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第十七話 対面

 「私がユリアの父だ」


 ……ちょっと急展開過ぎませんかね。


 俺の目の前にベッドで横になる男性。ロサイス王。

 横にはニコニコと、してやったりという顔をしたユリア。


 聞いてねえよ。


 豪族の娘とか、ロサイス王の側近の娘当たりを想像してたよ。

 まさかロサイス王の娘とか……


 「娘が世話になっている」

 「いえいえ、そんな。あ、これは蜂蜜です」


 古代世界では蜂蜜は薬として使われている。ここでもきっとそうだ。

 病人にはウケがいいと思って献上するつもりではいたが……まさか本人に手渡すことになるとはね。


 「ところでだが……私は君のことをさっぱり知らない。昨日の夜、ユリアを問いただして初めて知ったからな。だから教えてくれないか」

 「ユリアは何も言わなかったんですか?」

 「ああ。不義理になるからとな。あの土器についても口を割らなかった。まあ、あの土器は私も欲しかったから黙認していたが……そろそろ製作者本人に会いたくなってな」


 なるほど。

 ユリアが抜け出せたのは見張りが無能だったからじゃなくて、この人が黙認してたからか。

 納得。


 「じゃあ話させていただきます」

 もちろん、教えたくないこと、都合の悪いことはすべて伏せてね。


______________



 「なるほど。よく分かった。ところでだ。我が国に所属するつもりはないか?」

 「ありがたいお話しですが、お断りさせていただきます」

 「理由は?」


 俺はあらかじめ考えていた理由を話す。


 「あなたが御病気だからです。ドモルガル王に攻められたとき、あなた方は守ってくださいますか? それにあなた自身も病気で、フェルム王にさえ対処ができていない。所属を明らかにするのは時期尚早と考えています」

 「なるほど。その通りだ。では交易は?」


 そっちが本題か。

 まあ俺が所属を嫌がっているのはユリアからも聞いてるだろしな。


 「問題ありません。欲しいのは須恵器ですか?」

 「ああ。そうだ。何と交換がいい?」

 「家畜が欲しいですね。鶏、牛、ヤギ、そして豚。後出来れば馬」

 「家畜か……我々も家畜は早々手放せなくてな。それに牛と馬は繁殖が難しくてね。海外からの輸入したものばかりなのだ。国で育てることができなくてな。代わりに欲しい物はないか?」

 「では奴隷を」


 俺たちに足りないのは労働力だ。

 成人男性の奴隷が複数人居ればだいぶ作業が楽になる。


 奴隷なんて可哀想と思うかもしれないが、この辺の地域では奴隷は普通にある。特に呪術なんてものがあるから、制御がし易いようだ。


 「了解した。須恵器十で奴隷一、どうだ?」

 「構いません」


 奴隷、安いなあ。でもそんなもんか。


 ちなみに奴隷を買ったのは労働力以外の目的もある。

 奴隷は最初から奴隷だったわけではない。昔はちゃんとした職業についてたのだ。


 例えば葡萄農家とかね。


 葡萄の育て方なんて俺は知らない。難しそうだし。

 葡萄を育てる技術を持った人間を手に入れられればラッキーだ。


 他にも大工とか。


 「後、これからも引き続きユリア殿下とは交流を続けさせて欲しいのですが」

 「……危険だ。ユリアは私の一人娘。そういうわけにもいかない」

 「ねえ、お父さん。私は四年間もアルムスと一緒に居たけど大丈夫だったよ? いいじゃん」


 ユリアが説得に掛かる。


 「仕方がない。そんなに言うなら許そう。ただし! アルムス君。娘を絶対に傷つけるな。傷つけたら……分かっているだろうな?」

 「分かっています。身の程は弁えております」


 おそらく、傷つけるなというのは心のことじゃない。

 体……具体的には処女膜のことだろう。


 俺だってそれくらい分かってるさ。


 それにしても良かった。

 ユリアが居なくなれば呪術を教えてくれる人を雇わなければならないからね。


 あ、別にユリアとの付き合いは呪術を教えてくれるということだけじゃないよ?

