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第三話 子供たち

 「これは何ですか……」

 「見れば分かるであろう。お主の同族だ」


 俺が連れていかれたのは近くの洞窟だった。

 中に入ってみると三十人もの子供が居た。

 五人が年端のいかない子供。二十人が七歳から九歳くらい。そして残りの五人は今の俺と同年代ほど。


 「どうして子供がこんなに?」

 「知るか。最近人間どもが我が森にこうやって子供を捨てにくるのだ」


 なるほどね。飢饉でもあったということだろう。

 俺が森の中で空腹状態で居たのはこうやって親に捨てられたからなのだろう。


 「で、俺に子供たちの世話をせよと?」

 「そう言うことだ。話が早いな」

 グリフォンは大きく頷く。

 俺は子供は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。

 それに俺は孤児院で育ったから親に捨てられた彼らにも大きく共感できる。だから助けることに関しては問題ない。

 だが……


 「食べる物がないと話になりませんよ?」

 「三年間は食糧を運んでやる。三年で何とかするのだな」

 意外だ……

 虫でも食ってろと言われるかと思っていたのだ。

 こいつ、実は良い奴なのか?


 「どうして助けるのですか?」

 「お主だって飢えた子犬が縋ってきたら拾うであろう? その後、無責任に放りだすか? 拾った責任というものがある。そう言うことだ」

 なるほど。

 確かに目覚めが悪いな。

 助けられる力があるのに、その力を行使せずにただ飢えさせる。

 精神衛生上よくない。


 だが人とグリフォンは大分違う。

 おそらくこいつは人の育て方を知らない。

 だから悩んでいたのだ。


 話は決まった。

 まずは子供たちに自己紹介をしなければならない。


 「というわけで俺はお前たちのリーダーになった! よろしく」

 俺がそう言うと……




 「△○☓●■◇○」

 宇宙語が返ってきた。


__________



 悲報。

 俺氏、異世界語が分からない。


 冷静に考えてみれば異世界の言語が日本語と同じわけがない。そんなご都合主義が現実にあるわけない。

 これではリーダー以前に人と関わって生きることそのものが困難だ。


 あれ? 何で俺はグリフォンと話せるんだ?


 「すまなかった。そう言えば迷い人はこの地の言語を話せないのだったな。失念していた」

 「俺は何であなたと話せるんですか?」

 「我は『神言の加護』を持っているからな。当然だ」


 加護……なんかファンタジーっぽいのが出てきた。

 さすがグリフォン。やっぱりそう言う不思議パワーを持ってるんだな。


 「だがこれは問題だな。よし。しばらく加護を貸してやろう」

 「……貸せるんですか!」

 「普通は無理だ。だが我は『貸出かしだしの加護』も持っているからな」


 さすがグリフォン先輩!

 伊達に頭が鷲で下半身がライオンじゃない。


 「でもそれだと他の子供たちがあなたと話せなくなりません?」

 「バカ者。我がお主に貴重な加護を授けるわけなかろう。『言語の加護』をやる」

 「いくつ加護を持ってるんですか?」

 今までの発言だけですでに三つが確定している。

 加護とはそんなに大安売りなものなのだろうか?


 「十二個だ。もっとも、その中で使えるものは少ないぞ。我は発声器官の問題で『言語の加護』は無価値だからな」


 どっちにしろ多いじゃないか。

 こいつ、トンだチート獣だな。それともグリフォンでは平均的スペックなのか。そもそもグリフォンはこいつ含めて何匹生息しているのか。


 まあどうでもいいか。


 「というわけで改めてよろしく」

 自然と口から異言語がこぼれ出た。

 なるほど、これは便利だ。これがあれば英語の勉強なんてする必要が無いじゃないか。


 「はい……よろしくお願いします……お兄ちゃん」

 茶髪の女の子がそう答えた。

 お兄ちゃん……良い響きだ。


 「お前、名前は何だよ!」

 生意気そうな子供が俺に聞いてきた。

 「名乗る前にお前から名乗れよ」

 俺が決まり文句を言うと、子供は舌うちして名乗る。


 「ロンだよ。今までリーダーをしてた。ほら、名乗ったぞ! お前の名前は何だよ!」

 「俺の名前は……」

 そこまで言いかけて気付く。

 何て名乗ろうか?


 日本人名を名乗るのか? だが今の俺は日本人じゃない。日本人名を名乗るのは何か違う気がする。

 いや、名前なんてどうでもいいんだけど。


 「俺のここでの名前。何というのが良いと思いますか?」

 俺はグリフォンに聞いてみた。

 「『アルムス』というのはどうだ?」

 「どういう意味ですか?」

 「特に意味はない。語呂が良いなと思っただけだ」


 なるほど。

 でもまあ、意味も分からずこんな世界に飛ばされたのだから調度いいのかもしれないな。


 「じゃあ俺はアルムスだ。よろしく、ロン君」

 俺は手を伸ばした。ロン君はそっぽを向いてしまう。

 何でだよ。

 「お前、何歳だ?」

 「二十歳」

 「嘘付け!!」


 いや、本当なんだけどな……


 俺はグリフォンの方を見る。あなたから言ってくださいよ。


 「こやつの言っていることは本当だ。気付いたら子供に成っていたそうだぞ?」

 「ええ! ……グリフォン様がそう言うなら……」

 ロン君は急にしおらしくなる。

 そして俺を睨んで宣言する。


 「俺はまだお前をリーダーとして認めないからな!!」

 そりゃそうですか。

 まあ気持ちは分かるけどね。突然現れた子供が急に自分たちのリーダーなんてさ。


 「ごめんなさい。ロン君は悪気があるんじゃないんです。ちょっとアホなだけで……」

 さっき、俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれた女の子がロンを庇う。

 「君の名前は?」

 「私はソヨンです。ロン君とは幼馴染で……」


 なるほど。幼馴染か。

 こんなに可愛い幼馴染が居るとはロン君は幸せ者だな


 「おい! アホって何だよ」

 「本当のことでしょ」

 「アホって言う方がアホだぞ!」

 「じゃあロン君もアホじゃん」

 「「アホアホアホアホアホアホアホ!」」


 突然喧嘩を始めた。

 仲が良いことで。


 そんな二人のやり取りを見て。他の子供たちも笑っている。


 結構にぎやかのようだ。


 少なくとも表面上は。

 正確に言えばにぎやかにしていないとやってられない。

 そりゃそうだ。

 両親に騙されて森の奥まで連れられて捨てられたんだから。

 ショックでないはずがない。

 中にはまだ両親のことを信じている子もいるだろう。


 必死に忘れようとしているのだ。


 その中で必死にリーダーとして振舞っていたロン君の負担はどれくらいなものか。


 ソヨンちゃんが俺を歓迎してるのは俺に懐いたからじゃなくて、ロン君の負担が減ったからだろう。


 今、二人が喧嘩をしてるのは周りの空気を明るくするためだ。

 こうやって毎日バカみたいなことをやっているのだろう。

 意識してやっているのか、無意識でやっているのかは分からない。

 だがどっちにせよ、子供がこんなことをしなきゃいけないなんて異常だ。


 「絶対に助けてやるからな」

 俺は呟いた。


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