第24話 ダンジョン内殺人未遂犯人との対決!
「なら、ここでお前を殺して俺は逃げる! 馬鹿が、お前が俺にもう一度勝つ事なんて無い! 死ねぇ!」
俺の追及、ダンジョン内でボスモンスターを利用して俺の殺害を狙った事実を受け、逆上し襲い掛かるサイボーグ戦士。
鈍く銀色に輝くサイバーアームやサイバーリムから高周波ブレードを飛び出させ、俺を殺そうとする「彼」、マスダ。
しかし、俺が何も準備なしに犯人の前に対峙するはずも無い。
俺は懐から五色の糸で編み込まれた紐、羂索を取り出した。
「オン・ハンドマダラ・アボキャ・ジャヤデイ・ソロソロ・ソワカ! 不空羂索観音菩薩 捕縛呪!」
既に韋駄天による加速状態の俺は、噛まない様に呪文を更に唱えた。
「な、難だ!これはぁぁ!」
俺の呪に反応して羂索がマスダに向かって幾本にも分裂して伸びていく。
そしてマスダの身体に絡みついた。
「この程度の縄、ブレードで! き、切っても切っても、減らないぞぉ!」
「俺からの呼出し時点で逃げなかった貴方の負けです、マスダさん。俺が何も準備も無しで貴方と向かい合うはずも無いでしょ? その縄は俺の呪文、不空観世音菩薩、アモーガパーシャさまのお力。いかなるモノも捕まえる投げ縄です。力任せや刃物ではどうにもなりませんよ」
無限に増加する羂索によって巻き取られ、地面に転がるマスダ。
もはや顔も半分以上縄に覆われ、呼吸すら満足にできなくなる。
「あら、息も絶え絶えですね。このまま窒息させるのは可哀そうですから、締め上げはこの程度にしましょうか」
俺は呪を調整し、絞め殺さない程度にした。
「ち、ちくしょぉぉ! この卑怯者めぇ。前も魔法を使って、俺の出世を邪魔しやがってぇぇ!」
「あれ? 貴方はサイバネを使っていますよね。なら、魔法使いの俺が魔法使うのが卑怯ですか?」
もはや芋虫状態のマスダ。
尚も、もがきながら俺に悪意をぶつけてくるが気にもならない。
自分勝手な逆恨みをされて、逆にこちらが迷惑なだけだ。
「俺はなぁ! フチジマ様、タダシ様の護衛を、フチ・バイオの社長から直々に頼まれたのだぞぉ! 俺はこれまでもタダシ様の前に立ちはだかる者は実力行使で潰してきたんだぁ!」
「だから、試験後に貴方がコントラクター達に依頼をして俺やマサアキさんを襲わせたんですよね?」
マサアキさんルートで既に情報を入手していたが、俺を襲ったコントラクターたちはマスダから連絡を受けたフチ・バイオの重役から派遣されていた。
マスダの上にいる重役、彼らが少しでもバイオの社長に取り入るべく、御曹司のご機嫌取りに今までも動いていたようだ。
……試験の時に泣いていた女の子も、バイオ重役からの指金だったみたいだね。馬鹿殿を作り上げて、軽い神輿として自分達が美味しい汁を吸う気だったんだろう。
「そんな事をしても御曹司の為にはならないですよ。御曹司の態度にかねがね問題を感じていましたお父上は、少しでも改善されたらと士官学校に送られました。なのに配下の貴方達が尚も甘やかし、悪意を持って唆すのなら、御曹司にはこの先に破滅しか待っていません!」
「ぐぅぅ! なんで、部外者のお前にそんな事を言われなくてはならん! 俺はな、このサイバーアームを手に入れる為にどれだけ苦汁を飲んできたか分かるのかぁ!」
「その為に多くの者達を泣かしてきたのでしょう。なら、その酬いは貴方が受けなくてはなりません」
涙を浮かべながらも、俺に殺気まじりの言葉をぶつけてくるマスダ。
だが、俺は事件で学校を去っていった子達の涙が忘れられない。
そして、もう少しで死んでいた子達の苦しみも忘れられない。
「貴方が俺だけを狙っていたのなら、俺はここまで怒りませんでしたし、少しはまともに戦ってあげたでしょう。しかし、貴方は無関係の学友を危険にさらしました。俺はそれが許せない! そして御曹司を神輿として食い物にしたのも許せない!」
フチナダの権力に泣かされてきた子達。
アヤや俺、そして内部において企業貴族である御曹司すらも権力の道具。
こんな社会、俺は許せない。
「まだ俺を侮辱するのかぁ! 俺はな、マトモに戦えばお前くらい殺すのは簡単……」
「でも、現実は二回とも俺の勝ちです。どうしますか? 俺が慈悲で殺してあげましょうか? それとも俺やフチナダとは一切関係ないところまで逃げて、怯えながら生きていきますか? または、フチナダに捕縛されて……。あ、残念ながら時間切れですね。後はお任せします、オカダ教官」
俺は背後からオカダ教官が来るのを察知し、マスダに背を向けた。
「……ご苦労だった、御子神生徒。後は俺の方で対応しておく」
苦々しい顔のオカダ教官。
彼は数人の兵士を従え、ぐるぐる巻きになっているマスダを抱え込んで、その場を去っていった。
「さて、御曹司。御見苦しいところをお見せしました」
「……いや。今回はオレが悪い。オレの管理不行きだ。マスダがお前を恨んでいたのは知っていたが、暗殺者や今回の事件を起こすまでだったとは……」
教官の背後に居た御曹司。
今日は、いつもの強気な姿を見せない。
己の知らぬところで事件が起こっていた事を知ってしまったからだ。
「なあ、御子神。お前がマスダに話していたのは事実か?」
「ある程度は確かな筋からの情報です。御曹司も大変ですね」
自分が神輿として祭り上げられていた事に、ようやく気が付いたらしい御曹司。
「……オレはどうしたら良い?」
「そうですね。信頼できる人に相談するのは良いかもしれません。さしあたってご両親にお話をなさる事をお勧めします。では、失礼します」
俺は御曹司に頭を下げて、静かになった宿舎裏庭から去った。
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