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エーレンフェストのお茶会

第331話~332話 全領地のお茶会 前・後編のハンネローレ視点です。



 わたくしはハンネローレと申します。貴族院の一年生に、ダンケルフェルガーの領主候補生として在籍しています。

 今日はエーレンフェストが全ての領地を招待する、大規模なお茶会があるのです。


 女性の領主候補生がいるため、上級貴族では他領の領主候補生を招くお茶会が開催できなかったエーレンフェストから、ローゼマイン様が貴族院へと戻られてすぐに招待状が届きました。


「全く忌々しい。あの聖女を騙る子供はダンケルフェルガーの申し出を断ったのだぞ。ハンネローレもお茶会に参加する必要などない」

「いいえ、お兄様。わたくし、ローゼマイン様と一度きちんと面識を得たいのです」


 レスティラウトお兄様によると、これまではエーレンフェストがお茶会を開いても、真ん中か下位の領地しか参加しなかったため、ダンケルフェルガーが参加する必要などないそうです。

 けれど、わたくし、これは時の女神 ドレッファングーアのお導きだと思うのです。ずっとすれ違っていたローゼマイン様に、やっと謝罪する機会が与えられたに違いありません。


「ハンネローレ様、ハンネローレ様。お茶会ではぜひともローゼマイン様にディッターの再戦をお願いしてください」


 寮監のヒルシュール先生を通して、「図書館のシュミル達の主としてダンケルフェルガーとの対戦に応じましたけれど、ローゼマイン様は騎士見習いではないし、参加資格のない一年生なので、再戦には応じられません」とディッターを断られてしまったルーフェン先生がすがるような目でわたくしを見ます。

 けれど、わたくしはヒルシュール先生の言い分の方が正しいと思うのです。


「ローゼマイン様は御不在期間が長かったため、社交に忙しいと文官見習い達から聞いています。とてもディッターをしているような余裕はないのではございませんか?」


 個人的にお茶会を開けないか、とわたくしがエーレンフェストに申し入れたところ、アナスタージウス王子やクラッセンブルクのエグランティーヌ様からすでにお招きを受けている、とお断りされてしまいました。

 他の領地でも今年最も様々な流行を生み出したエーレンフェストと誼を結びたいと考えられているようですけれど、「エーレンフェスト主催でお茶会を開くので、そちらにご参加ください」と全てお断りされたと文官見習いからの報告がありました。わたくしが嫌われているわけではないようです。


「それでは、いってまいりますね、お兄様」

「相手はどのような手段を使ってくるのかわからぬ。お茶会とはいえ、決して気を抜かないようにするのだ、ハンネローレ。コルドゥラ、其方も細心の注意を払え」


 レスティラウトお兄様は心配性です。「全ての領地を招待するため、参加者は一人でお願いします」というエーレンフェストの招待状に何とか二人で行けないものか、と長い時間考え込んでいたくらいです。


 ヴィルフリート様から伺ったローゼマイン様のお話からは、とてもそのように危険な方には思えません。ダンケルフェルガーの騎士見習い達には「自分達の不利を埋めるために奇策を打ち出し、勝利したにもかかわらず、決して驕ることがありませんでした。自分達の弱点と相手の美点を冷静に見つめられる目をお持ちです」と手放しで称賛されています。


 ……元々ダンケルフェルガーは強さを重視する土地ですもの。ローゼマイン様がルーフェン先生のディッターの再戦申し込みに嫌な思いをしていなければ良いのですけれど。


 わたくしは3の鐘が鳴ると同時に寮を出て、なるべく早く、けれど、早すぎないように気を付けてエーレンフェストのお茶会室へと向かいました。

 コルドゥラが13の札がかかった扉に付いている魔石に触れて、来訪を知らせるベルを軽く鳴らします。扉がゆっくりと開かれ、わたくしを出迎えてくださったのはヴィルフリート様でした。


