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90話 勇者と魔王っぽい

そろそろ感想返しの活動報告書かないと……

「強斎と……戦う?」

「ああ」


 勇志は初め何かの冗談かと思ったが、それはないと直ぐに確信する。

 強斎の雰囲気から……敵意が感じられたのだから。


「お、流石にわかったか」

「……どうして」


 勇志は油断なく剣を構える。

 その仕草に、周りの人たちが驚愕した。


「ユウシさん!? どうしたんですか!?」

「ヴェレス……いや、皆。少しだけ離れててくれないか?」


 ヴェレスは何か反論しようとするが、鈴に止められる。


「リンさん……?」

「大人しく勇志に従いましょう。今は・・


 大地と鈴は気が付いていた。

 強斎から、魔物と同じ敵意が放たれている事に。


 ヴェレスは気絶している澪と一緒に、会場の観客席に移動する。

 それを確認した勇志は、もう一度口を開いた。


「強斎。質問に答えてほしい」

「どうして戦うのか? だろ?」


 勇志ははっきりと頷く。


「この距離だったら僕以外には聞こえないだろう。遠慮なく言ってみて」

「はっ。お前たちのステータスなら、聞こうと思えば聞けるだろうが」


「つまり、あまり聞かれたくない内容なんだね?」

「……ふっ、ふはははっ!! 流石だ。流石だよ。昔と何にも変わっていない」


 強斎は愉快に笑いながら、勇志を褒め称える。


「違うね。僕も、君も……。あの日から変わってしまった」

「そういえばそうだな……だが、今はその話をしにきたんじゃない」


 強斎は懐から一冊の本を取り出す。


「それは?」

「その質問に答える前に、俺の質問に答えろ」


 先程の笑みが幻だったと感じる程の冷たい視線。

 勇志は堅唾を呑み、強斎の質問を待つ。


「お前は、元の世界……日本に帰りたいか?」

「……え?」


 強斎からの質問に唖然となる勇志。

 それはもう既に諦め、考えることを止めていた内容だった。


「勇志。お前は、この世界で得たもの全てを捨ててでも元の世界に帰りたいか?」

「どういう……意味?」


「そのままの意味だ。この世界で学んだ事、手にした友情恋情、記憶のすべてを消してでも帰りたいのか。その答えを聞いている」

「それは……」


 勇志は考える……なんてことはしなかった。


「ごめん強斎。その質問の答えは……ノーだ」

「ほう。理由を聞こうか」


 何故か嬉しそうな強斎には気を留めず、勇志は口を開いた。


「簡単なことだよ。この世界こそ、僕たち・・がいるべき世界だからだよ。

 確かに、親にも友達にも心配をかけているかもしれないし、やりたいことだっていっぱいあった。

 でも、僕は帰らない。本能が言っているんだよ『この世界こそお前の生きていくべき世界だ』ってね。

 姉さんが生きていたらどうだかわかんないけどね。それに、僕は決めたんだ。僕はヴェレスと結婚する。この気持ちを伝えずにヴェレスとお別れなんて、絶対に嫌だね」


 強斎は唖然としていた。

 姉の事を出したのもそうだが、あの勇志が女性に対してここまで想うことなんて、今までに見たことないのだから。

 いや、一人だけ知っているがそれについては勇志も触れてほしくないだろう。


「これが僕の帰らない理由。どうかな? 満足した?」

「……そうだな。納得のいく答えだ」


 強斎は持っていた本を勇志に投げ渡した。


「読んでみろ」


 勇志は器用にも片手でキャッチして、本を開いた。

 そして、目を見開き驚愕する。


「日本語……!?」


 この世界にきて初めて見る文字。

 だが、勇志にとって最も馴染みのある文字。

 日本語で書いてある物語だった。


 ページをめくるごとに、本を支える手に力が入る。

 それが怒りなのか恐怖なのか、強斎にはわからない。


 ただ、内容からしていい気分では無いことがわかる。



 遠い昔、一匹の悪魔がいた。

 悪魔は力こそ強大だったが、気が弱かった。

 そんな悪魔と一人の人間が出会った。

 人間は勇者と名乗り、悪魔を討伐しにきたのだ。

 悪魔は必死に逃げ回るが、人間も負けじと悪魔に斬りかかる。

 逃げるのに疲れた悪魔は人間に攻撃し、殺した。

 その日から悪魔は魔王になった。

 魔界で最強の称号を手に入れた魔王に、また勇者と名乗る人間が現れた。

