65.一条玲奈の日常
5話ぐらいリアル視点の話続きます、ゲームの話だけ読みたい方は申し訳ありません。
一応要望の多かったレーナさんとユウ君の学校での絡みなどです。
「本当にすいませんっした、許してください…………」
そう言って目の前の不良さんは私に許しを乞いますが……だったらなんで絡んできたんでしょう? 朝早くの通学時間から暇だったのでしょうか?
「こ、これ……全財産あげるので…………」
「? カードがあるので現金なんて要りませんが? 」
「そ、そんな……!? 」
今さらお金を貰ったところで……私は一応公爵令嬢になりますし、血縁上の父親であるあの男は若い時に複数の会社を起業しそれを一代で世界的企業にまで育て上げ、今は財務大臣で任期二年目にして我が国のGDPを前年比の1.4倍にしたことで有名ですし、次の総理大臣最有力候補でもあります。戦後財政難になることが多かった華族にして珍しく私の家はお金に困ったことはありません…………不良さんのお小遣い程度を貰ったところでむしろ困りますね。
「お前が箱入りお嬢様なら簡単だって言うから! 」
「それを採用したのはお前だろ?! 」
…………何やら目の前で仲間割れを始めてしまいましたね? 本当に面倒くさい方々です。
「……あの? 」
「ひっ! 前歯だけはやめてください! 」
「できたら目立たない服の下でお願いします!」
「どうかお慈悲を! 」
どうやら完全に怯えられてしまったようですね、急がなければ学校に遅れてしまいますし彼らに対する罰は軽めでいいですか……なにより面倒くさいです。
「……では軽めに済ませますので後ろを向いてください」
「っ! は、はい! 」
「た、助かった……」
「ありがとうございます! 」
そう言って彼らは一斉に後ろを向きましたので、一人ずつ腕を掴み、肩を脱臼させていきます。
「あ゛あ゛?! 」
「っ?! ひ、やめっ……ァァァ!!? 」
「か、軽くすませるんじゃっがァァ?!! 」
「…………肩を外したぐらいで大袈裟ですね、ユウさんといいリアクション芸が流行っているのでしょうか? 」
まぁいいです、そろそろ学校に向かわないといけませんし……背後の路地から聞こえる彼らの呻き声を聞き流しながら歩き慣れた通学路を進みます。
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学校に着いて教室の扉を開ければそれまで外にまで響いていた話し声が途端に止み、静かになりますがいつものことなので気にせず席を目指します。
「い、一条さんおはよう」
「えぇ、おはようございます」
おっかなびっくりといった感じでクラスメイトたちが挨拶してきますので笑顔で応えます……そんなに無理に挨拶しなくても構わないんですけどね? 私も煩わしいですし……。
「…………おや? 結城さんではないですか、おはようございます」
––––––––ざわっ!
「は、はひ! おはようございます! 」
織田結城さん–––––ユウさんの本名––––を見かけたので挨拶しておきましょう、友達ですからね……また騒がしくなった教室を気にせずに少し話をします。
「この前は中々楽しかったですよ? また『遊び』ましょうね?」
––––––––ざわっ!!
「え"?! い、今それをここで言っちゃ…………」
「おや? 『遊んで』くれないのですか? 」
どうしたと言うのでしょう? まさか何か不都合でもあったのでしょうか? 私が思わず眉を顰めると結城さんは慌てて弁明します。
「い、いえ! もちろん一緒に遊ばせていただきますとも!」
「それは良かったです、知らないうちになにか粗相したのかと心配致しました」
どうやらこれからも『遊んで』くれるようでなによりですね。
「別に一条さんに問題があるわけじゃ……」
「? いつもみたく玲奈って呼んでくれても構いませんよ? 」
––––––––ざわっ!!!
別にリアルで会話したのは結城さんがユウさんだと気付いたのがつい最近ですから今回が初めてですけど、ゲーム内でさんざん『レーナさん』って呼んでいるのですから今さら『玲奈』と呼んでもらっても不都合ありませんし、『一条』よりも慣れていてしっくりきます。何より家名で呼ばれるのってあまり好きではないんですよね…………。
「い……玲奈、さん」
「? はい、なんですか?」
「も、もう少し周りを気にしませんか?」
周り? 周りがどうしたと……あぁ、担任の先生の足音がしますね、そろそろHRですか。
「なるほど、そろそろ時間ですね、それではまた後ほど」
「そ、そういうわけじゃ……もういいです…………」
後ろで『へ、平穏な学校生活が……』とか何やら意味不明な嘆きをしている結城さんを放っておいて席に着きましょう。
「あ、あの一条さん……」
「? なんでしょうか? 」
…………おや? 珍しいですね? 普段あまりクラスメイトから話しかけられないのですが……女子生徒が三人ほど声をかけてきましたね。
「その……織田君とどういう関係か聞いても? 」
「? 結城さんとですか? 彼とは–––––––」
「–––––––はい席に着け〜、日直は号令〜 」
女子生徒の質問に応えようとしたところでいつものやる気の感じられない気怠げな担任の掛け声が聞こえてきました、元々そんなに時間は残ってませんでしたし、仕方ありませんね。
「すみません、この話はまた後ほど……」
「あ、ううん、いいのいいの! こっちこそ不躾に聞いてごめんなさい! 」
「こういうのって根掘り葉掘り聞かれるの嫌な人もいるしね!」
「? そうですか? 」
いったいなんなんでしょうね? もしやまだ『普通』に擬態しきれてないのでしょうか? …………気を付けねば母が安心できません……。
「起立––––––」
日直の掛け声を聞き流しながら今日も一日どうやってこの退屈な時間をやり過ごそうか考えます。
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玲奈ちゃん本当に周りの目を気にしない……いや気にさな過ぎである。
結城君の胃にダイレクトアタック!!
そしてレーナパパは異常なくらい有能な人物です、じゃないと今ごろレーナさんに寝首かかれてるしね…………。