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第四十八話 密会

今日はクリスマスだから三回更新します

サンタ(三多)だから


書き溜めが枯渇しそうですけど


本当はクリスマス特別話でもやろうと思いましたが、ユリアがこの状態でそれをするのはアレかなと思ったので

 「ユリア。久しぶり」

 「ええ、久しぶり。来てくれてありがとう」

 「お前が呼び出したんだろう」


 会場でユリアが渡してくれた手紙には、『満月の夜に湖で』と書かれていた。

 その指示通りにここまで来たのだ。


 「てっきりユリア(・・・)とはもう会えないと思ってたよ。前はアルムス殿()とか言うからさ」

 「あなただってユリア()とか言ったじゃない」


 ユリアはそう言って微笑む。


 「少し話をしない?」





 「ねえ、初めて会った時のこと覚えてる?」

 「ああ、覚えてるよ。君が蝶で俺を誘い出したんだよね?」

 「そうそう!」


 二人で湖の岸辺に座って、昔話に花を咲かせる。


 「私の裸を見たこともあったよね?」

 「それは割りと最近だったような気がするな。確かその後にロサイス王に会ったんだっけ」

 「テトラとどっちが綺麗だった?」


 ユリアは悪戯っぽそうに笑う。


 「まあ、胸はお前のほうが大きいよ」

 俺がそう言うとユリアは顔を真っ赤にさせて胸を押さえた。


 「もう……」

 ユリアは怒ったように声を上げながらも嬉しそうに笑った。


 「ねえ、アルムス……」

 ユリアは俺を真っ直ぐ見つめる。


 「私はあなたのことが好き」

 「ああ、知ってるよ」

 当たり前だ。知らないわけがない。


 「私のこと好き?」

 「当たり前だろ」

 俺がそう言うとユリアが俺の唇に自分の口を合わせてくる。

 俺の口の中に舌が入り込んでくる。


 俺はそれを受け入れて、ユリアの口の中に自分の舌を入れてかき回す。

 二人の舌が何度も絡み合う。


 「んっ!」

 舌を動かしてユリアの弱い部分を探り当て、そこを集中的に撫で回す。

 ユリアの舌を強引に吸い上げ、唾液を飲み込む。


 息が苦しくなり、舌を離すと二人の間に唾液の橋が架かる。


 「すごい上手になったね?」

 ユリアは息を上げながらそう言うと再び俺の唇に吸い付いてきた。

 俺はユリアの肩を掴み、押し倒す。

 そして……





 「危ないところだった」

 あと少しでロサイス王との約束を破るところだった。


 「もう、結婚して一年しか経ってないのに……駄目じゃない。浮気しそうになるなんて」

 「浮気させようとしたのはお前だろ」


 キスしかしてないから多分セーフだ。多分……


 「アルムス」

 ユリアは真剣な顔で俺を見つめる。

 そしてその場に跪き、頭を深く下げる。


 「お願いします。私と結婚してくれませんか?」

 「それには答えられない」


 俺がそう言うと、ユリアは泣きそうな顔をした。


 「どうして? 私のこと嫌い?」

 「違う。大好きだ。テトラと同じくらい……それ以上に愛している」


 妻が居るのに俺は何を言ってるんだ……


 「じゃあどうして? テトラに悪いから?」

 「それもある。でも一番の理由は違う」

 俺がそう言うと、ユリアは瞳から涙を流しながら叫ぶ。


 「何? 私と結婚すれば私のことを好きにできるよ? テトラにも負けない!! それに私と結婚すればロサイス王の国の継承権も手に入る!」

 「それが問題なんだ!!」


 俺は声を思わず張り上げた。


 「もしだ。俺が君と結婚したとしよう。そうしたらどれくらいの人間が俺の王位継承を認める? ロサイス王家の親戚と、バルトロを中心とした極僅かの反ディベル派だけだ。それに彼らは俺を慕って王と認めているわけじゃない。ディベル家が嫌いだからだ。それにリガル・ディベルが大人しく認めるか? 認めるはずがないだろ。内乱が起こるぞ」


