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第八十三話 産業

今日は二話更新です。八時にもう一話投下します

三章は進行速度が遅いので、ハイスピードで行きます


 現在の我が国の産業は紙と塩だ。

 これに最近奪ったばかりの柘榴石(ガーネット)が加わる。


 現在でもこの三つのおかげで国の財政は潤っている。

 だが金はあるだけ必要だ。


 これから治水と首都建設と道路工事が始まる。

 他にも鉄器の生産や馬・牛の普及など、とにかく金が要る。


 それに俺は早く貨幣経済を国に広めてしまいたい。その為には他にも産業が必要だと思う。

 紙や鉄、柘榴石(ガーネット)は国が作り方を独占して生産している。


 その方が国家の収入は増えるが、国民は豊かにならない。

 それに紙は我が国の国民は使わないし、柘榴石(ガーネット)も一部の土地持ちが買う程度。


 外貨の獲得も重要だが、内需の拡大も重要だ。

 ロサイス王の国の庶民もちょっと奮発して買えるような商品が必要だ。



 取り敢えずざっと考えたのは、ウィスキー・ウォッカ・グラッパなどの酒類の生産の推奨だ。

 現在使っている単式蒸留器を連続蒸留器に変えれば、蒸留酒の大量生産は可能だ。

 連続蒸留器は仕組みくらいしか分からんが、職人に丸投げしよう。


 何とかそれっぽい物を作ってくれるはずだ。従来の蒸留器よりも性能が悪化して無ければそれで良い。数年掛けて改良すれば良いだけの話だ。


 ワインならどこの農村でも作っている。


 後は今まで熟成せずに輸出していたのを、ちゃんと熟成するようにすれば良い。

 まあ本格的に輸出出来るのは三年後以降に成りそうだが。


 グラッパは六か月程度の熟成でちゃんと酒に成るので、積極的に作る。

 今まで捨てていた搾り粕を再利用出来るから、利益率も高いだろう。


 ビールは推奨しない。

 よく分からないが、アデルニア人やキリシア人はビールを好まないようなのだ。


 元々アデルニア人にとってワインは水で割って飲む物。

 浴びるように飲み、水で薄めたりしないビールは野蛮だと考える。


 そもそも大麦は家畜の餌という側面が大きく、あまり好まれない。

 だからビールが嫌いなのだろう。


 ウォッカは大麦で出来ているが、多分大丈夫だ。

 ウォッカは水で割って飲む飲み方もあるし、そもそも浴びるように飲むものでは無い。


 まあ一部浴びるように飲む奴は居るけどな。



 そして亜麻と麻の栽培の推奨。

 悩んでいるのは麻をどうしようかと言う問題だ。



 「麻ってどうしようか?」

 俺はユリアとテトラに尋ねてみた。


 周知の事実だが、麻は麻薬になる。

 当然栽培を推奨すれば、娯楽用に麻を栽培する奴が出てくるだろう。


 取り締まるのは至難の業だ。


 元々ロサイス王の国では麻を栽培している農村も多かったので、栽培を禁じなかった。

 仕事を奪うことにも繋がるし、国内の繊維需要が満たせなくなる。


 だがやはり大麻は麻薬だ。

 まあ「大麻の毒性はタバコよりも低い」とはよく聞くけど。


 タバコも大麻もやったことが無い(そりゃそうだけど)俺からすれば、どっちも要らない物だ。

 流行らないなら流行らないで居てくれた方が良い。


 治安も悪化するし、医療費も増大する。

 反社会組織の財源にもなる。


 今この段階の流行の火ならば、消そうと思えば消せるような気がする。

 習慣化してしまえば消せるモノも消せない。


 とはいえ、麻から服が作れる。

 最近はエクウス族から羊毛が大量に入ってきているから需要は満たせている。

 だがアデルニア半島を統一すれば供給よりも需要が伸びる可能性が高い。


 蒸留酒を使った消毒法を呪術師経由で広めているので、産褥熱による死者数も減る。

 輪裁式も少しづつだが広まり始めているので、食糧の生産量も大幅に増加する。


 そうすれば将来的に服の需要が拡大する。


 

