第八十四話 新婚旅行Ⅰ
二話更新なので前話を読んでない人は一度戻ってください
というわけで新婚旅行である。
準備するのに二か月も掛かった。いや、王って大変だね。旅行も気軽に出来ない。
まあ、本来なら外交官が行くのが筋で王は大人しく待つものだが……
俺が直接出向いた方が受けがいいだろう。キリシア人はプライドが高いしな。
今回は下級官僚や技術職の人材を入手するという目的もある。
だが二人が妊娠しちゃったら旅行出来るのも当分先になってしまう。
これは不味い。
……テトラとかそろそろ回数的に妊娠しても良い頃合いだけどな。
俺の種子が悪いのか、テトラの植木鉢が悪いのか。
それとも全て運良く(悪く)命中していないだけか。
頑張らないとな。
今回の護衛はグラムとロン。そしてバルトロとイアル。
ロズワード率いる騎兵隊は少々素行が悪いので、ご遠慮して貰った。
バルトロとイアルは相談役だ。バルトロは軍事面、イアルは政治面からの輔佐をして貰う。
「はい、革命」
「ああああ!!! 何でえええ!!」
ユリアが絶叫を上げた。
革命をしたのはテトラだ。
「おそらく今のあなたのカードは二が二枚と一が一枚と見た」
こりゃユリア詰んだな。
プレイ人数が三人の大富豪は高確率で革命起こるからな。ちゃんと考えて置かないと。
ちなみに順番はユリア→テトラ→俺だ。
すでにキングは四枚全て出しきってあり、ジョーカーも二枚とも出ている。
ユリアは自分のターンで六を出した。
ユリアのプランはそこから二を出して流し、二、一の順番で上がるつもりだったのだろう。
そこをテトラが八切りして、四四枚で革命した。
ちなみに八はこれで四枚全て出たことになる。
生憎俺のカードでは革命返しは出来ない。ごめんね、ユリア。
「じゃあ三『ハート』と三『クローバー』。無いね? 五『スペード』。上がり」
テトラ、大貧民から大富豪へ成り上がり。
俺は大富豪だが、今回は人数が少ないこともあって都落ちのルールは無い。
ちなみに俺は一が一枚とクイーンが三枚。
すでに出たカードから考えると、テトラの予想は的中している。
まあ、ユリアはニヤニヤしてたからな。
「このターンで決めてやるぜ」という顔をしていた。だから読まれたんだろう。
ゲームも終盤になれば、誰がどのカード持ってるのか分かるしな。
「じゃあ俺はクイーン二枚。流れて一。上がり」
「ああ! 負けた!!」
ユリアはカードを投げ捨てる。
「早く切りなおせ、大貧民」
「くうぅー、覚えていなさい!!」
ユリアはテトラを睨みながらカードを拾い集めて切り直す。
「ねえ、そろそろ飽きたから神経衰弱やらない?」
「勝ち逃げする気!!」
「それだとお前が常に勝つじゃないか。ババ抜きにしよう」
そろそろ頭を使うゲームは疲れてきた。
「だって、じゃあユリアな抜きだね」
「何で!!」
「私十七。ユリア十八」
その理論だと俺は爺に成るぞ。
ユリアとテトラが仲良く喧嘩をしだす。
「そろそろレザドの国境に入ります!!」
御者が声を掛けた。
人の存在を思い出し、ユリアとテトラは大人しく座りなおす。
二人とも顔が少し赤い。
「レザドは確か一年振りだよな。フェルム王と戦う前に訪れて以来だった」
「うん、そうだね。私としてはキリシア本国に行ってみたい」
それは厳しいんじゃないか?
「私は初めて。結構楽しみにしてる」
ユリアは微笑んで言った。
「まあ、するのは詰まらない外交だけどな。身分隠して買い物でもするか?」
レザドって観光地無いよな。確か。
買い物以外することは無いだろ。
「「賛成!!」」
「じゃあエインズに無理を言ってみるか」
国境ではエインズを含む五人の議員が出迎えてくれた。
そのまま議員に案内されるまま、レザドの首都―レザドに到着する。
レザドは海に面する湾岸都市で、一日に百隻以上の船が出入りする。
キリシア人は勿論のこと、ポフェニア人やアデルニア人、ペルシス人にガリア人にゲルマニス人など多種多様な人種が居る。
「我がレザドは非キリシア人の移民や商売に積極的なのです」
エインズはにこやかにそう説明してくれた。
キリシア本国のクラリスを含む都市国家は勿論、植民都市も含めてここまで他民族に寛容な国は無いとのこと。
まあ、あれだな。
自分たちはアルムス様と仲良くなりたいですよアピールだ。
馬車の外からは歓声が聞こえる。
レザド市民総出で歓迎してくれているのだ。
俺は窓を開けて、手を振る。
歓声が大きくなる。良い気分だ。
俺たちが最初に案内されたのは巨大な屋敷だった。
うちの宮殿ほど大きくはないが、それに匹敵するほどの大きさだ。
外装には肌理細やかな彫刻が施されている。あまり見たことが無い方式だな。ペルシス風か?