「ハンネローレ様、ようこそいらっしゃいました」

「お招きありがとう存じます、ヴィルフリート様。わたくし、本当に今日を楽しみにしておりました」


 早くに来たはずなのに、すでに席に着いていらっしゃるディートリンデ様が見えました。そして、ローゼマイン様はフレーベルタークのリュディガー様とお話をされていらっしゃいます。


「わたくしは養女ですけれど、リュディガー様は従兄妹と認めてくださいますの?」

「できる限り仲良くしていきたいと思っています」


 ……そのように簡単にローゼマイン様とお話ができるなんて、リュディガー様が羨ましいです。


「ローゼマイン様は……お忙しそうなので、後でまたご挨拶させていただきますね」


 間の悪い我が身を振り返り、わたくしはそっと息を吐きました。

 ヴィルフリート様にご案内いただき、席に着くとディートリンデ様がニコリと微笑みかけてくださいました。ディートリンデ様は大領地アーレンスバッハの領主候補生で、レスティラウトお兄様と同級生のため、わたくしも今年お茶会に何度かご招待いただいています。

 ふわふわとした金の髪と深緑の目が印象的な美しいお姉様で、アーレンスバッハに婿として来てくださる、ちょうど良い年回りで魔力の釣り合う殿方がいらっしゃらなくて困っているそうです。


 ……次期領主を目指さなくてはならない方は大変なようですね。


 わたくしは自分がダンケルフェルガーの領主となることは考えたこともなく、お兄様を支えていくのにちょうど良い領地の方と縁を結ぶことになるでしょう。わたくしの間の悪さや自信のなさでは、王族へと嫁ぐのは難しいとお父様達が話していました。正直なところ、少しホッとしています。


 ディートリンデ様と少しお話をしていると、次々とお客様が入ってきていて、クラッセンブルクのエグランティーヌ様もいらっしゃいました。


「ローゼマイン様、お招きありがとう存じます。今日こそわたくしのお友達を紹介させてくださいませ」


 エグランティーヌ様はどうやらローゼマイン様と交流があるようです。ローゼマイン様も親しげな笑みを浮かべて挨拶しているのが目に映ります。

 エグランティーヌ様の友人に紹介され、お姉様方に取り囲まれているローゼマイン様をちらりと見ました。クラッセンブルクのエグランティーヌ様と交流があるのでしたら、わたくしとは仲良くしてくださらないかもしれません。


 先の政変では、共に第五王子に付いたクラッセンブルクとダンケルフェルガーですが、元王女であるエグランティーヌ様を抱えるクラッセンブルクの方が重用されていることで、領地同士は少し緊張関係にあるのです。


 ……エーレンフェストは中立でしたから、まだ望みはあります。ヴィルフリート様はわたくしを忌避しておりませんし、アーレンスバッハとも仲が良いようですから、きっと大丈夫です。


 そこまで考えて、ハッといたしました。エーレンフェストは中立です。クラッセンブルクとそちら側の社交をローゼマイン様が担当し、ダンケルフェルガーやアーレンスバッハとの社交をヴィルフリート様が担当しているのかもしれません。


 ……わたくし、なんて巡り合わせが悪いのでしょう。


 ガックリと項垂れかけて、わたくしは急いで背筋を伸ばしました。お茶会で落ち込んだ姿を見せるわけには参りません。


「コルドゥラ、わたくし、少し席を外したいと存じます」


 お手水と誤魔化して、わたくしは一度席を外します。そして、個室でガックリと落ち込んで、大きく溜息を吐きました。


 ……落ち込んではいけません。まだお茶会は始まったばかりですもの。


 ダンケルフェルガーもエーレンフェストを見習って、これまで通りにアーレンスバッハなどとの社交はお兄様に、エーレンフェストのような中立領地との社交をわたくしがこなせば良いのです。


