第九十七話 快進撃Ⅰ
今日は三話更新なので、注意してください
あと川の名前は適当なので、覚える必要性は皆無です
季節は六月。
ロサイス王の国とドモルガル王の国の停戦協定が切れる頃。
ドモルガル王の国で一つの大きな変化が起こった。
ドモルガル王が崩御したのである。心臓の病が原因だった。四十五という若さである。
ドモルガル王は次の王を指名せずに、死んでしまった。
そして最初に行動を起こしたのはアルド・ドモルガルだ。
アルド王子は当時首都にいた敵対派閥の豪族と自分の兄であるパックス・ドモルガルを暗殺して、首都を占拠したのだ。
時を同じくしてアルド派の豪族たちがパックス派やカルロ派の豪族たちに軍事行動を開始した。
そこまでは良い。
だがアルド・ドモルガルは一つだけミスをした。
カルロ王子を逃してしまったのである。
カルロ派はカルロ王子を保護して、カルロ王子こそが正統な王であるとしてカルロの頭に冠を乗せた。
それに対抗してアルド王子も自ら王を名乗った。
パックス派の半分は首都を押さえているアルド派に合流。
もう半分は主人の仇を討つためにカルロ派と合流。
斯くしてドモルガル王の国には二人の王が誕生することになり、真っ二つに分かれてしまったのである。
優勢なのは首都と王家の直轄地を押さえているアルド派。
カルロ派はアルド派に対抗するために、予てから接触のあったロサイス王の国に援軍を求めた……
「これより豪族会議を始める」
俺は国中の豪族をかき集めてそう宣言した。
未だ到着していない者もいるが、緊急時なので許して貰いたい。
「さて今回の議題についてはすでに知っていると思う。ドモルガル王の国で内乱が発生した。そしてカルロ王子が我々に救援を求めて来た。これを受けるべきか、静観すべきか。意見を聞きたい」
まず第一に手を上げたのはライモンドである。
「王よ。今回は静観すべきであると思います。もし我が国が軍事行動を取れば、周辺国を刺激することになる。ただでさえ我が国は周辺の国々に敵視されています。今現在、治水や都の造営などの事業を複数やっている状況です。今の我が国の国力を考えれば動員出来る人間は一万五千が限界。その内三千が工事に取られているので、実質一万二千。その内一千は宮殿の防備のための常備軍。故に外征に出せるのは一万一千。エビル、ベルベディルの両国への警戒を考えると出せるのは八千ほどでしょう。かの大国ドモルガルを相手取るには少々心許ない」
具体的な数字が出てきた。
なかなか分かりやすい。確かに、今までの俺の方針だとそれで正しい。包囲網を造られたらお終いだからだ。
だが……
「王よ。私はこれはチャンスであると思います」
発言したのはバルトロ。今回の戦争で一番の矢面に立つであろう領主。
「現在、アルド・ドモルガル軍が二万。カルロ・ドモルガル軍が一万です。ここに我が国の八千が加われば差はたったの二千」
たったね……結構な言い方だけど……
「自信はあるか? バルトロ。友軍は連携が執れているとは言えないのではないか?」
「それは敵も同じことです。王よ。今回の内戦はドモルガル王の国の各地で発生しています。つまり各個撃破すれば良い。そして纏まった軍勢を持っているのは我らだけでしょう」
バルトロの軍事能力が非常に優れているのは俺も知っている。
こいつが出来ると言ったんだ。出来るんだろう。でもなあ……
「やはりエビル王の国、ベルベディル王の国の存在は危なくないか?」
「王よ。我らに名誉挽回のチャンスを下さい!!」
そう叫んだのは元ディベル派の豪族だ。
他の豪族たちもやる気に満ち溢れているように見える。どうやら消極的なのは俺とライモンドくらいのようだ。
「何も我らだけで行くのではありません。エクウス族も一緒です。彼らの機動力と我らの重装歩兵の力が有れば勝利は容易かと」
バルトロはそう断言した。
ドモルガル王の国を崩せるならそれに越したことは無い。
孤立しないように軍事行動を控えるのも一つの手だが、いっそ開き直って包囲される前にその網を壊すのも一つの手。
これは相当実力がないと失敗する可能性が高いが……
我が国は俺が即位して一年でずっと強国になった。
武器もほとんどが鉄製に更新されている。十分戦える。
勢いに乗るのも一つの手では無かろうか?
