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第七十二話 即位式と結婚式

実は平たい顔族は重要ワード

 慌ただしく結婚式と即位式が行われようとしていた。


 俺はロサイス王から王冠を受け取ったが、正式に王に成ったわけではない。

 神々に王になる許しとやらを受け取っていないからである。


 だから改めて結婚式をまず行う。

 大事なのは結婚式からやることだ。そうしないと俺に王位継承権が発生しない。


 国中の豪族、外国の要人たちが祝辞を述べに来た。


 ドモルガル王の国からも第二王子がやってきて、俺に祝辞と祝い品を届けてくれた。

 即位式が終わったら、彼らとも交渉しなければならない。


 エクウス王も元気になった三の妃を連れて、俺に祝いの言葉と品をくれた。


 俺も驚くほど、アデルニア半島やキリシア人の植民都市群から人がやってきて、俺に祝辞をくれた。

 ロサイス王の国はそんなに大きな国じゃないんじゃなかったっけ? と思ったが……


 「そんなことない。ロサイス王の国は南アデルニア南部では最大の人口を誇る。今までは後継者問題や、力のある豪族たちなど大きな問題を抱えていたから、力を出せなかっただけ。今や後継者問題は解決し、急速に中央集権化に成功しつつある。そしてそれを成し遂げたあなたにも興味がある。そう言うこと」


 そうテトラが解説してくれた。

 確かにアデルニア半島のパワーバランスを大きく崩したからな。ドモルガル王の国との戦いで。


 俺として一番驚いたのはロゼル王国からやってきた使者だ。

 ロゼル王国はガリア南部とアデルニア半島北部を支配する大国。


 人口は三百万を超すという。まさかそんな国から使者がわざわざやってくるとは。


 使者は黒髪の女だった。

 肌の色や顔の造形から東方人であることが分かる。


 ロゼル王国のあるガリアから東に行けば、ゲルマニス。

 ゲルマニスは騎馬民族と交流がある地域だから、東方人が来ても何もおかしくはない。


 不思議と印象に残った。





 結婚式が淡々と行われる。

 ユリアは真っ白いドレスを着ていた。


 俺はてっきり髪に合わせて紫色のドレスを着ると思ったんだけどな。

 でも白いドレスもよく似合っている。


 芸術品のように美しい。飾っておきたいくらいだ。


 今回、祝辞を言うのはテトラだ。前回はユリアだったから、そのお返しということか。


 「あなたたち二人は、これから永遠に、如何なる時も助け合い信じ合うことを誓いますか?」

 「「誓う」」

 「天、地、空の神々よ。この世が混沌の渦であった頃より我らを見守り、助け、導いてくださった神々よ。この者たちの結婚に祝福を」


 テトラは一度言葉を切り、いつもの無表情で、だが嬉しそうに言う。


 「あなた方二人の愛に妖精の祝福を。願わくばその愛が永遠に続くことを……、では契約を」


 俺はユリアを引き寄せ、ベールを上げて唇を押し付ける。

 唇を離すと、ユリアは嬉しそうに微笑む。


 「もう永遠に離さないから」

 「俺もだよ」


 もう一度キスをする。

 歓声が上がった。






 結婚式の後はすぐに即位式が行われる。

 王冠と杖はロサイス王から受け継いだ物を使うが、マントは俺専用で新しく作らせた。


 布は王冠や杖と違って劣化が激しいから、王が変わるごとに変えるのが慣例らしい。


 マントは誰に作らせようかと思ったら、エインズが名乗りをあげた。

 仕上がったのは紫色のマントだ。貝紫という色だそうで、物凄い金額を支払わされた。


 だが絹で出来ていて、着心地も良いので結構気に入っている。


 即位式は非常に面倒な段取りがある。

 まずロサイス王が斬り殺される。(演技的な意味合い)


 そのロサイス王を殺した、平たい顔のお面を付けた怪物……というか平たい顔族を俺が斬り殺す。(演技的な意味合い)