 麻を専売にして、麻薬の流行を避けるべきか。

 麻の栽培を推奨して、服の需要を満たせるようにすべきか。



 「専売にすべき。繊維は麻じゃなくて亜麻の生産を推奨すれば良い。要らない物は要らない。人を馬鹿にする薬は規制すべき」

 まずテトラが意見を述べた。


 亜麻は西方では非常に一般的な繊維だ。

 俺の服も亜麻で出来ている。

 麻よりも柔らかいからな。肌触りも麻より良い。


 まあ、確かに亜麻で十分だよな。麻は推奨するまでのことは無いかもしれない。


 「うーん、私は推奨しちゃっていいと思うよ。亜麻は一度栽培したら連作出来ないじゃん。逆に麻は輪作が出来るから大量生産出来るし。それに大麻は規制しても入ってくるんじゃない? キリシア人とかベロンベロンだしさ」


 そう言えばキリシア人って大麻中毒多かったな……

 あいつらが国内に入りこめば自然と広まってしまうか。


 キリシア人「これめっちゃ楽しいぜ」アデルニア人「マジで! 試してみよう!!」


 うぜえなキリシア人。純粋なアデルニア人を暗黒面に落とさないでくれ。


 「麻薬としての利用を禁じるなら他国との貿易を禁じないと。そうでないなら開き直っちゃった方が良いんじゃない?」


 うーん、どうしようかな。


 「じゃあ取り敢えず推奨するのは取りやめにしよう。一先ず亜麻の栽培の推奨だけで。麻の栽培は国として関与するのをやめよう。需要が増して、供給が足りなくなったら推奨するということで」


 結局折衷案を取った。





 「ねえ、アルムスは牛と豚と馬の生産を推奨してるけどさ。羊はあまり推奨してないよね。何で?」

 「羊はエクウス族が育ててるからな。貿易摩擦は避けたい。エクウス族の軍事力は強大だからな」


 エクウス族とロサイス王の国が武力衝突したことが無いのはアルヴァ山脈のおかげだ。

 馬では簡単に山脈を越えられない。

 それにエクウス族も山脈の外側にはそこまで興味がなかったようだし。


 だが同盟を組んだことで少し事情が変わる。 

 豊かなロサイス王の国を侵略しようという考えに至る可能性は非常に高い。


 だから出来るだけ争いの種は潰す。隣人同士、仲が良いに越したことは無い。


 その点牛と豚は競争相手が居ない。

 牛は労働力に成るし、牛乳が搾れる。

 豚はすぐに太るから食肉用としては最適だ。


 馬はエクウス族から仕入れているが……

 エクウス族の馬は軍馬には向くが農耕馬に向くとは言い難い。


 軍馬はエクウス族から仕入れるとして、農耕馬は自力生産した方が良い。


 「私、豚肉よりも川魚の方が好きだな」

 「私は肉より果物が好き」


 健康的なのは何よりだけど、そんなんだからチビなんだよ。



 「ところでだけどさ」

 ユリアが声を低くする。

 「アデルニア半島を統一するって言ってたけど。近い内に予定あるの?」

 戦争のことか。


 「今のところは無い。俺も王に成ったばかりだからな。もう少し国内の内政に注力していたい」

 今は工事に人手を取られているからな。

 戦争をしたら中断しなくてはならなくなる。


 「せめて常備軍の訓練が終わってからだな」






 「訓練はどんな感じだ?」

 俺はロンとロズワードとグラムを呼び出して聞く。

 ロンは重装歩兵、ロズワードは騎兵、グラムは弓兵及び投槍兵を担当している。


 まずはロンが口を開いた。

 「アス領で常備軍に所属していた兵士と、新しく加入した兵士の間で練度の差がありますが大方順調です。あと一月もすれば実戦投入できるかと」


 重装歩兵は問題なしと。

 次はグラムか。


 「元々弓術には技術力が要ります。今回の常備軍には昔から弓兵だった者たちや狩人の集めた者たちなので、練度はそれなりです。ただ……俺の求めている練度からはかけ離れているかなと。あと長弓の扱いも慣れないようです。実戦は十分に可能ですが」


