第二十四話 戦力
申し訳ありません、前話は少し描写不足でした。いろいろ補足で付け足しておきました。
もう一回読むの面倒くさいという方のために解説します
まずフェルム王の国とアルムス村はまあまあの距離があるため、支配するのは現実的ではありません。兵士を駐屯させても少数ならすぐに反乱を起こされてしまいます。駆けつけた時には駐屯させた兵はアルムスたちに殺されています。もしかしたらロサイス王の軍が代わりに駐屯しているかもしれません。
だからフェルム王は支配下に置く気は無いんです。
だから彼は貢物だけ受け取って帰りました。彼が言った支配下に置くという発言は王としての面子を保つためです。ここが少し分かり難かったようです。
そしてアルムスの言う自治は、貢物を渡す以外は今まで通り干渉すんなという意味です。
フェルム王視点からすると、難民を追ってきたら豊かな村があった。食糧不足だし折角だからついでに略奪して帰ろうかなと思うけど、損害が出るのは嫌だから一応貢物として要求しておくか。という感じになります。
フェルム王の部下……兵士は当然、調査員も入っちゃダメ。だからフェルム王は中に入って実際の収穫量を調べられないので、村の規模で推測しました。彼も略奪のつもりで訪れていて、税金を取り立てるつもりで要求しているわけではないので多少数を誤魔化されてもまあ、いいかと考えています。彼も死ぬ可能性がある争いは避けたいんです。
彼の八割寄越せ発言ですが……
今の戦力ならアルムス村を十分に落とせるとフェルム王は考えました。だけど損害は出てしまう。村を落とすとなると、村の中に居る非兵士と難民も相手にしなくてはいけません。フェルム王は村の規模から最大で敵は二百は居ると考えました。
全員分の武器は無いと考えても落ちてる石ころを投げれば当たり所によっては死にます。フェルム王の兵は徴兵された兵士のため、士気も練度も高くはない。だから死兵を相手にすれば少なくない損害が出る。
なら戦いは避けた方が良いかという考えになります。
つまりアルムスが大人しく八割くれるなら、戦争してすべて奪うよりも総合的な得が多い。
だから八割という数字を要求したのです。
私自身、孫子の影響を受けているので支配者なら極力戦争は避けるだろうという思想から成り立っています。
納得していただけたでしょうか?
ちなみに最終的にアルムス君は七割を渡しましたが、実質的には五割です。
フェルム王の国は二圃制で、貰った五割を見て「まあざっとこんなもんか」と騙されて帰りました。
農業技術の違いがあるからこそできる詐欺です。
ついでに地理が分からないという指摘を頂いたので、地図をあとがきに乗せておきます
「よし! 何とか乗り切った!」
俺は安堵した。
それにしても骸骨を飾ってると言ったらフェルム王が顔を引き攣らせたのには驚いた。
てっきり共感してくれると思ったんだけどな。
そこまで酷いことはしてないのか。
まあ結果的に成功したんだからいいけど。
でも俺の印象悪くなっちゃったな。
俺が家の中でテトラと一緒に気を抜いていると、ロン、ロズワード、グラム、ソヨン、ルルの五人が入ってきた。
「さて、リーダー。さっきの続きだ。どうしていきなり結婚だなんて」
「何だ。もしかしてお前、俺と結婚したかったのか?」
「違うよ!」
ロンは首を大きく横に振る。
それは安心だ。てっきり俺のことが好きすぎて性癖まで歪んでしまったのかと。
「さっき話し合った」
「やっぱりお前とか……で、そういう流れで?」
「それを言われると困る」
そう言ってテトラは俺を見る。
いや、俺も困るよ。
「まあ、成り行きだな」
何か分からんがそう言うことになった。
成ってた。
俺はいつの間にテトラに洗脳されてしまっていたのかもしれない。
何故か結婚の流れに疑問を持たなかった。
「結婚ってそんな簡単に決めて良いんですか?」
ソヨンが文句を言いたげな顔で聞いてくる。
あれか、夜景が綺麗な場所とかに呼び出して花束を片手に「結婚してください!」というのがソヨンの理想なのか?
