第五話 農業と家畜
土地を開墾する。
言葉にすれば簡単だが、それは恐ろしく骨が折れる作業である。
まず木を伐り、草を切り、根っこが大量に混ざっている硬い土を掘り起こす。
こうして始めて畑が誕生する。
だが植物に必要なのは畑だけではない。大事なのは水だ。
つまりどっかの川から水を引かねばならない。
まあそんな面倒くさいことはしたくないので、川の近くの土地をどうにかする予定だが。
素人考えだが一年有ればそれなりの物ができるのではないだろうか?
というか出来てもらわないと困る。
狩猟なんかも頑張るつもりではあるが、三十人分を狩猟で賄うのは厳しいだろう。
逆に農業だけも厳しい。
両方やる必要性がある。
で、本題に入るがまずはどこを開墾するかである。
一体どんな土地が農業に適しているか分からない。というかこの森の木を切ってもいいかどうかグリフォンにお伺いを立てねばならない。
ダメと言われたらどこか別の場所を探す必要がある。
「というわけなんですがどうでしょう?」
「別に構わん。我の領地は森の奥深く。そこを荒らさないのであれば火を放とうが木を切断しようが好きにするといい」
意外にあっさりと許可が出た。拍子抜けだ。
「お前たちは本当に土を引っ掻くのが好きだな。我にはあんな面倒なことはできん。あ、そう言えば……」
「そう言えば?」
「確か三十年前に人間がこの森に村を作ったことがあったな。疫病が流行ったのが原因で放棄したようだが。そう言えば奴ら、我の祟りとか言っておったな。全く心外だ」
ぶつぶつと文句を言い始めるグリフォン。
だが俺にとって重大なのは村が滅んだ理由ではない。
「そんな便利な場所があるなら最初に言ってくださいよ! どこにあるんですか?」
「うむ……我も昔のことだから記憶が定かではない。それに興味などないからな。取り敢えず乗れ。空から見れば分かるだろう。分からなかったら諦めろ」
そう言ってグリフォンは俺に背中を見せてきた。
いや、乗れって……
落ちたら死ぬじゃん。
「早くしろ」
「了解いたしました」
とはいえ一体いつ気が変わるか分からない。それに三十人の命が掛かっているのだ。乗るしかない。
俺はグリフォンの背中によじ登る。こうして登ると改めてこいつの大きさが分かる。
もし俺が美味しそうだったら一飲みで食われていたんだろうな……
「行くぞ」
「っひえ」
口から変な声が出た。
下腹の辺りがフワっとする。
俺ジェットコースター苦手なんだよな……
グリフォンの奴は俺に構うことなくどんどん高度を上げていく。
ふと下を見てしまった。
「うわあああああ!!!」
「おい、騒ぐな。首を絞めるな!」
俺は思わずグリフォンを強く締め上げてしまう。
命綱もなしに空を飛ぶとか怖すぎる。
歯が自然とカチカチと鳴る。
「……漏らしたらどうしましょう?」
「突き落とす」
そんなやり取りをしていると、突然グリフォンが止まる。
「確かこの辺だったが……あったぞ。喜べ」
俺は恐る恐る下を見る。
やっぱり内臓がふわっとする。
が、怖い思いをした甲斐があった。
確かにそこには不自然に木が少なく、家らしきものの残骸があった。
「降りるぞ」
「ちょ、早い。早い!!!」
俺は絶叫を上げた。
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「ふむ。やはり一部森に呑まれているが……まあ一から作るよりはマシではないか?」
「そうですね」
村の跡地は俺が思っていたよりもかなり良い土地だった。
村の中心には川が通っていて、真水を得るのも簡単そうだ。
竪穴式住居はほとんどが壊れていたが、中には修理すれば使えそうな家もある。
さすがに畑は雑草まみれだが、掘り返せば問題ない。少なくとも一から作るよりも簡単である。
問題は子供の力だけで農業ができるのかという根本的な問題だが、俺は多分出来ると思っている。
日本の班田収授法では口分田を六歳以上の男女に与えていた。確か二十アール前後の広さと教科書に書いてあった記憶がある。
確か一石(成人男性が一年に食べる米の量)が一反(十アール前後)だった。
日本の古代六歳児が二十アールを耕せたなら俺たちもできるはずだ。
まあ、実際に耕したのは親だろうけど……
それでも三分の一くらいは自分で耕したのではなかろうか。まさか大量の子供の口分田を親二人ですべて耕したわけではあるまい。
