第七十九話 外交Ⅱ
今日は二話更新です
一先ずエクウス族との友好関係の継続は確認出来た。
さて、問題はベルベディル王の国とエビル王の国である。
この両国はフェルム王と組んでロサイス王の国に攻めようとした前科がある。
つまり全然仲良しでは無い。
両国とも過激な新王に警戒していることだろう。
直接出向き、友好を確かめなければならない。
一先ず、俺はエビル王の国に向かった。
今回はイアルとバルトロとテトラが輔佐。
護衛はロンとグラム。
「お久しぶりです。エビル王」
俺はエビル王にあいさつした。
年は四十代半ばと言ったところ。王としては一番脂が乗っている時期だろう。
背は俺より低いが、服の上からでもそのがっしりとした体つきが分かる。
武人の王……というイメージだ。
「ああ、私もお会いできて嬉しい。ロサイス王」
まずは当たり障りの無い世間話が始まる。
聞かれるのはフェルム王との戦いやドモルガル戦、内戦の鎮圧などだ。
「いやはや、見事でしたな。内戦は長引くのが常々だというのに、まさか二日で終わらせてしまわれるとは」
白々しいおっさんだ。お前、内戦始まった時に急いで兵士集めようとしたらしいじゃん。
というかディベル派の一部があんたのところに亡命しようとして大変だったし。
まあ俺も目の前で国が割れたら同じようなことをするのだが。
段々と話が産業へと移り変わる。
エビル王の国は平原が少ないため、小麦の収穫量は我が国に比べて少ない。
その代わり斜面を利用して葡萄やオリーブの生産が盛んだ。
後は羊やヤギの遊牧。
農業生産量は我が国の方が数倍は上だし、伸びしろもある。
よって両国ともに貿易をする必要性は無い。
まあ強いていえば羊毛だろうか? 我が国は遊牧よりも農業の方に力を入れているし、育てる家畜はすぐに肉に出来る豚や労働力になる牛や馬を推奨している。
「ドモルガル王という脅威も無くなったことですし、暫くは南アデルニア南部は平穏ですな」
「ええ、我が国も出来るだけ平和を享受したいものだ。何しろやらなくてはならない内政が山のようにある」
実際、事実だ。今は戦争をする気は無い。今はね。
「今後とも、仲良くしていきましょう」
「ええ、良き隣人でいたいものです」
俺たちは互いに握手を交わした。
「どうでしたか? エビル王様」
「まあ、今は脅威ではないと言ったところか。明確な敵意は読み取れなかった。とはいえ、十代の若者が小さな国で満足するとは思えぬな。軍の強化をしておくに越したことはあるまい」
現段階において敵に敵対的意思は見られない。ならば出来るだけ刺激しないように、準備を進めるべきだ。
エビル王の国とロサイス王の国が正面衝突すれば、敗北は免れない。
「だが情報が足りなすぎる。今後も監視を続けろ。不穏な動きが有ればすぐに周辺国と共に対応できるようにするのだ」
「へえ、これがベルベディル王の国の首都……随分防備が固いな」
俺はエビル王の国から直接ベルベディル王の国へ向かった。
メンバーは全員同じだ。
「ベルベディル王の国はキリシア諸都市から一番近いですからね。その文化を一番学んでいる。だから建築技術についてはアデルニア人国家の中では一番優れているかと」
ライモンドが説明してくれた。
だけどそれにしても過剰防備ではないか?
フェルム王の宮殿を一、ロサイス王の国を十とするとこっちは百だ。
「ここだけの話、今代のベルベディル王は臆病で有名です。故にこれほどの城壁を築いているのです。これは彼の王位継承に纏わる有名な話ですが……」
ライモンド曰く、十年ほど前に先王が崩御して後継者争いが発生したらしい。
その中で次男であったベルベディル王は殺されるのを恐れて、山の中の神殿に篭って王継承権を放棄したのだという。
そうしたら長男と三男が互いに相打ちで死んでしまい、急遽呼び出されて王に成ったのだという。
最後に笑ったのは逃げ続けた者ということか……
「なあ、バルトロ。お前、これを落とすとしたらどれくらいの兵と期間が居る?」
「そうっすね……最低一万。最短で六か月でしょうか? 火の秘薬を使うならば四か月まで短縮出来ますがね」
バルトロでもそれだけ掛かるのか。
やはり攻城戦というのは大変なんだな。
「お久しぶりです。ベルベディル王」
「こちらこそ。ロサイス王」
ベルベディル王は四十代後半ほどの年の男性だ。
背は俺よりも高いが、あまり強そうな印象は見られない。
筋肉もあまりついていないし、何より顔に自信が無さそうだ。
目が泳いでいる。
話す内容にエビル王の時とそこまで変わらない。
ちなみにベルベディル王の国の産業はロサイス王の国とさほど変わらない。
どちらも平原が多く、温暖な気候だからだ。
「最近、貴国はキリシア人商人との貿易で儲けているそうだ」
「ええ、儲けさせてもらっているが?」
いったい何なんだよ。それがどうした?
