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22.敗戦その2

お礼の連続更新その3でございます。


ハンネス......君たちの散り際は忘れないよ、今ごろ神殿跡地でプレイヤー達に胴上げされている事でしょう...........ブフォッ!!

 

「……敗けたか」


  領主館のバルコニーから先ほどの戦闘の決着を確認し、私はそう力なく呟く……。


「私の順番を抜かすでないわ、バカ息子め……」


  人には大事な順番というものがある、先に産まれたものが先に死ぬ––––––––単純なものだが重要なものだ。ワシは父から貰ったものをほとんど何も返すことはできなかった……けれども順番だけは守り、先に死ぬことは決してなかった。

  どれほど親孝行者でもその順番を守らず、親より先に死ぬなど、それまでの善行を利子を付けて返す程の親不孝だと知れと騎士団長という戦いに身を置く息子に嫌と言うほど――――


「――――言い聞かせてきたんじゃがなぁ」


「? なにをですか? 」


「……いや、なんでもない。こちらの話じゃ」


  背後から掛けられる女の声に返事をしつつ振り返る。


「それよりも息子は何か言い残してはなかったか? 」


  いくら大バカの親不孝者でも遺言くらいはしているだろう? そう相手に問い掛ける。


「……えぇ、生きてくれと」


「……そうか…………そうか」


  噛み締めるようにしてその言葉を深く胸に刻み込む、息子の最後の言葉だ……最大限の努力で遂行せねばなるまい。


「……それで? 勝者は敗者に何を望む? 」


  酷く複雑な表情をしている相手に当然の質問を投げかける。


「そうですね、先ずはあなたにはムーンライト・ファミリー幹部のエレンさんを養子にするか、隠し子として認知してもらいます」


  一瞬にして無表情になった相手の要求に顔を顰める。この後の展開がわかってきたからだ。


「諸々の手続きを終えたあと、あなたはエレンさんを後継者に指名し、領主の地位を退いてもらいます」


「……中央政府にはなんと説明するつもりだ? 」


「後継者同士の家督の奪い合いの結果、エレンさんの側が勝利したとでも言っておいてください」


「…………断ると言ったら? 」


  その瞬間、思わず息が止まるほどのプレッシャーに襲われる。


「……息子の遺言をふいにするんですか? 」


「………そういうわけではない、仮定の話だ」


  これは……いかんな、息子がわざわざ遺言して託すわけだ。凡そその目付きを見ればただ死ねるわけではないとわかる。


「まぁ、そうですね。もし断ったら生き残りの娘さんに頑張ってもらいましょうかね? 確か今年で14歳ですからもう子供が作れますし、領主の血を引いたゴブリンでも後釜に据えますか? 」


  聞くだけで悍ましいことを平気で語る相手に怖気が走る……。こんなこと正気で言えるものなのか? いや、そもそも考えつくものなのか?


「……要求を全面的に呑もう、だから娘と妻には手を出さないでくれ」


「そうですか? なら構いません」


  そもそもこちらに選択の余地など息子が敗けた時から存在せん、できることはなるべく多くの命を安堵することのみ。


「……それともう1つ」


「まだあるんですか? 」


「これで最後じゃ……領民を決して無下にはしないと約束してくれ」


「? それだけですか? 」


「……あぁ」


  一瞬さらに吹っかけようかと思考が過ぎったが、やめておこう。ろくな結果にならん気がする。


「その程度なら構いませんよ。むしろ一部政策を除いてこれまで通りで進めますし、なんならエレンさんが領主を継いだあとはムーンライト・ファミリーの親分さんと一緒に話し合ってください。ただ私の傀儡が欲しかっただけですので」


「……そうか、では直ぐに行動するとしよう」


「はい、お願いしますね」


  今日という日がバーレンス辺境伯領の実質的な最期だ――――――――


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「ふむ、まさか本当に成し遂げるとは」


  次の日に領主の使いと一緒にムーンライト・ファミリーの親分さんのところに尋ねて開口一番に言われたセリフがこれだ。


「信じてなかったんですか? 」


「まぁ、いくら人間ではないとはいえ一人じゃったからな。それがアレクセイ騎士団長まで討ち取るとはさすがに予想外じゃわい、ワシも耄碌したかの? 」


  半信半疑だったんですね、まぁ小娘一人だけでクーデターが成功するだなんて普通思いませんよね。


「……一つ質問じゃ、もしワシらがお前さんの望まない領地経営をしたらどうする? 」


「? また頭をすげ替えるだけですよ? 」


「……そうか、お前さんとはできるだけ敵対したくない。こちらから何かすることはないじゃろう」


「それは良かったです」


  せっかく成功させたのにまたやり直しとか面倒臭いですからね、騎士団長さんが居ない分二回目は楽でしょうけど。


「それでは後のことよろしくお願いしますね? 」


「あぁ、任せてくれ」


「では、これで」


  そう言ってその場を後にし宿に帰ってログアウトします、今日は濃厚な一日でした。良い疲労感です。

  次はなにしましょう? そろそろ次の街を目指してみますかね?


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本来なら重要NPCの生き死にや街の今後を左右する事などワールドクエスト案件です。

それを無視して騎士団長を殺して領主をすげ替えた主人公に運営は頭を抱えています。

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