それにここで乗らずに、弱腰の王という誹りを受けると政治的な癌になる。
俺は軍神マレスの息子……という設定なのだから果敢に攻めなくてはならない。
イメージを崩すわけにはいかない。
「心配事が一つ。ロゼル王国だ。あの国も介入してくるのではないか? あの大国ロゼルとぶつかれば間違いなく我が国は敗北するぞ。それに国境が接するのも不味い」
「現在ロゼルは他のガリア氏族の討伐にも乗りだしているとか。国境に関してはカルロ・ドモルガルの国を緩衝地帯として置けば良いかと」
そう言えばそんな情報が入ってたな。
今のロゼル王国は三万の軍勢を動かしている最中らしい。
確かガリア最強のクリュウ将軍とかいう人が、ガリア統一のために北方地方に派遣されているとか。
三万も出すロゼル王国も恐ろしい大国だが、それで討伐出来ないガリア人も恐ろしい民族である。
大陸は怖いね。全く。
「よし。私は賛成の立場だ。では早速決を採ろう。今回の遠征に賛成の者は手を挙げよ」
全員の手が上がった。
「ロサイス王様。お久しぶりです。ブラウス家当主、レティス・ブラウスでございます」
「お久しぶりだな。レティス殿。和平交渉の時以来だ」
こいつの両親は半分くらい俺の所為で死んだわけだけど……恨んでないのだろうか?
戦争の勝敗で恨まれても困るだけだけど。
そんな俺の意思を感じ取ったのか、レティスは話し始めた。
「我が父が死んだのは一年前の敗北の責任を取らされた結果でありますが……あれは父の意思でございます。トニーノ将軍はカルロ王子―我が国に必要なお方。替えの利かない人物。故にわが父は自ら敗戦の罪のすべてを背負い、処刑されたのです。父のおかげで多くの者が命を救われました。悲しみはございますが、恨みは一切ありません」
ふむ……トニーノ将軍が生きていて、ブラウス家の当主が死んだのはそういう背景があったのか。
確かにあの将軍は有能だった。砦の攻め方も嫌らしかったし。
こちらが勝ったのはロマーノの森のおかげだしな。
それにしてもトニーノ将軍……あんた、ブラウス家の領地に足を向けて寝れないな。
「さて、レティス殿。ご用件をお聞きしよう」
別に俺が物忘れをしたわけでは無い。
だが最初からノリノリでは有利な条約が結べない。
あんまり乗り気ではない雰囲気を醸し出しながら、条件次第では考えてあげようかな? というような交渉をする必要がある。
その為の前振りだ。
「用件は
「反乱分子……果たして誰が反乱分子なのかな? 我々からすると判断が付かない」
「アルド王子です。彼は勝手に王を名乗り、国を分裂させています」
「アルド王子は反乱分子なのかね? 首都を押さえ、玉座に座っているのは彼だと聞くが?」
一応、俺たちの認識からするとどちらも王子だ。
だから決して王とは言ってやらない。
「アルドが首都と玉座を手中に収めているのは暗殺と夜襲という卑怯な手で簒奪したからでございます。正統な王はカルロ様です」
「なるほど。アルド王子が正統な王ではないという理屈は分かった。ではカルロ王子が正統な王である証は?」
俺がそう聞いてみると、レティスはまず「カルロ王子ではなく、カルロ王です」と訂正した上で答えた。
「カルロ様は長子でございます。先王の指定が無いのであれば、年長者が王になるのは当然です」
「ほう? 本当にそうかな。実力重視ということもあるだろう。この場合、首都と玉座を押さえている方と他国に援助を求める者。どちらの方が実力が上であるかは考えるまでもないと思うが」
俺が意地悪く言うと、レティスは言葉を詰まらせた。
このやり取り、最初に相手を言い負かした方が勝ちだ。理屈の成否はどうでも良い。
俺は勝利を無駄にしないために、レティスに畳みかけた。
「助力するのであれば実力の高い方が良い。我が国の損害も減るからな。アルド王子派の豪族は北部に、カルロ王子派の豪族は南部に集中して領地を持つ。地理的にも南北からの挟み撃ちの方がよほど楽だな」
俺は事実しか言っていない。決してアルド王子から助力の嘆願が来たとは一言も言っていない。
ただこの方が楽だよね? という当然の事実を再確認しただけである。
……まあ騙されんだろうな。アルド王子は優勢。他国の軍勢を招く必要性は無い。
というか内戦で他国を招くのは下の下の策。これ以外方策が無いときにやるべき作戦だ。
つまりカルロ派は相当不味い状況に追い込まれているということだ。
足元を見るだけ見てやる。
「カルロ王子に味方をするリスクは高い。それに見合うだけのメリットを提示して貰おうか? カルロ王子の、私への誠意の気持ちを」
俺の言葉にレティスは顔を歪める。
苦虫を百匹噛み潰したような口調で答えた。
「……ハリソン川以南(ドモルガル王の国の四分の一)の領土でどうでしょう?」
へえ……大盤振る舞いするなあ。精々五分の一程度だと思ってたんだけど。
その四分の一に含まれる領土の豪族は良いのか?