 そしてロサイス王の王冠と杖を俺が取り戻す。

 俺は王冠と杖を女神(役)に渡す。


 俺が女神に向かって跪くと、女神が王冠を俺の頭に被せて、杖を俺に持たせる。

 そして女神が手に持っていたマントを俺に着せる。


 そして俺が叫ぶのである。

 「私、アルムス・アス・ロサイスが第二十代国王として即位することを神々に宣言する!」



 これで俺の即位は成立した。


 ちなみにこの演劇は五百年前に初代ロサイス王が父の仇である平たい顔族を仲間と共に追い払い、ロサイス王家を創ったことに由来する。


 ちなみに仲間の中には初代ドモルガル王、初代ファルダーム王、初代ギルベッド王、初代ベルディベル王など六か国の初代国王を含む。

 ロサイス王家を含めて七王国。


 こう考えるとなかなか歴史が古いな。ロサイス王家。


 演劇の配役だが、初代国王は俺、その父親は元ロサイス王、女神はユリア、平たい顔族は近衛兵やバルトロなどの一部ノリの良い豪族だ。


 何はともあれ、無事に終わって良かった。


 俺がそう思った時だった。

 風圧を感じた。風が舞い上がる。


 人々は上を見上げ、悲鳴を上げて逃げ出す。

 何なんだ?


 俺は上を見上げる。何も居ないじゃないか。

 UFOでも見たのかな? 俺も見たかった。


 「……アルムス。後ろ」

 テトラが俺の後ろを指さす。

 俺は振り返った。


 目の前に鷹の顔が有った。

 胴体は獅子で、背中に大きな翼が生えている。


 体毛は美しい黄金色……グリフォン様!!


 「祝いに来てやったぞ。これは土産だ。あと酒を寄越せ」

 グリフォンは口に加えていた大きな鹿を落として、俺に血塗れの嘴を向けてくる。


 「一体何故……」

 「背中を押したのは我だからな。責任もって来てやった。暫く上で鑑賞していたが、まあ人間というものの番の契りは理解できん。目の前でその雌と交尾して繋がれば済む話だろうに」


 野性的過ぎますよ。それは。

 でもグリフォン様にとってはさぞかし退屈だったろうな……


 「は、初めまして……グリフォン様……」

 「ああ。その男を頼むぞ。アホだからな。それに優柔不断で、グダグダと決まったことを永遠に悩む面倒な奴だ。だが案外背中を押せばすぐに動く。上手く乗りこなせ」


 何か散々に言われてるな……事実なのが悔しいところだけど。


 「グリフォン様!!」

 ロンたちがグリフォンの周りに集まる。

 久しぶりに出会えて、みんな嬉しそうだ。


 「おい、貴様ら。貴様らは群れのボスの直属の部下。つまりそれだけ群れが得る収益の分け前が大きくなったこと。我に育ててもらった恩は酒と供物で返せ」

 育てたのは俺だけどな。


 最後にグリフォン様は俺に向き直る。

 「お前は晴れて群れのボスになったのだ。酒と供物の量は増やせ。あと新年に一度などとケチケチするな。一か月に一度だ。まあ無理にとは言わないが」


 逆らえるわけないでしょう。

 あなたの場合はお願いと書いて、命令と読むんでしょ?


 「えっと、今回はそのために参ったのですか?」

 「ん? まあそれが三分の一。もう三分の一は背中を押した責任を果たすため。そしてもう三分の一は……」


 グリフォン様は俺の耳元に嘴を近づける。


 「この方が都合が良かろう?」


 俺はグリフォン様と戯れている俺たちを見て、驚き、ひそひそと話し、怯えた表情を見せる客たちを見る。

 ここに居るのは豪族だけではない。各国の王族や、その使者たち。


 俺がグリフォン様の息子だとか、そういう噂を裏付けるのには十分だ。

 多分アデルニア半島中に広まるんだろうな……


 「では我はそこの木の下で酒が出るのを待っている」


 グリフォン様はのそのそと歩き、木の下に寝っころがってしまった。

 客たちはそんなグリフォン様を避けるように離れていく。


 いや、一人だけグリフォン様に近づく者が居た。 

 ロゼル王国から来た黒髪の女だ。


 「こんにちは。グリフォン様。お久しぶりですね」

 「ん? ああ……貴様は……ああ、五百年前のエツェルの小僧の嫁か……」

 「はい。またお会いできてうれしいです」


 何か凄い気になる会話してるな。あの一人と一匹。


 「なあユリア。あの女の人は誰なんだよ? 知ってるか? 五百年前とか凄いこと言ってるぞ」

 「ああ……あの人ね。有名だから覚えて置いて。あの人の名前はマーリン。ロゼル王国の宰相にして、筆頭呪術師。五百歳を超える世界最古の呪術師で呪術の生みの親。そして平たい顔族の族長で空前の大帝国を造ったエツェル大王の元性奴隷にして、そのエツェル大王を殺害した魔女」


