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89.善悪攻守逆転その3

マリアちゃん: やっべ、やり過ぎた……

ユウくん: ……判決を言い渡す

マリアちゃん: 裁判長! 私は無実です!

ユウくん: …………ギルティ!

マリアちゃん: そんな……!!


「……すごい爆発音でしたね」


先ほど凄まじい爆発音と共に熱波がそこら中を駆け抜け大地を揺らしました……おそらく裏口のあたりでしょうがここまでダメージ判定があるのは驚きです。熱波のせいで敵味方問わず回復が追い付いていなかった方が文字通り蒸発していきましたね……毒ガスも吹き散らされました。


「とりあえず副官、私はそろそろ行きますので指揮の引き継ぎお願いしますね?」


「あ、あぁ……」


初めて会った時にエレンさんに噛み付いていたムーンライト・ファミリーの古参幹部さんに後を頼んでから執務室へと向かいます……少し早いですが裏口が早々に突破されたので仕方がないです。


「その前に……ほいっと」


「あっくそっ!」


「またかよ!」


吹き散らされてしまった毒ガスなどを再び充満させます。幹部の人にも幾つか渡してから先を急ぎます。


「エレンさん無事ですかー?」


「……お陰様でな」


執務室に辿り着き、エレンさんに呼び掛けると机の下で頭を抱えながらどことなく疲れた表情で暗い返事を返されます。ダメですよ? もっと元気出さなきゃ……。


「元気ないですね……まぁ、いいです」


「……お陰様でな」


エレンさんを連れて王女様を隔離している部屋へと赴きます。その途中でも何度か強烈な爆発音が屋敷中……下手したら街まで響いていきます。


「凄い爆発音ですよね、エレンさんは大丈夫でしたか?」


「……お陰様でな」


……さっきから同じ言葉しか発していませんね、あまりの恐怖にお陰様でなbotと化しましたかね? そんな事を考えているうちにも着きましたね。


「さて王女様、ご無事ですか?」


「……」


驚きましたね、こちらをまだ睨み付ける気力があったのですか……中々に面白い女の子じゃないですか。


「良かったですね、あなたのために多くの人が死んでくれていますよ」


「っ……」


王女様を糸で縛り上げて赤子のように背に背負い、麻布さんで包み込みますが……さすがに自分のために人が多く死ぬのには反応しますね、罪悪感なんて持っているからですよ。


「さて、このまま最終準備を──エレンさん」


「ぐぇっ?!」


廊下に出たところで前を歩いていたエレンさんの襟首を掴んで思いっきり引き寄せます……カエルが潰れたような汚い声を発しますが無視です無視……だって──


「──マッスルパワァァァァァアアァァアァァァアアア!!!!!!!! 」


──変態紳士さんが突っ込んできたんですもの。そのまま彼は床ごと地面を拳で突き破る体勢のままこちらに顔を向けニッコリと微笑みます。


「あぁ……また逢えて嬉しいですぞ……」


「──」


その様々な想いと感情が込められた万感の呟きと恍惚とした表情のあまりの気持ち悪さに思わず絶句してしまいます……なにげに蝶ネクタイが追加されているところが微妙に腹立たしいです。


「……あなたは自分の道を突き進めばよろしいのでは?」


できることならば今は勘弁してほしかったですね、この方の格好は子どもの教育に悪そうです。……まぁただ単に面倒くさそうですし、ご自身の紳士道とやらを貫けばよろしいのでは?


「チッチッ……わかっておりませんな?」


人差し指を立てて振り、舌を打ち鳴らしながらこちらを生暖かい目で見てきますね……なんか不本意ですし、微妙な気持ちになります。


「……ではなんだと──」


「──他人に無関心では秩序は保てないのです」


「……へぇ」


……中々にそれっぽいことを言うじゃありませんか。


「そう! 混沌のように他者を顧みず、中立のように全てを許容し、排除しては人助けなどできんのですよ!」


「……」


どうやったのか、足下を爆発させ一息にこちらへと迫り来る彼の拳を半身になって躱しながら肘を短刀の柄で殴り付ける。


「ぬぅ?! ……それにですな、人助けとは紳士道に通ずるのですよ、なぜだかわかりますかな?」


「……知りませんけど」


情け容赦なくエレンさんの頭を掴み割ろうとするのを胸を蹴り飛ばすことで阻止しますが、飛ぶ際に王女様を攫おうとしたので即座にしゃがみ込んで避けます。


「人助けと紳士……どちらも──」


彼の拳から放たれる遠距離スキル攻撃をエレンさんの襟首を掴んで引き寄せながらバックステップで回避しながら毒針を投擲、いくつか胸板に弾かれますが鎖骨に刺さりましたね……骨より筋肉の方が硬いのですか……。


「──独り善がりのお節介だからですよ! 『宣誓・我は己の在り方を否定する者を打ち砕く者なり』!!」


落とされるかかと落としをエレンさんを脇に抱えながら横に飛び回避します……既に屋敷はボロボロですね。


「『宣誓・我は己の在り方を肯定する者を決して裏切らない者なり』!! ……故にジェノサイダー、いえレーナ殿……」


「……エレンさん生きてます?」


「……自分じゃわからない」


あんまりにもエレンさんが言葉を発さないので確認してみましたが……大丈夫そうですね!


「……私はあなたも救いますぞ?」


「……?」


私を救う? なにか窮地に陥っていましたっけ?


「あなたの異常性はもはや生まれつきかも知れませぬ、しかしですな? あなたのような女性がそんな場所に堕ちているのは見過ごせないのです」


「……どうやら本当にお節介のようですね」


「ハハハハ、私も生まれつき故に許してくだされ……それにですな──」


「……まだなにか?」


これ以上変態と会話は結構なんですがね? スキルのエフェクトを伴った拳の振り上げを背後に倒れるように躱しながら肘を蹴り上げ、回転しながら距離を取ります。


「──紳士は幼女の窮地を助けるものですぞ!」


その一言により一足飛びに距離を詰められ腹に一撃貰いますが、短刀を突き立てて《溶断》を発動して防御と共に拳を破壊します。


「……良かったですね、愛されてもいますよ?」


「……嬉しくないです」


おや、王女様が言葉を発しましたね? それほど彼は衝撃的でしたのでしょう。


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王宮の箱入り王女様には刺激が強すぎた……

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