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88話 再会っぽい

「くっ……!」


 勇志は目の前に立つ人物から一旦距離をとり、剣を構え直す。


 予定よりかなり早い決勝戦。

 勇志VS漆黒の騎士だ。


 そして、この決勝戦は今までのどの試合よりも長く、熱い戦いになっていた。


「はぁ……はぁ……」


 勇志は既にステータス上昇の剣を握っている。

 それでも、確実に押され始めていた。


 自らのステータスを確認するが、苦笑しか出てこない。

 実力差など、数値を見るまでもなくわかっていた。


 勇志は少しでも時間を稼ぐために口を開く。


「漆黒の騎士……君は……」


 雑談でもしようか?

 そんなことを考えながら、とある質問を投げかける。


「小鳥遊強斎を知っているか?」


 この質問の答えによって、どうやって戦うかが変わってくる。

 殺す気でいくのか否か。


 そして、漆黒の騎士が明らかな動揺を見せた。

 この反応は――――黒だ。


「知っているんだね?」

「……」


 漆黒の騎士は無言を通すが、勇志はそうはいかない。

 段々とこの相手が暗黒騎士という可能性に近づいてきた。


 そう思っていると、柄を握る力が強くなる。

 若干呼吸も乱れ始めたので、大きく息を吐いて整えた。


(やっぱり、こいつが暗黒騎士なのか……?)


 装備と雰囲気、強さからして暗黒騎士で間違いないだろう。

 しかし、直感がそれを否定している。


 恐る恐る勇志は口を開いた。


「君が……暗黒騎士なのか?」

「……」


 親友を殺したかもしれない紛れもない『敵』。

 その『敵』に最も近い、漆黒の騎士は無言のまま剣先を勇志に向けた。

 そして……。


「くっ!」


 勇志がギリギリ反応できる速度の斬撃を繰り出し、更に追い討ちをかける。

 勇志も魔術を駆使して対抗するが、それでも互角に近いだけだった。


(もし、あいつが魔術剣を使ってきたら……)


 考えるだけでもぞっとする。

 勇志は相手が魔術剣士ということは知っていた。

 そして、完全に遊ばれているということも。


「君の実力なら簡単に僕に勝てるだろ? なんでそうしないんだ?」

「……」


(無言……か)


 どうにかして性別だけでも知ろうとしたが、それも難しいようだ。

 こうしている間に、勇志のMPはどんどんと減っていく。


(しょうがない……こうなったら!)


 勇志は力強く剣を振り、同時に一定の距離を取った。

 そして……。


「『限界突破』」


 今の勇志が一日に『限界突破』を使える回数は三回。

 そのうちの最初の一回を今使ってしまった。


「今までのようには……いかせない!」

「……」


 『限界突破』を使った勇志の平均ステータスは5000を軽く超えている。

 明らかに人間を超越していた。


「……!」


 漆黒の騎士も勇志の変化に驚愕しているようだった。 

 少しだけ後退り、その一瞬を逃さず勇志は瞬時に懐に潜り込む。


「しっ!」


 先ほどとは比べ物にならないほどの強烈な横薙ぎ。

 漆黒の騎士は何とか受け止めるが、体制が崩れて反撃できそうにない。

 立て続けに斬撃を繰り出し、遂に鎧に攻撃が当たった。


「まだまだ!」


 後方に飛ばされた漆黒の騎士に立て直す隙は与えまいと、出来る限り早くそして強く攻撃を繰り出す。

 漆黒の騎士は防戦一方だ。


(これなら……いける!)


 そして、漆黒の騎士の防御が破れ、懐がガラ空きになった。


「そこだ!」


 今までで一番力を込めた一閃を胴体に切り刻んだ。

 漆黒の騎士が大きく後方に吹っ飛ぶ。


(本来ならば即死……だけど、漆黒の騎士はこの程度じゃ気絶すらしない……)


 勇志の考えは当たっていた。

 飛ばされた漆黒の騎士は今にでも立ち上がろうとしている。


 勇志は漆黒の騎士に近寄り、更に畳み掛けようとするが……。


「くっ……」

「……え?」


 声を――――聴いてしまった。


 その途端、勇志は攻撃を中断する。


「流石、本物の勇者というべきか」

「お……んな……の子?」


 漆黒の鎧から発せられる声は紛れもなく女性の声だった。

 これは流石に動揺せざるを得ない。


 漆黒の騎士はゆっくりと立ち上がり、剣を構え直す。


「私も甘く見ていたよ。人間とはいえ、これほどまでに強いとはね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 『限界突破』の時間が限られているはずだが、勇志はそんなことを気にしている場合ではなかった。


