第29話 ダンジョンの生まれた意味、そして。
「良い顔ね、ボーヤ。今回の事は、人類全体の平和と繋がっているの。だから、安心してね」
フチナダ・グループCEO、グレーテ・渕灘はいままで浮かべていた妖艶な笑みを止め、親し気な感じに俺たちに微笑んだ。
「と、とりあえず、お話を聞いてからです。CEO」
俺はCEOの放つ魔力や色気に一瞬圧倒されるも、CEOを見返した。
……アヤやナナコさんが両方から腕をつねるんだからな、浮気するなって。
「じゃあ、最初から話しましょう。さっきお話したけど、ダンジョンが『何』から生まれているのは知っているわね。では、『何』が原因で生まれているかは知っているかしら?」
「いえ、想像もしたことは無いです。これは、自然現象じゃ無かったのですか?」
「それなら、まだ良かったわ。これは並行世界、『異世界』からの侵略なのよ」
◆ ◇ ◆ ◇
CEOは語る、ダンジョンの生まれた意味を。
ダンジョンは異世界からの侵略兵器だと。
「ダンジョンが世界を文字通り作り替えるのよ。マナを活性化させて自分達に都合良くね。ワタクシたち、メガコーポ。百人委員会は事前に異世界からの侵略を察知して、対抗策を準備していたの。国家なんて動きが遅いから、世界を守る為にワタクシたちが世界を乗っ取ったのよ」
『世界の覚醒』、ダンジョンが生まれた日以降。
世界には今まで微量だった魔力が活性化し、ダンジョン以外にも神獣や魔獣など、神話や童話にしか出てこなかったモノが世界に姿を現した。
……つまり、異世界の者は神獣とかに近い存在なのか?
「ワタクシはまだ会っていないですが、エルフやドワーフ、ノームなどのホモ・サピエンス以外な人類も生まれているそうね」
「そうなんだ。アヤ、会ってみたいなぁ」
アヤはすっかり警戒心を失くし、CEOの話を聞いている。
油断は一切できないが、CEOに嘘をついている気配もないから話は聞こうと思う。
……それに、俺が知らない情報が多いからな。情報を少しでも入手しないと、作戦や今後の方針も組めないし。たとえ欺瞞情報だとしても……。
「で、異世界からの侵略兵器であるダンジョンは、必ず破壊しなくてはならないわ。この世界を守る為に。ただ、簡単には壊せないのよ、ダンジョン・コアは。あれは異次元と繋がっている構造体でね。封印しているモノで実験しているんだけど、普通に攻撃したのでは無理。それこそ核兵器クラスの時空を揺るがすエネルギーが無ければ……」
「それで、巫女を使用した儀式魔法でコアを破壊するつもりだったのですか?」
「え! アヤ、それ初めて聞くの!?」
アヤたち巫女には、自分達が「生贄」。
儀式魔法似使われるとは知らされてはいなかった様だ。
……そりゃ、そうだよな。誰も自分達が『生贄』の為に育成、いや『飼育』されているとは思わないし、嫌だからな。
「ごめんなさい、アヤちゃん、ハルトくん。貴方たちの境遇については、全部ワタクシの責任よ。ダンジョンが生まれた頃、ワタクシ達、いやメガコーポは、なりふり構っていられなかったの。ワタクシの目が届かないところで貴方たちの悲劇が起こってしまったわ」
CEOは、俺とアヤに頭を下げる。
彼女が語るのに、ダンジョンがこの世界に生まれた頃。
フチナダや他のメガコーポ達の中、急進・過激派が力を持ち過激な事をしてでもダンジョンを破壊しようとした。
彼らは物理的だけでなく、魔法を使ってダンジョンを攻略しようとしたという事だ。
……その究極が、儀式魔法での重力魔法によるダンジョン破壊か。
「つまり、CEOが知らないところでフチナダはアヤ達を誘拐したのと? それで今更に許せとは無責任では無いですか?」
「ええ、だから最大限譲歩したのが今回の話ね。もう、アヤちゃん達を犠牲にすることは無いわ」
CEOは挑戦的な笑みを浮かべる。
俺たちを『生贄』では無い別の形で利用すると。
「……分かりました。で、早く本題に入りましょうか、CEO。俺とアヤに何かをさせたいのでしょう? それがダンジョン撃破に繋がると」
「流石ね、そのとおりなの。ハルトくん」
「CEO。わ、わたし、あんまり良く分からないけど、アヤちゃんやハルトくんを泣かす様な事なら、貴方でも許さないの!」
俺が話を進めようとすると、ナナコさんはCEOを震えながらも睨みつける。
彼女なりに、俺やアヤが悲しむのが許せないのだろう。
「ナナコさん、CEOはそこまでイジワルな人じゃないですよ。あ、ヒトじゃないでしたっけ? CEOもワザと自分を悪ぶるのは辞めましょうね」
「児山、お前は我が配下ながら辛辣な物言いをするのね。いつから、ハルトくん側の人間になったのかしら? 幼い頃、地獄から救ったワタクシを裏切ると?」
「そんなの。最初からですよ、CEO。僕はハルトくんやアヤちゃん、ナナコさんの友達ですから。ですが、CEOも裏切りはしません。恩義はありますし、ハルトくん達が幸せになる事がCEOの利益につながるでしょう」
マサアキさん、俺とCEOの関係が悪くならないように取り持つつもりらしい。
……なるほど。CEO直属の配下だったんだ、マサアキさん。電話一本で俺を警察署から救い出したのも納得だ。
「分かったわ、じゃあ話を進めましょう。ハルトくん、アヤちゃんにはダンジョンを一個破壊して欲しいの。その為の物資や支援は最大限するわ。パーティの人員が足らないのなら、追加しても良いわよ?」
そして、俺たちに新たなミッションが与えられた。
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