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第八十八話 新婚旅行Ⅴ

やっぱり定期更新の方が良いのかと思いなおしてみたり

 テトラとアブラアムは暫く見つめ合っていた。



 最初に口を開いたのはアブラアムである。


 「テトラ殿。あなたの母親はキリシア人だと聞いている。そこで一つ尋ねたい。あなたの母君の名前は……ヘレンという名前ではないか?」

 「……そう。私の母親はヘレン。よくご存じで」

 「当然だ……ヘレンは私の娘だからな」


 なるほど……妙に見覚えがあると思ったら。

 このおっさん、テトラに似てるんだ。


 そっくりでは無い。多分テトラは父親似だ。

 だけど……言われてみれば確かに似ていると気付ける程度には似ている。


 気付けなかった理由は体格だ。

 このおっさんはチビで定評のあるキリシア人にしてはデカい。そして筋肉がスゴイ。

 逆にテトラはチビで定評のあるキリシア人の中でも小さい。


 これじゃ分からない……と言い訳してみる。



 だが本当にこの二人は血が繋がっているのだろうか?

 他人の空似というのは十分あり得る話のような気がするが……


 「……証拠が無い。似ているというだけで私の母親があなたの娘ならば、私の家族は無限に増えてしまう」

 テトラが反論した。

 そうそう、それにそんな偶然あるのか?


 というか何で僭主の娘がアデルニアのド田舎豪族に嫁ぐのよ。



 「血縁関係にあるかどうかは呪術で判別できる。知っていますな?」

 「……じゃあ、確かめよう」


 テトラがそう言うと、アブラハムの奴隷が器と草、ナイフを持ってきた。

 何するんだよ。


 「ねえ、アルムス。ユリアを呼んできて。ユリアの方が適任」

 「まあ、それもそうだな」


 あいつなら間違えることはあり得ないし、あちらが何か仕込んでいても気付くだろうから。






 「いやいや、流石に有り得ませんよ」

 ユリアは否定しながらも、準備を始めた。


 水を器に見たし、磨り潰した薬草を入れる。

 ぶつぶつと何か呪文のような物を呟いて二人の前に差し出した。


 「ではアブラアム閣下。血液を」

 「ああ」


 アブラアムはナイフで自分の指に傷を付け、血を垂らす。

 血がぽたぽたと水面に落ち、波紋を作る。


 血液は煙のように水の中に広がり、溶け込んでいく。

 水が少しピンク色に成ったところでユリアはアブラアムにやめるように指示を出した。


 そして別のナイフをテトラに手渡す。

 テトラは無言で親指にナイフを押し当て、傷を作る。


 血が水面に落ちると、仄かに発光した。



 「間違いない……まさか……」

 「つまり本当に?」


 俺が聞くと、ユリアは頷いた。






 「まさかグリフォンの息子殿でロサイス王の国の新王が私の孫だとはな!!」

 アブラアムは上機嫌である。

 ところで俺は本当にこの人の『孫』なのだろうか?


 孫の夫は孫なのか? 


