94.寂しい人
二人とも頑張ったしね!
「き、緊張するなぁ〜……」
そんなこと言いながらソワソワする織田を見る……今日はあの戦いが終わってから初めて一条さんに呼ばれた日だ……どんな採点をされてしまうのかめっちゃ怖い。
「は、ははは……織田はビビりだなぁ」
「……舞だって声が震えてるじゃん」
だって仕方ないじゃない! 一条さんと話すだけでも緊張するのにこれから批評を受けるかも知れないんだよ?! ……ゲロ吐きそう。
「おや、もう来ていたのですか」
「「っ?!」」
後ろから聞こえた一条さんの声に織田と二人でビクつく……冷や汗を流しながらゆっくりと振り向くと思っていたよりも上機嫌な一条さんが居た。
「「あの時は調子に乗ってすみませんでした……」」
織田と二人で直角九十度に腰を曲げ謝罪する。……だってあの時めっちゃテンション高くて、織田と二人何を言ったのか覚えてないもん! 神殿跡地で笑い合った後そこに気付いて二人して顔青ざめさせたくらいだもん!
「? なんのことですか?」
「「えっ……」」
え? 怒ってないの? 上機嫌なのは解ってたけど、わざわざ一条さんから私たちを呼ぶ理由でそれぐらいしか思い付かなかったんだけど……なんだろう?
「いや私には負けましたが、最高に面白いサプライズだったのでお願いを聞いてあげよ──」
「「──マジで?!」」
「……」
あ、ヤバい……つい織田と二人で食い気味になっちゃった……一条さん少し引いてるし、その後首を傾げてて可愛い……じゃなくて! あれは絶対に何か勘違いしてるね、ここ最近近くで言動見てて織田の言うように少し天然入ってる疑惑があるから気を付けないと……一応お嬢様だから世間知らずなのかな?
「……それで何かしてほしいことありますか?」
あっ……ヤバいわ、首をコテンって擬音が付きそうな感じで傾げられると破壊力ハンパないわ……この人自分の容姿に自覚ないのでは?
「そ、そうですね……僕は今度検証に付き合ってくれたらそれで……」
「検証ですか……役に立てるかわかりませんが構いませんよ」
「ありがとうございます!」
ぐぬぬ……織田め、サラッと次も遊ぶ約束してやがる! 抜け目のない奴め、燃やしてやろうか……。
「それでマリアさんは?」
「あっ……えっと……」
ど、どうしようかな……思い切って友達になってくださいでもいいんだけど……。
「へいへーい、マリアさんどうするのさー?」
「う、うぜぇ……」
織田が超うぜぇ……私がこういう時苦手だって解ってて自分は一抜けして煽ってくるぅ! 悔じい〜!
「……ほら、友達になってって言えば?」
「そ、そうなんだけど……」
「なんか問題でもあるの?」
そんな大層な物ではない……けど……私が気になって仕方がないというか……とにかくそれよりも大事なことがあるのよ!
「よし……邪魔だから織田は帰ってて」
「なんで?!」
いや、なんというか……恥ずかしいし? 織田を邪険にするわけじゃないんだけど、恥ずかしいし?
「ユウさんが居たらやりづらいお願いですか?」
「っ?! ……マリア、まさかお前」
「あ、いや……やりづらいのは合ってるけどニュアンスが違うから!」
ちょっと一条さぁん?! 自覚ないんだろうけどあなた可愛く首を傾げてそういう聞き方すると危ない匂いがしちゃいますからぁ!
「とにかく織田はしばらく離れてて!」
「わかったわかった」
この野郎……違うってわかっててニヤニヤしやがってぇ! この百合豚め!
「それで? お願いとは?」
「えっと……」
よし! 頑張れ私! 友達になってほしいのは山々だけど……それよりも凄く気になることがあるから、仕方がないよね! そう! これは決して己の欲望を叶えるためじゃない!
「ひ、ひひひ膝まきゅらをさしぇてくだしゃい!」
「……」
噛んだ……?! 噛んでしまったし、緊張で吃りすぎてて頭のおかしい変態っぽくなってしまった……終わったよ、もう一条さんに引かれて嫌われてしまったかも知れない……。
「別にそれくらい構いませんが……」
「ほ、本当ですか?!」
「え、えぇ……」
お、落ち着くんだ私! 一条さん困惑してるじゃないか! ゆっくりと慎重に木の根元に腰掛けて膝を叩く……一条さんはこちらを訝しながらも素直に私の膝に頭を置く……ヤバい鼻血出そう。
「あ、頭撫でてもいいですか?」
「……どうぞ」
うっわ、ゲーム内なのに心無しかサラサラしてる気がする! めっちゃ手触り良い……やっぱり一条さんは女神だったんだなって。
「……てっきりユウさんみたく友達になってくださいとお願いされるのかと思いました」
「あ、あはは……それでも良かったんですけど、なんだか居てもたってもいられなくて……」
なんだかここ数日間の一条さん機嫌悪かったし、一条さんがジェノサイダーだって解ってからも動画を見返したりしたけど……そのどれもが無邪気に楽しそうに『遊んで』たのが、王女様やメイドさんの辺りでは全然楽しくなさそうだったから……。
「それはいつもこちらを見ているのと関係が?」
「え"っ"?!」
「……もしかして気付いてないとでも?」
まさかいつものストー……ガーディアン任務が気付かれていたなんて……まぁ一条さんだもんね、気付いてないと思い込んでたこちらが悪いよね……。
「そ、それは……はい、すみませんでした」
「いえ、別に構いませんけどね?」
許されました、私の勝ちです! ……なんてふざけている場合じゃないよ、恥ずかしい〜!
