前へ次へ
16/50

第16話 今日も続く修行。ダンジョンへと潜る為に俺は力を望む。

「ちゃんと狙って撃て! 敵は、一瞬たりとも待ってくれないぞ! お前たちは、我がフチナダの優秀な兵士達を指揮する者。何があっても死んではならん。フチナダの社員、兵士、そしてお客様を守るのが我らが職務。死んでいる暇など無いのだ!」


「サー、イエッサー!」


 今日は射撃訓練。

 昨日までは、支給されているアサルトライフルの構造の勉強、そして手入れ方法を習った。

 バラバラに分解された銃の組み立て時間競争もあったし、暗闇で組み立てる訓練も時々行われる。


「銃は自分と仲間、そしてお客様を守るための相棒。いついかなる時も使えるように訓練するのだ!」


「サー、イエッサー!」


 俺は支給された銃を撃つ。

 ダンジョン内での近接戦闘を考慮した|プルバップ型アサルトライフル《タボールAR21》なのだが、今一つ的に当たらない。

 構えている耳元でガチャガチャと機関部の作動音や着火音が大きく響くのを、イヤホン型耳栓で塞ぐもそれでも尚、うるさい。


「ふんふん!」

「今日も快調なの!」


 俺の横ではマサアキさんやナナコさんが気持ちよく三十メートル程離れたターゲットの真ん中に銃弾を当てている。

 ターゲットの外周辺りを掠ってばかりの俺とは大違いだ。


「銃口は敵対する者以外には絶対向けるな! また、弾が出ない場合も時間差で出る事があるため、間違っても銃口を人の方に向けたり、覗き込んだりするなよ? もちろん給弾時にも銃口の先に注意だ」


 射撃担当のオカダ教官は、全員を見回しながらテキパキと説明や指導をしていく。


「御子神生徒。君は魔法使いだから、護身用の拳銃以外を撃つ事は少ないだろう。しかし、銃を撃つ事を知らないのではもしもの時、自分や仲間、お客様の身を守れない。硬くならず、また勢いよく引き金を引くな。霜が降る様に、静かに引き金を引け!」


「イエッサー!」


 俺は一旦深呼吸をしてから、もう一度カービンモデルの銃(コンパクト・タボール)を構える。

 銃身の上にあるダットサイトの中心をターゲットの真ん中に合わせる。

 そしてゆっくり引き金を引いてみた。

 徐々に重くなっていく引き金、あるところまで引いたところでドスンと衝撃と轟音が俺の身体に伝わる。

 俺の持つ銃口から飛び出した弾は、見事ターゲットのど真ん中に当たった。


「良し! 次は、徐々に撃つ速度を上げてみるんだ。このコツは拳銃でも同じだぞ」


「はい。ありがとうございます」


 俺は弾が当たったのが嬉しくなり、そのまま訓練を続ける。


「ふはは! やっぱり田舎生まれの魔法使いに銃は使えないな。俺なら、眼を閉じてても的に当たるぞ」


 御曹司、渕島タダシは俺を侮辱するような言葉を言いながら的を貫く。

 恐らくは、これも電脳に仕込んだ技能アプリの効能なのだろう。


 ……俺が銃を苦手にしているのは事実だからしょうがないさ。今は練習するだけだし。


「渕島生徒。アプリは、いかなる行動にも支援をしてくれますが、状況が変われば使えなくなります。では、この拳銃で的を撃ってみてください」


 オカダ教官は、御曹司相手にいつもより柔らかく話す。

 グループ会社社長子息相手なので、少しは気を使っている事だろう。


 教官は腰から拳銃を抜き、銃口側を持って御曹司に渡す。

 御曹司は拳銃を受け取ると、銃口を下に向けたままスライドを引き初弾を装填。

 安全装置を親指で解除し、ターゲットに銃口を向けた。


「ふん。教官がおっしゃるならやってみる。俺の銃は百発百中……? ん? 当たらない、どうしてだ!?」


 教官から借りた自動拳銃(Sig M18)を撃つ御曹司。

 しかし、一向に弾は的の端にすら当たらない。


「拳銃と自動小銃では撃ち方も構え方も違います。射撃アプリのモード切替をなさっていますか? 使う人間が愚かではアプリも無用の長物になりますのは、学習なさってください」


「ふ、ふん!」


 不貞腐れながらも。アプリのモードをきちんと切り替えたのか今度は拳銃で的を射抜く御曹司だった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 昼からの授業は、俺と数人の魔法使いだけが別カリキュラム。

 魔法研究所に赴いて、魔法基礎学の授業を受ける。

 この授業、俺が知らない他系統の魔法について学べるのがとても楽しい。


 ……それ以上に、アヤと同じ教室で授業を受けられるのが、もっと嬉しいや。


 授業は研究所併設の巫女学校からアヤ達、研修生も一緒に受けている。

 教室の入り口で先に席に座っていた俺の事を見つけて、手を振り笑顔で答えてくれるアヤ。

 俺にとって、魔法基礎学の時間は至福の時間だ。


「魔法とは、世界や体内にあるマナを用いて奇跡をおこなうもの。というのは、既に実践なさっています貴方がたには説明不要ですね。しかし、なぜその様な奇跡が起こるのか。基本を知っていれば応用がしやすくなります」


 初老の魔法担当教官から基礎の説明がなされる。

 確かに意味なく呪文を唱えただけで効果が出る場合もあるけれども、工夫とか強化や弱めたりなどのアレンジをするのは原理を知らないと難しい。


 ……俺も、そのあたりは師匠に厳しく修行させられたものな。


「自分の力だけで行う魔法、他者の力を借りる魔法。詠唱が必要なもの、無詠唱なもの。色々ありますが、どの様な原理なのかを知っておくのが必要です。まあ、最近のインスタントダンジョン魔法はあまりに簡単ですがね」


 ……インスタントダンジョン魔法、インスタントって呼ばれてるけど、脳内イメージとキーワードだけで発動するんだよな。


 ダンジョンが生まれ、世界にマナが満ち始めて以降、魔法が発動しやすくなった。

 その流れで脳内や電脳に魔法陣を焼き付けてキーワードを唱えるだけで使える魔法、インスタントが生まれた。

 効果は一定だけれども、その分即効性が高いのが良いのだという。


 その後も、可愛いアヤを眺めながらの授業が楽しかった。

 面白いと思われた方、なろうサイトでのブックマーク、画面下部の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)、感想、いいね、レビューなどで応援いただけると幸いです。

前へ次へ目次