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30.ベルゼンストック市

お礼の連続投稿その4でごさいます。


彼は色々と残念な奴だし、レーナさんに好感情は伝わりづらいですが悪い奴ではないのです…………ただただ残念な奴なのです……………………ブッフォッ!!

 

  ――――――あぁ、着いてしまった。目の前には四角い真っ白な建物が並ぶ地中海沿岸部によく似た街がある。

  街に入る前に道中考えていたことを実行しないと………………。


「やっと着きましたね」


「……そうですね」


  ここでレーナさんとお別れか……なんだか寂しい、できるのならもっと彼女と一緒に遊びたい。


「元気がないですが、どうかしましたか? 」


  言え、言うんだ僕……!


「あ、えっと……」


  こんな時にも陰キャムーヴしてるんじゃないよ!! さっさと言えよキモオタク!!


「あ、あの! えっと、ぼ、僕と……」


「? なんですか? 」


  落ち着け、深呼吸だ……ほらスゥー、ハアー…………ダメだな手が震える、心なしかゲームなのに手汗までジットリと出てきた気がする……。

  彼女との最初の出会いは最悪だった、舌を掴まれながら口に短刀を突っ込まれて脅されたし、強引に最前線を連れ回されるし、でも――――


「僕と……その、あの…………」


「……? 」


  ――――それでも彼女との冒険は楽しかった、彼女に知識を披露するのは気持ち良かったし、彼女の気遣いかすごく嬉しかった、恐ろしいところも多いけど、意外と子どもっぽい無邪気な一面があって、異性に対して微妙に無防備なところが目を離せない…………そしてなにより――――


「――――ぼ、僕はあなた自身を見てきて友達になりたいと思いました! 」


「……」


  言った! 言ってやった! 一度言葉にするともう止まらない。


「怖いし、強引なところもあるけど、子どもっぽいところや知りたがりなところとか好ましく思います! 短時間しか一緒にいれてませんけど………………」


「……」


「ですから、僕と友達に……具体的にフレンド登録してください! 」


  言い切った……もう悔いはない、さっきから彼女が黙ってるのが怖いけど……引かれちゃったな? こんな陰キャキモオタクがなに舞い上がっちゃってるのとか思われてないかな? もし断られても潔く諦め――――


「……別に構いませんよ」


「――――っ?! い、いいんですか?! 」


「えぇ、そもそもこの街にいる間は色々と教えてもらおうかと思ってましたし」


「!! あ、ありがとうございます! 精一杯ご教授させていただきます!! 」


 ――――やった!! フレンド登録してもらえた!! しかもこの街で過ごす間だけだけどまだ一緒に彼女と遊べる!!


「……それに私自身を見てくれたみたいですしね」


  彼女のその一言で僕は冷や水を浴びせられた気分になる。

  ど、どうしよう…………傍からみたらさっきの完全に告白みたいじゃないですかーーー!!!!! 僕のバカーーーー!!!!

  頭を抱えながら自身の仕出かしたことによって生まれた羞恥心に悶えていると――――


「私は友達とか初めてなのでちゃんと教えてくださいね? 」


  ――――彼女の初めて? もうその一言で瞬時に立ち直れた僕は割かし単純だなと自分でも思う。


「ふふ、私自身を見てくれようとしたのは母以外では初めてですよ……」


  それにどうやら彼女はあれを告白とは受け取らなかったらしい。それが残念なような良かったような複雑な気分にさせるが、元々異性に対して微妙に無防備だし、超がつく天然疑惑あるし、当然の結果だなと冷静な自分が言う。


「これからよろしくお願いしますね、ユウさん」


「えぇ、こちらこそレーナさん」


  まぁ、彼女が楽しそうに笑ってるし、僕自身もまだ自分の気持ちがなんなのか完全には把握してないから今はこれでいいかな?

  それよりもこれから彼女と『遊ぶ』のが楽しみで仕方ない――――


 ▼▼▼▼▼▼▼


  街の前でユウさんが挙動不審になった時は、失礼ながら『またですか……』とか思ってしまって申し訳ありません、と内心で謝りながら彼とフレンド登録をします。

  リアルでもゲームでも初めての友達ができました。同性ではないですけどこの際どうでもいいです。死ぬ前に私が友達ができないことを心配していた母に、これでなにも不安なことはないと報告できますね!!


「……よし! 」


「では、街に入りましょうか? 」


「はい! 」


  なにやらガッツポーズをしているユウさんを伴い『ベルゼンストック市』に足を踏み入れます。


 ▼▼▼▼▼▼▼


「……本当に奴隷が多いですね」


  街に入って大通りを歩くと、そこら中に左頬に奴隷の印である刺青をした人たちが歩いています。


「本当は奴隷同士の結託を防ぐために足の裏など見えないところに入れてたみたいですけどね」


「そうなんですか? 」


「えぇ、領主が代わって奴隷に対する締め付けが強くなった時に、むしろ分かりやすいように顔に入れるようになったそうです」


「へぇ〜」


  彼は本当に物知りですね、普通にプレイしててそんな情報手に入りませんよ? いったいどこで仕入れてくるんでしょう?


「……それにしても奴隷の印にしてはカッコイイですね? 」


「それは元々この内海に潜むモンスターたちを束ねる主の、クレブスクルムという海龍のようなモンスターを象っているらしいですよ」


  クレブスクルムとはまた随分と名前もカッコイイですね? おそらくユニークモンスターではないでしょうか?


「そんな凄そうなものが奴隷の印なんですか? 」


「……元々は内海最速の存在という事から船乗り達のお守り程度だったらしいんですけど、いつしかただ早いものの象徴として市井に広まったんですよ」


「早い? 」


  奴隷に早い? 早く仕事を終わらせろとか、早く奴隷の身分から成り上がりたいとかそんな感じなんですかね?


「えっと、その……この街では奴隷というのは消耗品とそんなに変わらなくて、すぐに痛む食品とかにも同じ印が使われてて……つまり、すぐ壊れる物という意味です……」


  ……………………なるほど、なるほど?


「………お前は一生奴隷だ、道具が思い上がるなって意味の方が強いらしいですけどね」


「……」


  ………………なるほど、随分な理由ですね? 道具ですか、そうですか。


「……この街ですることが決まりました」


「? なんですか? 」


  いきなりどうしたんだとキョトンとした顔の彼に向かって、精一杯の笑顔を意識して告げます。


「フランス革命ってご存知ですか? 」


「……」


  めっちゃ顔を引き攣らせた彼が硬直してしまいましたね、そんなに私の笑顔は怖いのでしょうか?

  とにかくこれは決定事項です、さぁさっそく準備を進めましょう。

赤旗振り上げなきゃ


前回とやっている事似ているようでレーナさんの目的が全然違います、同じ領主に対する対応の違いをこれから読み比べてみてください。

この話ではゲームの大事な要素とレーナさんの内面の深いところにほんの少しだけ触れます。

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