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第六十一話 騎兵Ⅴ

馬の名前、ありがとうございました

想像以上に多くの感想やメッセージが来て、少し驚いています

参考にさせて頂きます


感想とメッセージは返しきれませんが、全て目を通しています

これからもよろしくお願いします

 「改めまして、エクウス王様。ロサイス王の名代として参りましたユリア・ロサイスです。こちらはアス領の領主、アルムス・アスです」

 「アルムス・アスです。ユリア様の護衛と、輔佐として参りました」


 俺とユリアはエクウス王に頭を下げる。

 ロサイス王以外の王様と接するのは初めてだな。


 「よくいらっしゃった。私はエクウス族、族長。ロサイス王の国風に言うとエクウス王だ。まずは我が妻を助けてくれたことに感謝する」


 エクウス王はユリアに礼を言う。

 悪くない出だしだ。


 「さて貴国との同盟の件だが……私としては今一つ、魅力に欠ける。我が一族は貧しい。だからロサイス王の国から穀物は非常に助かる。だが命を掛ける代償としては安すぎる。それにドモルガル王の国を敵に回すというリスクもある。我々には宿敵のルプス族が居る。奴らはアリエース族を屈服させて以降、我らの縄張りに侵入を繰り返している。彼らとドモルガル王の国が結びつけば大きな脅威になる」


 ふむ、反対していた理由はムツィオの言っていた通りだな。


 「おっしゃる通りです。そこでご提案ですが……相互同盟はどうでしょうか? ドモルガル王の国が攻めて来たらエクウス族が我々と一緒に戦う。ルプス族がエクウス族に攻め込んで来たら我々はエクウス族と共に戦う」


 ユリアがエクウス王に提案する。

 これは悪くない話だ。ロサイス王の国は歩兵が中心とは言え、ルプス族よりも多くの兵力を持つ。


 確かエクウス族の人口は約三万、アリエース族が約一万、ルプス族が約三万ほどと聞いている。

 アリエース族はすでにルプス族に支配を受けているので、敵の人口は四万。


 騎馬民族は人口比に対する兵力が大きいというから……七割の二万八千とする。

 エクウス族が動員できるのは二万一千。


 七千足りない。

 だがロサイス王の国は計算上は八千以上の兵力を集められる。


 直接参戦しなくても、その存在は大きな抑止力になる。


 ユリアの提言にエクウス王は少しだけ悩むような表情を浮かべた。

 だが……


 「確かにそれは魅力的ですな。だが利益と損益が吊り合っている。利益に傾かなくては同盟を受ける理由が無い」


 確かにそうだな。

 だけどこの返しは予想済みだ。


 ユリアと共に話し合った。


 「エクウス王様。御一つ聞いても宜しいですか?」

 「何でしょうか?」


 エクウス王は怪訝そうな表情を浮かべる。


 「次のエクウス王は長男のメチル様ですよね?」


 これは話を切り出すために聞いているのであって、本当に知らないわけではない。

 エクウス王は次の後継者としてメチルを指名している。


 要するに話の大前提の確認だ。


 「そうだが……それが?」

 「条約に王太子(・・・)メチルと名を刻むのはどうでしょう?」


 それはつまり、メチル王子の即位をロサイス王の国が認める形になるということだ。

 当然、ロサイス王の国にエクウス族の王位継承問題に首を突っ込む権利も義務もない。


 だがこれは大きな牽制になる。


 「メチル様以外にも、次男のムツィオ様や三男のレドゥス様の名前も連ねて欲しいと思っています」

 当然王子(・・)として。


 つまりムツィオやレドゥスにメチルの即位を認めさせるような形になる。

 当然拒否することは出来ない。

 エクウス族の慣習法では家長の命令が絶対なのだから。



 内紛の可能性が少しでも減るのは大きなメリットだろう。



 それにこれは三の妃が相談したかどうかにもよるが……

 『我が国は貴国の後継者問題という弱点を知っている』という牽制にもなる。



 「ふむ……悪くない。だが問題が一つ。ロサイス王が危篤だということだ。次の代に同盟を受け継がせなければ、我が国が一方的に血を流すことになる」

 「それは問題ありません。次のロサイス王候補の方も同盟に関しては承諾しています。誰がとは具体的に言えませんが」


 ユリアが答える。

 だがエクウス王は首を横に振る。


 「口だけではな。文字として残してほしい。アルムス・アス殿。貴公のサインが欲しい」


 はいはい、分かりました。サインすれば……ええ!?


 おい、何でバレてるんだよ!!


