ハルトムート視点 クラリッサとの出会い
ローゼマインが貴族院一年生の時、エーレンフェストに帰還中の出来事です。
ハルトムートのローゼマイン賛歌は適当に読み飛ばしてください。
闇の神の寵愛を受けた艶やかに流れる夜空の髪と光の女神の祝福を受けた金色の瞳。それがローゼマイン様を最もわかりやすく表す色です。二年間の眠り故に、そのお姿は痛々しい程に幼く見えます。けれど、その御心はルングシュメールのように慈悲に溢れていて、次々と新しい発見や発明をするローゼマイン様が英知の女神 メスティオノーラに愛されていることを疑う余地などありません。
あらゆる神々の祝福を受けたローゼマイン様の魔力は多く、その祝福の力はユルゲンシュミットの中で最も強く、最も尊いと言わざるを得ないでしょう。私と巡り合えるようにローゼマイン様をエーレンフェストへ、そして、共に貴族院に通える年齢に遣わしてくださったのです。この邂逅はまさに奇跡!
「ハルトムート、今は食事中ですから、神々に祈りを捧げるのは自室でお願いいたしますね」
ブリュンヒルデに思考を邪魔されました。今は貴族院の社交シーズンです。アウブ・エーレンフェストからの帰還命令により、一年生のローゼマイン様は帰ってしまわれました。私は護衛騎士ではないため、講義を終えたというのに同行できませんでした。なんと護衛騎士が羨ましく、文官見習いである我が身が恨めしいことか。正直なところ、ローゼマイン様の存在の有無でここまで目に映る風景に違いが出るとは思いませんでした。
……さすがローゼマイン様、私の世界に彩を与える聖女。
「主が不在になると、毎日の生活が実に空しいと思いませんか、フィリーネ?」
「そうですね、何だかとても寂しいです」
フィリーネはそう言った後、ニコリと笑いました。
「でも、わたくしはお話を集めたり、ローゼマイン様のために写本をしたり、しなければならないことがたくさんあるので大丈夫ですよ。二年の眠りから目覚めてくださったのです。それだけで十分だったのに、わたくしを側近に召し上げてくださったのですもの。寂しがるよりお役に立ちたいと思います」
目的を見据えて真っ直ぐに行動しているフィリーネの眼差しは実に微笑ましいものです。下級文官見習いである彼女を側近に取り立てたローゼマイン様には驚きましたが、フィリーネのどの辺りを気に入ったのかは理解できるような気がしました。
……さすがローゼマイン様。
けれど、フィリーネが下級文官で領主候補生の側近としては色々な意味で不足しているのも事実です。ローゼマイン様が困ることのないようにフィリーネを指導するのは、上級文官見習いである私の仕事でしょう。
……文官達の集まりに連れ回して顔を繋ぎ、情報の収集や買い取りについて教えて……。
私が脳内でフィリーネの教育計画を立てていると、食事を終えたブリュンヒルデが自分の側仕えに食後のお茶を淹れてもらい、コクリと飲み始めました。
「それより、明日のお茶会なのですけれど、ハルトムートも同行をお願いできませんか?」
ローゼマイン様が作り出した流行を広げる絶好の機会ということでブリュンヒルデはとても張り切っていますが、私はあまり気が進みません。ローゼマイン様が広げるのであれば、いくらでも協力しますが、ローゼマイン様がいらっしゃらない貴族院で何を広げるというのでしょうか。
……ローゼマイン様が戻ってきてから、もしくは、来年で良いではないか。
ローゼマイン様はすでに王族から髪飾りの注文を取っていますし、クラッセンブルクの領主候補生からリンシャンが欲しいという打診も受けています。今、ヴィルフリート様が社交をしなくても女子学生の関心は集まっているので、少しくらい情報を出し惜しみしたところで問題ありません。作り出したローゼマイン様が中心となって広げていく方が大事ではありませんか。あれはエーレンフェストの流行ではなく、ローゼマイン様が個人で作り出したものなのですから。
……私は領主候補生としてヴィルフリート様がローゼマイン様の隣に並んでいることさえ許容したくない。ローゼマイン様が作り出した流行をさも自分達も協力しているように広げるヴィルフリート様に協力する気などさらさらないのだ。