もしかしてアルド王子の派閥の豪族から領地を分捕るという皮算用をしているのかな。
「ロムス川以南(ドモルガル王の国の三分の一)。それなら援軍を出そう」
「な!! そのような条件呑めません!!」
だろうね。ハリソン川以南も相当無理してるでしょうし。
「ではこうしよう。我が国はハリソン川以南の領土を貴国から得る。そして貴国は我が国と同盟を結び、共に
俺はロゼル王国と国境を接したくない。ガリア人怖いし。
ドモルガル王の国を緩衝地帯として利用したいのだ。
そのためにはドモルガル王の国が弱すぎては困る。三分の一は貰い過ぎになる。
「……我が国に貴国の属国に成れと?」
「属国? 違う。同盟国であり友人になろうと提案しているのだ。共に戦いあうのであれば友人に成るのは当然だろう?」
さて、どう出るかな。俺としては領土は四分の一以下でも構わない。
大事なのはドモルガル王の国が同盟国になることだ。包囲網の心配も無くなるしね。
暫くの間、口を閉ざして考え込むレティス。かなり悩んでいるみたいだ。
「……私としては貴国にかなり譲歩したのだが。本来の報酬ならばロムス川以南が適正なのだ。これが飲めないのであれば……」
「分かりました。ですが私の権限では決められません。一度、王に連絡をさせて頂きたい」
「良いだろう。返答は七日待とう。もっとも、状況が悪化する前に早々返事をした方が賢明だと思うがね」
俺の忠告が聞いたのか、それとも本当に状況が緊迫しているのか……
返答は三日後に来た。
条文に『ロサイス王はカルロ・ドモルガルをドモルガル王の国の王として扱うことを国内外に示す』という一文を乗せれば、後はあの条件のままで良いとのことだ。
一先ず外交は勝利、ということで十分だろ。
一部豪族はもう少し領土を得られるのではと不満を抱いているようだが……外交は勝ち過ぎてはいけないしな。
これ以上の勝利は不味い。
「さて、人選は……バルトロ。お前に
「は! ……必ずや我が国とドモルガル王に勝利を齎しましょう」
ちなみに
要するに、勝つためには何やっても良いよ。好きにしろという権限だ。
これには講和や戦後処理についての権限も含まれる。
俺はエビル王の国やベルベディル王の国を警戒しなければならないため、戦場には行けない。
誰かを派遣しなければならないが……今回は通常の戦争とは違う内戦だ。
何がどう転ぶか分からない。その為にわざわざ俺のところに指示を仰いでいては話にならん。
だからこいつに全面的な権限を与えることにした。
「頼んだぞ」
「ご期待に添えて見せます。……酒を用意してお待ちください。我らの王よ」
バルトロはニヤっと笑って、紅いマントを靡かせて去っていった。
エクウス族のところにロサイス王からの親書が届いた。
用件は単純。騎兵を雇いたいということだ。
「ふむ……今回は防衛戦争ではないが……まあ、良いだろう」
エクウス族は戦争に大義名分を求めたりしない。
負けたら負けた奴が悪い。それだけだ。
今回、ロサイス王の国が要求した騎兵は去年の戦争よりも百多い四百。
そして報酬として提示した小麦の量は去年の三倍。
良い取引だ。
「さて、誰を派遣するか……指揮官として優秀なのはムツィオだが……」
今回の総司令官は一豪族である。
ただの豪族の配下に自国の王子を組み入れるのは宜しくない。ロサイス王の国とエクウス族は対等の同盟を結んでいるのだから。
それにムツィオは結婚したばかり。まだ子も出来ていないのに引き剥がすのは少し可哀想だ。
悩んだ末に、エクウス王は自国の将軍の一人を派遣した。
中年で、将軍としては脂が乗り切っている男だ。十分役に立つだろう。
こうしてロサイス軍八千とエクウス族四百、合わせて八千四百の連合軍がドモルガル王の国に派遣された。
斯くして、一年の平和をあざ笑うかのように戦争の火蓋が切られた。
この戦争はアルムス帝……当時はアルムス王が初めて他国を侵略する目的で軍を動かした戦争である。
よってこの戦争以降アデルニア(ロマーノ)半島で起こる全ての戦争は『アデルニア(ロマーノ)半島統一戦争』と総称されることになる。
盛り上がってきたところ申し訳ありませんが、そろそろストックがリアルに危なくなってきたので、隔日or三日に一度に変更します。
まあキリ?も良いですし
一先ず明日は休みです
頑張って書き溜めます
戦争中はキリ悪く終わると変なので、二、三話まとめて更新することが多々あるかもしれません