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2.チュートリアルおじさん殺人事件

下着の色まで定められた校則という不平等条約を破棄するためにとりあえずメーメルを要求するべく書きました(大嘘)

 

  視界いっぱいの白い光が収まると、そこは石造と木造が半々の東欧っぽい建物の並ぶ『始まりの街』の噴水広場でした。


「多い…」


 周りには、私と同じ初期装備に身を包んだおそらくプレイヤーたちでごった返している。苦手な人はそのあまりの多さに人酔いしてしまいそうなぐらいです。ここだけで軽く3桁は居るんじゃないでしょうか?


「まぁ、なにはともあれ――――」


  ――――ここからは私は『一条玲奈』ではなく『レーナ』として切り替えていきましょう。


 ▼▼▼▼▼▼▼


  さてと、ぐるりと視界を動かせば多い人混みの中で一際賑わっているところがあるのがわかる。そこの中心には『始まりの街』がある国の兵士であろう格好をした、通称『チュートリアルおじさん』『俺たちの兄貴』と呼ばれるNPCが居る。ベータ版にも登場し、現実の人間となんら変わりない言動をするNPCも売りの一つのこのゲームにおいてまずほとんどのプレイヤーが最初に接するNPCであり、その人間臭さと気さくな性格からプレイヤーからの人気も高く、ベータ版でリアルの相談をしたら真面目に回答し、離婚回避できたプレイヤーが現れてから一躍時の人(?)にもなった。そんなNPCは『チュートリアルおじさん』の通称通りにプレイヤーに最初のクエストでモンスターの戦い方、スキルや魔法の使い方、その他諸々を教えてくれるため、プレイヤーはまずこのNPCに話し掛けるのは必須と言える。


「本当に多い……」


  半ばうんざりしながらもチュートリアルおじさんに近づくが、如何せん人が多過ぎる……まぁ、これからのことを考えると好都合でもあるけれども……。


「あの、」


「ん? あぁ君も渡り人だろう?」


「えぇ、そうです」


  やっと話し掛けられた……本当にプレイヤーが多過ぎる...まぁ、この人混みでの移動の仕方にも慣れたしもう大丈夫ですけどね。ちなみに渡り人とはNPCにとってのプレイヤーのことである。


「君もなにかわからないことがあるのかな?」


「そうです、こちらに来たばかりでわからないことだらけでして」


「だったらこのクエストを――――」


「――――なので貴方には死んでいただきます」


  そして持っていた初期装備の短刀でチュートリアルおじさんの首を刎ねた――――


 ▼▼▼▼▼▼▼


「は?」


  それは誰が漏らした言葉だったろうか? 今この噴水広場は時が止まったかのようにプレイヤーもNPCも関係なく口を開けて惚けている。動いているのは何も見えない後ろの方にいる人たちくらいだろう。


「…よし」


  チュートリアルおじさんの首を刎ね飛ばす時に短刀がうっすらと赤黒いエフェクトを放った、ちゃんと『不意打ち』スキルが発動した証拠だ。暗殺ではなく不意打ちという名称からもしやとは思いましたが、不意を突けば正面からでも発動するようですね、良かったです。

  というか、描写設定をリアル準拠にしたせいか断面図から血が噴水のように噴き出してますね。これ同じように見えてるプレイヤー居るのでしょうか?