 フェルム王との戦いは必要に迫られてのことだった。命が危なかったから仕方がなく危険を冒してフェルム王を排除した。

 だがこの内乱は俺がユリアと結婚しなければ回避できる。

 ユリアには苦痛を強いるけど……それでも必ず死ぬわけじゃない。


 それに内乱が起こったとき、俺は第三者じゃない。その中心人物だ。

 その時傷つくのは誰だ? ロン達じゃないか。


 そんなこと出来ない。

 だけど……


 「でも俺は君をリガルなんかに渡したくない。だから……少しだけ返答を待ってくれないか?」

 本当はすぐに断らなきゃいけないんだろう。リーダーとして、領主として。


 でも俺にはそれが出来ない……


 「分かったよ。あと五ヶ月待ってあげる。それまでに結論を出して。そうしないと……」

 ユリアは俺に抱きついて言う。


 「私はリガルと結婚しなきゃいけなくなる」






 「ねえ、どこに行ってたの?」

 「ユリアのところだよ」

 俺が正直に言うと、テトラは少し驚いた表情をする。


 「そういうのは隠すものじゃない?」

 「隠しきれる自信がない。お前は頭が良いから」


 下手な嘘をついてもすぐにバレてしまうだろう。

 正直に言ったほうがマシだ。


 「結婚してって頼まれた?」

 「よく分かるな」

 「女の勘」


 テトラの女の勘の的中率は低いが……今回は当たったな。


 「受けるの?」

 「考えてる。五ヶ月の猶予を貰った」


 まったく、俺は妻になんていう相談をしているんだ。


 「私のことは気にしなくても良い」

 「そういうわけには行かないだろ。もし俺がユリアと結婚したらお前は側室の扱いになるんだぞ」


 テトラは良いのかよ。それで。


 「不満がない訳ではない。でも別に私は身分には拘らない。あなたの妻で居られるなら」

 テトラは頬を赤くして言った。


 「それにユリアが可哀そう。私がユリアの立場なら死にたくなる。赤の他人なら別に良いけど……」

 テトラは一度言葉を切る。


 「ユリアは友達。だから許す。まあユリアが誠心誠意私に謝るのが前提だけど」

 うーん、女ってのは分からない。

 でもこれはテトラが特別なのかな?


