第四十一話 製法
「あっ……んん、あンッ、そこ、あっ……ああっ、いい……」
テトラが熱っぽい声を上げる。
俺は揉む力を強める。
「ああッ、ンあっ、そんな……つよい……ひゃあ」
テトラが辛そうな声を上げる。
息を荒くし、後ろを振り返り、潤んだ瞳で俺を見つめる。
いつもはクールなこいつがこんなに反応するとは……
なかなか面白い。
俺は指に込める力をさらに強める。
「ひゃあッ、ダメ……んん、ああっ、くぅうっあ!]
俺は揉む力を弱めてやる。
「あっ……もっと強く……ひゃああ!」
俺は服の上から指でテトラの体をなぞる。
ビクリとテトラは体を震わせる。
「無理しなくていいんだぞ? そろそろヤメにしよう」
俺はテトラの体に指を這わせながら言う。
テトラは身をくねらせた。
「……焦らさないでぇ……」
俺に向かって甘えた声を出す。
でも、さっき……
「ダメって言ったよな?」
「……イジワル……んふぁっ、んん、ダメだけどダメじゃないのぉ……」
意味が分からないな。
「つまりどういうことかな?」
「あぁ……つよく揉んで……」
「痛いんじゃないのか?」
テトラは頬を紅潮させて言う。
「ああ……痛いのがいいの……」
しょうがない奴だな。
俺はニヤリと笑い、力を強めた。
「ひあっ!……んくぅあッ……らめっ……へああっ、ふあ……」
今、『ダメ』って言ったよな?
「かふっ……ヤメないでぇ……もっとしてぇ……」
「我儘な奴だな。全く。じゃあ上手におねだり出来たらして上げよう」
俺は焦らすように指を這わせながら言う。
テトラは荒い息と共に身をくねらせながら言う。
「お、お願いします……テトラの……ンッ、くはぁ……揉んで……ください……」
聞き取れないなあ……
ここでもう一度言わせることは出来るけど……
俺はテトラを見る。
本当に辛そうだ。
息も絶え耐え。これ以上焦らせばさすがに可哀想だ。
仕方ない。お望み通りしてやろう。
「あっ、きたぁ……ンんあッ、ふぁあっ、へあ……んくぅあぁ、もう……ダメぇ、あっああアァアッ!!」
テトラは体を震わせ、口を半開きにして上を向いて喘ぐ。
唇から涎が垂れ、床に突っ伏した。
ドアが開いたのはほぼ同時だった。
「朝っぱらから何してるんですか!!……あれ?」
「どうした?」
俺はテトラの
「えっと……何をしてたんですか?」
「マッサージだよ。ほら、昨日戸籍の整理しただろ? それで肩がバキバキになっちゃって」
二人で肩のマッサージを交代でしていたというわけだ。
だが苦労の甲斐があって、人口が三万二千四百二十三人であることが判明した。
これで税金が集められる。
そう言えばバルトロのところもやる契約してたな……
どうしよう。
面倒くさいな。
「それでソヨンはどうしたんだ?」
俺がそう聞くと、ソヨンは顔を真っ赤にした。
「いや……その……勘違いを……いえ、そうじゃないです! ロサイス王様からお手紙が来てるんです!!」
ソヨンはそう言って俺に木簡を渡した。
一体なんだ?
「何て書いてあります?」
「要約すると、『紙の作り方を早く教えやがれ』だな」
臣下になったことだし、別に教えるのは良い。
対価次第だけどな。
「テトラ。行くぞ」
「うぅん……もっとしてぇ……」
俺がテトラを揺すると、体をくねらせて甘え声を出す。
何言ってるんだ。
俺の肩をお前は揉んでないだろ。
「……意地悪……はあ……」
テトラは体を起こし、首を左右に振る。
バキバキと音を立て、伸びをする。
凛とした表情を取り戻したテトラは俺の方を向いて言う。
「じゃあ行こう」
「その前に涎ふけ」
テトラは顔を赤くして唇を拭った。
「さて、手紙で書いたとおりだ。紙の作り方を教えろ」
「分かりました。だけど一つだけ約束して貰えませんか?」
「何だ?」
俺は条件を言う。
「まず対価としての小麦を下さい。それとすぐに大量生産するのは止めて頂けませんか?」
俺はアス領の主な収入源として紙に期待している。
小麦に関しては減税しちゃったしな。
だから大量に市場に出回って、価格が下がるのはよろしくない。
「なるほどな……お前の都合はよく分かった。一年間は猶予をやる」
一年後か……
出来れば二年、三年は欲しいけど……
仕方がないかな。
俺はロサイス王に紙の作り方を紙に書いて手渡した。
ロサイス王は満足気に受け取る。
「ところでだ、製鉄技術を知らないか?」
「えーと、作れるかどうかはともかく、原理なら一応……」
「教えろ!!」
ロサイス王は身を乗り出した。
まあ、酸化鉄を還元する実験は中学生の頃に理科でやったよ?