 へえ、凄い人なんだな……

 どう見ても十代後半くらいにしか見えないけど……まあ凄い呪術師なら五百年くらい生きるのも造作もないのかもな。


 ぜひ会話に加わりたいが……

 マーリンは挨拶が済むとすぐにグリフォン様の元から去ってしまう。


 そして俺のところに真っ直ぐ向かってきた。


 「申し訳ありません。そろそろ帰らせて頂きますね」


 優雅に一礼してから、マーリンは去っていった。






 即位式が終わり、客たちは帰って行った。

 宴会で発生したゴミを奴隷たちが片付けていく。


 それを見ながらロサイス王……元ロサイス王は言う。

 「後悔しているか?」

 「……していませんよ。必要だからやったんです」


 放って置けば必ず乱が起こる。テトラの時と同様に。

 戦争の犠牲者が増えてしまう。


 ……これでフェルム王と同類になったな。あの男も俺と同様に国を治めるためにやってたんだから。


 「アデルニア半島で流れる血は俺の代で終わらせます」

 「あまり背負い込み過ぎるな。お前には家臣や妻が居る。そのことを忘れないように」


 分かっていますよ。お義父さん。あなたも居ますしね。


 「終わったな。俺の役目も終わりか……」

 「何言ってるんですか。これからも生きて貰わないと。俺の後継人として……お義父さん?」 


 お義父さんは動かずに固まっている。

 バタリと倒れた。


 「誰か!! 先王が倒れた!! 来てくれ!!」

 ユリアを中心とする呪術師がすぐさま駆けつけて、先王を運ぶ。


 「お父さん!! 死なないで!!」

 ユリアが泣きながら叫ぶ。

 俺にはどうすることも出来ない……





 「何で生きてるんですか?」

 「何で生きていてはダメなんだ。死んでほしかったのか?」


 先王は元気そうに答える。

 あの後、懸命の治療により先王は何とか命を繋ぎとめた。


 そしてこうして元気に生きている。

 というか前よりも元気らしい。


 「俺は気付いたら花畑に居た。川が流れていて、その向こう側には父が居てな。俺は渡ろうとしたんだが父が言うのだ。『お前はまだ孫の顔を見ていないだろ!!』いやハッとしたな。うん」


 それで三途の川から引き返してきたのか。


 「それに後継者問題も解決して、心労も取れたしな。これからは孫を楽しみにしながら短い余生を楽しむとしよう。まあ、持って三年かな?」


 つまり三年以内に孫を見せろと。はあ……

 待てよ? 孫を見せたら死ぬんじゃないか?


