第39話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その5:ダンジョン第五層!
「いよいよボス戦だね、おにーちゃん」
「そうだね、アヤ」
第三層、四層。
何の問題も無く、俺たちは突破してきた。
今は正午前。
ここでボス戦が終われば、安全地帯になるボス部屋でお昼ご飯という流れだ。
……同行してくれているお兄さん達のおかげで、ものすごく楽にダンジョン制圧が出来ているよな。単独踏破なら帰りの心配もしなくちゃだし。
ダンジョン単独パーティ踏破。
世界的に有名な配信冒険者でも、これが出来たのはごく一部であり、いいところフェイズ1前後の物が多い。
五階層ごとに存在するフロアーボスを倒せているのだが、もちろんダンジョン・コアの破壊に成功した者は誰もいない。
……それだけ、CEOが俺達に注目しているんだろうな。コアを破壊できれば、これ以上ダンジョンが増えていくのを阻止出来るわけだし。
「じゃあ、ボス退治の作戦を組みましょうか。皆さん」
俺たちは、第五層フロアーボス部屋の前まで来た。
周囲に雑魚の気配はなく、ゆっくり作戦会議も出来そうだ。
「僕が提案していいかな? まずジャックさんが扉を開けて、バールぶち込んで固定。僕とマイさんが破片手榴弾を部屋の中に投げ込む」
マサアキさんがCQC、ドアブリーチングの段取りを話す。
犯人が潜む室内に突撃する場合は、ドアを吹き飛ばしたりドア横の壁を破壊して入ると授業で教えてもらった事がある。
しかし、ダンジョンの場合は壁は魔力で構成されていて強固であるし、ドアがモンスター再配置のスイッチになっている可能性もあるので、迂闊に破壊は出来無い。
精々、とじ込みやリポップ防止としてドアが閉まらない様に、ドアストッパーを床に打ち込むくらいだ。
……流石にフェイズ1クラスのボス部屋ドアにはトラップは無いからな。これがフェイズ5クラスになると普通の部屋のドアや通路にすらトラップがあったりするから、怖いや。
「爆発を確認後、僕とマイさんが突撃してドアの左右安全確認。ナナコお姉さんは、ドア正面から制圧射撃を」
マサアキさんの戦い方、完全に敵に何もさせず完封させる方法。
既に敵の正体が魔法使いもいるリザードマン達と判明しているから、効果的な戦い方も分かっている。
「リザード・シャーマンの撃破を確認後、全員順次突入して射撃戦で殲滅。残りは臨機応変って感じで良いかな?」
「完璧だと思いますよ、マサアキさん。まさか、リザードマン達は身もふたもない方法で殲滅されるって思っていないでしょうし」
とある物語で見たことがあるが、命がけの戦いに卑怯は無い。
どんな方法をとっても勝てば良い。
「戦い」では無く一方的な「殺戮」をして、無傷で勝つ事こそ良いと。
戦争という国家間の決め事がある戦いと、個人の戦闘では違う。
……孫子的にいうなら、戦わずに勝つのがベストらしいけど。今回は、戦わなければ先に進めない以上やるしかないんだよな。俺とアヤの運命が掛かっているんだし。
「では、行きましょうか」
「うん!」
俺はヘルメット越しにアヤの頭を撫でて、皆の顔を見た。
「僕に任せて!」
「わたし、アヤちゃんとハルトきゅんの為に頑張るの!」
「ふん。こんな雑魚。オレなら一蹴だ!」
「賢い雇い主の元で戦えるのは、楽で良いな」
「アタシ、活躍するぜ!」
「もー、マイちゃんったら。わたしもお供致しますわ」
全員が俺の顔を自信たっぷりの顔で見返してくれた。
「じゃあ、作戦開始!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「……?」
「……!」
ボスフロアーの巨大な扉の前。
マサアキさんは、ハンドサインで俺らに指示を出す。
……いくのか。良し!
俺はサムアップで行動承認した。
「ふん!」
ジャックさんが剛力で巨大な扉を開ける。
そして間髪入れず扉の左右に待機していたマサアキさんとマイさんが破片手榴弾を部屋の奥に、安全ピンを抜いて投げ込んだ。
数秒後、ズドンという音が二つほぼ同時になり、爆風と破片が開かれたドアから吹き出した。
「ゴーゴー!」
マサアキさんの掛け声でマサアキさん、マイさんが、ジャックさんによりドアストッパー代わりのバールを床に撃ち込まれた扉から中に飛び込む。
パパパという射撃音の後、盾を構えたナナコさんがあけ放たれた扉の前に陣取り、軽機関銃を撃ち放つ。
「シャーマン、クリア!」
マイさんの安全宣言を聞いて、タダシさんや俺は部屋に突っ込む。
部屋の中は手榴弾の破片でボロボロになっていて、紫色の鮮血に濡れたリザードマン達が転がる。
「このまま殲滅するぞ!」
俺は生き残りのリザードマン相手に銃口を向けて、引き金を引いた。
・
・・
「左、クリアー」
「右、クリアー」
「正面……、シャーマンが生きてる。トドメ!」
「オールクリアー」
各員の確認にてボス部屋においての戦闘終了が確定した。
……シャーマンが案外としぶとかったな。死んでたって思ったんだけど。
「ふぅ。皆、ありがとう。おかげで最初のボス戦は一方的勝利に終わったよ」
「良かったね、おにーちゃん」
俺はアヤの頭をヘルメット越しに撫でた後、皆に頭を下げた。
「礼にはおよばないぞ、ハルト。おお! これは魔法付与されたカトラスじゃないかー! 俺にくれんか?」
「タダシさん、今回のドロップ品は平等分配です。この攻略中にお貸しは出来ますが、その後は相談しあって決めますから。で、良いよね、ハルトくん?」
「はい、どうぞ」
タダシさんは、リザードマンロードが持っていたカトラスが気に入ったみたいだ。
また、シャーマンからは何かの魔法が付与去れているネックレスがドロップされていた。
「これ、趣味悪いよねー。アヤちゃん」
「うん。アヤもあんまり欲しくないなぁ。アンナおねーちゃんはどう?」
「わたしも、嫌かなぁ。あ、マイちゃん。勝手に持って行かないで」
「じゃー、アタシ。借りちゃうよ! ハルト、良いよね?」
女の子たちはネックレスを気味悪がっていたが、マイさんがひょいと自分の首にかけていた。
「マイさん。呪われたりはしていないですよね? だったら、ダンジョン攻略中は貸します。後は、今後の働き次第で……ね」
……牙を何個も繋いであるネックレスだから、アヤには似合わないか。一個だけ牙が透明なのが気になるけど?
「その言葉、忘れんなよ、ハルト。アタシ、次のボスを倒しちゃうぜ」
「おい、ハルト。オレも活躍したらカトラスくれよ?」
「はいはい。では、二人とも死なない程度に頑張ってくださいね」
「やったー!」
「オレも負けねーぞ」
俺は、二人で顔を合わせて喜び合うタダシさんとマイさんを見て苦笑した。
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