ヴィルフリート様の洗礼式でライゼガングの貴族達の間で噂されたのは、ヴェローニカ様に甘やかされ、我儘放題で自分勝手で全く教育されていない領主候補生だということでした。
それから先に行われるお披露目、フロレンツィア様に教育されたシャルロッテ様とのアウブ争い、貴族院での成績などでヴィルフリート様の不足を指摘し、ヴェローニカ様を糾弾し、権力の座から追い落としていく計画が立てられていました。ヴェローニカ様に汚点を付けるためにヴィルフリート様が絶好の獲物になるだろうと言われていたのです。
けれど、ヴィルフリート様に全く関係のないところでヴェローニカ様が更迭され、教育の不足はローゼマイン様に補われ、白の塔で廃嫡になるかと思われていたところをローゼマイン様に救われ、ヴィルフリート様は今も領主候補生として当たり前の顔で皆の上に立っています。ヴィルフリート様を見捨てなかったローゼマイン様の慈悲深さに感動すると同時に、ヴィルフリート様がひどく疎ましくてなりません。
……ローゼマイン様が救うと決めた以上、私から積極的に手を下すようなことはしないが、正直なところ、今のうちに排除しておきたいのだ。トラウゴットの時のようにローゼマイン様を怒らせてしまう危険性を考えれば、近付かないのが一番だな。
「ローゼマイン様が作り出した流行に一番詳しいブリュンヒルデがいますし、ヴィルフリート様にはヴィルフリート様の側近がいます。情報収集のためにはローゼマイン様の文官見習いを同行した方が良いというのは同感ですが、ダンケルフェルガーを中心にした女性のお茶会なのですから、私よりフィリーネを参加させて経験を積ませる方が良いと思います」
ローゼマイン様のお茶会でフィリーネが失敗するのは許し難く思えますが、ヴィルフリート様のお茶会で少々の失敗をするくらいならば経験に必要だろうと割り切れます。
「女性のお茶会にヴィルフリート様が参加されるのです。これ以上男性を増やすよりは女性視点の助言ができる者を同行させた方が良いのではありませんか?」
絶対にお茶会に参加する気がない、という私の気持ちはブリュンヒルデに通じたようです。仕方がなさそうに一度目を伏せた後、ブリュンヒルデはフィリーネに視線を向けました。
「……ハルトムートの言う通りですね。では、フィリーネにお願いします」
「は、はい」
上位領地とのお茶会へ同行を頼まれたフィリーネは、緊張がよくわかる上擦った声で返事をしました。私はフィリーネの指導係として、できるだけ優しく声をかけます。
「フィリーネ、基本的にはヴィルフリート様の側近に任せるように。あまり出しゃばりすぎるのも下級文官見習いであるフィリーネの立場では疎ましがられると思います。一歩控えた態度で会場内の雰囲気、どのような会話が交わされていたかなどに注意し、ローゼマイン様に報告できるようにすれば良いのです」
「具体的な助言、ありがとう存じます。わたくし、頑張れそうです」
……フィリーネはそのまま素直に育つといい。そういう存在もローゼマイン様には必要だから。
正直なところ、お茶会に同行しなくてもダンケルフェルガー周辺の情報は簡単に集まるのです。図書館の魔術具を賭けたディッター勝負の後、ダンケルフェルガーの文官見習い達に招かれ、上位の情報を収集できる機会が唐突に増えましたし、図書館の魔術具について王族からのお墨付きをいただいたということで、それに関する情報を得ようと近付いてくるようになった上位領地の文官見習い達もいます。
……社交が始まるまでの短い期間でここまで話題を作るなど、さすがローゼマイン様。
実は、文官の集まりも領地の順位によって簡単に情報を得られるところと得られないところがあります。これまでのエーレンフェストは中位に少し招かれることがあるけれど、ほとんどが下位の領地との情報交換でした。
上位だけで交わされる情報、上位と中位が混じる中で零れる情報、中位で共有される情報、中位から下位に流される情報などいくつにも分かれていて、どの情報を得られるのかで文官の力量が問われます。縦の力関係を把握しながら、同じ学年の講義の中で個人的な
