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第三十話 初陣Ⅱ

 アルムスたちとフェルム王の軍が激突したのとほぼ同時刻。

 フェルム王の国とロサイス王の国の国境付近では別の戦いが起こっていた。


 「うーん、敵の士気は高そうだな……多分穀物を奪わないと飢え死ぬぞとか言って発破掛けてるんだろうな。面倒だ」

 バルトロはため息をつく。


 バルトロは酒を煽る。


 「どうよ、敵の数は」

 「三百です。内、軽歩兵は五十ほど。騎兵の姿はありません」



 呪術師の説明を聞き、バルトロは満足気に頷く。

 こちらの方が百、優っている。

 普通に戦えば勝てるだろう。

 前回の戦では二倍の戦力差で負けたが……それは前回の司令官が無能だっただけのこと。


 バルトロは無能ではない。



 「騎兵は厄介だからな。ところで陣形は?」

 「一般的なファランクスです。敵の司令官を含む精鋭は右翼に居るようです」

       ■

■■■■■■ ←フェルム王側(司令官)の陣形

 「へえ、前回の戦いと同じだねえ。一番危険な右翼で司令官自ら戦うとは勇猛なことだ。前回、我が国が負けたのも当然か」


 バルトロは酒を煽る。


 ファランクスは左手に盾を持ち、自分自身と左側の味方を盾で守る。

 故に盾で守られて居ない右翼側が無防備になってしまう。


 だから右翼に精鋭を置くのは基本的な戦術である。

 フェルム王の国の司令官は非常に勇猛果敢な男で、自ら右翼で槍を振るう。

 前回の戦いでは司令官自ら戦うことで勢いづいた敵の右翼に、こちらの左翼が食い破られて側面に回られたことで敗北した。


 ちなみにバルトロはそんな危ないところで戦う気はさらさらない。

 一番安全なところで酒を飲み見ながら指揮を取るつもりだ。


 その方が全体を見ることが出来る。


 「いいか、作戦通りだ。全軍、左側(・・)に向かって進軍するように。数では勝ってるんだ。作戦が成功すれば確実に勝てる」


 バルトロはニヤリと笑った。


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 「敵の陣形は?」

 「それが……妙に左側に戦力を集中しているようです」

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 ■■■■■■ ←ロサイス王側(バルトロ)の陣形


 鷹から降りた呪術師はフェルム王の国の司令官に説明する。


 「おそらく前回の戦いで懲りたのだろう。前は我らが敵の左側を壊滅させたことで敵は負けた。それを警戒しているのだ。全く、バカな連中だ。一番の弱点である右側がおろそかになっては意味がないだろう」

 司令官は呆れたように言う。


 「で、敵の司令官は? 左側か?」

 「それが後方に居るようです。酒を飲んでいるのを確認しました」


 呪術師の説明に、司令官は大笑いした。


 「戦の前に酒とは随分と呑気ではないか。それに後方? 臆病者め。ロサイス王の兵は本当に可哀想だな。よし、少しづつ領内に誘い込む作戦はやめだ。このまま打ち破ってしまおう」


 フェルム王からは勝てそうなら勝ちに行けと言われている。

 命令違反にはならない。


 「さあ、行くぞ。フェルム王様に勝利を!!」

 司令官は槍を手に持ち、配置についた。


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 戦いはまず、軽歩兵……弓兵や投槍による攻撃から始まる。

 そしてそれが終わってから、重装歩兵団による決戦が行われる。


 一度戦いが始まれば重装歩兵は思うように動けない。

 ただ目の前の敵を殺す。死ぬまで戦い続ける。それだけだ。


 「さあ、全軍進撃だ」

 「全軍、俺に続け!!」


 バルトロと司令官が号令を掛けたのは同時だった。



 最初にぶつかったのはロサイス王の軍の左翼と、フェルム王の軍の右翼だ。


 両軍、激しくぶつかり合う。


 「死ね!!」

 司令官は槍を振るう。

 彼はフェルム王の国でもっとも武力のある将軍だ。そして彼に率いられる直属の兵士はフェルム王の国最強の精鋭部隊。


 次から次へとロサイス王の兵士を殺していく。

 だが……


 「クソ、敵はどれだけ居るんだ!!」

 司令官に焦りが見え始める。

 殺しても殺しても後列の兵士がその穴を埋めていく。


 キリがない。

 だがそれでもさすがは精鋭部隊、少しづつだがロサイス王の軍を押し込んでいく。


 この時までは。


 「さあ、そろそろだ。近衛兵、行け」

 バルトロは酒を煽りながら命令を出す。


 後列からロサイス王の国の精鋭部隊……本来なら宮殿を守るほどのエリートたちが前列に出る。


 彼らはアルムスに弱いと言われ、ロンにボコボコにされたが決して弱いわけではない。 

 あれは加護(チート)を持つアルムスたちが狡いだけ。


 彼らは間違いなく精鋭だ。


 司令官直属の兵士は強い。

 だが連戦に連戦を重ね、疲弊している。


 そこへ精鋭をぶつけたのだからたまらない。

 徐々にロサイス王側が押し込んでいく。


 劣勢に立たされる司令官。

 だが彼にはまだ余裕があった。


 それは敵の右翼。

 本来なら右翼に集中しなければならない兵を敵は愚かなことに左翼に集中させた。


 つまり右翼側は貧弱ということ。

 すぐにフェルム王側の左翼がロサイス王側の右翼を打ち破り、側面に回り込んでいるだろう。

 司令官はほくそ笑んだ。


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 「そうは問屋が卸さないぜ」

 バルトロは酒を飲む。


 そして自国側の右翼を見る。

 右翼はまだ健在だった。否、そもそも戦いが発生していなかった。


 バルトロは全体的に左へ攻撃を集中させるように命じた。

 その所為で左翼が突出し、右翼側が大きく出遅れてまだ敵と交戦出来ていない。


 「右翼が弱いなら戦わなければ良いってな」

 バルトロはニヤリと笑い、空になった酒瓶を投げ捨てた。


 「さあ、そろそろ決着だ」


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 「クソ!! 左翼は何をしている!!」

 指令官は叫ぶ。


 だがその言葉の返答にロサイス王の近衛兵の槍が襲い掛かる。

 必死に司令官はそれを捌く。


 だが人には限界がある。

 彼は戦いが始まってからずっと戦い続けていた。

 人は長い間集中を保つことが出来ない。


 敵の槍が司令官の頬を撫でる。

 それを皮切りに司令官の動きはどんどん鈍くなり、切り傷が増えていく。


 「っぐぐあああ!!」

 司令官の腹に槍が生えた。

 何本もの槍が司令官に集中する。


 「敵将!! 討ち取った!!」

 近衛兵の誰かが叫ぶ。

 それを皮切りにフェルム王側の右翼は総崩れになった。


 すかさずロサイス王側の左翼は側面に回り込み、右側からフェルム王側を攻撃。

 弱点を突かれ、フェルム王側は総崩れとなった。



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 「よっしゃあ!! これで領地が増えるぜ! やったね!!」

 バルトロは飛び上がるように喜んだ。

 経った今、神がかり的な指揮で敵を打ち破った将とは思えないほど無邪気な喜びようだ。


 これは『ロマーノの大蛇(オロチ)』と呼ばれる男の歴史書には書かれていない戦いの一つである。

八岐大蛇と酒で掛けてる

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