「なんでいつもこちらを見ていたんですか? マリアさんがその方だと気付いたのはつい最近ですが」
「そ、それは……できたら友達になれたらなぁって……」
一条さんと仲良くなりたかったんだもん……でも話し掛けるタイミングとか色々わからなくて、いつも逃してたんだもん……。
「それこそ今お願いすれば良かったのでは?」
「そ、そうなんですけど……」
それは確かに一条さんの言う通りなんだけど、ほら……ね?
「……それになんで私なんかと仲良くなりたいと思ったんですか?」
「なんかって……一条さんは素敵な人ですよ?」
少しだけ……いやかなり危ない人ではあったけど、それで何か一条さんの本質や何かが変わるわけでもなく……見えてなかったもう一つの一条さんを発見できただけだしね。
「周りに興味ないところが……ブレない自分を持ってて格好いいなって思いました」
「……」
まったくクラスメイトの名前すら覚えないし、流行とか追い掛けないし、友達の織田の話でもつまらなかったら無慈悲に途中で切り上げるし……周りに流されないのは素敵だなって……。
「なのに必死になって周囲を観察して溶け込もうとしているところが……可愛いなって思いました」
「……」
周りに興味ないくせに必死になって観察して真似しようとしてる様は可愛く思えてしまう……ジェノサイダーとして有名になっているところを見るにあれが本性で、でもそれを解放すると現実世界では生きていけないから……自衛の意味もあったのだと今なら思う……おそらく周囲に欠片も興味を持てない一条さんが徹底するくらいだから誰か大切な人からのお願いでもある……と思う。
「周りに欠片も興味ないのに必死になって観察する様が矛盾せず同居してて不思議だと思いました」
「……」
人はあそこまで興味の持てない事柄に必死になれるのだと……感心さえしたものだ。それにですね? 一条さんは──
「──誰よりも寂しそうだったから」
「──」
周りと関わらないようにしているくせにすごく寂しそうにしてて……それが放っておけなくて、可哀想で、胸が締め付けられて……寂しそうなあの横顔が忘れられなくて……ひとりぼっちで迷子の子どもを放っておけなくて……。
「何があったのかは知りませんし聞きません……でも、寂しそうな一条さんが楽しく『遊んで』いたのが最近は不機嫌だったから……」
「……そうですか」
だから織田と二人で一条さんを笑わせようと……楽しませようと本気で頑張ったんですよ? 一条さんの髪を指で滑らせながら、自分でも驚くほど本音が滑り出てくる。
「どうですか? 一時でも嫌なことは忘れられて、また楽しく『遊べ』そうですか?」
「……えぇ、お陰様で」
「それは良かったです」
一条さんの横顔を上から眺めて微笑む……こんな陰キャ女オタクでも憧れの人を笑顔にして、楽しませて……そして心を少しでも軽くできたと思うと嬉しくなって自信が持てる。
「……また、『遊び』ましょうね?」
「……それは勿論です、ユウさんと一緒に」
ちっ……! やはりここでも織田か?! やっぱり初めての友達ってポジションは強いのかな? ……そんなことを思いながらも、一条さんと二人で静かな時間を過ごしていく……。
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こんな感じにゲームを通じてストレス発散&ユウ君やマリアちゃんなどから少しずつリハビリというか……普通の人間関係を学んだり(誤解あり)、既に亡くなった母親以外に無かった心の拠り所を作って分散したりして父親の事を気にしない、あるいは眼中に無いようになっていきます……皆さんが思うような所謂『ざまぁ』は作者があんまり好きではないのでこのような形です!
レーナさんの父親も『ざまぁ』されるほど無能でもないですから難しかったというのもあります。
つまり本質は変わらずに私生活での擬態が巧妙になり、情緒不安定から純粋にジェノサイドしていくようにこれからさらに研ぎ澄まされていきますよ……(震え声)
そしていくら仲良くなろうが殺す事に躊躇はないというね……。
作者: マリアちゃん母性強すぎる……この子絶対に付き合ったら男をダメにするタイプだ……!(偏見)「お、遅かったわね……昨日の夕飯取ってあるから食べてね? あとこれ、今日のパチンコ代よ……」とかなるんだ!
マリアちゃん: ちょっと?! 人の残念なところ勝手に想像しないでくれません?!
実際に世話焼いたり、人を楽しませるのが大好きです……たまにユウくんの部屋を掃除してたりします。
レーナさんと仲良くなりたいと思ったのも、ひとりぼっちの