こっちには古代農民が持っていなかったであろう鉄製農具もある。
それに後で牛か馬を仕入れて、耕させるつもりだ。
多分いける。
ダメだったらグリフォンに手伝ってもらおう。こいつなら畑を掘り起こすくらい朝飯前だろうし。
「いやー、ありがとうございます。このままだと一から畑を作らなければならないところでしたよ」
「別に我が耕したわけではないがな」
「ここの連中が出ていったのはあなたのおかげじゃないですか」
グリフォン様様である。こいつが居なかったら何もかも始まらなかった。まあこいつが俺に頼んできたのだから協力するのはある意味当然とも言えるが。
「ところで一つ聞いても良いですか?」
「何だ?」
「飢饉が起こったんですよね? 原因は何か知っていますか?」
ずっと疑問に思っていた。
テトラちゃんの言葉から飢饉が起こったということだけは分かったが、飢饉にもいろいろある。
作物の病気、イナゴなどによる食害、嵐などによる直接的被害、気候による不作。
理由が分からないで農業を始めれば二の舞を踏むことになる。
子供たちに聞くのは少々無神経なので、グリフォンに聞いてみる。
「子供たちの会話からおそらく作物の病だ」
「何の作物の病ですか?」
「すべてだ」
「は!?」
全ての作物が死ぬ病気? 何それ、無敵過ぎるだろ。
「全部って言うのはあれですか? 麦から果物まで全て?」
「そのようだ」
何だそりゃ。
小麦や大麦なんかの親戚同士が同じ病気に掛かるならまだ分かるが、小麦と葡萄とかいう他人同士が同じ病気に掛かるのか?
人間が魚の病気に掛かるようなものじゃないか。
「我も疑問に思い、考えてみた。聞くか?」
「お願いします」
「我は呪いだと思う」
聞いて損した……
「何だ? その顔は。呪いは実在するぞ」
「証拠は何ですか?」
「我とお主が会話していることだ」
それを言われると俺も黙るしかない。
まあ確かに異世界転生や加護が実在するなら呪いの一つや二つ、あっても可笑しくないかもしれない。
でも誰が呪いを掛けるんだよ。
「お主らは同種同士で殺し合いをするのが大好きな種族ではないか。どこかの群れが他の群れの力を弱めようと謀るのは可笑しなことか?」
「うーん、そう言われるとそうなんですけどね」
遠方から呪うだけで敵対している国の国力が落ちてくれればこれほど嬉しいことはない。実在するなら便利なツールだ。
「これほど広範囲の呪いだ。相当の術者が居るのだろうな」
「感心している場合なんですか? それまたやられたら俺たちが農作業をしても意味が無くなっちゃうじゃないですか」
「ん? 大丈夫であろう。人間は臆病だからな。我が領地とその領地に近い森に呪いを掛けるとは思えん。それに呪いはそう何発も連発できるようなものではない」
そういうモノなのか……
こいつの方が俺よりもこの世界の事情に詳しい。
こいつが大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。多分。
「じゃあ子供たちをここに呼び寄せますか」
「うむ。だが移動は明日にしておいた方が良いぞ。今からやれば日が暮れる」
グリフォンは太陽を見ながら言った。
現在、太陽は真上から少し傾いている。
午後二時といったところか。
ここは洞窟からかなり南にある。
大人の足ならともかく、幼い子供の足だ。日が暮れてしまう。
グリフォンに乗っていけばあっという間だろうが、こいつはそんな重労働嫌がるだろう。
それに子供たちも遠慮してやらないだろうし。
「では背中に乗れ」
「うっ……やっぱり乗らなきゃダメか……」
俺は悲鳴を上げながら帰路についた。
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「というわけでここが俺たちのニューホームだ」
「おお!」
子供たちが歓声を上げた。
「で、リーダー。まずは何をするんだよ」
ロン君が言った。
「リーダー?」
「い、いや別にお前のことを完全に認めたわけじゃないんだぞ。ちょっとだ。ちょっとだけ認めてるだけなんだからな!」
「ロン君……もっと素直になりなよ」
俺の目の前でロン君とソヨンちゃんが喧嘩を始める。
可笑しいな。俺、まだ成果出してないだろ。鉄剣を鉄製農具と交換しただけだぞ?
