第12話 驚きの士官学校入学式
「これから皆さんはフチナダ・グループの一翼を成すPMSCフチナダ・セキュリティーズで戦闘社員を指揮する士官となるべく、勉学、武術などに励んでいってもらいます。ぜひとも、世界、日本、そしてフチナダ・グループの為になる立派な人物となってください」
今日はフチナダ・セキュリティーズ付属士官学校の入学日。
前では、受験の時にも見た社長が俺を含む真新しい制服に身を包んだ新入生たちに演説をしている。
「今日から僕たちもフチナダの社員。ハルトくん、一緒にがんばろうね」
「はい、マサアキさん」
俺の隣にはマサアキさんが居る。
受験日の夜、俺とマサアキさんは何者かに雇われたコントラクター、IDを持たないフリーの請負人達に襲われた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ハルトくん。ここは僕に任せてよ。あ、すいません。こちらに連絡をさせて頂いて構いませんか?」
コントラクター達を全員無力化した直後、警察に取り囲まれた俺とマサアキさん。
傷害と銃刀法違反の現行犯として二人とも拘束された。
「お前か、今話題のガキの坊主は? 今度は何をやったんだ?」
「誰かに逆恨みされたのか、闇討ちにあったようです。で、正当防衛として殺さずに全員返り討ちしました」
警察署に連行され、強面のおじさん警官らに尋問された俺だが、正直に事件の事を話す。
どうも俺の顔とゴブリン達を倒した映像がネット上に拡散しているらしく、俺も警察署で見せてもらった。
「そりアレだけ目立つ行動をすれば逆恨みもされるのは分かるが、過剰防衛じゃないか? 第一、仕込み杖は正当な理由がない限り所持が禁止されてるぞ? 魔法による傷害も許されるものでは無い」
「……俺、いや自分はどうなるんでしょうか? 本日、フチナダ・グループの私設軍士官学校の受験をしたのですけれど?」
……こんなことで不合格にされるのは嫌だ。かといって、いじめられてた子を助けたのには後悔してないけど。
「それだがな……。ん、少し待て、坊主。はい、はい、え!? はい! 分かりました。坊主、いやハルトくん。君は無罪放免となった。荷物を持って気を付けて帰りなさい」
「はい?」
俺の尋問中、電脳経由で通信を受けたらしい強面オジサン警官。
急に態度を軟化し、俺を取調室から放り出した。
「ハルトくん。無事に警察から出られそうだよ。良かったね」
取調室が並ぶ警察署の廊下、そこにはニコニコ顔のマサアキさんが居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、貴方は一体何者なんですか、マサアキさん? 妙に強くて拳銃所持許可持ってて、警察から俺を電話一本で助け出したり。絶対、普通の人じゃないでしょ?」
「今はハルトくんと同じ、士官候補生だよ、僕。まー、細かい事はいいじゃん」
入学式が終わった後、中庭でしばし談笑する俺とマサアキさん。
一向に正体を見せないマサアキさんに対し、俺の疑問は膨らむばかり。
「そうだねぇ。一つだけ教えてあげるなら、僕はキミの味方で友達。これからも宜しくね」
「はぁ。しょうがないから、今はそれで納得してあげます。いずれ、正体を教えてくださいね」
……絶対、何処かのメガコーポや政府の関係者に違いないよ。じゃなきゃ、これだけの権力を使えない。もしかして、政府がメガコーポに忍ばせたスパイ? 対抗メガコーポの工作員?
しかし、スパイにしては簡単に俺に対しヒントを与えすぎている。
ただのお人好しにも見えないが、謎過ぎる。
「さて、次はオリエンテーション。一緒に行こうか」
「そうですね。ん、あれ? 向こうから走ってくる女の子は??」
二人、教室に向かおうとしている時、俺に目がけて制服のあまり長くないスカートをパタパタさせながら走ってくる女の子が見える。
……誰? 俺、心当たり無いぞ? どっかの御曹司が雇った暗殺者? にしては、どんくさいな。
何回も転びそうになりながら走ってくる大きな眼鏡を掛けた女の子。
俺の顔を見て、叫んだ。
「やっぱり! ハルトくんだぁ! わたし、ナナコですぅ。この間の配信で人気になって士官学校に入学できるようになったんですぅ!」
……え! ナナコさん!? どういうことなんだ??
俺が疑問に頭をひねっている間に俺に近づいたナナコさん。
俺に飛びつくように抱きついてきた。
「嬉しいよぉ! わたし、ハルトくんと一緒に勉強できるんだぁ!」
「ちょ! お、落ち着いてください、ナナコさん。貴方、もう大人でしょ? 俺に抱きつくなんて、は、ハレンチな事をしないでください!」
「へぇ。誰かと思ったらそういう事なんだ、ハルトくん。アヤちゃんが居るのに、困った事だねぇ」
大きな胸を押し付けられて俺がドキマギしているのに、ニヒヒと少し下品な笑顔で俺を見るマサアキさん。
そして俺の胸に顔を押し付けるようにしている真っ赤な顔のナナコさん。
俺は、どうしていいのか分からず、硬直してしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ごめんなさい、ハルトくん。わたし、嬉しくて暴走しちゃったの」
なんとかナナコさんを引き離してオリエンテーションを受けた俺。
昼食を食べる為にマサアキさん、ナナコさんと一緒に食堂に向かった。
「で、小日向さん。事情を話してくれないかな? ハルトくんから聞いた話では確か、貴方はウメダ・ダンジョンの警備をなさっていたんですよね」
同じテーブルに座って食事をとる俺たち。
可愛い女性と同席ということで周囲から妙な視線を感じるが、今は無視する。
「児山くん、あ、わたしの事は二人ともナナコって呼んでね。じゃあ、貴方もウメダ・ダンジョンでのモンスター氾濫は知っているのよね」
マサアキさんがナナコさんから聞きだしたところ、ウメダでの事件以降、ナナコさんの個人配信映像の視聴者が爆発的に増加。
警備兵、士長クラスとしては異例の状況になってしまったそうだ。
「それでね。たいちょーが、わたしを士官学校へ推薦してくれたの。ちょうど入学時期だったし。士長のわたしが少尉さんとかよりも視聴者数が多いと反感買いやすいからって」
……確かに理屈には合うな。あの隊長さん、ナナコさんを可愛がってた風にも見えたし。
「事情は分かりました。では、ナナコお姉さん。今後ともよろしくお願いしますね」
「うんうん! わたし、ハルトくんと一緒に頑張るよ。それで、さっき、児山くんが言ってた女の子、アヤって誰? もしかして、ハルトくんの彼女! そうだったら、わたし困るのぉ! ハルトくん、姉さん女房は金のわらじっていうけど、どう?」
「ふははは。ハルトくん。キミってもしかして女難の相出ていないかい? 僕が知る限りでも女の子がらみで困ってばっかりだけど?」
アヤの事を聞き出そうとしつつ、必死に自分のアピールをするナナコお姉さん。
そして、迫られて困る俺を見て笑うマサアキさん。
……アヤの事は説明が難しいや。俺、アヤとは一緒になりたい気持ちは今もあるし。
「ちょ、ナナコお姉さん。落ち着いてください! アヤは、アヤは義理の妹で」
「義理の妹さん? それって結婚できるじゃない! やっぱり、彼女がいたんだー! わたし、振られちゃったー!」
「ナナコさん。慌てて答え出さなくても、ハルトくんは逃げませんから。あ、泣かないでください!」
大泣きをするナナコお姉さんに困り果ててしまう俺とマサアキさんであった。
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