第三十五話 駆け落ち
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アデルニア半島から南に少し行くとトリシケリア島と呼ばれる島がある。
その島からさらに南へ少し行くところにポフェニアという国がある。
貴族による元老院が国政を担っている共和制国家だ。
ポフェニアは大海洋国家であり、海洋貿易に従事する貴族と農業や牧畜に従事する平民との間で大きな経済格差があり、貴族と平民はくっきりと分けられ、区別されている。
具体的な例を上げると、平民の政治参加だ。
元老院議員に成れるのは貴族だけで、平民は議員になることも投票することも出来ない。
土地や奴隷の所有して良い数も貴族と平民には差がある。
そして貴族と平民は結婚できない。
大事なことなどで二度言う。
貴族と平民は結婚できない。
アレクシオス・バルカはポフェニアの貴族だ。
数々の軍人を輩出した名家の生まれで、彼自身も軍人である。
初陣は十二歳の時。以来、数々の武功を立てて十五で部隊を指揮するようになる。
その後も数々の海戦、陸戦に参加して勝利を傘ね、二十三に成った今ではポフェニア有数の将軍だ。
彼を初めて見た人は必ずその右目に注目する。
彼は右目に眼帯を付けているのだ。
彼は物心ついたころから右目に眼帯を付けている。
付いた二つ名は『隻眼の騎士』
容姿端麗で、武力も高く、将来有望で、しかも隻眼。
そんな男を放っておく女は居ない。
何人ものポフェニア貴族の子女たちは彼にアタックし……
彼はそのすべてを断った。
家が用意したお見合いも、「興味ない」の一言で蹴ってしまう。
結婚しない理由を尋ねられた彼はこう言った。
「俺は女には興味ない。美少年が良いね」
ポフェニアの呪術師にメリアという女が居る。
姓は無い。平民だからだ。
彼女の相棒は三匹。
狼と犬を交配させて生まれた、いわゆる狼犬。
五十セリカ(五十センチ)ほどの梟。
最後に全長百二十セリカ(百二十センチ)にもなる巨大な鷹。
彼女の鷹は空中戦では敵なしで、目も良いため重宝されている。
まだ二十二歳ではあるが彼女はポフェニア軍に大きな貢献をしていて、『鷹使い』と呼ばれている。
そんな彼女には毎日のように縁談の申し込みが来る。
当然だ。
将来を有望視されて居る呪術師を放っておく男は居ない。それが美女だと言うなら尚更だ。
呪術の才能は遺伝すると言われている。
故に彼女は大人気だ。
だが彼女はすべての縁談を断り続けた。
平民の中でも金持ちで、貴族に列せられるかもしれない家からの縁談すらも彼女は断った。
彼女に誰かが聞いた。
どうして結婚しないのか?
「私は男には興味ないの。動物が好きなの」
深夜。
夜空にはポフェニアの象徴である三日月が輝いている。
ほとんどのポフェニア人が寝静まっている中、こそこそと動く二人の人物が居た。
アレクシオスとメリアだ。
「会いたかった、メリア!!」
「私もよ、アレクシオス!!」
二人は「ひしっ」っと擬音語が立つのではないかというほど熱い抱擁を交わし、キスし合う。
三日月が気を利かせて二人の周りを明るく照らす。
約五分イチャイチャし合ってから二人は本題に入った。
「明日の朝、港にトリシケリア行きの船が泊る。トリシケリアに着いたら徒歩でトリシケリアのキリシア人植民市に移動して、そこから再び船に乗ってアデルニア半島へ。良いね?」
「分かってるわ。そのために私は獣姦好きの変態ということになったんだから」
「僕も男色家ということになってるね」
二人は笑いあう。
二人が出会ったのは戦争中だ。
アレクシオスの部隊の専属呪術師としてメリアが派遣されたのだ。
二人はすぐに惹かれ合い、愛し合う関係に成ったが……
二人は貴族と平民。
結婚は出来ない。
本当は結婚したいが、側室という立場でも結婚は不可能だ。ポフェニアは法で重婚が禁じられている。
もっとも平民とは結婚出来ないのは大原則なので認められていても結婚は出来ないだろうが。
二人の関係が知られたら離れ離れにされてしまうだろう。
だから二人は嘘を言ったのだ。
だが最近はそれでも誤魔化しが利かなくなった。
そこで二人は『駆け落ち』を計画した。
まず駆け落ちする場所だが、ポフェニア本国は論外。ポフェニアの海外にある植民市は候補の一つとして考えたが、二人の容姿はいろいろと目立つので候補から外された。
第二候補はペルシス帝国。
東の超大国で、ポフェニアの元宗主国を滅ぼした国でもある。
だからポフェニアとは敵対関係……ではない。
ペルシス帝国はポフェニア人の海外貿易を保護しているからだ。
両国は良好な関係を築いている。
だからペルシス行きの船の数が多いので、成功確率は高い。
だが如何せん、遠すぎだ。
言葉も文化も違うような場所に亡命するのはさすがに勇気が必要だ。
そこで第三候補として上がったのがキリシアだ。
ポフェニアとキリシア諸国は仲が悪い。
海上貿易で敵対する仲だからだ。
とはいえ、アルクシオスはキリシア軍とも戦ったことがある。
だからキリシア諸国本国への逃亡は危険と考えた。
だから二人はキリシア人のアデルニア半島にある植民都市に亡命しようと考えた。
アデルニア半島はド田舎で、二人の名前を知る人間は少ないだろう。
そう考えたのだ。
「でも本当に良いのかな? 僕はあまり家族が好きじゃないからいいけど……君にはちゃんとした家族が居るだろ?」
「何を今更……私は獣姦好きということに成ってるのよ? あなた以外、誰が結婚してくれるの」
「はは、それもそうだね。男色家設定の僕と結婚してくれるのは君だけだ」
二人は覚悟を決めた。
翌日、貴族と平民の男女が消えたというニュースがポフェニア中を駆け巡った。
ポフェニア軍による大捜索が行われ、ポフェニアの都市という都市に手配書が回ったが、発見出来なかったという。
ポフェニアはアデルニア半島と目と鼻の先の国なのでそれなりに重要です
バカップルの登場は三章以降の予定