 ……今日こそローゼマイン様に謝罪すると決めたのですもの。




 わたくしが気持ちを立て直して席に戻る時、ローゼマイン様が小瓶をお友達に配っているのが見えました。

 席に戻ると、お茶会の様子を見ていた側仕え見習いの一人がコルドゥラに何やら耳打ちし、コルドゥラが一度きつく目を閉じました。


「何かありましたの?」

「少し間が悪かったようで、姫様が席を外している間に、ローゼマイン様がご挨拶にいらっしゃったそうです」


 ……わたくし、もしかしたら本当に時の女神 ドレッファングーアに疎まれているのでしょうか。


 せっかく立て直した気持ちがまた折れそうになっています。


「ローゼマイン様、それは何ですの? とても良い香りがいたしますね」

「リンシャンといって、髪に艶を出すために使う物です。数に限りがございますので、今回はわたくしのお友達に配ろうと思っていたのです」

「あら、ヴィルフリート様のお友達には配りませんの? 同じエーレンフェストの領主候補生ですのに……」


 ディートリンデ様が軽く目を見張ってヴィルフリート様へと視線を向けられました。周囲から視線を向けられていたヴィルフリート様が小さく笑いながら肩を竦めます。


「リンシャンを考案したのはローゼマインなのです。それに、女性と違って、私はそれほど髪の艶には興味がないので、このような美容に関する物は基本的にローゼマインに任せています」


 エーレンフェストで髪に艶を出すためにリンシャンが流行していることは、ヴィルフリート様に伺い、存じておりました。ローゼマイン様を中心に広げられているのも学生達の話を聞いているとわかりました。けれど、考案されたのがローゼマイン様だということは初めて伺いました。


 ……ローゼマイン様はお勉強とディッターだけではなく、リンシャンの考案までされているのですか!?


 大領地の領主候補生という立場を必死で取り繕っている自分との違いに呆然としてしまいました。

 わたくしが呆然としているうちに、ディートリンデ様がローゼマイン様にリンシャンのおねだりを始めます。


「ローゼマイン様、わたくしにはいただけるのですよね?」

「嫌だわ、ディートリンデ様。ローゼマイン様はご自身のお友達に配るとおっしゃったではございませんか。貴女の先程からの言動はあまりお友達に対するものではなかったと思いますよ」


 戸惑うように瞬きをされたローゼマイン様庇うように、エグランティーヌ様が柔らかな笑顔で咎められ、先にリンシャンをもらったお友達がそれに同意するようにコクリと頷きます。

 どうやらわたくしが席を外していた内に、ディートリンデ様はお友達とは思えないような言動をされていたようです。


 それからディートリンデ様の自己弁護が始まり、ローゼマイン様を大事な従妹だと訴えます。


「ディートリンデ様がわたくしのことを大事な従妹だと考えてくださっていたとは存じませんでした。これからはぜひ従妹として仲良くしてくださいませ」


 ローゼマイン様がニッコリと笑ってリンシャンの小瓶を差し出す。ディートリンデ様は小瓶を受け取って嬉しそうに笑いました。明らかにローゼマイン様が譲ったのがわかり、そつのない対応に感心したのです。


 ディートリンデ様がリンシャンをいただくと、我も、我もと周囲の女性が群がっていきます。


「ハンネローレ様はよろしいのですか?」

「……わたくしはリンシャンとは関係なく、ローゼマイン様と仲良くしたいと思っているのです。リンシャンの話題が終わってから、ご挨拶に参ります」


 物目当てだと思われたくなくて、わたくしはリンシャンの話題が終わるのを待ちました。リンシャンをもらっておいて、お兄様の謝罪をしても、きっとお心に届かないと思うのです。


 話題がエグランティーヌ様の髪飾りから卒業式へと移っていきます。それを絶好の機会と考えて、わたくしはローゼマイン様のところへと向かいました。


 ……時の女神 ドレッファングーアの御加護がありますように。


 ぎゅっと胸の前で手を握り、わたくしは一度深呼吸をした後、ローゼマイン様に声をかけます。


「あの、ローゼマイン様……」

「ハンネローレ様」

「わたくし、ローゼマイン様に申し上げたいと思っていたことがございまして……」


 側仕えに椅子から下ろしてもらったローゼマイン様へと視線を向けると、当たり前ですが、わたくしよりもずいぶんと背が低いことに気付きました。わたくしは年よりも小さいとよく言われておりまして、自分よりも小さい同級生に初めて会ったのです。