 分からん……



 さて……どうしようか……

 俺は身内が居ない。だからこういう頼れる身内が増えるのは良いことである。


 僭主という立場はあまり外聞的に宜しくないが、それはキリシア人の中だけだ。

 アデルニア人は王を置く習慣のある国が多い。だから問題は無い。


 無いけど……


 「ところで曾孫はいつ生まれるのだろうか?」

 「えっと……今のところは予定は……」


 俺がテトラに目配せすると、テトラは首を横に振る。


 「それは如何な。私はもう五十。そう長くは無い。死ぬまでに曾孫を見なくては死にきれない。そうだな……」

 アブラアムは鈴を鳴らす。

 すぐに奴隷がやってくる。アブラアムは奴隷に命じる。


 「あれを持ってこい。分かるな?」

 「はい。あれですね」


 『あれ』で分かるのか……

 お前ら夫婦かよ。


 奴隷は綺麗なガラス瓶を持ってきた。中には金色の液体が入っている。


 「これを送ろう。蜂蜜酒だ。女王蜂は子供をたくさん産むという」

 アブラハムは上機嫌で瓶をテトラの手に押し付ける。


 「あ、ありがとうございます……えっと……閣下……」


 テトラは酷く複雑そうな顔をしていた。凄い動揺している。

 目は泳いでいて、何度もアブラアムの顔を見ては逸らす。そして時折俺やユリアに視線を送って、助けを求めてくる。

 こんなテトラは初めて見るかもしれない。


 家族は夫(とユリア)だけだと思ってたら突然お爺ちゃんが現れた。

 しかもお爺ちゃんは僭主という独裁者で、世間一般的な考えで言うと悪い人。


 そしてそのお爺ちゃんに蜂蜜酒を下ネタ混じりの台詞と共に手渡される……


 うん、わけ分からんな。



 「この事実が明らかになれば我が国と貴国の仲は一層と深まるだろう」

 つまり公表するつもりなのか……


 アブラハムと俺が親戚関係に成るのは悪い話ではない。

 ユリア繋がりの親戚しか居ない俺からすると、バランスが取れて良い。


 だが問題はテトラの子供とユリアの子供のどちらを王位に就けるかという面倒な問題に発展する。


 まず第一に、俺はユリアと結婚することで王位継承権を得た。

 だからユリアの子供を次の王にするのが筋というものだ。少なくとも揉め事は起きない。


 だがテトラの子が次の王に成るのが不可能か? と聞かれるとそうでもない。

 アス家は元を辿ればディベル家と同じようにロサイス家の分家である。

 故にテトラの子もロサイス王家の血を継いでいる。だから資格は存在する。


 ユリアが最初に男の子を産んでくれれば丸く収まるが、世の中そう上手く行くとは限らない。


 現在の力関係は圧倒的にユリアの方が上であるため、間違いなく次の王はユリアの子だ。先に産まれようとも、産まれなかろうとも。


 だがテトラの背後にアブラアムを中心とするキリシア人勢力が結びつけば……

 面倒なことになる。


 何しろ俺は官僚などの人材にキリシア人を当てようと考えているのだ。

 キリシア人の割合が大きくなる官僚からすれば次の王はキリシア人の血が入ってる方が嬉しいだろう。


 ロサイス家と豪族VSキリシア人官僚とキリシア系諸外国の戦いが発生する恐れがある。


 ああ……頭が痛い……


 「公表に付いてですが……次の新年とかどうでしょう?」

 今は六月だ。つまり公表は七か月後になる。

 その頃までには国内も完全に纏まっているだろう。


 「まあそうだな。その方がキリも良い。そうしよう」


 取り敢えず時間稼ぎは出来た。

 まあ時間稼いだからと言ってどうなるかと言われればどうにもならんのだが。




 こうして新婚旅行は幕を閉じた。

 何人もの土産ひとを連れ帰ることが出来たため、成果は悪くない。


 これからはキリシア商人の数がずっと増えるだろう。

 ……面倒な事実も発覚してしまったが。







 アルムスが去った後、アブラアムは側近を呼び寄せた。


 「ロサイス王の国へ送る人材だが……何人か鼠を忍ばせて置け。呪術師はやめろ。おそらくバレるからな」


 スパイを送るのはレザドもネメスもやっているだろう。 

 ロサイス王の国へ簡単に怪しまれずにスパイを送るチャンスであったため、どの国もあっさりと受け入れたのだ。

 目標は紙と火の秘薬の製法だ。