一応五だったし、理解はしてるよ。還元反応知らない人はそうはいない。まともに義務教育受けてるなら。
それに歴史でチラリと触れるから分かるけどさ……
「はい。ですが、私が分かるのは伝聞で聞いた知識だけです。ですから確実に作れるわけではありません。そのことを考慮に入れて貰いたい。そして報酬として小麦が欲しい」
「問題ない。ただし、報酬の小麦は我が国の鍛冶師が製鉄に成功したらだ」
まあ当然だな。
是非とも鍛冶師には製鉄に成功して欲しい。
「はい。まず、鉄鉱石と木炭を用意します」
鉄鉱石は酸化鉄で出来ている。
まずは木炭を使って還元しなくてはならない。
「で、鉄を作りだすに高い温度が必要で……」
「その方法を教えろと言っている」
せっかちだなあ。
「ふいごという道具を使うそうです。ええと……構造は簡単なはずですから……」
俺はロサイス王にふいごの構造を教える。
言葉じゃ伝わり難いな。
「あとは海綿状の鉄を取りだして、それを熱しハンマーで叩いて不純物を取りだします」
一応、これで鉄は出来上がる。
俺が分かるのはここまでだ。
俺は製鉄の専門家じゃないからな。
学校の授業でも習わないし。
分かるのはここまでだ。
青銅を作ることが出来るのだから、ここまで教えれば十分作れるだろう。
「うむ。十分だ。完成次第、すぐに穀物を送ろう」
よし、これで小麦は入手できた。
「それと火の秘薬の作り方を教えろ」
火の秘薬?
ああ……黒色火薬のことか。
「あれは材料が限られているんです。それにあれの作り方を知っているのは俺だけで……製法が流布するのは危険だと考えています」
「だから教えることは出来ないと?」
「そうなりますね」
俺がそう言うと、ロサイス王はため息をついた。
「なら仕方がない。確かにあれをドモルガル王が使い始めたら厄介だからな。取り敢えずは鉄で満足しておこう」
良かった。
物分かりの良い人で本当に助かる。
「領地経営は順調か? 貴様の領地はドモルガル王と面しているからな」
「まあそれなりですね。まだ不慣れですが、バルトロさんの手助けのおかげで何とかなってます」
あれ? 今思い返すとあの人何もやってないような……
「そうか。それなら良い。では私からアドバイスをしよう」
アドバイス? ロサイス王様自らアドバイスか……
「良いか。近所付き合いはしっかりやれ。お主のことを快く思っていない連中は多いからな」
「はい。分かってます」
人間関係の構築は大切だからな。
前の結婚式では頑張って媚びを売ったし。
「バルトロの子供が生まれそうなのは知っているな?」
「ええ。知っていますよ」
バルトロには出産の時に使う道具はすべて熱湯で消毒して、酒で手を消毒するようにアドバイスをしておいてある。
これで産褥熱で死ぬリスクは格段に下げられるはずだ。
「おそらくあいつは祝いの席を設けるはずだ。ちゃんと行け。豪族全員に渡す土産を用意するといい。そうだな……蜂蜜なんて良いと思うぞ」
別に言われなくてもそのつもりだけど……
土産、どうしようかな。
さすがに全員分の蜂蜜なんて用意できないけど。
考えておかないと。
「あともう一つ」
「何でしょう?」
「リガル・ディベル……ディベル家には気を付けろ。奴はお前のことを敵視している。それに良い噂は聞かない奴だ」
ディベル家……確か俺が来る前はロサイス王の国で一番の勢力を持った家だっけか。
確か人口は俺の領地であるアス家とほとんど変わらないとか。
出来れば仲良くしたいんだが……
「だが安心しろ。私もディベル家は好かん。バルトロもだ。豪族の三分の一は反ディベル家だ。これが何を意味するか分かるな?」
つまり俺に反ディベル家筆頭になれと?
揉め事は嫌なんだけどな……
相手から敵視されるんじゃあ仕方がないか。
「考えておきます」
「別に考えんでも自然とそうなると思うがな。上手く立ち回れ。貴様には期待しているのだから……」
ロサイス王は俺を見つめる。
何だ……その目は……
「私の寿命は持って三年だ。だからお主には後一年以内に大きな成果を上げて貰いたい。否、そうでなければ困る」
「成果ですか……」
後一年ね……
何でこの人は自分が死ぬ前に俺に成果を残してほしいんだ?
ディベル家を押さえられなくなるからか?
それとも……
「フェルム王の討伐、鉄器の製法、紙の製法。本来なら十分すぎるほどだが、まだ足りない。領地経営で大きな成果を上げろ。そしてドモルガル王から領地を守りぬけ。そうすれば……」
「……分かりました。努力いたします」
一体何を言いたいのか……
三週間後、ロサイス王から手紙が来た。
曰く、製鉄には成功した。
ただ、非常に強度が低くあまり使い物にはならない。
とはいえ鉄を作れたことで、キリシア人の鍛冶師を大量の塩と引き換えで招くことが出来た。
おそらくこのまま放っておいたらどうせそれなりの鉄を我々が作りだすようになると考え、儲けることが出来る内に儲けようという考えなのだろう。
使い物にならないとはいえ、鉄は鉄だし、これが切っ掛けでキリシア人を招けたので多めに見る。
すぐに小麦を送る。
この恩は自分が生きているうちに必ず返すこと。
とのことである。
まあ小麦が貰えるなら文句はないな。