第26話 突然! フチナダCEOからの呼出し。
「ハルおにーちゃん。今日はどうしたの? 妙に静かだよね」
「アヤちゃん、今日は静かにしておこうね。ハルトくんは最近習った魔法のコツを使いこなそうと頑張っているんだ。これもアヤちゃんと一緒に居るためだからね」
「分かった、マサおにーちゃん。ハルおにーちゃん、頑張ってね」
今日は再びウメダ・ダンジョン研修。
今回は教官無しに、第四層までのダンジョン内の全部屋を回るもの。
各員の場所や配信映像がモニタリングされているので、インチキは基本不可能。
ダンジョン内モンスターの駆除も兼ねてのミッションだ。
……まだ魔力の練り方が甘いし、無駄に周囲に魔力が漏れてる。無駄を少しでも減らすんだ。
俺は、オカダ教官の案内で太極拳使いの老子を紹介してもらった。
彼は一見、か細い老人に見えたが凄まじい功夫使い。
接近戦の打撃だけでなく、気功波も使いこなしていた。
浸透勁でサンドバックを爆裂させたのには、俺もびっくりだ。
「坊主、お前は『気』の使い方が甘い。確かに才能や『気』の総量は、年齢を考えれば見事なものだ。だがな、無駄に『気』を使っていてコントロールもおおざっぱだ。そのあたりは師匠に教えてもらわなかったのか? 全く、 祥雲も教えが中途半端だぞ。ワシより若いもんが先に逝きおって……」
世間は案外狭いようで、老子も師匠と組んで「世界の覚醒」前から魔物退治をしていたらしく、師匠が亡くなった事を俺から聞いて文句を言っていた。
・
・・
「前方、敵集団。オーク3、ゴブリン6。接敵まで二十五秒」
考え事をしつつ魔力コントロールを行っていた時、斥候のマサアキさんから敵の接近が提示される。
「すいません。俺、呪文を使いたいのですが良いですか?」
「わたしはいーよ。ハルトきゅん、随分と我慢してたからね」
「アヤもOKだよぉ」
「僕も大丈夫。で、何を使うの?」
「攻撃呪文じゃないです。行きます! オン・ハンドマダラ・アボキャ・ジャヤデイ・ソロソロ・ソワカ!捕縛呪!」
俺たちに向かって武器を振り上げて走り込んでくるオークら。
しかし、俺の呪によって生み出された五色の羂索により彼らは芋虫状態になって、ダンジョンの石造りな床に転がる。
「後は存分にどうぞ」
「じゃあ、一斉射するね」
転がるモンスターの群れにナナコさんからの軽機関銃が咆哮する。
そしてあっという間にマナの塵と化した。
「これ、無駄弾が少なくなるから助かるわ」
「それと攻撃呪文じゃない分、どいつを倒すかを考えなくても良いのは良いね」
「ハルおにーちゃんの法術はスゴイの!」
皆の喜ぶ顔が、俺も嬉しい。
派手な攻撃呪文、例えば爆炎系のものだと狭い部屋なら術者や仲間を熱や炎が襲う。
雷撃系にしてもせっかくダンジョン内の暗さに目を鳴らしたのが無駄になるし、確実に敵を倒すのなら使用魔力もそれなりとなる。
しかし、戦闘補助呪文であれば誰の攻撃の邪魔もしないし、使用魔力量も少なくて済む。
「坊主。祥雲にどう習っていたかは知らんが、魔法にしろ気にしろ扱いは同じ。リソースをどう使うかが大事だ。お前は、まずリソースを無駄に使う癖を治せ。そしてリソースを増やす修行もしろ!」
老子は、俺に「気」、つまりマナの運用方法を色々伝授してくれた。
体外に溢れる魔力を少しでも減らし、敵への欺瞞、ステルス、そして無駄に使用されるマナを減らす。
また、下腹部にあるとされる「丹田」、マニプーラ・チャクラに魔力を循環させて「内丹」、体内魔力を増幅圧縮させる。
東洋魔術の奥義に近いものであるが、内気で身体能力を強化する武術系にも繋がる考えらしい。
俺は、無意識化で全てを行えるよう修行を続ける。
「ハルおにーちゃん、頑張ってね」
「ああ、アヤ」
俺は今日もアヤの笑顔を糧に修行に励んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ハルトくん、ナナコさん。明後日は時間大丈夫? 良かったらアヤちゃんも来て欲しい話が有るんだ」
ダンジョンでの研修が終わった後、マサアキさんは教官から呼出しを受けていた。
そして俺がアヤやナナコさんと談笑しているところに帰ってきて、突然明後日の予定を聞いてきた。
「明後日は土曜日ですよね。授業も無いですから俺は大丈夫です」
「わたしもOKだよ。暇だからウインドウショッピングをしようかなと思ってたけどね」
「アヤは学校に聞かなきゃ分からないの」
休日なので、俺は老子にもう一度逢おうかなとも思っていたが、何か大事な話が有りアヤも同行するのなら、マサアキさんの話が優先だ。
ナナコさんは二つ返事だし、アヤも巫女学校の意向次第らしい。
……マサアキさんの『正体』を考えれば、アヤの同行は決定事項みたいだな。
これまでも幾度も誤魔化せられているけれども、マサアキさんはフチナダ上層部からアヤの警護、そして俺の監視・警護役として派遣されてきているのは確実。
これまでの言動や行いから見ても、そこは間違いない。
ただ、マサアキさん自身は俺との友人関係を無くしたくないらしく、警護役以上の事をこれまでもしてくれているし、自分の立場をナイショのままにしたい様だ。
命を懸けてまで俺やアヤの為に働いてくれている彼を疑う事など、俺には出来ない。
……フチナダにとってアヤの存在が重要なのは確かだな。そしてアヤが安心してフチナダの意向に従う為に俺を守りつつ、俺がアヤを取り戻すためにフチナダに反逆しないかの監視も兼ねているのかもな。
「多分、アヤちゃんも大丈夫だとは思うよ。皆、ちゃんと正装をしてね。明後日、僕たちはフチナダグループのCEOと会うんだから」
「「「えー!!」」」
俺とアヤ、ナナコさんの驚きの声が見事に重なった。
(あとがき)
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