ローゼマイン様は、私が何年もかけて結んできた誼など些細なことだと笑い飛ばすような勢いで上位領地の文官見習い達との交流の場を作り出してくださいました。労せずに情報を得られるなど去年までとは大違いです。これが心酔せずにいられるでしょうか。
上位領地の文官が集まる場に招かれたのは初めてです。最初に口を開いたのは、ドレヴァンヒェルの文官でした。
「ハルトムート様、ローゼマイン様はいつ頃貴族院へ戻られるのでしょうか? 私の主がぜひお茶会をご一緒したいと……」
「本来ならば貴族院入学を見合わせるか、と考えられていたくらい虚弱な主ですから、本当に貴族院の終わり際になると思われます。ドレヴァンヒェルはどのような情報をお茶会でお望みですか?」
「図書館の魔術具について興味があるようです。どのように登録をしたのか、ソランジュ先生に伺っても不明なので……」
お茶会で話題を盛り上げるためには打ち合わせが必須です。ドレヴァンヒェルは図書館の魔術具に興味がある、と頭の中に書きこみながら、私はニコリと笑いました。
「英知の女神 メスティオノーラの祝福により、ローゼマイン様は図書館の魔術具の主となったのです」
「いや、ふざけていないで……」
「おや、ふざけてなどいません。ローゼマイン様がメスティオノーラに祈りを捧げ、祝福を行ったところ、シュバルツとヴァイスが動き出したのは事実です。この目で見ても、あまりに神秘的な光景に言葉が浮かびませんでした。図書館登録に歓喜し、風の貴色である黄色の祝福を放つ神々しき姿はまさに聖女の呼び名に相応しく……」
「よくわかりました、ハルトムート様。そのように主に報告いたしましょう」
途中で中断させられましたが、よくあることです。ディッターの時のローゼマイン様を褒め称える時はダンケルフェルガーの文官見習いが一緒に頷いてくれるので、少々残念な気持ちもいたしますが、仕方がありません。
「ハルトムート様、ローゼマイン様は音楽の先生方のお茶会で、作曲を即興でしたと伺ったのですけれど……」
「あぁ、すでにローゼマイン様はいくつも曲を作られていらっしゃいます。驚くには値しません。けれど、ローゼマイン様の真価は作曲ではないのです」
「……と、おっしゃいますと?」
身を乗り出すようにして尋ねてきた文官見習い達から自分の欲しかった情報を得ていきます。エーレンフェストに対する印象、ローゼマイン様とヴィルフリート様がどのように見られているのか、アピールを始めた流行に対する感想などです。
「それで、ローゼマイン様の真価とは何でしょう? 作曲以外にも何かあるのですか?」
「ローゼマイン様の真価は演奏にあります。貴女はフェシュピールの音楽に合わせ、共に溢れる祝福を感じたことがございますか?」
「え? あの……演奏ですよね?」
「そうです。聞き惚れずにはいられない巧みさで奏でられる音楽に、まだ幼い澄み切った声で歌いあげられる神々への賛歌。そして、まるでローゼマイン様の祈りを受け取るように音の響きと共に溢れる色鮮やかな祝福……。あの美しき光景を目にすれば、ローゼマイン様がいかに神々に愛されている聖女であるのか、一目でわかるのです」
お互いに顔を見合わせている文官見習い達にローゼマイン様の祝福の素晴らしさを語ります。まだ全く理解できないような顔をしていますが、いずれ知るでしょう。私の主がいかに素晴らしいのか。
「い、一度拝見してみたいものです。あぁ、ハルトムート様。残念ながら、わたくし、まだ講義が残っているのです。そろそろお暇させていただきますね」
「あぁ、そうです。ローゼマイン様は他領の物語にも興味がおありで、写本を高価に買い取る予定です。図書館でも周知していますが、ぜひ下級文官見習い達にお伝えください」
「かしこまりました」
逃げるようにそそくさと文官見習い達が去っていきます。思う存分語ったので、少しスッキリしました。ローゼマイン様の素晴らしさを共に称え合える同士が欲しいものです。
……ローゼマイン様の側近でも、まともに話を聞いてくれるのはフィリーネくらいではないか。嘆かわしい。