いや、俺もプロポーズってのはそう言うものだと思ってたけど……
分からない。
俺、前世の恋人は小学生三年生の時が最後だったからな。
それ以来、恋したことないし。
謎だ。
俺が恋に幻想を抱きすぎて、恋だと気づいてないだけなのか?
もしかして俺はテトラとユリアに恋してるのか?
二人に恋するとか俺、最低だな。
俺とテトラの関係は事実婚が本当の婚約者に代わっただけか。
そう考えればこの流れには疑問を持たない。
最近は同じ家で寝てたし、いつの間にか毛布も共有してたし。
あれ? やっぱりテトラの策略か?
「うう……私の中の恋愛像が……」
ルルが頭を抱えている。
分かる、分かる。
俺もそんな気分。
「取り敢えずめでたいことなのは事実か……おめでとう」
ロズワードが何か引っかかるという表情でそう言うと、他のみんなも口ぐちにおめでとうと言った。
照れるな。
言われてみると実感が持ててくる。
そうか、俺はこいつと結婚するのか。
気恥ずかしいな……
「アルムス……顔を赤くするのが遅い……」
テトラも顔を赤くしながら言う。
「あの……まだ成り行きの中身を聞いてないんですけど……」
グラムが遠慮下に聞いてきた。
「それについてはテトラから」
俺がそう言うと、テトラは一歩前に進み出る。
「みんなには話さなきゃいけないことがある」
テトラは自分の境遇を話し始めた。
______________
「ふーん」
みんなの反応は非常に鈍いものだった。
拍子抜けだ。
もっと「ええ!! そうだったの!!」というリアクションを期待してたんだけどな。
「だって今更じゃん。テトラが頭良過ぎるのも謎だったし」
「最初会った時のテトラちゃんの手は農作業をしたことがある手じゃなかったし」
「虫にもビビってたし」
みんな察してたんだな。
俺もだけど。
「むむ……隠せてると思ってたのは私だけ?」
「テトラさん、いつも一人で水浴びしてましたよね! 私とたまたま鉢合わせした時は胸とか下じゃなくて必ず背中隠してたし。あからさますぎですよ?」
ルルが笑いながら言う。
「大体六年間も一緒にいて分からない奴ってどんだけ鈍いんだよ」
ロズワードが呆れ顔で言う。
「まあ、こいつは変なところ鈍いし」
ロンが笑いだすと、みんなもそろって笑う。
テトラは頬を膨らました。
「拗ねないで、テトラちゃん。ところでアルムスさん。テトラちゃんとの結婚は政略結婚ですか? 何かそういう理由で決めるのは良くないと思うんですけど」
「それが切っ掛けなのは事実だ。でもいくらメリットがあるとはいえ、好きじゃない相手とは結婚しないよ」
テトラの出自は俺の背中を押してくれていただけだ。
いつか、こいつの思いは解決しないといけないと思ってたし。
「私は政略でもなんでも良い」
テトラはそう言って俺に抱き付いてくる。
ううん、こういう行為の繰り返しにより外堀を埋められてしまったのか。
「結婚式はいつにするんですか?」
「フェルム王と一先ず決着が付いてからでいいだろ」
ゴタゴタしてるし。
今は準備しなければならないことがたくさんある。
「まずだ。戦力の増強は必須だ。今は備蓄を放出したからいいけど、毎年何割も取られたらキツイ。飢饉が起きたら飢え死にするかもしれないし」
「戦うの?」
「それは分からない。だけど武器が無いと交渉もできないからな」
争いは同じレベルの者同士でなければ発生しない。
なぜなら実力が違い過ぎるもの同士の間には支配と被支配しか存在し無いからだ。
相手は俺たちを奴隷にすることもできるし、皆殺しにして食糧を奪うこともできる。
「飢饉が起きて、食糧を俺たちから根こそぎ奪うことで解決しようとする可能性もあるからな」
「具体的にはどうするの?」
テトラは俺の体に埋めていた顔を上げて聞く。
「確か鉄製の槍は全員分あるんだっけ? 取り敢えず長さを調節する。それがメイン武器。後は弓だな。うちの村に弓を扱えるのは何人居る?」
