第六十五話 七日戦争Ⅱ
結構勢いで書いたので変なところがあるかもしれません
「まあ、良い。気を取りなおして、攻めようじゃないか」
トニーノは攻城兵器を前に出すように指示する。
攻城兵器はあらかじめ生産が難しい部分だけを首都で作って持ってきた。
それをテリア要塞に到着した後に組み立てたのだ。
投石器、攻城塔、梯子、破城鎚、船と盛りだくさんだ。
これだけあれば普通は落とせると思える戦力を持ってきた。
それに火の秘薬対策もしてある。
「さあ、攻城戦の始まりだ」
敵の攻城塔が水堀限界にまで近づき、弓兵が矢を放つ。
矢が雨のように注ぎ込む。
その支援の中、敵が船を使って水堀を渡り梯子を掛けて城壁を登る。
船を橋のように繋げ、その上を破城鎚を持った敵が渡り、城門に攻撃を仕掛ける。
「激しい攻撃ですね」
ペルムは飛んでくる矢に注意しながら漏らす。
「ですがこの程度では陥落しませんよ。こちらには守城兵器があります」
俺がそう言うのとほぼ同時に敵の攻城塔の一つが白煙に包まれた。
続いて爆音が響き、二つ目、三つ目と攻城塔が白煙に包まれる。
「火の秘薬ですか……」
「ええ、そうです。それを投石機とバリスタで飛ばしています」
イスメアはなかなか建築以外にもこういう兵器に対する知識も豊富だった。
彼女の指示で作らせたのだ。
投げ槍じゃ届かないからな。
イスメアに、バリスタが作れるなら弩は作れないかと聞いたら作れるという回答が帰って来た。
だが大量生産は無理とのことだ。
それに大して強くないらしい。
考えてみると、クレシーの戦いという実例もある。それに今の技術レベルでは大したものは作れまい。
それに大量生産が出来ない時点で弩の利点が潰れている。
残念だが、弓兵にはそこまで困って居ないので気にしないことにする。
「でも壊れてませんよ」
オルドビスが指摘した。
あれ? 可笑しいな。
「もしかして呪術師が数人がかりで物理結界を張ってるのか!」
他にも水を吸い込ませた布や毛皮を被せて燃えにくくしているとか……
「敵将もちゃんと考えているということか。でも……」
「ッチ、射殺しても射殺しても登ってきやがる!!」
グラムは悪態をつく。
グラムは積極的に敵の指揮官らしき兵を射殺しているが、敵の勢いは変わらない。
指揮系統の引継ぎが出来ている……
それだけ練度が高く、洗練された軍隊であることを示している。
さらに敵兵は金属製の盾を掲げているため、中々矢が刺さらない。こちらの使用している鏃は三割が鉄製で、七割が青銅製だ。これではなかなか難しい。
つまり先ほどの戦闘奴隷のようにはいかないということだ。
さらに時折石が飛んでくるため、安心して矢を射ている暇が無い。
「ダメだ……ロン、すまない。上がってきた奴の対応を頼む」
「了解。石落としたり、梯子外したりするのには飽きてきたところだよ」
そう言ってロンは剣を抜く。
ほぼ同時に敵兵が城壁を乗り越えてくるが……
「はい。お疲れ」
ロンは剣で敵を切り飛ばす。
敵は真っ二つに成りながら水堀に墜落し、水を真っ赤に染めた。
「さあ、俺たちの出番だ!!」
ロンたちは次々と湧き上がる敵を斬り殺し、水堀に落とす。
「危ない!」
ロンに飛んできた矢を一人の男がはじき落とす。
ディベル家からアス家に寝返った男。ヨゼフだ。
「よし、これで千人長に恩を着せれた!」(大丈夫でしたか、千人長!)