姿が見えないことで余計に興味をそそられるようで、ローゼマイン様について知りたがる者は多く、近付いてくる彼等から情報を得る生活をしていました。フィリーネがローゼマイン様のための写本に励む中、図書館で植物紙の宣伝をしたり、シュバルツ達に近付く学生達に注意したり、参考書作りに励む学生達に他領の物語を高額で買い取るという話をしてみたり、忙しい日々を送っていたのです。
「あの、ハルトムート様。先程わたくし、ダンケルフェルガーの文官見習いからハルトムート様とコルネリウス様について質問を受けたのですけれど……」
誰の側近でもない三年生の文官見習いからそう声をかけられて、私は腕を組みつつ、寮内にいる他の文官見習い達の情報を集めることにしました。ローゼマイン様の話ではなく、ローゼマイン様の周囲について情報を集めている文官見習いがいることは気付いていましたが、目的がわからないのです。どうやら巧みに私を避けて、他の文官見習い達から情報を集めているようです。
「イグナーツも何か尋ねられたのですか?」
「ローゼマイン様の側近、特に上級貴族についてでした。あちらは第二位の上位領地ですから、誰かと繋がりを持つにも階級にこだわりたいのかもしれません」
イグナーツの答えに私は少し考え込みました。ダンケルフェルガーはディッターのことしか考えていなさそうで、ローゼマイン様が勝利した瞬間、手のひらを返したように持ち上げて繋がりを持ちたがり、ローゼマイン様への称賛を聞いてくれていた領地です。強さはまだしも、階級にこだわる土地柄とは思えません。
階級や派閥に関係なく、それこそ騎士、文官、側仕えの見境さえなく、ローゼマイン様とフェルディナンド様のディッター関連の情報を得ようとしているダンケルフェルガーが階級にこだわるでしょうか。
どうにも不審に思えて仕方がありません。その不審な動きを見せる文官見習いについて調べたところ、彼女の名前がクラリッサであることを知りました。
私より一つ下の学年の上級文官見習いではあるけれど、領主候補生の側近というわけでもなく、特筆すべきことはない女性に思えました。
……ローゼマイン様が戻られる前に目的だけでも把握しておいた方が良いかもしれないな。
さて、どんなふうにクラリッサと接触しようか、と考えていたところ、クラリッサの方から呼び出しがありました。他の者に見られないようにこっそりと話をするには絶好の場所である東屋に呼び出され、私はクラリッサと向き合います。焦げ茶の髪を三つ編みにし、楽し気に輝いている青の瞳はダンケルフェルガーのマントと同じ色で、ローゼマイン様の話を聞きたがるダンケルフェルガー者と同じ雰囲気が漂っています。
「ハルトムート様、わたくし、貴方にお話があるのです」
「私達の周辺を探っていたようですが、今度はローゼマイン様のことでしょうか?」
「いいえ、貴方に大事なお話があるのです」
ニコリと微笑んだクラリッサがフッと視界から消えました。足に何か当たったと思った次の瞬間には体が宙に浮いていて、片手で胸元をガシッと掴まれていました。獲物を捕らえたような青の瞳と目が合ったと思った時に耳に響いてきたのは「メッサー」という短い呪文。
背中から地に落ちたけれど、一瞬グッと引かれたせいか、頭を強打することはありませんでした。けれど、自分の上にはクラリッサが乗っていて、その手にはナイフが握られています。ぴたりと首筋に当てられていた冷たい感触に身体中の血液が逆流するような気がしました。
何が起こっているのか、全くわかりませんでした。上級文官見習いで、このような荒事には遭遇したこともありませんでしたし、騎士見習いならばともかく、同じ文官見習いの女性に武器を突きつけられるとは全く考えていなかったのです。
「な、何を……ん!?」
突然クラリッサに唇を塞がれ、魔力を流され、思わず暴れてしまったのですが、自分の首筋に細い傷をつけただけでした。私の上に跨っているクラリッサはびくともしません。
唇はすぐに離され、クラリッサは私の魔力を検分するように軽く唇を舐めます。
「魔力に問題はなさそうですね。ハルトムート様、わたくしに求婚の課題を出してくださいませ」
「は?」
……求婚? 課題?