 《レベルが上がりました》

 《スキルポイントを獲得しました》

 《カルマ値が下降しました》

 《不意打ちスキルのレベルが上がりました》

 《称号:ジャイアントキリングを獲得しました》

 《称号:初めての人殺しを獲得しました》

 《称号:大胆不敵を獲得しました》


  おや? なにやらいきなりお知らせがたくさん届きましたね? まぁ、まだこっちはレベル1、それが仮にも国の兵士を殺したんですからレベルは上がって当然。他は……後で確認ですね。それよりも、大多数のプレイヤーが状況を飲み込めてないこの好機を逃すわけにはいきません。


「――――ふっ! 」


  振り返りざまに、さっきまでチュートリアルおじさんと談笑していたプレイヤー2人組の首を一息に刎ね飛ばします。リアル準拠のせいでそのまま光の粒子になったりして消えていくのではなく、血を噴き出しながら倒れてから燃えるようにしてリスポーンしていきますね、そんなことを頭の片隅で考えつつそのままプレイヤーの群れに突っ込み、通り魔の如くどんどん首を飛ばし、心の臓を貫き、喉をなで斬り、駆け抜けます。


「な、なんだ?!」

「兄貴がぁ!」

「きゃぁああ!!」

「どうした?! なにがどうなってる?!!」

「知らねぇよ!」

「だ、誰か!!」


  やっと我に返った時にはもう遅いです、そのまま1人を足を掛けて正面から引き倒し……切る前に空中で喉を貫き、未だ残ってる死体の足首を掴み投擲し、それを隠れ蓑に他プレイヤーの首を狩っていき、PKを続けながら駆け抜けさらに混乱を広めていきます。


「あ、アイツだ!」

「あの野郎!」

「ぶっ殺せ!!」

「捕まえろ!」


  混乱するプレイヤーが大半の中でちらほらと対応し始めた方が出てきましたね、ベータ版からの人たちでしょうか? まぁなにはともあれ殺ることは変わりありません、既に2桁はPKしています。


「お前ら落ち着け! 場所を空けろ!」

「そのまま囲い込め!」


  冷静になった人たちが周囲を落ち着け統率しようとしますが焼石に水ですね、そのままUターンし突っ込みます。


「っ! このやろ――――」


  直前に気づかれましたが首を落とすことはできました、しかしながらその代償として2組のパーティに囲まれてしまいましたね。


「てめぇよくも兄貴を! 」

「少しお痛が過ぎるんじゃないかしら? 」

「少なくとも11人に囲まれてるんだ、大人しく死んどけ」


  前衛に剣士が3人に槍使いと斧使いが1人ずつ、後衛におそらく魔術職が4人に弓使いが2人と……動かずにいれば後衛に集中砲火を喰らい、突っ込めば前衛に数の暴力で袋叩き、時間を掛ければどんどん我に返ったプレイヤーが参戦してくるでしょう、であるならば……。


「逃走一択ですね」

「あっ! 待てこの野郎!」


  私は野郎ではないのですが、まぁ言っても詮無きことでしょう。そのまま噴水広場を走り抜け、次いでに未だに混乱してるプレイヤーと屋台を出していたNPCを殺します。


「っ! あの子まだ!」


  おっと、チラッと見たら後衛のお姉さんが凄い形相してますね、くわばらくわばら。


「シっ!! 」


  後衛の弓使いが放った矢を近くにいたNPCの子供を盾にして防ぎます。


「人間か?! 」


  人間か?!は無いでしょう。まぁ私も自分で外道だなとは思いますが、それよりもそのままその子供を背後に投げ飛ばします。


「危なっ! 」

「っ! 早く回復しないとその子死んじゃう! 」


  見事に前衛の剣士の1人がキャッチしました–––––––が、子供を盾に視界を塞ぎ引き返した勢いのまま子供と一緒に剣士の心臓を腕ごと短剣で貫き、子供を助けるために駆け寄っていたおそらく神官の女の子の首を落とします。貫いて腕に引っかかった子供は邪魔なので、その場に落としましょう。


「ライン! チェリー! 」


  ラインさんとチェリーさんと言うのですね、まぁ興味無いですが……そのまま叫んで私から目を離した槍使いの背後に回り込み、首を締め上げ膝裏に蹴りを入れて捻じ折ります。『パギャ』という湿った音と共に槍使いのHPが全損するのを確認します。