「君は暗黒騎士なのか!?」

「ああ、先ほどの質問か? いいだろう。中々に楽しめたから答えてやる」


 漆黒の騎士は剣を鞘に戻し、腕を組んだ。

 勇志も同じく鞘に戻し、『限界突破』を解除した。


「私は暗黒騎士などではない。それに暗黒騎士など聞いたこともないな」

「じゃあ、なんで『漆黒の騎士』なんていう名前で参加しているんだ……?」


「見た目通りだろ?」

「……」


 あまりにも簡単な理由だったので、一瞬だけ思考回路がフリーズしてしまった。

 だが、直ぐに立ち直って次の質問をする。


「だ、だけど。君は強斎の事を知っているようだったじゃないか?」

「それは私のセリフだ。なぜお前がキョウサイ・タカナシを知っている」


 質問に質問で返された勇志は戸惑ってしまう。

 それを黙秘と判断したのか、漆黒の騎士は話を続けた。


「まぁいい。キョウサイ・タカナシ……あいつは――――」


 漆黒の騎士が話そうとした瞬間。

 観客が一斉に騒ぎ始める。


「なんだ? 戦いをしていないことがそんなにもおかしいのか?」

「いや、違う。ちょっと上を見てごらん?」


 勇志は上空を指差し、冷静に現実を口にした。


「ドラゴンだ」

「……しかも、上位種三体ときたか」


 竜がこの辺りを迂回しているなんて前代未聞だ。

 こうなってしまっては、試合どころではなくなってしまう。


「勇志!」


 観客が逃げていく中、一人の男が勇志のもとに駆けつけた。


「やあ大地。他の皆は?」

「全員こっちに向かっている。それより……」


 大地は漆黒の騎士を睨みつける。

 勇志はそれだけで何が言いたいのかを察した。


「ああ、大丈夫だよ。そこの人は暗黒騎士じゃない」

「そうなのか……? なら、なんでそんな鎧を……」

「同じ質問は受け付けない」


 大地はその声に勇志と同じような反応を見せた。


「なっ、女!?」

「……同じ質問は受け付けない」


 顔は隠れているが、雰囲気からして呆れているのがわかる。

 そして、漆黒の騎士は空を仰いだ。


「それで? お前たち勇者はどうするつもりだ?」

「戦うよ……。多分、これが戦争の始まりだから」


 漆黒の騎士の問いに、勇志は剣を抜きながら答えた。

 一応大地も見るが、戦う気満々のようだ。


「面白いな。お前たちは」


 漆黒の騎士はそう呟いてから一歩前に出て、力強く地面を踏みつけた。

 すると、漆黒の鎧が音を立てて崩れ落ちる。


 そして、漆黒の騎士の正体があらわになった。


「「!?」」


 勇志と大地は驚愕していた。

 いや、見とれていたと言ったほうが適切だろう。


 腰まで届く白髪、健康的な肌に適度な大きさの胸。

 先程の漆黒とは対照的な純白のワンピース。

 目の色は碧く、唇も水々しい。


 一生に一度お目にかかれるかどうかの美少女だった。



「ふぅ、やはりこちらのほうが落ち着くな」


 鎧を脱いだ途端、元漆黒の騎士の魔力が桁外れに跳ね上がった。

 彼女は剣を持ち、微笑気味に勇志たちを一瞥する。


「私に見とれるのはいいが、戦いも見ていてくれよ?」


 二人が無言で頷いたのを確認すると、彼女は剣を地面に突き刺した。

 すると次の瞬間、彼女に大きな異変が起こった。


「人間にこの姿を見せるのは……久しぶりだな」


 彼女に起きた大きな異変……それは。


「天……使?」

「ふふっ、ご明察」


 純白に純白を重ねがけた様な純白の羽が生えていたのだ。

 先ほどの漆黒など、どこにも匂わせないような完全な白だ。


「天使ヴァルキリー。お前たち勇者と一時的に共闘する!」


 そう高らかに宣言すると、ヴァルキリーは竜の元に飛んでいった。

 明らかに先ほどとは違う動き。

 今の彼女には絶対に敵わないと実感させられる。


 大地は崩れ落ちた鎧の一部を拾い上げ、目を見開く。


「この鎧は……リミッターだったわけか」

「そうみたいだね」


 勇志の態度は鎧などどうでもいいといった感じだ。

 今はヴァルキリーの戦いを見たいというのが本音だった。


「やっぱり、魔術剣使えたんだ……」


 勇志は苦笑いを隠そうともせずに、素直な感想を述べた。

 かなり軽装になったが、竜の上位種三体を圧倒する程にヴァルキリーは強く美しい。

 ヴェレスという存在がいなければ、確実に一目惚れしていただろう。


 勇志がそんなことを考えているうちに三体の竜を地上に落とし、ヴァルキリーは勇志達の下に帰ってきた。


 しかし、ヴァルキリーの顔はどこか浮かない。


「どうしたんだい?」

「おい勇者、さっきの答えの続き。聞きたいか?」


「質問……?」

「ああ、キョウサイ・タカナシについてだ」


 隣にいる大地が眉間にしわを寄せる。


「どういうことだ」

「大地、君には後で説明する。それで? 強斎がどうしたの?」


 雰囲気からして、今の彼女は相当焦っていた。

 ヴァルキリーは盛大な舌打ちをし、勇志たちに背を向ける。


「あいつは……神々の敵だ」

「……? それってどういう――――」


 勇志が質問を投げかけた瞬間、急に辺りが暗くなる。

 ヴァルキリーを見ると、力強く歯を食いしばって上空を見ていた。


 勇志もつられて空を見ると……。


「……」


 ヴァルキリーが倒した竜とは桁違いに巨大な竜が、ゆっくりとこの会場めがけて降りてきた。

 そんな竜から、ひとつの影が飛び降りる。


 三人は武器を構えて、その影の様子を見ている。

 だが、そのうちの二人……勇志と大地は武器を落としてしまった。


「おい! 何をやっている! 早く武器を構え直せ!」


 ヴァルキリーが叫ぶが、二人の耳には全く入ってこない。



 それもそうだろう――――。



「まさかドラゴン三体がこんなに早く倒されるなんてな」



 その影の正体は――――。



「あー……。ヴァルキリーいんのかよ……」



 もう二度と会えないと思っていた――――。



「俺達の再会には豪華すぎるゲストだな」



 もう一人の地球人――――。





「久しぶりだな。勇志、大地」

「「強斎……!!」」





 ――――――小鳥遊強斎だったのだから。

ついに……ついにここまで来ました!


新キャラのヴァルキリーの登場と共に、待ちに待った再会!

勇志君!君にはヴェレスがいるんだ!浮気はすんなよ!(強斎見ながら



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