「我が国も関税収入が増加した。貴国のおかげだ。……これからも仲良くしていきたいものだな」
「……ええ、そうですね」
我が国とキリシア諸都市の間にはベルベディル王の国がある。
つまりベルベディル王の国が関税を上げたり、国境を封鎖すればキリシア人は我が国に入って来れなくなってしまうのだ。
こいつはそれをチラつかせてきたのだ。
ただ臆病なだけではないと……
「ドモルガル王の国は随分とその力を衰えさせた。当分、戦は無いだろう。やはり平和が一番……ですな?」
「全くその通り……とは言い難い。何しろ我が国はレザドと国境問題を抱えているのだ」
ベルベディル王の国とレザド(キリシア諸都市の一つ)は仲が悪い。
理由は簡単で、ベルベディル王の国とレザドの国境間にはアデルニア人とキリシア人の混血が大勢住んでいる中小国家が存在しているからだ。
どちらがその中小国家の盟主かで両国は争っているのである。
「貴国は同じ七王国の一つ。当然……」
「我が国は中立を取らせて貰う」
当たり前だ。お前らの領土問題なんかに加わりたくねえよ。
大体こっちはレザドと貿易してるんだぞ?
どうやら俺の返答は予想の範囲内だったらしく、ベルベディル王の表情はそこまで変わらない。
怒っているわけでは無さそうだ。
まあそんなことで毎回キレられたら堪った物ではないが。
「そうか。それは残念だ。まあ中立の立場で居てくれるのであれば嬉しい。もしもの時が有れば仲介をして貰いたい」
「我が国は平和を望んでいる。その平和に手を貸すのは人として、当然のこと」
心にも無いことを言っておく。
俺の戦争方針は遠交近攻だ。もしもが有れば挟み撃ちだよ。
何はともあれ、両国ともに友好を再確認して平和を享受し合うことで話がついた。
……表向きには。
「あの小僧、間違いなく野心がある」
ベルベディル王は呟いた。
根拠は四つある。
一つ目、関税の話をした時の表情。その顔はそこまで気にした風では無かった。
今のあの国にとってキリシア人との交易は重要なことのはずなのにである。
つまりこの国を併合してしまえば関税もクソも無い……そう考えているのだろう。
二つ目、平和を何度も強調して言ってきたこと。逆に怪しい。
三つ目、本当に平和的関係を深めたいなら人質を送り合うことを提案するはずだ。
それをしないということは、平和など少しも考えていないのだろう。
四つ目、目の色。あの瞳には野心の色が合った。
自分の……かつて相打ちで果てた兄弟とまったく同じ色だ。
上手く隠しているつもりのようだが……
そもそもあの新王は十代の若者。
あの時期は挑戦的な行動に出たがるモノだ。
それに彼にはドモルガル王の国に大勝したという実績がある。
軍事行動に出ないわけがない。
だが同時に今は平和を維持したいという気持ちは本当だろう。
まだ王に就任したばかりで国内がまとめ切れていないはずだ。
あれほどの大規模な粛清が必要だったことから推して分かる。
おそらく猶予として最低二年ほどはあの新王は軍事行動に出ない。
逆に言えば二年後にはこの国は滅ぼされる。
となると勝負は二年間。その間にあの国の国力を削ぎ落とさなければならない。
「一先ず、エビル王とドモルガル王に声を掛けてみるか……」
ベルベディル王は今後の外交方針を定めた。
即ち、対ロサイス王の国包囲網である。
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第七十九・五話 ブラジャーⅡ
「ねえ、アルムス?」
「何だよ?」
「テトラが付けているあれ、私にも作って」
ユリアがテトラのブラジャーを指さした。
今晩は二人一遍にやらせて貰ったんだが……それでブラジャーの存在に気付いたらしい。
「あれ、胸を保護する下着でしょ? ああいうのはテトラよりも私にこそ必要じゃない?」
ユリアは胸を張る。
テトラよりも一回り大きい、形の綺麗な胸が揺れる。確かにこれが崩れるのは勿体ない。
「『テトラよりも』は余計!!」
「んあ、何するの!」
テトラがユリアの胸を鷲掴みにする。胸が歪む。
「生意気な……脂肪の塊め」
「あなただってあるでしょ! とりゃ!」
「ん……放しなさい、さもないと摘まむ」
「ちょっと! アルムス、助けて!!」
「いや……どうぞ続きをお願いします」
これはこれで凄く良い……
それにしても……俺はこういうのもイケるんだな。新たな発見だ。
全裸で取っ組み合いを続ける二人を眺めながら思う。
こいつら、そういう性癖もあるのか? いや、仲が良いのは良いんだけどさ。
嫁に嫁を寝取られる? というのはどうなんだろうか。
男として、夫として。
まあでも俺も混ぜて貰えば良いか。
「おい、俺も混ぜろ。お前らばっかり楽しみやがって」
「っちょっと……さっきしたばかり……」
「ああ、ダメ、い、今は……」
ちなみに翌日、ユリアの要望通り俺はブラジャーを作った。
テトラは大きさの違いを見て、悔し涙を飲んでいた。
別にお前、小さいわけじゃないんだし良いだろ。
世の中には
俺としたことがブラジャーの話を忘れていたとはね