 あ、でもまだひ孫を見てないとか言って戻ってくるかも。


 「もうお父さん……」

 「はは、すまんすまん」


 ユリアは何だかんだで嬉しそうだ。

 まあ、良かったってことでいいか。








 「なあユリア。あのリガル・ディベルの変死、どう思う?」

 「どうって……あれは加護の反転って言うらしいよ」


 反転ね……

 なるほど、加護って反転するのか。


 リガルは俺と同じ加護を持っていた、つまり俺も下手したらああなるのか……


 「『看破の加護』で見えなかったのか?」

 「うん……あの時初めて。今なら見えるよ。しっかりとね。どうしてか分からないけど……多分都合が悪かったんじゃないかな? だから見えないようにしていた」

 「都合ね」


 妖精さんの都合か。一体どんな都合なんだか。

 少なくとも楽しい都合じゃないってことだけは分かるな。


 「それで反転はどんな効果なんだ? 発動条件は?」

 「えっと……効果は自分を王と認めていた人間の数だけ体に負荷が掛かる。条件は多くの眷属を失い、負けを認め、大王として相応しく無くなった時……だそうだよ」

 「相応しくないね……つまり基準は妖精さんしだいか」


 怖いな。俺も同じようなことが起こるかもしれない。


 「なあ、ユリア。他にも見えていない効果があったりしないか?」

 「……どうかな? あるかもしれない。都合の悪いことがまだまだあるなら」

 「そうか……じゃあ……」


 俺は言葉を一度切ってから、ユリアを見つめる。


 「眷属が望むような行動をするように思考を書き換えられる……という効果はあるかな?」

 「……今、見えたよ。うん、あるみたいだね。どうやら私がその効果に感づいたりすると封印が解けるみたい。これ以上隠しても無駄って開き直る感じかな……」


 ……やっぱりあるんだな。


 最初におかしいなと思ったのはフェルム王との戦いが終わり、テトラとの結婚が終わった後だ。

 あの時、確かに俺は戦う必要は無いんじゃないかと考えた。

 でも次の瞬間、戦わなければならないという義務感に追われていた。


 あの時の頭痛で書き換えられたのだろう。


 俺がロンたちにユリアとの結婚について相談しなかった最大の理由がこれだ。

 したくても出来なかった。したら加護が発動して、強引に王に成るように誘導されたかもしれないから。


 でも今俺が王に成ったのは俺の意思のはずだ。

 間違いなく、確かに、多分……


 「怖いな……自分が自分じゃ無くされるのは……」

 俺はユリアにしな垂れかかる。

 これじゃ碌に相談出来ないじゃないか。


 「私が居るから大丈夫。あとテトラも。彼女はもう眷属の枠組みには入ってないでしょう?」

 「ああ、入ってないよ。最近は誰が俺にどれだけ忠誠を誓っているか分かるようになってきたから。テトラの感情は男女や夫婦の愛であって、忠誠心じゃない」


 最近は徐々に俺も支配者として認められてきたのか、身体能力が日に日に向上しているのを感じる。

 残念なことに、加護の影響を受けて身体能力が向上する『眷属』の数は増えていない。

 まあ、眷属の条件には主人のために死ねると思えるほどの忠誠が必要のようだし。

 そんな重い忠誠を抱けるのは極少数だろう。


 ボロス、バルトロ、ライモンドの三人は俺にそれなりの忠誠心を持ってくれているようで、俺の身体能力上昇に貢献している。

 だが彼ら自身の能力が上昇するほど、俺に忠誠心は持っていないようだ。


 というかほとんどの人間はそうなんだけどね。

 でも彼らには相談できないな。


 立場的に。


 「ムツィオとは友達だが……あいつとも無理だしな。そうだな……これからはユリアとテトラに随分と頼ることになりそうだ」


 だけど対策は練らないとな。

 俺の支持者が望んでいることが必ずしも良いこととは限らない。


 支持者は時に過激化するモノだ。


 大王の加護の副作用が原因で、不利益な戦争に突入するかもしれない。

 何か、俺自身を止めてくれるような機関や人間が必要だな。


 バルトロやライモンドは止めてくれるかな?


 

 「まあ、その辺はゆっくりと考えていこう。改革することが山ほどある」

 この国の権力は豪族から国王である俺に移った。

 中央集権化を一層進めるために、そして権力のバランスを図るためにも行政や法の改革が必要不可欠だ。


 「でもそれをする前にすることがあるでしょ?」

 「そうだな。まずは次の後継者を作らないと」


 俺はユリアを押し倒す。


 「優しくね?」

 「ああ、安心しろ。結構自信があるから」

というわけで二章は終わりです

間章が三話あります

ここからが本番です

予定では三章で『起承』、四章で『転結』の二部構成で行こうかなと思ってます

あくまで予定です

アデルニア半島統一まではまだまだ時間が掛かりそうです


書き溜めが心許ないので、最長で二週間ほど休むかもしれません


間章はすぐに投稿出来ますが……

A案 このままのペースで三話投稿して、二週間の休み

B案 二週間の休みの後に三話

C案 二週間の間に散りばめる


どれが良いですか?

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