 でも、最悪彼女のところに俺が出向けば話はできるしさ。


 一番の損害は呪術ということ。


 「ところで君は妻は居るか?」

 「いませんが……」

 「紹介しようか? 好みのタイプは?」


 何だ。急に。

 あれか、繋がりを強めておこうみたいな。

 親族か豪族の娘を俺とくっ付けようということか。あわよくば技術を盗もうって?


 そう簡単にいくか。

 というかテトラが怖い。殺される。

 でもどうやって断るか……

 そうだ!!


 「ユリアですね。くれるんですか?」

 「無理だな」


 ロサイス王は鼻を鳴らす。

 どうにか上手く切り抜けた。


 ちらっとユリアを見ると、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。

 おい、そんな顔だと俺がマジで言ってるみたいになるだろ。


 ロサイス王に殺されたらどうする。


 「おい、まさか……」

 ほら、睨まれた。

 どうすんだよ。


 「本気か?」

 「さあ、どうでしょう?」


 俺はおどけて見せる。

 きっぱりと違うと言わないのはユリアへの配慮、あと割と本当だから


 「食えない奴だ。本当に十五か?」

 「実は二十歳越えてます」

 「嘘をつくな。それにどちらにせよ若いことには変わらんではないか」


 まあ確かに。

 今更気付くが、あんまり緊張しない。


 王である前にユリアの父であるという認識が強いからか、それとも俺がそう言うのに強いタイプだからか……


 「ところでだ、君の村はフェルム王の国と近いようだな」

 「はい。そうですが」

 「もしもがあったら連携しないか?」


 面倒な話が来たよ。


 要するに同盟ということだ。


 受ければ戦争に巻き込まれるリスクが高まる。

 断れば単独防衛しなくてはならない。


 現代でも通じる非常に面倒くさい問題だ。


 「……考えさせて頂けませんか。我々は人の数がとても少ない。だから戦争はそう易々と行えないんです。ご理解頂きたい」

 こっちがそれなりの国力の国ならまだいい。

 だが戦える人間は三十人ばかりしかいないんだぞ?


 幸運なことに俺たちには技術がある。それを対価にある程度交渉ができる。

 戦争を回避する手段は十分にある。


 ロサイス王の国がフェルム王の国よりも小さいなら喜んで受けた。

 だがロサイス王の国はフェルム王の国よりも大きい。

 だから最初に仕掛けるのはフェルム王ではなく、ロサイス王の国になる場合が多いだろう。


 相互防衛ならいいけど侵略戦争で血を流すのは阿保らしい。


 「それくらいは当然理解している。できれば色の好い返事を期待したいところだ」


 引き下がってくれた。

 まだまだ交渉の時間はあると考えてるのだろう。


 顔を合わせるたびにこの話合いをさせられるのか……


 武器の準備をしておいた方がいいかもしれない。




 「最後に海外の人……キリシア人でしたっけ? 彼らから家畜を仕入れたい。紹介して貰えませんか?」

 「その程度なら構わない。ずっと南の方にはキリシア人の植民都市がいくつかある。そこへ行けばいろいろ珍しい物を仕入れることが出来るだろう。私が紹介文を書こう」

 「ありがとうございます。何か……」

 「要らん。書くだけだからな」


 そう言ってロサイス王は木の板に墨で文字を書く。


 紙は無いんだな……


 「では、今日は有意義な時間を過ごさせていただきました」

 「私もだ。泊って行くか?」

 「いえ、村の仲間には今日中に帰ると伝えてあるので」


 俺はそう言って立ち上がる。

 誘われるのを断るのは少し失礼な気がするが、ここに残るのはいろいろ危険だ。


 酒を飲まされて、酔っぱらっている隙にいろいろやられて既成事実を作られたら面倒くさい。

 というかテトラに殺される。

 

ロサイス王は一人娘に非常に甘いです

死にかけだからかもしれません

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