 「その様子だと本当のようだな。一つ忠告しておくが、接吻は鼠の目の無いところでやることだ。それと王になる前に表情を隠す訓練をした方が良い。ユリア殿も」


 クソ……

 表情を隠せばただの浮気で済んだのか……


 よし、今度からキスする時は絶対に安全な場所でしよう。


 「えっと、このことは……」

 「安心して貰いたい。私は恩を仇で返すような真似はしない。三の妃の件、ユリア殿は大きな配慮をしてくれた。私も沈黙を貫こう」


 要するに黙って欲しければ呪いのことも黙れと。

 カウンターを受けてしまったな。


 「条約には次代王でも無く、アス領領主でも無く、アルムス・アス殿個人としてのサインが欲しい。宜しいだろうか?」


 つまり「もう領主じゃなくて王だからこの条約は失効ね」は許さないと。

 まあ元々そんなことをする気は無いけど。


 「分かりました。サインしましょう」

 「では、今夜は宴としよう。その後、サインを」







 「宴か。どんな料理何だろう。楽しみですね。兄さん」

 「そうだな……まあ羊の肉とか馬乳酒とかだろ。あとはチーズとか」


 あまり期待はしていない。

 食べ物はロサイス王の国よりもずっと貧相だからだ。



 だが早速宴が始まろうという時だった。

 鷹便が届いた。




 『ドモルガル王が兵力を集めている。数は一万以上。同盟締結を急げ。明日までに締結できない場合は至急帰還せよ。作戦の練り直しが必要になる。ロサイス王』



 さて、宴の場合ではないな。



 「申し訳ありません。エクウス王様。このような宴の席を用意して貰ったというのに……」

 「頭を上げてください。祖国の危機ならば仕方がありません。宴を取りやめて明日の朝までに向かわせる兵を選別します。何人必要ですか?」

 「三百人ほど。指揮官はムツィオ様にお願いできますか? それと馬を貸していただけませんか? 荷馬車に必要なので。略奪品を持ち運ぶ用です」


 俺はユリアの代わりに答える。

 エクウス王は機嫌が良さそうに答えた。


 「勝つ前から略奪品の心配とは。随分と自信がお有りのようだ。いや、皮肉ではない。褒めているのだ。馬ならいくらでも。貸すだけなら無料で結構。生きて返すことが前提だが。さて、ムツィオ!! お前は明日の朝、ロサイス王の国に向かえ!!」


 それにムツィオは跪いて答える。


 「ハ! ドモルガル王の国とロサイスの国に我らエクウス族の名を轟かせてまいります!」



 慌ただしく戦の準備が行われた。








 「ロサイス王様! 唯今帰還しました」

 「よく帰って来た。それにしても想定より一日早かったな。これが騎兵の機動力か……」


 ロサイス王は驚きの表情を浮かべて、感嘆の声を漏らした。


 俺は隣に座っているムツィオはロサイス王に頭を下げた。

 「ムツィオ・エクウス・ヌディアス。エクウス族族長の次男です。今回エクウス騎兵三百を率いるために参上しました」

 「援軍、感謝する。ムツィオ殿にはそこのアルムスの指揮に入り、戦って貰う。では早速作戦会議……いや、確認をしよう。その後、急いでアルムスはアス領に戻り兵を組織しろ」





 豪族はアルムス・アス以外全員が揃っていた。

 すぐに総大将をアルムス・アスにすることが発表された。


 あらかじめ知らされていたアス派は内心では笑いを堪えながら喜びの声を上げた。

 知らされて居なかったアス派は戸惑いながらも喜びの声を上げた。

 中立派は戸惑い、困惑の表情と声を上げた。

 そしてディベル派は怒りの声を上げた。


 豪族会議には豪族以外の王族も参加できる。

 よって票数は僅かに賛成が上回り、アルムス・アスが総大将になることが無事に可決した。


 リガル・ディベルは自分を総大将にしなかったことに抗議した。

 ロサイス王はそれに一切取り合わなかった。


 リガル・ディベルは三人の部下にそれぞれ百、総勢三百をアルムス・アスの指揮下に入れた後、自分自身はドモルガル王の国との国境線を固めて背後を取られないようにすることを名目に、五百の兵とともに自分の領地に篭ることを宣言した。


 アルムス・アスはそれを笑顔で認め、共に戦おうと手を差し伸べた。

 リガル・ディベルはその手を払いのけて、無言で帰って行った。


 そんな彼の横にはいつもの老人の姿は見られなかった……


次回は戦争……の前に工作です

戦争は六十四話からです

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