが創作上のキャラクターとして完全に認識されているのであれば……生殺与奪の権はカミサマにある。

 そこに人権なんてものは無い、というか、そんな概念が根底から存在しない。現代の法律では、フィクション上のキャラクターを殺しても罪には問われないのだから。


「怒る気持ちも分かるけれど、そういうのはどうでもいいの。ともかく私は貴方にチート能力を与えて、他の世界に突っ込んで、カオスでランダムな世界を創るクリエイターになりたいの。おわかり?」


「分かった……事にして、いい」


 ひどく無力感を覚える。どうせここに最初からオレの意志が介入する余地は無いのだ。


「あはは、歯切れが悪いなぁ。ま、そんなもんか。さ、前置きが長くなっちゃったね? とりあえずオモシロチート能力伝授タイムに移ろうか♪」


 ふと、オレの脳裏にこれまで育ててくれた両親の顔とか、取引中のクライアントの顔が浮かぶ。

 普通に死にたくなかったし、生きていたかった。少なくとも童貞は捨てたかったし……ああ、そうだな、よく行くコンビニの斎藤さんにも声をかけてみたかったな。


「あれ、未練……感じてる? ごめんごめん」


「ごめんで人を殺さないでくださいます!?」


「しゃーないやん」


「しゃーない!?」


 ……ダメだ、根本的な価値観が違う。そもそもカミサマ達はもう生死を超越した存在なのだ。日本語が通じても、感情の共有が全くできないのだ。


「転生先の異世界はあえてベタベタな中世ファンタジーにしてあるから。とりあえず転生したら、エッチなエルフの奴隷を買いなさい。それで……そうね、奴隷の次はマヨネーズでも作ったらいいんじゃない? あ、ジャガイモの起源とかは突っ込まないように。そこらへんはあえてファジーにしてあるから」


「異世界転生の事めっちゃ好きじゃん」


「そりゃそうよ。あれだけ欲望に忠実な読み物は珍しいの。そういうの、素敵だと思うわ……さ、そろそろチート伝授しましょ? そうしましょ?」


 カミサマはニコニコしながら、またもや空間を指でスワイプして、ステータスっぽい画面を空中に創り出す。

広告バナー下に評価ボタンがあります。

いいねを入れて作者を応援しましょう! にてグッドボタンを。

ポイントを入れて作者を応援しましょう! にて★★★★★を。


頂ければとても励みになります!

何卒宜しくお願い致します!

次へ目次