第五部Ⅹ余話 夜空の星
第五部Ⅹ「夜の貴族院」を書いている時に何となく浮かんだけれど、削った部分です。
最初の二文からどこに入るはずだったのか察してください。
1200字くらいの短いエピソードですが、読みたい方はどうぞ。
わたしは魔紙を紙飛行機に折ると、ダンケルフェルガー寮がある方向を確認してすいっと飛ばす。夜空を切り裂くように白い紙飛行機が飛んでいった。
その白い軌跡を何となく見ていたわたしは、星の光に圧倒された。これほど星が美しく輝く夜空を見たのは初めてのような気がする。そもそもわたしは夜に外へ出ること自体が少ない。
ユレーヴェの素材集めをした時のフリュートレーネやシュツェーリアの夜は月に注目していて星が視界に入っていなかった。正確には月が明るくて星はあまり目立たなかった。
ついこの間、フェルディナンドを救出するために真夜中に出発した時は目的地しか見えていなくて、こんなふうにぼんやりと星を眺められる余裕なんて全くなかったことを思い出す。
「どうした?」
「星が綺麗だと思いませんか? フェルディナンド様を助けるために国境門からアーレンスバッハへ向かった時、暗い海が広がっていたことは覚えているのですけれど、星空はあまり覚えていません。同じ真夜中に戦いへ挑むのに、今のわたしの心に余裕があるのはフェルディナンド様がいるからかな、と考えていました」
背中にあるフェルディナンドの存在感に、ほぅとわたしは息を吐く。もうあんな思いはしたくない。
「君の騎獣には屋根があるから、空に目が向かないだけではないか?」
「……あぁ、確かに。視界には大きな違いがありますね」
それでも視界に広がる星空をぼんやりと見つめていられる安心感はなかった。今の心地良さは何となく下町の家でベッドに寝転がってトゥーリと一緒に見ていた時間を思い出す。建物の屋根と窓枠の間しか見えないので小さな空だったけれど、トゥーリはそこから星を見ようとしていた。
「フェルディナンド様は知ってますか? 流星は星の子供達がシューンと降りていく姿なんです」
「何だ、それは?」
フェルディナンドは怪訝そうな顔をした。「星の子供達」はマインだった頃に母さんから聞いたお話の一つだ。
「星の子供達は流れ星になって地上に降り、人々の様子を見てお父様の神様に報告するのですって。悪さをしていたら神様にはすぐに伝わるから良い子で過ごしなさいという教訓的なお話です」
「神話とはずいぶん違うな」
「ふふっ。神話では最高神に丸投げされて星の子供達の面倒を見なければならない星の神であるシュテルラートの苦労話の面が強いですからね。同じ星の子供達が出てくるお話でも下町のお話では教訓話になっているのか面白いと思いません?」
わたしの言葉にフェルディナンドはどうでも良さそうにフンと鼻を鳴らした。
「どちらにせよ、星の子供達が地上の出来事を見ていることに変わりはない。すでに我々は星の子供達の注目を集めているのかもしれぬぞ。今夜はずいぶんと星が明るい。今夜の襲撃も神々に報告されるであろう」
わたしは夜空に輝く星に祈る。
どうかディートリンデやジェルヴァージオを捕らえられますように、と。
戦いの最中に呑気過ぎん?と思って削った部分です。
短いけれど何となく雰囲気が良いし、ローゼマインとフェルディナンドの会話が好きな方は多そうなので削除するのもどうかな?と……。
さすがにTwitterにあげるには長すぎるので、こちらへ。