 お兄様やディッターのことでダンケルフェルガーが嫌われているのではないかと思っていたので、ローゼマイン様がややわたくしを見上げるようにして、嬉しそうに笑ってくださったことに少しだけ安心しました。


 ……お兄様の行いを詫びるのです。そして、お友達に……。


 握っている手に力を込めてわたくしが口を開くのと、ローゼマイン様が口を開くのは同時でした。


「わたくしもきちんとご挨拶しなければならないと思っていたのです。何だかすれ違ってばかりでしたもの」


 ……わたくし、ローゼマイン様に挨拶もせずに謝罪するところでした!


 頭を抱えたくなるような無作法をせずに済みましたが、しっかりとした受け答えをされるローゼマイン様を見ていると、「わたくしは領主候補生には相応しくないのです」と部屋に籠ってしまいたくなります。


 わたくしは内心落ち込みながらも、何とかその場を取り繕ってきちんと挨拶をしました。けれど、ローゼマイン様はこちらを心配するような顔になります。


 ……もしかして、挨拶をすっかり忘れるところだったとローゼマイン様に気付かれてしまったのでしょうか?


 わたくしは何か失敗してしまったのではないか、と不安になって周囲を見回しました。何が始まるのか、と好奇心に満ちた目がこちらに向かっているのがわかり、すぅっと血の気が引いていきます。

 このような多くの注目を集めた中で、お兄様の失態を説明して詫びるようなことはできません。謝罪したいのはわたくしで、お兄様は正式に謝罪するつもりがないのですから、こっそりとローゼマイン様に謝らなければならないのです。


「わたくし、ローゼマイン様にお兄様のことでお話があったのですけれど、このような場で申し上げることではございませんね。またの機会に致しましょう」


 ……わたくし、本当に謝ることができるのでしょうか。


 お兄様の所業については「あの時は申し訳ありません」と謝るのでも良いでしょう。わたくしはローゼマイン様とお友達になるのです。


 ……快くお友達になってくださるでしょうか。


 ドキドキとしながら、わたくしはローゼマイン様にお願いしました。


「それだけではなくて、その、わたくしとお友達になっていただけないかと思っていまして……」

「ハンネローレ様、大変申し訳ないのですけれど、試供品はもう配り終えてしまったのです」

「……え?」


 思わぬ返事にわたくしが目を瞬くと、ローゼマイン様は本当に困りきっているようにおろおろと視線を自分の側仕え達に向けています。

 物目当てと思われたくないと考えたことが裏目に出たようです。


 ……わたくし、すでになくなっている物を渡すように、と無理難題を押し付けた形になってしまいました。そんなつもりではなかったのです。どうすれば良いのでしょう。わたくしはただ、ローゼマイン様と少し仲良くなりたかっただけですのに。


 顔を伏せることが抑えられず、わたくしは少し俯いて「違うのです」とゆっくりと何度か頭を振ります。


「ローゼマイン様、ダンケルフェルガーのハンネローレ様は図書館によくいらっしゃるとソランジュ先生より伺っております。お友達の証として、姫様の本をお貸しするのはいかがでしょう?」


 優しく語り掛けるような声でそう言われ、わたくしがハッとして顔を上げると、ローゼマイン様の側仕えがそう提案してくださいました。


「まぁ! ハンネローレ様は本がお好きなのですか?」


 先程までの困りきった顔がパァッと輝くような笑顔に変わって、ローゼマイン様がわたくしを見上げました。ここで「図書館へはシュミルを見るためと、ローゼマイン様を探すために向かっただけで、特に本が好きではないのです」とは言えるわけがありません。


「……え、えぇ、そうですね。嫌いではありませんわ」


 わたくしがそう答えると、それは、それは嬉しそうにローゼマイン様が頬を薔薇色に染めて、金色の瞳を輝かせました。ローゼマイン様がいかに本をお好きなのか一目でわかるような表情です。