俺がそう思っていると、テトラちゃんが俺に耳打ちしてきた。
「あなたが来るまでこの集団はグダグダだった。何か意見がでると反対意見で潰れて、だからといって反対を言った側には代案がない。小さい子供が母親に会いたいと駄々をこねて泣きだし、ロンとロズワードが喧嘩をする。それが今、この状態にまで持ってこれた」
「俺が良かったというよりも前が悪かったって感じだな」
俺は苦笑した。正直誰にでもできることだと思う。
でもその誰にでもできるは大人基準だ。子供には出来ない。
俺からすれば鉄剣を何かと交換するという発想は普通の気がするが、ロン君達にとっては奇抜な発想に思えたのだろう。
「買いかぶり過ぎだよ。この廃村もグリフォンのおかげだったしね」
俺は呟いた。
「で、何を育てるんだよ」
ロズワード君は俺を睨みつけて聞いてきた。何でこの子はこんなに高圧的なのか……
子供なんてこんなものか。
「輪栽式農業をやろうと思う」
「りんさ? 旨いのか?」
いや、多分美味しくない。
「ざっくり説明すると、大麦(春蒔き)→クローバー→小麦(秋蒔き)→カブ→の順番で四年周期で育てるんだよ」
子供たちによると今が小麦の刈り入れ季節らしいので、残念ながら小麦は来年である。
今の季節から考えるとカブから育てることになりそうだ。
「何でそんな面倒くさいことするんだよ」
「畑って長い間使ってると作物の育ちが悪くなることは知ってるよね? クローバーは畑に力を与える効果があるんだよ。そうすることで年中作物が育てられる」
俺も詳しくは知らないんだけどね。
歴史と地理で習った程度なので、細かいところは子供たちに劣る可能性もある。
農業も孤児院での家庭菜園程度だし。
ロズワード君はまだ首を捻っている。さっぱり分からんという表情だ。でも俺も詳しく説明できる自信が無いので実体験してもらうしかない。
「ほ、他には何か育てるんですか?」
「葡萄とかオリーブとか。こっちはできればだけどね」
俺はグラム君の問いに答える。
子供たちの話を整理すると、この辺の気候は地中海性気候に属するようだ。
だからぶっちゃけて言えば輪裁式農業とはあまり相性がいいとは言えない。幸いこの村は川が近くにある良立地なので可能だけど。
本当に相性がいいのは葡萄やオリーブ。だが葡萄やオリーブは育つまでは時間がかかるし、三十人分の腹を満たせるかどうか疑問が残る。
ついでに言うと、葡萄やオリーブの栽培に適するのは水はけの良い斜面。この村は平地だ。
平地でも出来ないことはないと思うのでゆくゆくは栽培したいが。
「じゃあ早速方針は決まったところで……」
子供たちの視線が一斉に俺に向く。
「まずは家を修理しようか」
俺はボロボロの竪穴式住居を指さして言った。
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本当の第六話 家畜
輪裁式農法で大切なのは家畜だ。
冬でも家畜が育てられるというのが輪裁式の利点なのだ。
さらに地力の回復にはクローバーだけでは足りない。クローバーの生えている土地に家畜を放すことで、糞が肥料になる。そこが大切なのだ。
「だから家畜を連れてこようと思う」
俺は子供たちの目の前でそう言った。
子供たちはふーんといった表情をしている。多分ほとんど理解していない。
「でもさ、飢饉の後だから家畜の交換は厳しいんじゃね?」
「東のロサイス王の国と交渉する。あそこは鉄器が無いんだろ? 十本くらい持ってけば牛の一頭、二頭ぐらいは貰えるさ」
牛が居れば耕すのがずっと楽になる。
現在労働力が子供だけの状況を打開するにはせめて一頭は牛が欲しい。
「大事な食い物を交換してくれるか?」