  これもリアル準拠にしたからか、白目を剥いて口から血の泡を吹いていますね。まぁそれは置いておいて、そのまま槍使いの腹を蹴飛ばして槍を奪い、後衛に投擲します。

  リスポーンする槍使いを尻目に、槍を弾くために後衛に駆け寄った2人目の剣士に突っ込みますが、目の前に大きな斧が迫ります。そのまま宙返りの要領で避け、手にしていた短刀を斧使いに投擲。見事ヘッドショットです、気持ちいいですね。


「残りは前衛に剣士2人、魔術職3人弓使い2人ですか……」


  段々と街の衛兵であるNPCと混乱から立ち直ったプレイヤーが集まってきます。時間はもうそんなにありませんね……。


「ここで決めましょう……」


「っ!」


「後衛は纏まれ! 手が足らん!」


  2人しか居ない前衛など無視して、そのまま後衛に再突撃します。慌てて剣士2人が後衛に駆け寄り、後衛たちも守られやすいように身を寄せたところ――――で再度Uターンです、律儀に最後まで付き合う必要はありません。


「『あっ!』」


  そのまま逃げ惑う一般モブNPCに突っ込み、首を飛ばしながら街の外に向けて駆け出します。路地裏なんかは土地勘がありませんし、人混みに紛れることもできないので行かず、そのまま大通りを駆け抜け、まだ何も知らないNPCやプレイヤーを混乱に巻き込みます。

 

 屋台の荷台を引き倒し、通りすがりから奪った武器を投擲、運が悪いプレイヤーはヘッドショットでそのまま神殿行きです。

  たまに追いつかれそうになりますが、その度に急ブレーキから後ろにジャンプし、背を相手の腹につけ背負い投げをします。その際に武器を拝借しては背後に投擲、投げ飛ばしたプレイヤーはそのまま喉を踏み潰して殺し、屋台から商品を掠めては逃亡を続けます。


  余裕がありそうなら、今後利用する人が増えるだろうポーションなど必需品を販売している屋台の店主を重点的に狩っていきます。そうこうしているうちにもうすぐ街の外に出れますね。


「そこの君! 止まりなさい!」


 外門が見えてきたところで門番に制止を呼び掛けられますが無視して跳躍、頭上を飛び越え『始まりの街』から脱出成功です。


 《レベルが上がりました》

 《スキルポイントを獲得しました》

 《カルマ値が大幅に下降しました》

 《新しく窃盗スキルを獲得しました》

 《新しく跳躍スキルを獲得しました》

 《新しく回避スキルを獲得しました》

 《新しく体術スキルを獲得しました》

 《新しく暗殺術スキルを獲得しました》

 《新しく致命の一撃スキルを獲得しました》

 《新しくフェイントスキルを獲得しました》

 《短剣術スキルのレベルが上がりました》

 《不意打ちスキルのレベルが上がりました》

 《軽業スキルのレベルが上がりました》

 《投擲スキルのレベルが上がりました》

 《歩行スキルのレベルが上がりました》

 《称号:虐殺者を獲得しました》

 《称号:外道を獲得しました》

 《称号:略奪者を獲得しました》

 《称号:犯罪者を獲得しました》


  おおう?! なんかいっぱい来ましたね……始まりの街から出たことで戦闘区域から離脱した判定になったのでしょうか? まぁ、今も追いかけてきてますし、そのまま目の前の南の森に逃げ込みましょう。


「待てや!」

「なぁ、これなんかのイベントか?」

「それにしては早くね? まだサービス開始2日目だぜ?」

「とりあえずアイツ捕まえればいいんだろ? 」


  どうやら事情を詳しく知らないプレイヤーもこの追跡に参加してるようですね、まぁ絶対に捕まりませんが。


  「さてと…」


  南の森に辿り着き、ある程度奥まった所まで進んだところで木の陰に隠れます、そのまま私は――――




 ――――自分の喉を掻き切り自殺しました。

初手ぶっぱする主人公。

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