「ハンネローレ様、わたくし、騎士物語をいくつか持っているのですけれど、戦いに重きを置いた物語と恋を中心にした物語とどちらがお好みでしょう? ダンケルフェルガーの領主候補生ですから、やはり戦いに重きを置いた物語の方がお好みですか?」


 ……どちらも特に好んでいるわけではありませんけれど、どちらかと言えば、恋を中心にした物語の方が読んでいて苦痛は少ないでしょう。


「わたくしはどちらかというと恋を中心にした物語の方を好んでおります」

「では、近いうちに届けさせますね。本が好きなお友達ができて、わたくし、とても嬉しいです」


 自分よりも小さいローゼマイン様にとても可愛らしい笑顔でそう言われ、わたくしは少しだけお姉様になったような気がしました。


 ……何だか本好きのお友達に認定されてしまったようですけれど、何とかローゼマイン様とお友達にはなれたようです。お友達の証に本を借りるのでしたら、こちらからもお貸しした方が良いのではないかしら?


 本はとても高価なものです。それを貸してくださると言うのですから、ローゼマイン様はこちらを信頼している、と示してくださっています。わたくしもそれに値する物を差し出さなければなりません。


「あの、でしたら、わたくしからも代わりに何か本をお貸しいたします。ローゼマイン様はどのような本がお好みですの?」

「わたくし、本ならば何でもよいのですけれど、できればダンケルフェルガーに伝わっているような騎士物語や恋物語があれば、拝読したいです」


 少し考え込んでいたローゼマイン様がそう言いながら、とろけるような笑顔を浮かべました。嬉しくて仕方がないのがよくわかります。お茶会を取り仕切っていた時よりずっとあどけなくて、年相応の笑顔に見えました。


「わかりました。なるべく早く届けさせますね。どうぞ仲良くしてくださいませ、ローゼマイン様」


 わたくしがローゼマイン様の小さな手を取って、少し力を入れると、ローゼマイン様も握り返してくださいました。


「こちらこそ、ぜひ仲良くしてくださいませ、ハンネローレ様。……あ……」


 笑顔でそう言いながら、ローゼマイン様はその場に崩れ落ちました。

 手を握った瞬間に糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ、わたくしは何が起こったのかわからないまま、その勢いにつられてその場に座り込みました。


「……え? きゃ、きゃああああぁぁぁっ!」

「ローゼマイン!」

「ヴィルフリート様、この場を収めてくださいませ。わたくしは姫様をお部屋に連れて参ります」


 ローゼマイン様の側仕えが「よくあることなのです」と言いながら、ローゼマイン様を抱きかかえて寮へと戻っていきます。

 周囲が騒然とする中、ヴィルフリート様やエーレンフェスト寮の者は「ローゼマイン様はお身体が弱く、よく倒れられるのです」と説明している。


「わ、わたくしが手を握ったからでしょうか?」

「違います、ハンネローレ様。ローゼマインは本当に虚弱なのです」

「わたくし、こんなことになるとは思わなくて……。ローゼマイン様と本当に仲良くしたいと思っただけで……」

「今回は本当に大したことはありません。私は初対面の時など……」


 ローゼマイン様の洗礼式の日に手を引いて走って大変なことになったこと、雪玉を数個当てられて意識を失い、騎士が真っ青になったことなどを話して、「よくあることだ」と慰めてくださいます。


 それでも、かくりと力が抜けてその場に伏したローゼマイン様のお姿が目に焼き付いて離れないのです。




 ヴィルフリート様が寮まで送ってくださって、ルーフェン先生にお茶会で起こったことを説明してくださいます。そして、わたくしを驚かせたことを詫びて帰られました。


「なんだと? ハンネローレが手を握って、あの聖女を倒しただと? よくやった! 其方もダンケルフェルガーの領主候補生らしいところがあるではないか」


 ……わたくし、お兄様とヴィルフリート様を交換していただきたいです。


一巻発売記念SSでした。



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