「まともに当てられるのは十人です。見込みがありそうなのは五人」
グラムが答える。
つまり十五人か。
悪くない戦力だな。日頃から狩りをしていたのが功を成した。
「なあ、イアル。三十人の中で十二歳以上六十歳未満の男は何人いる? あと呪術師は居るか?」
「ええと男は十人です。呪術師は……
なるほど。元々うちの村に居る戦力四十人と合わせて五十人か。
魂乗せができる呪術師はうちの村に居る三人だけ。
だけどそれ以外の呪術師はうちの村と合わせて十人。
合計十二人か。
それにしても三十人も居て呪術師がたった二人か。
うちの村は百人中十三人だぞ。しかもほとんど子供だし。
「むしろ三十人の中に二人は多い方。百人の村に一人いるくらいが標準だから。うちの村が多すぎる」
「何でこんなに多いんだ?」
「さあ? ユリアの教え方が上手い……というのは無い。呪術は九十パーセント才能だから」
うーん、偶然にしては出来過ぎてるよな。
「あと私の記憶が正しければフェルム王傘下の魂乗せができる呪術師は九人くらい」
俺たちは三人……
人口百三十人の村が有する優秀な魂乗せができる呪術師が三人で、人口三万弱の国は九人。
……やっぱり絶対可笑しいぞ。
「細かいことは気にしない。多分偶々。もしかしたらグリフォン様関係かもしれないけど」
そうか、グリフォンか。
あいつの影響ならあり得るよな。十分。
「とにかく喜ばしいことだ。呪術師の数はそんなに差がないのは良いことだ」
今は細かいことは気にしない方向で行こう。
「弓兵が十五人で歩兵が三十五人。悪くない」
「いや、歩兵は三十人だ。残りの五人は騎兵にする」
鐙と鞍があるからそれなりに訓練すれば乗れる。
みんな運動神経が良いから大丈夫だろ。
弓を射るとかそんな高度なことをする予定は無い。
石を移動しながら投げるだけでも十分に脅威になるだろし。
側面に回り込んで突っ込めば隊列を崩すこともできるかもしれない。
「忘れちゃいけないのは村の防備だな」
「柵と掘りは必要だよね」
「物見台も必要だと思います。弓を射ることができますし」
「石の壁が一番いいと思うんだけど、さすがに無理かな……」
ロンとグラムとロズワードが口ぐちに言う。
まあそっちは長い時間を掛けておいおい造ろう。
どういうふうに設置すれば一番効果的か研究する必要もあるしね。
「あとは兵器だな」
あれを作るか……
中学生の頃、若気の至りで作り方を調べたから作り方は分かる。
でもあれは危険すぎる。
俺はみんなを見る。
みんな命を掛けて戦うつもりだ。
当然争いはできる限り避けるが……それでも争いになったら死人が出るかもしれない。いや、よほど運が良くないと死ぬだろう。
恐れてる場合じゃないな。
作ろう。
黒色火薬を。
この地図はあくまで暫定のものなので、もしかしたら変わるかもしれません。そして作中の描写と違うかもしれません。その点を考慮に入れてください。
エビル王の国とベルベディル王の国は主に三章の予定ですが、一章でもそれなりに重要なので記しておきます。他の国は順次名前を入れておきます。
太線が国境、薄い線が領境です。緑がロマーノの森。
北のロゼル王の国はユリアの言う、呪いを掛けてくる黒幕です。
被支配層はアルムスたちと同じアデルニア人ですが、支配層はガリア人というアデルニア半島よりも北に住む民族です。
ちなみにキリシア人の植民都市がある影響でアデルニア半島は南の方が文化的です。
ただし鉄器は北方の民族が発明したモノなので、北から伝わってきています。
次回は今度こそユリア回です。
ちなみに黒色火薬ですが、アルムスエピソードは作者のエピソードです。
中学の時、理科で好きなことを調べろという宿題が出されたので黒色火薬とダイナマイトの製法を調べてきました。今思えば先生はどんな気分で採点したんでしょうか? あ、ちなみに理科の成績は五でした。
何で中学生って爆弾好きなんでしょうね?