 そりゃあそうか。


 「でもそう言う問題じゃないんでしょ?」

 「ああ。戦争が起こる可能性がある以上な……」


 俺とユリアの個人的な理由だけで国を真っ二つに割り、無用な死者を出すなんて許されるわけ無い。


 「私はあなたが好きにすればいいと思う。あなたは今までみんなのために頑張ってきたんだから。今回くらいは良いんじゃない?」

 「そうか……参考にさせてもらう」


 やっぱり結論を他者に頼るのはよくないな。

 自分で決めないと。重要なことなのだから。






 「なるほど。あいつはそんな理由で断ったのか」

 ロサイス王はユリアの説明を聞き、意外そうな表情をする。


 「お父さんはアルムスが受け入れると思ってたの?」

 「いや、断ると思っていたぞ。だが断る理由は予想と違ったがな。私はてっきり功績不足を理由にすると思っていたから」


 フェルム王を倒したという功績は偉大なものだ。

 だがそれはアルムスを豪族に引き上げたことで十分に釣り合いが取れる。


 本来ならフェルム王の領地の三分の二を直轄地にし、残りの三分の一の領地にアルムスを封じる。

 そのくらいの恩賞が本来は適正だろう。アルムスは元々ロサイス王の国の人間でなく、しかも村そのものの規模も小さいものだったのだから。


 だがロサイス王は強引に旧フェルム王の領地のすべてをアルムスに与えた。

 恩賞を与えすぎと言っても過言ではない。


 まだアルムスは豪族になってから目立った功績を一つも立てていない。

 この状態でユリアと婚約すれば、アルムスがユリアを誑かしたように見えてしまうだろう。まあこれに関しては強ち間違いではないが。


 反ディベル派も従うかどうか微妙なところだ。


 「戦争が起こりそうもなかったらアルムスを総大将にさせて近くの国を攻めさせて、功績を無理やり作るつもりだったが……」

 アルムスの部下の武力と、火薬。それにバルトロの補佐があれば十分大きな功績を挙げられるだろう。


 お膳立てしても大きな功績が立てられないようならそれまでの男だったということで済む話である。


 「そうか……アルムスが決心してくれても、功績がなきゃ駄目なのか……」

 ユリアは肩を落とした。


 「まあこればかりは祈るしかあるまい。運命に任せるしかないな」

 「運命か……うん、そうだね……」


 ユリアは肩を落とした







 ディベル領とアス領の領境のとある村。

 ここで少し揉め事が起きていた。


 「おい! 小麦が足りないぞ!! どういうことだ!!」

 男が剣を振り回しながら叫ぶ。


 男の名前はジルベルト。

 リガル・ディベルのはとこに当たる。


 村長はジルベルトに土下座をして頼み込む。

 「申し訳ありません。もう小麦が無いんです。来年まで待って貰えないでしょうか? 来年は必ず今年の分も含めて納税いたします」


 ジルベルトはそう言う村長の顔を蹴り飛ばした。


 「ふざけるな!! お前たちは今年の布だって納めてないだろ!!」

 ジルベルトは叫ぶ。

 そして村長の静止を無視し、兵士に蔵の中を調査させた。


 「本当に何も無い……ん?」

 ジルベルトの視線が地面に向けられる。

 土の色が少しおかしい。


 村長の顔色が変わるのを見て、ジルベルトは兵士に命じた。


 「ここを掘れ」

 兵士たちは地面を掘り起こす。

 地面は非常に柔らかくなっていて、簡単に掘り起こすことが出来た。


 中から壺がいくつも出てくる。

 蓋を開けてみると、そこには小麦が詰まっていた。


 「あるではないか!!」

 「そ、それは種籾です!! それを取られたら来年……」


 ジルベルトは村長の顔を再び蹴り飛ばす。

 「問題ない。種籾は貸してやる(・・・・・)。来年、返せばいい。さあ、持ち運べ!!」


 兵士たちは次々と壺の中の小麦を運び出していく。



 小麦を運び終えると、ジルベルトは村人を集める。

 そして顔を一人一人確認する。


 ジルベルトはこの村を担当するようになってから長い。

 名前は分からなくても、見慣れない顔があればすぐに気付く。


 ふとジルベルトの目に見たことの無い女が止まる。

 それなりに顔の整った女だ。


 平凡な顔しているなら忘れても可笑しくないが、それなりに顔が整っているなら話は別だ。


 「おい、お前。この村の住民では無いな。どこから来た?」

 ジルベルトが聞くと、女は顔を青くして答える。


 「と、隣村からです……」

 「移動の届け出は出したか?」


 ディベル領では村人が自由に移動することを禁じている。

 必ず届け出を出さなくてはならないのだ。


 この法律を破った者には刑罰が下される。


 女はジルベルトの質問に答えない。

 「なるほど。届け出は出していないのだな?」


 ジルベルトの問いに女は震えながら頷く。


 「この村に移住した理由は……結婚か?」

 ジルベルトがそう聞くと、女は土下座をして許して欲しいとジルベルトに許しを請う。


 ジルベルトはニヤリと笑う。

 「まあいい。結婚税と初夜税の両方を払え」


 ジルベルトが聞くと、女の隣で顔を青くしていた男が土下座した。


 「も、申し訳ありません。必ず一か月中に納税致しますから」

 「ならん。今すぐだ。まあ、条件を飲むなら結婚税と届け出の権は許してやるが」


 ニヤニヤとジルベルトは笑いながら条件を話す。

 それはジルベルトが今この場で女の処女を奪うことだ。


 初夜権は領主であるリガルにあり、また処女を奪っても結婚税の支払いは変わらない。当然届け出を出さなかった罪もだ。


 だが今、ジルベルトが女を抱いて処女を奪ってそのことを誰にも話さないと約束出来るのであれば、結婚税と法律違反は見逃してやる。


 夫婦に選択権は無かった。


結婚税と初夜税が両立しているのは仕様です

それにしてもこの優柔不断。イライラしますね

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