何を求められているのか、さっぱりわからないまま、私はクラリッサを見上げます。クラリッサがダンケルフェルガーの求婚について説明してくれました。
……まさかそんな特異な求婚が自分の身に降りかかってくるとは!
「わたくし、どうしてもローゼマイン様にお仕えしたいのです。でも、残念なことにわたくしはダンケルフェルガーの文官見習いなのです」
ローゼマイン様に仕えるためにはエーレンフェストの貴族になる必要があり、最も手っ取り早い手段が結婚である。ローゼマイン様の側近の上級貴族で年齢の釣り合いを考えると私とコルネリウスしかおらず、コルネリウスには断られたこと、騎士見習いを押し倒すのは難しそうだったことなどから、私に狙いを定めたのだと教えてくれます。
「正式な申し込みや色合わせをするには時間もありませんし、ローゼマイン様の側近を狙う他領の者はこれからも出てきそうですから、この機会を逃すわけにはまいりません。わたくしと結婚してくださいませ」
「いくら差し迫っているとはいえ、いきなり唇を寄せるのはどうかと思いますが……」
冷静になれ、と自分に言い聞かせながら、私はこの状況を逃れるための方策を考えます。けれど、がっしりと自分を押さえ込んでいるクラリッサから逃れることさえできそうにありません。
「あら、他の方に言いふらしますか? 一つ下の女に押し倒されて、情熱的に迫られ、唇まで奪われた、と」
男の沽券に関わるでしょう? とクスクス笑うクラリッサの手は一瞬も弱まる気配がありません。そして、そのままの体勢で滔々とローゼマイン様の素晴らしさを語り始めました。
ダンケルフェルガーでは騎士見習いの希望者が多いため、選別試験があり、体型が小さかったクラリッサは騎士見習いになることを諦めざるを得なかったそうです。けれど、選別試験当時の自分よりはるかに小さい領主候補生のローゼマイン様がディッターで勝利しました。
体格など関係なく、勝利をつかみ取る姿にどれほど感動したのか。それから、集めたローゼマイン様の情報の数々にどれだけ心酔しているのか。ローゼマイン様について語りながら熱っぽく揺れる瞳は自分が探していた同好の者だと雄弁に物語っています。
……あぁ、悪くない。
口内に残るクラリッサの魔力を感じながら、私はしばらくそのままローゼマイン様への称賛を聞いていました。
「クラリッサの気持ちはわかりました。けれど、口でだけならば何とでも言えます」
「わたくしは口だけではありません。それを計るための課題を出してくださいませ」
課題を出さなければ諦めそうにないクラリッサを見つめて、私は少し考えます。自分の結婚相手に必要な条件は何だろうか、と。答えはすぐに出ました。
……私と共にローゼマイン様に心酔し、称えられる者、かな?
「私はローゼマイン様を喜ばせることができない者と結婚する気はありません。来年の貴族院までに、ローゼマイン様を喜ばせる物を準備してください。情報収集の腕、ローゼマイン様の側近になりたいという貴女の本気を見せてもらいましょう」
クラリッサが青い目を挑戦的に光らせて「望むところです」と微笑み、やっとナイフを消してくれました。
コミック一巻の発売記念SSです。
鈴華様のリクエストにより、ハルトムート視点になりました。
狂信的な気持ち悪さを少しでも緩和するために一年生を選んだのですが、すでに手遅れでした。