 つまり弓兵も問題なし。

 後は……ロズワードか。


 「そう言えばあの金髪はどうしてるんだ? 今でも兵士をやってるのか?」

 あいつ、自分自身を買って奴隷を止めたそうだけど。


 「ヴィルガルのことですね。あいつ、娼婦に貢いでパーになっちまったそうです。だからちゃんと兵士として働いています。他の元奴隷も大方そんな感じです。後はもっと金が欲しいとか、そういう理由」


 ほう、それは良かった。

 ゲルマニス人が抜けると不味いからな。戦力の低下が。


 「新たに増やした騎兵と古参の騎兵で練度が違い過ぎます。話にならない……。それにエクウス族に対抗出来るのはゲルマニス人の元奴隷だけです。とてもじゃないが実戦の投入は……」

 難しいか。


 「まあ騎兵は育成が大変だからな。そうだな……エインズから買ってしまうか……でも外国人頼りは良くないよな……どうにか頑張ってくれ。別にエクウス族レベルは求めない。まともに戦えればそれで良いさ」


 エクウス族に勝つのは無理がある。

 あいつらは生まれながらの騎兵だし。



 「近い内に戦争でもあるんですか?」

 ロンが聞いてきた。


 「いや、今のところは起こすつもりは無い。だけど……起こされる可能性が少しな」


 ロサイス王の国はイッキに国力を伸ばした。

 今では人口は二十万を突破している。


 南のベルディベル王の国と西のエビル王の国の人口は約十万ほど。

 危険視されてても可笑しくない。


 出る杭は打たれる。

 信長包囲網のようなことをされる危険は十分にある。


 「だから常備軍は大切だ。すぐに動かせるからな。豪族の許可なしに。よろしく頼むよ」

 「「「分かりました!!」」」


 さて、常備軍は問題ないことは分かった。

 暫くは安泰かな。


 「そう言えばお前ら、いつ結婚するの?」 

 俺が尋ねると三人とも顔を赤くして顔を背けた。

 まだ決まってないと。早く日時決めろよ。





 「バルトロ。ドモルガル王の国はどんな感じだ?」

 「そうですね。後継者問題で揉めに揉めているようですよ」


 バルトロにはドモルガル王の国への諜報もしてもらっている。

 俺もしては居るが、やはり領地が隣接しているバルトロの方が詳しく分かる。


 「どうしてそんなことを?」

 「ドモルガル、エビル、ベルベディル、エクウスの四か国に包囲網を張られたら不味いだろ?」


 エクウス族は同盟国だから裏切られる心配はなさそうだが……

 世の中確かなことは無いからな。


 「そうですね……ドモルガル、エクウスは我が国への侵攻の意思は無いかと。そんなに心配することでは無いですね。ドモルガルにはそんな余裕は無いですし、エクウスは仮にも同盟国です。問題はエビルとベルベディル。でもエビル王の国に関しては安心して良いかと」


 その理由は?


 「エビル王は慎重な男ですからね。そう簡単にことは起こさない。ドモルガルとエクウスの二つが我が国に侵攻の意思が無い以上、包囲網を成立させるのは難しい。エビル王は動きません」


 逆にドモルガルが落ち着き、エクウスの気が変わったらあり得ると。


 「ベルベディルは?」

 「さあ……分かりません。ただあの国の王は一国が台頭するのを嫌うところがあります。フェルム王の独立を支援したのもベルベディル王。だから十分に可能性はある。ですが……他の三か国が乗り気でないのに動くとは考えられませんね」


 ふむ……つまり今のところは問題ないと。


 「そうか。ところでキリシア人の諸都市と同盟を組むというのはどう思う?」

 「うーん、良いんじゃないですか? 俺たちに不利益にはならないでしょ。打診でもあったのですか?」

 「エインズがな。そう言う話がレザドで出ていると」


 つまり出ているだけだ。

 出してるのはエインズだろうな。あいつは俺の力を背景にレザドで権力を伸ばすつもりだろう。


 レザドと同盟を結べばベルベディルへの牽制にも成るし。



 「何なら行ってみたらどうっすか?」

 「ん?」

 「新婚旅行ですよ。今のうちにレザド、ゲヘナ、ネメスの三国を訪問しては?」



 それは……良い考えかもしれない。



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