<< 前へ次へ >>  更新
95/126

87話 攻撃型の狐っぽい

「あいつ……強いわ」


 ファイは希に見る真剣な表情で、漆黒の騎士の戦いを眺めている。

 勇志と同じように、一瞬で試合を終わらせている。


「うん、勇志と同じぐらいに……強い」

「残念だけどそれはないわ、澪」


 鈴は盛大な舌打ちをし、理由を言った。


「あの黒騎士……今まで一回も魔術を使ってないもの」

「魔術が苦手な普通の剣士って可能性は?」

「それはないわ。あいつの剣を見てみなさい」


 ファイに従い、澪は漆黒の騎士の剣を凝視し、解析した。

 ステータスは視力等にも適応されているようだ。


「魔術強化が付属されている……ってことは」

「あの黒騎士も魔術剣の使い手ね」


 鈴は苦笑いを隠そうともせずに話を続けた。


「この大会はトーナメント制。黒騎士と勇志は端っこだったから、実際に戦うのは決勝戦になるわね」

「戦争の幕開けが決勝戦なんて……あいつが暗黒騎士だとしたら趣味悪いわね」


 ファイは鼻を鳴らし、会場に視点を戻す。

 それに続いて二人も戻し、心配する必要もない勇志の戦いを見届けるのであった。


………

……


「ねぇ、緋凪」

「……」


「緋凪ってば」

「……え? あ、琴音」


 緋凪と琴音は会場の見回りをしていた。


「どうしたの? ボケっとしちゃって」

「あ、ううん。何でもない。で、どうしたの?」


 琴音は「んー……」と小さく唸る。


「いや、これといって言いたいことはないけどね。緋凪の意識が飛んでたから」

「あはは……。そんなに?」


「うん。だからどうしたのかなー? って思って」


 緋凪は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、口を開いた。


「ちょっとね。日本にいた頃を思い出しててさ」

「そっか」


「まだこの世界に来てから半年ぐらいしか経ってないのに、もう随分と昔のことのように思えてきてね。もし召喚されずに普通の生活をしていたら。もし私が別の学校に入学していたら。もし……強斎が生きていたら」

「……」


 ――――小鳥遊強斎。

 緋凪だけではなく、勇者全員の中心人物。


 琴音は、その人間のことをあまり好いていない。


「あの……さ」

「ん?」


「もう、強斎って人のことなんて忘れよ?」

「なんで……?」


(やっぱり、雰囲気が変わった)


 琴音が強斎を好いていない理由。

 緋凪たちの異常なまでの依存だ。


「だってさ、緋凪辛そうじゃん。その人の話をする度に気持ちを押し殺してさ。言っちゃったら悪いけど、中学の時の友達なんでしょ? もうここは地球じゃないから、そういうものだと割り切って――――」

「琴音」


 緋凪は琴音の唇に人差し指を当てて言葉を塞いだ。


「もし、琴音が死にそうなときに助けてくれた人がいるとするね」

「う、うん」


 緋凪にそう言われて真っ先に出てくるのは『コトリアソビ』の時に助けてもらった男だ。


「しばらく経って偶然にもその人と再会。だけど、その人は琴音の事を覚えていない」

「人の命を助けたのに?」


「そう、覚えていない。そして、琴音は思い出して欲しくてその人に沢山話しかける」

「まさか……」


「そう、私にとって強斎はただの友人じゃない」

「でも、それだけであそこまで依存するわけが――――」


 琴音が質問を投げかけた瞬間。

 嫌でも意識を引っ張られる程の轟音が鳴り響いた。


「今のは!?」


 緋凪が瞬時に武器を取り出し、周囲を警戒する。

 琴音も気持ちを切り替え、魔術による身体強化をした。


「ここまでの轟音……試合で何かあったのかな?」

「あのうるさい観客の声がピタリとやんだって事は……」


 二人は肩の力を抜いて、警戒を解く。


「「なにかあったね」」


………

……


 観客の声が静まり返っている中、中央で二人の男が拳を合わせていた。


「ほう、俺と真っ向から力勝負できるとは……面白い!」

「今までの戦いじゃ準備運動にもならなかったからね。君の得意分野で勝負すれば少しは楽しめると思って」


 勇志はそんなことを言っているが、実はあまり余裕がない。


「俺の拳を拳で返してくるやつなんて……俺は一人しか知らなかったな。お前が二人目だ」

「確かに。獣人でこれほどまでの力……異常だ」


 未だに右手が痺れているが、今はそれどころではない。


(魔術剣を使えば直ぐに終わる……だけど)


 勇志にはそうしない理由があった。


 目の前に立っている対戦相手。


 金髪狐耳の獣人。

 名前は――――。


「ロア・アンジェリーク……」

「ん? なんだ?」


(冗談じゃないよ……全く)


 勇志は覚えていた。

 いや、忘れるはずもなかった。


 今まで戦ってきた中で、絶対に追いつくことができないと確信した相手。


 ミーシャ。

 そして、レイア・アンジェリーク。


 目の前のロア・アンジェリークはどう見てもレイアの親族だ。


「君に一つだけ質問がある」

「ほう、いいだろう」


 ロアは機嫌がいいのか、あっさりと了承した。


「君に……姉か妹はいたかい?」

「っ!」


 明らかな動揺を見せたロアに、更に畳み掛ける。


「レイア・アンジェリーク。聞き覚えはあるだろう?」

「お前……何が目的だ」


(やっぱり、公にできない理由があるのか)


「目的……そうだね。そのレイア・アンジェリークについて知りたい」

「? お前が姉貴の買取主じゃないのか?」


「残念だけど違うよ」

「なら……なんで姉貴の事を知っている?」


 レイアの事を訊くロアの目に、少しだけ違和感を覚えた。


(怒っている……?)


 何故ロアが怒っているのか、勇志にはわからない。

 ただ、ひとつ言えるのは――――。


「残念だけど、今の君にそれを教えることはできない」

「なっ!」


 そう、今のロアに教えたら大変なことになるということ。

 ただの直感だが、勇志はその直感に従うべきだと確信していた。


「だから、僕もこれ以上は模索しない。あのレイア・アンジェリークが君のお姉さんで、何らかの理由があって奴隷として売られたってわかっただけでも十分だ」

「お前はよくても、俺はそうもいかないんでな……。力ずくでも吐いてもらうぞ!」


 ロアは地面を蹴り、高速で勇志に近づいたが……。


「君は……お姉さんより弱いんだね」

「!?」


 簡単に背後を取られてしまった。


「いつか、また会える事を願うよ」

「次は絶対に負けないからな」


 ロアはそう吐き捨てて、意識を絶った。


「ふう……」


 試合終了の合図を聞きながら、勇志は倒れているロアを一瞥した。


(どこの世界でも、弟は姉に勝てないものなのかもね)


 ロアのステータスを再度確認し、勇志はその場を去った。



ロア・アンジェリーク


LV80


HP 240/2205

MP 322/322

STR 2520

DEX 122

VIT 134

INT 119

AGI 593

MND 97

LUK 45

スキル

攻撃力異上昇

剣術LV11

体術LV14

威圧LV5

HP自動回復速度上昇LV5


属性

攻撃型(ユニーク)



急いではいけないと思った末に出てきた新キャラ

琴音たちが聞いた轟音は二人の拳がぶつかり合う音です。

表現難しい…


てか、このタイミングで出してよかったのか…?

<< 前へ次へ >>目次  更新