2035年の売れっ子マンガ家
2035年、人工知能の爆発的進化による技術的特異点の突破は、様々な分野において、その影響を及ぼし始めていた。これまでの人類の生活様式が一変させられることとなる ひとつの到達点であり、文明の更なる加速を予感させるリスタート・ラインともなった。
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"私"の現在の職業はいわゆる「マンガ家」である。しかも1日に数百万PVを稼ぐ、世界屈指の人気マンガ家だ。
ただマンガ家と言っても、上手な絵が描けるわけではなく、物語が書けるわけでもない。単純に「設定」が面白いクリエイターとして、私は存在している。
漫画の制作環境が激変したのは、ちょうど現在から2年ほど前。
AwesomeAI社がリリースしたアプリケーションソフト『3DCGマンガつくーれ - 2Dトランスレーター付き拡張機能パック -』が、漫画業界に革命をもたらした。
操作は至ってカンタン。すでに存在するキャラクターたちに微調整を加え、コマごとにポージングさせていくだけ(しかも口頭で)。背景も現実世界と同様に無尽蔵に用意されており、かつリクエスト機能により、イメージの補強も可能となっている優れもの。
これにセリフを割り振っていくだけでコマ割りも最適化してくれるという画期的なソフトの登場により、従来の量産型のイラストレーターたちは一気に職を失った。
しかし、私はシナリオの方も書けない。
そこで利用したのがAmazingAI.incの多言語翻訳対応型『AutoScriptCreator』である。
こちらも操作は至ってシンプル。物語の「設定」だけをAIとのインタラクティヴ形式で入力し「台本」を自動生成させていく。設定が完了した時点で、瞬時に複数のシナリオが産み落とされ、さらに「スコア(=利用者全体の人気傾向により常時最適化されていく指数)」まで付与されているという親切ぶり。
そこで私は高得点を叩き出しているものではなく、敢えて「20点前後」の作品をチョイスし『3DCGマンガつくーれ』に流し込む――たった、これだけの作業で1本の漫画の完成する(しかも、どちらのアプリも生成された制作物はパブリックドメイン扱いとして利用でき、かつ新たに著作権登録も可能という気前の良さだ)。
この段階でようやく、私は初めて私自身が設定した漫画の「最初の読者」となる。自分好みにオーダーメイドした作品を読み、世に出す価値があるかどうかだけを選別する「シフター(※現代漫画家に対する蔑称)」となるわけである。
私が世にリリースした作品たちは、当りに当たった。
いわゆるパレートの法則(=20:80の法則)を選別材料として使っているに過ぎなかったが「設定」の奇抜さと相まって、稀代の人気漫画家枠に堂々と仲間入りしてしまったのである(ので、出来れば私のことをこれからはシフターなどという蔑称ではなく「設定屋」とでも呼んでいただけるとありがたい)。
第一、私は自分が設定し、生み出される漫画がやはり一番大好きである。
自信を持って世に送り出しているのだから、何ら後ろめたいところもなかった。
ちなみにこれらから生成された漫画を「アニメーション化」してくれるアプリもすでに登場しているが、こちらの方はまだシステム構築が不足しているらしく、「私個人の趣味」にマッチングするような作品の生成には未だ成功していない。今後の更なる技術革新が待たれる分野である。
さて、ここに出てくる"私"自身もAIであるという可能性を考えた読者の方は、いったい何%くらいいたのでしょうかな?(ニヤリ