「俺が村の村長だったら牛と鉄器を交換して、その鉄器を国に献上することで税を免除して貰うけどね」
牛の一頭、二頭を潰したところで養える人間の数は限られている。
鉄器を使って食糧を奪うために戦争をした方が腹が膨れる。そう判断する人間も多いはずだ。
「ただ問題が一つ」
「何ですか?」
「俺は牛の扱い方が分からん」
子供たちがズッコケた。
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「あの……私、多少扱えます。両親が家畜を育ててたので」
「へー、じゃあよろしく頼むよ」
家畜なんて高いものを飼っていたのに口減らしに出される理由は少々謎だが、たぶんいろいろ有ったんだろう。深くは聞くまい。
「あと誰か一人、欲しいな」
「じゃあ俺が行くよ」
ロン君が立候補してきた。
想像どうりだ。ロン君とソヨンちゃんは必ず一セットだから。
「じゃあ行こう。テトラちゃん!」
「だからなぜ私が……」
「テトラちゃんは物知りだろ? 騙されるかもしれないから付いてきてくれよ」
ちなみにロン君とソヨンちゃんの二名は前に鉄器と農具を交換した村の出身らしい。気まずいので行かなかった。
逆にロズワード君は今から向かう村の出身だ。
テトラちゃんの出身地は知らない。
本人が教えてくれないからだ。一つだけ分かるのは結構物知りだということ。
「そう……で、牛だけなの?」
「正直牛は一頭でいい。牛の分を埋め合わせるためにヤギを買う」
ヤギは肉も乳も不味いが、粗末な食糧でも生きてくれる。出来れば雄雌セットで購入したい。
「持っていく鉄剣は?」
「余裕をもって十五本。これだけあれば何とかなるだろ?」
十本で十分交換できそうだが、念には念を入れる。往復するのは手間だし。
「じゃあレッツゴー」
俺がそう言うと、テトラちゃんは力なく笑った。そんなに嫌か。
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「というわけで交換しませんか?」
「うーむ、こちらは食糧が無くてな……」
渋りだす村長。そりゃあそうだ。
俺は笑顔を保つ。
「鉄剣を国へ献上する代わりに税の免除なんてどうですか? 国の偉い人達は鉄製の武器が欲しくて堪らないと思いますよ?」
ロサイス王の国は錬鉄技術を持って居ない。
だから北の国々と交易することで鉄を輸入している。鉄は戦争にも農業にも必須の資源。当然吹っ掛けられるし、ロサイス王の国が強国にならないように制限もされているはずだ。
他にも戦争中の国と食糧の交換という手もある。
この鉄剣はどれもこれも仮にもグリフォンを倒そうと考えた勇者が持ってきたもの。良質な鉄が使われている。それこそ平時なら両手を叩いて交換しても良いくらいのものだ。
「ふむ……それはいいかもしれないな……」
村長は首を縦や横に何度も振りながら悩み始める。長いぞ。早くしろ。
「無理なら別に構いませんよ。他の村を当たるだけですから」
俺がそう言って立ち上がるそぶりを見せると、村長はとたんに慌てだした。
「決めたぞ! 交換する。何が欲しいのだ?」
「牛が一頭欲しいですね。あとはヤギを五頭。どうですか?」
少し強気に聞いてみる。ヤギは正直三、四頭でいい。五頭となると育てきれるか不安がある。
「ヤギを五頭……少し厳しいな……二頭でどうだ?」
「では鉄剣を二本追加しますので、その代わりにヤギを四頭にしてください」
村長は深く頷く。納得してくれたようだ。
これで労働力と栄養の高い乳が手に入る。
俺は安堵した。
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「よし、これでいいか」