 魔王は勇者を圧倒し、手を差し伸べた。

 聞けば、その人間は最初に討伐しにきた勇者の子孫だという。

 魔王は戦いが嫌いだ。

 勇者も戦いが嫌いだ。

 願いが一致した魔王と勇者は、手を取り合い、世界を平和にしていく。

 次第に人間界と魔界も仲良くなり、互いに望む平和が叶おうとしたその時。

 神が天空より舞い降り、手当たり次第に破壊しつくした。

 勇者と魔王にも手が負えない神は、笑いながらこう言った。

 「人間と魔物は和解などできない。未来永劫憎しみ合うだろう」と。

 その言葉はまるで呪いのようだった。

 人間は神を称え、魔物を憎む。

 魔物は神を称え、人間を憎む。

 だが、勇者と魔王は無事だった。

 それをよく思わない神は、二人をこの世界と別の世界に飛ばすことにした。

 飛ばす際に、神は呪いの言葉を口にする。

 「お前たちの子孫は必ず戦うことになる。その時、勝った方に私を討伐する権利をやる」と。

 そして、勇者と魔王は別世界へと姿を消した。



「なんだよ……なんだよ……これ!」


 勇志は本を閉じずに、そのまま強斎に投げつけた。

 強斎は本を閉じながらキャッチして、そのまま懐にしまう。


「強斎……まさか、戦争する理由って……!」

「ああ、そのまさかだ」


 強斎は刀の先を勇志に向けて不敵な笑みを浮かべた。


「勇志、お前が元の世界に帰らない理由を言った時。この世界こそ、自分『たち』がいるべき世界って言ったんだぜ?」

「っ!」


「わかってんだろ? その言葉の意味を」

「だけど……僕は戦いたくない! 戦う意味なんてどこにも――」

「あるんだよ」


 強斎は勇志の言葉を遮り、ゆっくりと口を開く。


「俺はこの世界の神に用がある。それと、お前がこの先戦っていけるのかどうか……真の勇者なのかどうかを確かめるためにもな!!」


 そう宣言すると、強斎は遠くにいるヴェレスと目を合わせた。

 すると、ヴェレスがゆっくりと宙に浮く。


(王女様。聞こえるか?)

(キョウサイさんですか!? 私、なんで空飛んでるんですか!?)


 更にヴェレスは上昇し、10メートルぐらいまで高く浮いていた。


(え、ちょっ! 私高いところダメなんですよ!!)

(あー、ちょっと落ち着いてくれ)


 ヴェレスは空中でジタバタしてどうにか降りようとする。

 勇志にはそれが苦しんでいるように見えてしまった。


「強斎! ヴェレスに何をした!!」

「……」


 強斎はヴェレスと『念話』をしているためか、勇志の言葉は耳に入ってきていない。


(ヴェレス。よく聞いてくれ)

(聞いたら降ろしてくれますか!?)


(あー……。今からお願いすることに従ってくれたらいいよ)

(わかりました! 早く要件を!)


 本当に高いところが苦手なんだろう。

 『念話』からも焦りが伝わる。


(今から少しだけ眠ってもらう。気がついたら見知らぬ場所にいるが、大人しくそこで待っててくれ)

(見知らぬ場所ですか……? 私、大半の国には行ったことありますよ?)


(そうか、神界にも行ったことがあるとは驚きだな)

(え? えええええ!? ちょっと待ってください!! 私、神界に行くんですか!? 何でですか!?)


(行けばわかる。じゃあ、そろそろ飛ばすぞ)

(そんな、心の準備が――――)


 強斎は隣でこれでもかと睨んでいる勇志を一瞥すると、指をパチンとならした。

 そして――――。


「あ、ああ……!!」


 勇志の目の前でそれは起きた。



 ――――ヴェレスが急激に膨れ上がり、破裂した。

 まるで、上空に巨大な花が咲いたような。

 赤く、綺麗な花が。



「さて、これでお前にも戦う理由ができただろ?」

「……」


 勇志は答えない。


「ついでに言うが、あれは俺がやった。俺がヴェレスを『この世界』から消した」

「……」


 勇志は答えない。


「見せてみろよ。お前の力を。真の勇者の力を」

「……」


 勇志は答えない。


「はっ、怖気づいたか? これじゃあ、なんのためにヴェレスが犠牲になったんだろうな」

「……………………」


 勇志は――――――――。

さて、これで繋がった……はず。

おかしいと思ったら直すか次話で付け加えます←


辛うじて鈴が出てきているだけで、後は空気と化してますね。はい

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