「うん、大丈夫だけど本音と建て前が逆になってるぞ?」
一方南門。
ここは少し押され気味だ。
「うーん、敵の攻撃が激しいな。こっちばかり兵士が集中しているみたいだ」
バルトロは酒を飲み干し、酒が入っていた壺を敵兵士の頭に落とす。
敵兵士は思わず手を放して頭を庇う。
そして梯子から落下する。
「酒飲んでる場合じゃないですよ。バルトロ様」
ボロスは槍を振りかざしながら登ってくる敵兵士を落としていく。
大忙しである。
「敵の司令官もなかなか嫌な性格してるね。勢いがあって、強そうな若者が司令官の北門じゃなくて、中年オヤジが守る南門を攻撃してくるなんてさ」
そう言いながらバルトロは巧みに弓兵を動かし、対応させる。
その指揮には無駄がない。
とはいえ指揮でカバー出来ることには限りがある。
次々と兵士が水堀を渡り、城壁を上がってくる。
かなり不味い状況である。
「仕方が無い。ここはアルムス様から頂いた新兵器を使おう」
ボロスは兵士二十名に筒を持ってくるように言う。
二十名は筒を下に向け、城壁をよじ登る兵士に向ける。
「放て!!」
筒から炎が噴出した。
炎をまともに喰らった兵士はあっという間に燃えながら墜落する。
突然の炎に驚いた兵士たちは驚きのあまり梯子から手を放してしまい、落下する。
炎で梯子が燃え、燃えながら水堀に落ちる。
水蒸気を上げながら梯子は水堀に沈む。
「いやあ、凄いね。確か火炎筒って言うんだっけ? これ作った奴は天才だ。イスメアさんかな?」
「お褒めの言葉、ありがとう。バルトロ」
いつの間に現れたテトラが答える。
「いやいや、奥様。危険ですぜ? あんたは呪術師でしょ。ここは大人しく……」
テトラの杖の周りに火の玉が五つ、浮かび上がる。
五つの火の玉は丁度城壁から顔を覗かせた敵兵の顔面に炸裂した。
「すみません。俺が間違ってました」
「宜しい」
そして改めてバルトロはテトラに尋ねる。
「あれはどういう構造ですか?」
「簡単。黒色火薬とオリーブオイルを混ぜて、風の魔術を生み出す魔法陣で吹きだす。そして筒の入り口の着火の魔法陣で火をつける。注意点は止める際には必ず風の魔法陣よりも先に着火の魔法陣を切ること。あれは常に風で炎が筒の外に出ているから中の燃料に引火しないだけで、風の魔法陣を切れば炎が逆流して爆発する」
「ひえ……なかなか怖い兵器ですね」
とはいえ火炎筒の視覚的恐怖はなかなかの物で、敵の兵士たちの足並みが悪くなる。
徐々にこちらが優勢になり、城壁を登り切る兵士の数が減っていく。
「まあ欠点は燃費が悪いことかな?」
「それと射程距離が短いことですかね? あれは籠城戦以外では使い難いですよ」
二人はそんな話をしながら、敵の兵士を切り裂いていく。
この日は特に戦況が動くことなく終了した。
「損失は?」
トニーノは報告を聞き、大きなため息をつく。
そして報告に来た兵士を下がらせた。
「大損害だな」
カルロはワインを飲みながら言う。
「まったくです」
今回、攻城塔と共に弓兵を多く失った。攻城塔と共に焼死、圧死してしまったのだ。
弓術は特殊技能で、訓練期間も長く、数を揃えるのが難しい。
「あの火を吹く筒とやらは面倒そうだな」
「あれ、反則ですよ。おかげで兵も怖気づいてしまって……」
とはいえ戦争で火炎放射器を使ってはならないというルールなどない。
「作戦を変更した方が良いんじゃないか?」
カルロは心配そうにトニーノに言う。
トニーノは首を横に振った。
「いえ、方針は変えません。問題ありませんよ。まだまだ時間はたっぷりとあります。敵兵が精強と言うのであれば……疲れさせるだけです」
「死者と負傷者は……まあ悪くない数字だな。あれだけの攻撃を受けたことを考慮に入れると」
俺の声は少しだけ喜びを含んでいる。
不謹慎なことだが元々居た村の仲間に死者が居ない。
もっとも俺が連れてきたのは二十七人中、十二人だけ。
その十二人のうち六人はロンやグラムの元で輔佐として兵士をまとめる役職に就かせているし、残りの六人は俺とテトラの護衛だからそもそも戦死し難いのだが……
これくらいの贔屓は多めに見て欲しい。
というか官吏であり、司令官である彼らを失うと領地経営が覚束なくなるので、特別な感情が無くても同じことをするのだが。
「さて、今夜は少量だが酒を出してやろうと思うんだが……ペルムさん、どう思います?」
「良いのではないでしょうか? 私はあまり戦には詳しくないが……緩急は必要だろう」
「俺も賛成だ。初日だしな。最初は華やかにいかないと」
バルトロも賛成を示した。
「あなたは酒が飲みたいだけでしょ……」
テトラがバルトロに苦言を呈する。
だがテトラも文句は無いようで、特に反対意見は言わない。
他の豪族たちも賛成を示す。
「グラムとロンは?」
俺が二人に聞くと、二人は首を横に振る。
「酒を振舞うのは良いと思います……そこには賛成。でも警戒は続けるべきだと思う」
「夜襲を掛けられて、全員酔ってましたじゃね」
もっともな意見だ。
「じゃあ何人か、酒が弱くて飲めない奴やくじ引きで負けた奴を見張りに出そうか。それに飲む量は出来るだけ自粛させよう」
アデルニア半島のワインのアルコール度数は非常に低い。
浴びるように飲まなければ酔っぱらう心配は無い。
「というわけで今日のところは解散としよう」
こうして一日目が過ぎる……と思われた。
「夜襲です!!」
俺は兵士に叩き起こされた。
「どうやらロンとロズワードの言った通りになったな」
俺は慌てて現場に向かう。
「うーん、数が分からないですね」
「どうやら篝火を消して、数が分からないようにしているみたいですな。つまり敵は少数で、目的はこちらを眠らせないこと」
オルドビスが自分の髭を撫でながら呟く。
「もしくはそう見せかけて本気で攻めてこようとしているのか……取り敢えず兵士を半分に分けましょう。半分は寝て、もう半分を対応に当たらせる」
敵の攻撃があまりにも激しかったら半分を叩き起こせばいい。
だけど……
「あまり熟睡は出来なさそうだな」
俺はため息をついた。