 もっとも、それは新王も理解しているはずだ。理解した上で、リスクよりもリターンが上回ると判断したのだろう。

 おそらく連れ帰った官僚には最重要な資料は扱わせない。


 分かるのはどうでも良いような情報や、断片的で一つでは意味を成さない情報だ。


 それに紙や火の秘薬の製法は全力で隠蔽するはず。

 入手するのは困難を極める。いや、ほぼ不可能だ。


 だが百パーセントではない。例え一パーセントでも確率が有るなら試す価値は十分にある。


 それに国内の内情も今までよりは分かるようになる。

 キリシア人はアデルニア人と同じ肌の色だが、話す言葉が違うため目立ちやすい。


 だがロサイス王の国へあれだけ送ることが出来れば、ロサイス王の国以外の国々の情報も集めやすくなる。


 「それと今のうちに準備をしておけ。何が何でも俺の曾孫を王太子にするぞ」

 ゲヘナ一国では難しい。

 だが一国でやる必要は無い。


 新年の発表と同時に他の三か国と連絡を取り合い、工作を開始する。

 キリシア人商人の財力とロサイス王の国に居るキリシア人官僚たちの力を合わせれば困難なことではない。


 問題は豪族だが……


 「時間を掛けてロサイス王の国の豪族どもに贅沢を覚えさせろ」

 「分かりました。友好のため……ということで香辛料や金細工、ガラス細工を山ほど贈っておきます。あの新王もかなり買い込んでいましたしね。彼が見せびらかせば豪族も欲しがるでしょう」


 アデルニア半島の文化は質実剛健、悪く言えば貧乏くさい。

 肉は豪族と言えども狩で捉えたイノシシの肉などで、太らせた豚などは新年や宴会の席で出される程度。


 豪華な金細工も買う人間は居るが、全ての豪族が欲しがっているわけでは無い。


 だがこれからはロサイス王の国へ行くキリシア人商人が増える。

 品数も増えれば、興味を示す豪族も増えるだろう。


 豪華な品物を買うには金が要る。

 だが金は畑では収穫できない。売る必要がある。


 金の怖いところは価値が変動することである。

 金貨一枚で買えたものが、一か月後には金貨一枚と銀貨五枚が必要となることも多い。


 貨幣を知って間もない豪族のことだ。

 間違いなく金の使い方を誤る。


 金は容易に集められない。

 だけど贅沢はしたい。


 ならどうするか? 借金だ。


 投資を持ちかけるというのもアリだろう。大損させて借金漬けにしてしまう。

 そうすれば……


 「俺たちの言うことを聞く豪族の完成だな。せめて四分の一は確保したい。それだけ居れば強引に持ち込めるだろう」


 後は平民の扇動もありだ。

 ロサイス王の国の平民は自作農で、全員が兵士でもある。


 今は豪族、王に従わなくてはならないと思い込んでいるが……

 彼らがキリシア人の政治制度を知ったらどうなるか?


 扇動を辞めさせたければテトラの子を王太子にせよ……

 とあの王に圧力を掛けるのもアリだ。


 それにどんな女も好きな男の一番に成りたいものだし、子供を第一の後継者にしたがるものだ。

 その男を愛していれば愛しているほど。


 口では不満は無いと言っても、全く心に不満を抱かずにいられる人間など居るか? いや居ない。


 孫に会いに行くのは何も不思議なことではない。

 アブラアム自ら赴き、ささやてやるのだ。


 お爺ちゃんが何とかしてやると……



 「ふふ、ヘレンが死んだのは少々悲しいが……まあ元々死んだと思っていた娘だ。それより最高の贈り物を残してくれた。上出来だ。親不孝ものだと思っていたが……撤回せねばな。親孝行な娘だよ。くくくっ……」


ぶっちゃけ、どっちが良いですかね?

やっぱりリズム良く更新した方が良いですか?


正直、三章はプロット構成に失敗しました。引き延ばし過ぎたなと。


今更変えようがないので、三章は一気に突っ切ろうと考えています。書き溜めはもう少しで三章終わりそうなくらいは溜まってるので。


その上で一日一話と何日か掛けてからまとめて投稿

どっちが良いですか?


ちなみに一日一話だと、ちょっと良いところに行きつくまでざっと三日、かなり良いところまでいくまで十日です


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