第28話 対面! フチナダCEO
「今回は、わたしの無理を聞いて態々来てくれてありがとう。さあ、皆。座ってゆっくりしてちょうだい。ヤマダ、茶を」
「はい、グレーテさま」
俺、アヤ、ナナコさん、マサアキさんは、高級ホテルの最上階。
ロイヤルスイーツに案内された。
そこには妙齢の超美女、このホテルを含むフチナダ・グループCEO、グレーテ・渕灘が優雅に座り、俺たちを待っていた。
「どうしたのかな? ワタクシは別に君たちに罰とかを与える為に呼んだのじゃないわよ?」
「だ、だって……」
俺は、さっきから冷や汗が止まらない。
CEOという雲の上の人という事もある。
それ以上に、俺はこのヒト、いや「怪物」が怖い。
……このヒト、人類じゃない! オーラが、オーラが人のものじゃない!!
CEOの周囲を纏うオーラ、その量や強さはもちろん性質が全く人とは違う。
それは、恐怖すら覚えるほど。
以前戦ったトロルよりも、ミノタウロスよりも怖い。
まるで猛獣を前にしたように、震えが止まらない。
俺はもちろん、魔力が見えるアヤも驚きの顔をしている。
そんな俺たちをきょろきょろ顔でナナコさんが見ているのだが、それでも俺は脚を前に踏み出すことが怖い。
「CEO。ハルトくんやアヤちゃんは魔力が見えます。貴方の『正体』が見えたのでは無いですか? 僕も貴方の事を知った時は正直怖かったですし」
「え、マサアキさん。どーいうこと? CEOさんの正体って? わたしにも教えてよ?」
「マサアキさん。貴方はCEOがどんな方か、ご存じなんですか?」
マサアキさん、CEOの正体を知ってて俺たちを案内したらしい。
そう、CEOが「人外」である事を知っていて。
「あら、そうなの? 初見でワタクシの正体を見抜くとは流石ね。大丈夫、ワタクシは人類のミカタ。貴方達には、謝罪と依頼があって今日呼んだの」
にっこりと妖艶な笑みを浮かべる美女。
俺の危機感知は、人生最大級のものを示してはいる。
しかし、アヤまで一緒に呼ぶという事はアヤの身柄に関わる事に違いない。
なら、俺は絶対に逃げるわけにはいかない。
「……分かりました。では、お話をお聞きしましょう、CEO」
俺は、震える脚を前に進めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、話を始めましょう。ヤマダ、資料を提示して」
「はい、CEO」
俺は、ナナコさんとアヤに挟まれて高級なソファーに座る。
マサアキさんは俺の背後に立ち、ニコニコ顔でCEOの話を聞いている。
「ハルトくん……で、良いかしら? 貴方はダンジョンの成り立ちはご存じ? そしてダンジョンをどうすれば破壊出来るかも?」
「はい、マサアキさんや学校の先生に教えて頂いてます」
「アヤも知ってます!」
「わたしもモチロンです」
現金な物なのか、アヤは美味しいお菓子を貰ってニコニコだ。
先程までCEOを怖がっていたのが、なんとも頼もしいというのか図太いというのか。
……アヤ、自分の運命を決める話だってのに気が付いているんだろうか?
「なら、説明は省くわね。ダンジョンはコアを中心に生成されます。そしてコアを破壊されれば、ダンジョンは『死ぬ』の」
ダンジョンを完全攻略し破壊出来た事例は、いまだ数少ない。
というか、最下層まで行くことすら難しく、ダンジョンNo.ゼロ、シュンガル・ダンジョンに突入した中国・ロシア混成部隊は百層を超えたあたりで音信途絶となった。
……ダンジョンの基本構造やマップは何処も同じで、シュンガルで得られたマップデーターが活用されているんだったな。
「今、日本国内にあるダンジョンは、殆どがフェイズ5。五十層を超えているわ。現在は定期的にモンスターを狩り上層部を制圧することで、これ以上の進化を止めているのが現状ね」
「そこで、巫女の存在が重要になると……」
「今まではそうだったわ。ロシアや中国みたいに決死隊に核兵器を持たせる訳にもいかなかったですし」
俺の一言にCEOは反応し、半分肯定する。
俺の聞いていた、巫女による儀式を用いてのダンジョンコア破壊が事実であったと。
……今までは??
「ハルおにーちゃん、どういう事? 巫女ってアヤや他の子にも関係あるの?」
「この話は、まだ巫女学校関係者には話していなかったわ。ごめんなさいね、アヤちゃん。あまりに過酷なお話だもの。でも、今回の件、ハルトくんとアヤちゃんの活躍でその必要が無くなったかもしれないわ」
「……詳しい話をお願いします、CEO」
「えっと、マサアキくん。わたし、完全に部外者?」
「そういう意味では僕も部外者だね。でも、冒険者パーティの仲間の事だから、一緒に話を聞こうね、ナナコさん」
ナナコさんにとって、俺とアヤの事は友人の事以上の意味はない。
危険な話になるのなら、彼女を正直巻き込みたくない気持ちも俺にはある。
……俺はアヤと幸せになりたいけれど、それは他人を踏みにじったり犠牲にした上でのモノを望まないからな。
「ハルおにーちゃん。アヤの為に無理はダメだよ。もちろん、ナナコおねーちゃんもマサおにーちゃんも同じだよ?」
アヤも、他人を犠牲にする幸せは望まない。
俺はアヤの頭を軽く撫で、CEOに顔を向ける。
「ただし、誰かを犠牲にする前提の話なら、最初からお断りします、CEO。俺はアヤと幸せにはなりたいですが、それは回りが幸せなのが前提なのですから」
「良い顔ね、ボーヤ。今回の事は、人類全体の平和と繋がっているの。だから、安心してね」
CEOの妖艶な笑みが、少し優しくなった。
そんな印象を俺は覚えた。
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