馬車を降りると、多くの礼服を纏った男たちが歓迎してくれた。
多分全員議員だな。人数から考えて議員全員総出のお出迎えか。
「ここは我が国で議会を除くと一番巨大な建物です。今日のところはここでお泊り下さい。明日は我が国をご案内させて頂きます。難しい政治や商売の話はその後ということで」
取り敢えず歓迎して、俺の気を解してから外交をしようと。
うん、嫌じゃない。俺も折角だから楽しみたいしな。
「ところで御三方は魚は大丈夫ですか? レザドでは豚肉より魚が好まれるので、御三方が魚が苦手でないのであれば、魚をメインにしようと思っています」
「俺は大丈夫だ」
「私も」
「私も豚より魚が好きだから。大歓迎」
俺、テトラ、ユリアの返答に安心した顔をする議員。
「ところで風呂はあるかな?」
「はい。何しろここは温泉も湧きますから」
素晴らしいな。
俺たちには一人一部屋が割り当てられたが、テトラとユリアはすぐに俺の部屋に来た。
俺の部屋のベッドはやたらと広かったので、三人とも寝れる。
まあそういう風に手配したんだろうけど。
「見て見て! 海! 凄い! 大きい!!」
ユリアは窓から見える海に歓声を上げた。
海の向こうから何隻もの帆船がこちらに向かってくる。
「ねえ、海ってショッパイって本当? 塩水だよね? じゃあ何で岩塩掘るの? 海から塩は採れないの?」
一遍に言うな。
「ショッパイのは本当だよ。私舐めたから」
テトラが舌をペロっと出しながら言った。
「俺も詳しくは分からんが、岩塩を掘った方が安いからじゃないか? 海から塩を作るには薪が大量に必要になるらしいし」
塩田とかあるらしいけど、詳しいことは分からない。
分かっても作ら無いけどな。うちの主要産業だし。
「私は明日、図書館に行ってみたい」
「図書館ね。俺も興味あるな」
全部粘土板なのかな?
それとも木簡を使っているのか。紙に写してるのか。
「私、キリシアの神殿に行ってみたい! キリシアの神様、持ち帰れないかな?」
ちなみにこの持ち帰る、持ち帰らないというのは日本で言う分霊のことだ。
何でも呪術的な意味合いがあるだか、無いだか。
でも外国の神様持ってきて大丈夫なのか? アデルニアの神様怒らないの?
「神様は器が広いから大丈夫よ」
本当かよ。
「アルムスはどこか行きたいところあったりするの?」
「うーん、そうだな。港はじっくり見学させてほしいな。あと市場とか城壁の造りとか」
「港なんていいじゃん。うちの国は海に面してないでしょ?」
「今はね」
見て置いても損は無いし。良いじゃないか。
「土産に職人とかその辺の人間を大量に持ち帰りたいな」
「私はお皿が欲しいな。ペルシスのガラス食器」
他のアデルニア人を招いた時に、ガラス食器出せば驚くだろうな。
買い占めるか。
「本。本が良い。写して持ち帰ろう」
本を写すのって金掛かるのかな?
それとも頼めばどうぞご自由にとか言われるのだろうか?
著作権とか無いからな。でも図書館の本を全部写そうとすれば何か月掛かるか分からんぞ。
「写本は後で頼もうか。送ってもらう形にしよう」
巨大図書館でも作ろうかな。
アレクサンドリア図書館とか、ニネヴェの王立図書館みたいな。
なんか燃やされそうだな。
「ねえ、アルムス。夕食まで時間あるし……」
テトラが俺に抱き付いて言う。
「神経衰弱やらない?」
この後滅茶苦茶トランプした。
エビ、カニ、貝、魚……
見事に魚介類ばかりだな。
早速食事が始まる。
味付けはシンプルで、塩、オリーブオイル、レモンが主のようだ。
「ん? これは胡椒か?」
俺はムニエルを食べながら聞くと、一緒に食事をしていた議員が答える。
「そうです。我々は世界中から香辛料を集められますよ」
胡椒。久しぶりに食べると美味しく感じる。
安定供給したいな。
食べてみて分かったが、全ての料理に少しだけだが香辛料が使われている。
料理の味を壊さないように、ほんの少量だけ香りづけに使われているのだ。
それにしても……
俺は談笑をしながら議員たちの手を見る。
やっぱり手掴みなんだな。
スープは熱いし、液体だから匙が使われているけどそこはアデルニアと同じだ。
今更気にならないが、キリシア以外の国だと食器は使うんだろうか?
青明曰く、緋帝国は箸を使うそうだけど。
ペルシスは?
