90.善悪攻守逆転その4
ここら辺の気温ヤバい事になってそう……
「……やり過ぎちゃったかも」
「かもじゃないんだよなぁ……」
僕の目の前には大地ごと屋敷の一部吹き飛ばしてなお止まらず、熱波だけで街にまで被害を出したマリアがオロオロとしているのが見える。守りを固めていたNPCは文字通り蒸発していくのが……描写規制無しにしているから『あぁ、熱核兵器で死ぬ時こうなるんだな……』と思わず呟いてしまうほど見事だった。
「……すごい地面がガラスになってさらに溶けてる」
もうこれ地面なの? ってくらいドロンドロンのデロンデロンだよこれ……近寄るだけで暑いというより熱くてスリップダメージがくる。
「ダメージ床かな?」
「あ、あぅ……」
見れば後方へ逃れたプレイヤー達も被害がいってるし、なんなら尻もちを突いてマリアを恐怖の眼差しで見詰めている……いや『ジェノサイダーの系譜……』『いやデストロイヤーだろ』『バーニング聖女……いや、デストロ司祭?』とか話し合ってるし割と元気かも知れない。
「……て、てへぺろ?」
「……とりあえず冷やさないと入れないね」
「はい……」
この場よりも熱く議論を交わし合い、時に殴り合っているプレイヤー達はいつもの事なので放っておいて『公共魔術』の《水道》から水を流し込み、《インフラ整備》と《空調》でそれを支援して、『土木魔術』の《年末》で突貫工事で道を整える。
「これがイロモノ枠のユウ……」
「イベント後、百を超えるジェノラー達から逃げ切ったという……」
「それが原因でジェノラーとアンチジェノサイダーの両方に認められた稀有な人材……」
「ぶっちゃけ半分以上なんの魔術かわからん……」
「普通の水魔術じゃダメなの?」
「バカ、それは言わない約束だろ?」
……泣いていいかな? あー、嫌な事を思い出しちゃったじゃないか……。イベント終わった後すぐにジェノラー達に追い回された記憶……逃げてもどこからか湧き、助けてくれた親切な人かと思ったらそいつもジェノラーで……街に逃げ込んでも逆に一般の方と区別が付かないから悪手だったというあの悪夢を……。
「……泣きそう」
「な、なんかごめんね? 今度ペ〇ちゃんのほっぺ奢るね?」
「許そう」
眉を下げてこちらを申し訳なさそうに……半ば泣きそうな表情で謝ってくるマリアに『そういえばこいつ案外打たれ弱かったな』と思い出し許しを与える……自分に対して下手に出るマリアはなんか変な感じがするというのもある……この前のと合わせてそれぞれ自分で買えばいいじゃんとか言ったら表面上は怒ってみせても、また泣きそうになりながら真面目に代案考えるからタブーである。
「よし、終わったし行くよ」
「早く合流しなきゃね!」
「……どうかなぁ? あの人たちが団体行動できるとは思えないんだけど」
ぶっちゃけあの人たちみんなキャラとか癖が強いからなぁ……多分作戦とか無視して単独行動してると思うよ? じゃないと数は多い秩序陣営のトップ走ってないでしょ。
「じゃあやっぱり、当初の予定通りだね……」
「そうだね、もう彼らは居ないものとして動いた方が良さそう」
先にプレイヤー略奪部隊を向かわせ、補給の問題を早期に解決させることを図る……こちらの大義名分は個人の傀儡となっている偽領主を排して、前領主を救い出すことだから住人NPCや元衛兵なんかも協力してくれているが……やはり目立たないようにしなくてはいけないため物資の枯渇が酷い……元々物流も滞っていたしね。
「よっしゃ! 私たちも行くよ!」
「……ほどほどにね」
本当に頼むよ? 領主の屋敷の中でさっきみたいな大技をぶっ放されると僕まで巻き添えで死んじゃうからね? 本当の本気で頼むよ?
「わかってるって! お……ユウは黙って私に付いて来い!」
「はいはい」
マリアと二人で領主の屋敷へと裏口……があった場所から入り込み進撃を開始する。こちらを……特にマリアを化け物でも見るかのように半ばへっぴり腰の兵士達を二人で倒していく。
「やぁっ!」
マリアが撃ち漏らした兵士を『公共魔術』の《配電ミス》でショートさせ、こちらに迫ってくる者には《ダム》で塞き止めてから《液状化》を掛けて放流する……見えない壁にぎゅうぎゅう詰めにされていたところで、いきなり道を阻んでいた物がなくなり前のめりに進んだところで液状化した地面にどんどん呑み込まれていく……それが途切れたところで《整地》で閉じ込める。
「……えっぐ」
「マリアには言われたくない」
向かってくる兵士を一切の差別も区別もなく、骨すら遺さない焼却処分をしていくマリアには言われたくはない……僕のは地面を掘れば遺品も死体も出てくるけど、マリアのは誰が死んだのかすら判らないじゃないか。
『──マッスルパワァァァァァアアァァアァァァアアア!!!!!!!!』
「お?」
「変態紳士さんの声だね」
おそらくレーナさんか目標の王女、もしくは傀儡領主を見付けたのだろう、あの人は本当に自分の信じた道を突き進むから行動を制御しようとしてはいけない。
「急ごう」
「そうだね」
それにレーナさんが王女様を使ってなにをするつもりなのかは知らないけど、絶対にろくな事じゃないしね……むしろレーナさん自身が『止めてみてください』って言ったんだから本気で行こう。
「止ま──」
「──《サイレン》」
こちらの歩みを止めようと兵士が十数人現れたところで『公共魔術』の《サイレン》を発動する……途端に整列し道を空ける彼らを尻目に走り抜ける。
「救急車にご協力くださいってね」
「……本当に謎だわ」
こちらを珍獣でも観察するかのように見詰めてくるマリアを放っておいて追跡されないように《クソリプ》と《メスガキ》を設置して行く……さて、そろそろレーナさんかな?
「……俺ちょっと畑見てくる」
「……私、この戦いが終わったら脱稿するんだ」
「別にレーナさんを倒してしまっても構わんのだろう?」
「もう何も怖くない」
「レーナさんが居るのに、大人しく寝ていられるか!」
「こんな夜中に誰だろう?」
「これは……そうだったのか。だからあいつはあの時……」
「大丈夫、ちょっと休めばすぐに元気になるから」
「いま何かが……いや、気のせいか」
「まさかね」
激しい戦闘音の聞こえるエリアを前にしてマリアと二人、お互いに顔を見合わせながら死亡フラグを乱立していく。
「……ねぇ、織田」
「……なに?」
ふと不意にマリアがしおらしく……普段の彼女からは想像も出来ないほど不安気に声を掛けてくるが───────
「雑に乱立したフラグは折れるんだぜ!」
「知ってる!」
───────二人で顔を見合わせ笑い合いながら死地へと飛び込んで行く。
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このコンビ大好き