俺は柵に入ったヤギと牛を見る。
柵は俺が適当に作ったのであまり丈夫ではない。あとで補強する必要性がある。
逃げられてしまってはいろいろと不味いので、グリフォンに頼んで脅してもらっている。脱走したら食い殺すぞと。
グリフォンの奴は無実の動物を脅すことはできないと言いながらも結構ノリノリだった。
まあ別に食用じゃないし。
牛とヤギもただで飯がありつけるのだ。文句はないだろう。
え!? 自然界に生えてる草はみんなただだって? いや、それはあれだよ。狼とか肉食動物に食われるリスクが少ないじゃん? たぶん。
「こんなに急いでヤギを飼う必要性あったの? めんどいだけ」
テトラちゃんがそう言った。
まあ気持ちは分かるけどね。労働力になる牛ならともかく、ヤギはそんなに必要性がない。今から大麦を植えなければならないというのに、ヤギの世話という面倒な作業をする必要が出てしまう。
だが俺には急がなきゃいけない理由があった。
「ヤギの乳はさ、不味いけど栄養があるんだよ」
「……」
テトラちゃんが怪訝な顔をする。
「グリフォンの奴が持ってくるのは木の実とか肉ばっかりだろ? カルシウムが無いんだよ。カルシウムが無いと骨が脆くなる。それはこの世界では致命的だと思うんだよ。だから少し無理してヤギを貰ってきた」
「ふーん」
「分かってくれたか?」
「あなたが私たちのことを考えていることだけは」
そう言ってテトラちゃんは笑った。
そう言えばテトラちゃんの笑顔を見るのは初めてだな。
「ねえ名前はどうするの?」
ロン君がヤギを撫でながら言った。相当気に入ったらしい。
「ヤギは右から順に一号、二号、三号、四号。牛も一号」
「え……単純すぎですよ! 可哀想です」
ソヨンちゃんが口を尖らせて抗議した。
「可哀想って……こいつらは家畜だよ。友達でも家族でもペットでも無いんだ。もしかしたらこいつらを食べなきゃいけない時が来るかもしれない。名前を付ければ家畜じゃなくてペットになる。辛くなるだけだよ」
日本では犬などのペットを殴れば動物虐待になる。
だが豚や牛を屠殺するのは犯罪にはならない。
当たり前のことだが、ペットと家畜は違う。
家畜は人間の道具なのだ。情を移してはいけない。
名前を付ければ家畜ではなくペットになってしまう。
子供たちに情を移さないように世話をしろというのは無理かもしれないが、せめて名前を付けるのだけは避けて欲しい。
「そうか……食べるかもしれないのか……」
子供たちが哀しそうな顔でヤギや牛を見る。
なんか葬式みたいな雰囲気になってしまった。
別に食べるのが確定したわけではないんだが……
「まあヤギの肉は不味いからよほどのことがない限り食べることはないよ。牛は大切な労働力だしね。そうならないためにも農業を頑張ろう」
俺は子供たちの気分を変えるために大声を上げてそう言った。
「取り敢えず、畑だったと思われる場所に生えている雑草を何とかしたいんだけど……刈り取るよりもヤギや牛に食べてもらった方が早い。畑にこいつらを移そう」
俺たちはヤギや牛を畑に誘導する。
グリフォンの脅しが効いているのか、それともソヨンちゃんの指導がいいのか、はたまた草を食いたいだけか。どちらにせよ牛とヤギは大人しく畑に入ってくれた。
畑は大して広くない。
元々この村は竪穴住居の数から推察するに村人百人ほどの小さな村なのだ。
ある程度草を食べ終わってくれたら早速畑を耕しに入る予定だ。
元畑なので比較的柔らかいと思うが、子供の力。
一応ツルハシも手に入れたが、ちゃんとできるか……
まあこの半年は対して収穫に期待していない。
一年間は確実にグリフォン様が養ってくださるわけだし。
焦りは禁物だ。