75.議会紛糾
運営:予定と違うのに予定通りだ……??
「それで兄上はのこのこと逃げ帰ったわけですか」
「……あぁ、そうだ、奴は危険すぎる」
案の定、野心家の弟は私の失敗を殊更主張してくる……既に立太子も終えているというのに、妾腹の自分が気に入らないのだろう。
「それはあまりにも無責任ではないですかな? 指揮官が先に逃げ帰るなど……しかも女一人にビビったとか!」
「……」
そしてやはり血統が全てという貴族も多い……たった今小馬鹿にしてきたヴェルディ侯爵も弟の派閥の筆頭だ。
「混沌の眷属の中でもあの女は濃密な気配を発していた、ただの小娘と侮るべきではない」
「はっ! それこそ兄上が自身の失敗をうやむやにしたいだけでは?」
「そのようなことは決してない! 相手は辺境勇士アレクセイを討ち取り、軍隊すら相手にできる化け物だ!」
「くくっ、兄上はよほど女性が恐いと見える」
ええい、今は足の引っ張り合いなどしている場合ではないというのに! 弟の派閥貴族はみな此度の敗走を批判材料として攻撃し続けるつもりだろう、まともに取り合おうとすらしない。
「そもそも兄上はその女を馬車に招いたのでしょう?」
「……あぁ、そうだが?」
「ぶふっ、好みの女を連れ込んだら思った以上に巧みで腰を抜かしたんでしょう?」
「『ハハハッ!』」
「下品な……」
なんという侮辱か! なにも知らないから笑えるのだ!! 目の前に対峙した時のあの絶望感! 濃密な混沌の気配! あれが王都に迫っているというのに!
「ジュラル殿下! たとえ第二王子といえども王太子殿下の侮辱は看過できませんぞ!」
「ふん、そのうちジュラル殿下は第二王子ではなくなる」
「……ヴェルディ侯爵、何が言いたい?」
「いやなに、小娘一人にビビる男とそれを咎める勇猛な男、どちらがより人を導くに相応しいか……少し気になっただけですよ」
「貴様……」
とうとう耐え切れず私の側近の一人であるガヴァン侯爵が怒鳴るがそれをさらに煽られる……これまでの挑発にもはや私の派閥の者は怒り心頭に発しており、限界だ。
「——双方やめよ」
「「……」」
父王のその一言で私を含めた全員が頭を下げる……。
「双方の言い分はよく分かる、しかしながら王族に敵意を向けたという時点で反逆罪である……その者が王都に向かっているというのは由々しき事態であろう」
「しかし父上!」
「……ジュラルよ、私がいつ発言を許可した?」
「っ! 申し訳ございません……」
野心家の弟にも困ったものだ……焦りすぎてボロを出し、その失敗を挽回するためにまた無茶をする……そこまでして玉座が欲しいか。
「グィーランの報告が嘘か本当かに関わらず対策は必要であろう、であるからして——」
「——失礼します! 緊急の報告です!」
陛下の結論が出される寸前に扉を大きな音をたてて開きながら伝令が入室してくる、それに幾人かの貴族が眉を顰めるが陛下から発言が許可されていないために黙っている。
「よい、発言を許可する」
「ハッ! たった今辺境派遣軍の生き残りが帰還致しました!」
「……生き残り?」
「そ、それが……」
…………嫌な予感がする、まさかとは思うがさすがにあの人数をどうこうできるとは考えにくい、しかしながら対峙したあの恐怖を思うと否定もできない。
「よい、述べよ」
「ハッ! 王太子殿下が撤退なされた後に交戦、しかしながら一刻ばかりで指揮系統は破壊され、軍のおよそ八割が死亡、または重傷者の壊滅状態とのこと!」
「馬鹿な!?」
「どういうことであるか!?」
……………………これには絶句してしまう、あまりにもあんまりな内容に思わず議会が騒がしくなる。
「……それは真実か?」
「……生き残りの兵士は酷く怯えて錯乱しており、私では判断がつきません」
「そうであるか」
それきり陛下は目を瞑り考え込んでしまう……私が率いていたのは連隊規模の軍隊で3000人は居たはず……それが壊滅など冗談でも笑えない。
「いよいよ兄上の失敗が浮き彫りになりましたな! このような危険人物をみすみす見逃し、王都に招くなど!」
「お言葉ですがジュラル殿下、グィーラン殿下は命を狙われたのですぞ! それこそ玉座を狙うそちらの差し金ではないのですか!」
「言葉が過ぎるぞガヴァン侯爵!!」
クソっ! まとまらない、議会は互いが足を引っ張り合い、紛糾するばかりでまともな案は出てこない……これでは奴の思うつぼではないのか?!
「——結論を言い渡す」
「『……』」
目を開けた陛下の言葉によって荒れる議会は一先ず静かになる。
「事実確認を徹底し王都に検問所を設けよ。万が一の場合に備えて王族はできる限り外出を控え、常に護衛を連れ歩くように……では解散を宣言する」
陛下の決定に黙って従い、その場は解散となる。
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「……殿下どう見ますか」
「正直なところわからない……確かに弟は秩序に属してるとは言えないが混沌に属していなかったはずだ」
「確かにそうかも知れませぬが第二王子は野心がありすぎる。それに王子自身ではなく派閥の誰かの独断という線もあります」
あの女が私の命を狙ってきたのは事実だ、そこは覆せない……しかしながらその理由がわからない。いくら混沌の眷属でも楽しそうというだけで一国の王太子を狙いはしないだろう……それはあまりにリスキーだ。
「……私の固有スキルが混沌陣営にとって目障りな事態でもあったか?」
「隠されたものを見つける能力でしたか……充分にありえますな」
…………とりあえず、今私が死ねばこの国は混乱するのは間違いない。
「……私は死ぬわけにはいかない」
「……第二王子と第一王女で内乱になりかねませんからな」
私が死んでしまえばこの二人が争うことになってしまう……弟は側室、妹は正妃の子だ。血統を重んじるならば妹に軍配が上がるが……なによりもまだ幼く、実績もないが傀儡にするには少し利口過ぎるため、貴族たちが完全に二分されるだろう。
「今でさえ国内が大変だというのに……」
「そうならないためにも対策は必須でしょう」
「わかっている、父上にも許可を取って指名手配した」
これで渡り人たちにも協力が仰げるが……どうなるだろうか。
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運営 と NPC は 混乱 している !!
元々王太子 第二王子 第一王女で政争を繰り広げるのは予定通りです……。