「ねえ、アルムス」
ユリアに抱き付かれた。
お行儀が悪いですよ。
「私、毎日魚食べたいな。肉より魚が良い」
ユリアの発言で一瞬、議員たちの動きが固まった。何だ?
あ、そうか。
魚食べたい→海が欲しい→レザド欲しい
そう聞こえたのか。
気にし過ぎじゃないか?
一応ユリアの表情を確認してみると、笑顔で笑っている。
別に侵略したい的な意味合いで言ったわけでは無さそうだ。
冷静に考えてみるとうちの国はつい最近人口約二十万を突破した南キリシア南部で最大の大国。
逆にレザドは海軍は強いが、人口は約六万ほどで陸軍は傭兵頼りで貧弱。
本国は遠いので、援軍が来るのは最短でも一週間。
そう考えるとかなりの脅威だな。
それにしても権力者って大変だな。軽口も叩けない。
さて、フォローしておくか。
「もしこの国で捕れた魚を我が国で運ぶとしたらどれくらいかかるか?」
「そうですね……馬車で四日ほどですか。氷を詰め込めば十分食べれると思いますよ。干物なら氷無しでも十分持ちます」
「良かったな、ユリア」
俺とエインズの会話を聞いて、安心して食事を始める議員たち。
エインズにウインクをされた。こいつ、ウインク下手だな。
でも輸送には氷が必要なんだな。
氷は冬に山で出来た物を切りだして、地下室に保存するのが基本だ。
南アデルニア南部は暖かいため、冬でも水は凍り難い。
氷の確保は難儀だ。
つまりそれだけ輸送コストが掛かる。
さらに……
「ロサイス王の国へ行くとベルベディル王の国で通行税を採られるんですよね……」
議員の一人が不満げに言う。
エインズが咳払いをすると、その議員は慌てて何でも無いですと撤回した。
食い物の席では政治の話をしないと。
ちなみにレザドはベルベディル王の国と国境問題を抱えている。
正直俺がレザドに出向くとベルベディルを刺激することになるかな? とも思ったが結局行くことに決めた。
リスクよりもリターンを優先したのだ。
最後にデザートが運ばれてくる。
果物が主で、葡萄に柘榴、イチジク。
どれも新鮮で美味しかった。
「へえ、結構広いな」
「そうだね。宮殿のお風呂よりも大きい」
「なんか悔しい」
俺たちは風呂を見て感嘆を漏らした。
宮殿の風呂は普通のお湯だが、ここの湯は温泉だ。その点レザドの方が優っている。
今度の新首都で温泉湧かないかな。まあ、最悪持って来れば良い。馬車で。
「それにしてもキリシア人は油断出来ない」
テトラはぼそりと言う。お前も半分キリシア人の血が流れてるんだけどな。
だがそれに関しては同感だ。
なんと連中は俺の風呂の世話のために美女を三十人も用意したのだ。
同じアデルニア人は勿論、キリシア人、ポフェニア人、ガリア人、ゲルマニス人、ペルシス人……
他にもアジア系っぽい黄色人種や黒人まで。
選り取り見取りだった。
ユリアとテトラが俺に抱き付いて、そう言うのは要らないとはっきり言ってくれたおかげで助かったけど。
いや、別に助けてくれなくても良かったな。
少し残念ではある。だって三十人だぞ?
しかも全員美人で人種のサラダボールとか。
バチン
「痛ってえ!」
「ニヤニヤしてる!!」
ユリアに思いっきり背中を叩かれた。くそ……滅茶苦茶痛い……
「これだから暴力女は。私が背中、洗ってあげる」
テトラはユリアを一瞥して、ニヤリと笑ってから俺を座らせる。
そして困惑した表情を浮かべた。
「何これ?」
「スポンジかな? 多分体を洗うのに使う奴だと思うぞ」
たしか沐浴海綿とか言う生き物が天然のスポンジに成るとか聞いたことが有る。
「じゃあこの変な果物みたいな奴は?」
ユリアが壺の中に入っていた黒い果実を取りだした。
俺はそれを受け取り、握りつぶしてみる。
これは……
「ムクロジ?」
泡立つな。天然の石鹸か。
でもムクロジってエコ洗剤に使ったりするのは聞いたこと有るけど、人体に使っても良いのか?
でもムクロジとは限らないか。ここ、異世界だし。
きっと体に優しいムクロジっぽい何かなんだろうな。
後でエインズを問い詰めてみよう。
それはともかく……
「なあ、二人とも。実はこの実を使ってして貰いたいことが有るんだけど」
何をして貰ったかはご想像にお任せする。
三章は内政と外交が八割の構成なので、盛り上がりに欠けるかもしれません
四章はほとんど戦争です
暫くは緩やかな上り坂が続くので、話の角度が上がるまでは更新速度を速めます
だがしかし、書き溜めが減るんだな……