85話 ベルクと強斎っぽい
皆さん、GWは楽しめましたか?
自分は満喫しすぎて小説書くのほったらかしにしてましたごめんなさい!
「やっぱり、お前には見抜かれていたか」
「よく言うぜ。俺だけにわかるようにあのお嬢ちゃんに渡したんだろ」
ベルクは広間で仲良く食事をしている勇者一行を一瞥し、強斎を強く睨んだ。
「お前のやりたいことって……人間界と戦争することだったのか?」
「今は……そうだな」
「なら、なんで俺に正体を明かすような真似をしたんだ!」
一枚の黒金貨を取り出し、本気で投げつける。
銃弾のような速度の黒金貨を至近距離で投げつけられたが、強斎は微動だにせず掴み取った。
そんなことが当たり前かのようにベルクは怒鳴り続ける。
「俺はな、お前のことを友人だと思っていたよ。桁外れな力を持っていてもな!」
「ああ、俺もお前のことを今でも友達だと思ってる」
ベルクは続ける、近くの広間に届くような声で。
「じゃあなんでだ!? なんで悪魔に魂を売る真似なんてしたんだ!? まだ人間の心は残っているんだろ!?」
「俺は悪魔に魂なんて売ってないさ。俺は俺の意思で人間界と戦争する」
「っ!!」
ベルクは一瞬で剣を引き抜き、強斎に剣先を向けた。
「お前のその目。俺は一度も見たことない」
「昔から変わってないはずだが?」
「そういう屁理屈だけは変わってない……な!」
ベルクの出せる限りの全力……。
だが、それも強斎には届かない。
「なぁ、ベルク。俺は戦いに来たわけじゃないんだ」
「もうすぐ開かれる闘技大会の前に友人の顔を見に来たんだろ?」
「流石だな、そこまで推測しているとは」
「推測じゃねぇよ。お前さんの奴隷達が教えてくれたんだ」
「ふっ……そうか」
「なんだ? 怒らないのか?」
「怒る? なんでだ?」
強斎は指を鳴らし、小さく鼻で笑う。
「あいつらがやることは、俺に対して一切の害はない」
「はっ、信用しすぎじゃないか?」
ベルクが苦笑を浮かべた瞬間、二人を中心に透明な半円球が覆う。
「これで当分は邪魔が入らねぇな。気が変わった、久しぶりに……相手してやるよ」
「さっきまでは戦う気なかったんだろ?」
「気が変わったと言っただろ?」
「口止め……か」
「ああ、ここでお前を潰しとかないとな。あいつらにバラしてもらっちゃ困る」
「ははは……殺さないでくれよ?」
「安心しろ、今でもお前はいい友人だ」
その瞬間、ベルクの意識は深い闇に引きずり込まれた。
………
……
…
「あ、お帰りなさいませ!」
強斎の帰りに出迎えたのはレイア一人だった。
いつもなら強斎の胸に飛び込むレイアだが、何故か躊躇う。
「ご主人様?」
「どうした?」
「……大丈夫ですか?」
強斎の頬にそっと手を添えて、上目遣いで心配する。
いつもの強斎だったら外に出さないといっても、内心では物凄く動揺していた。
しかし……。
「ああ、大丈夫だ」
心ここに在らずとはこういうことだろう。
強斎は苦笑するだけで、そこに感情はなかった。
そのまま場を立ち去ろうとする強斎を、レイアは引き止める。
「……」
「レイア?」
「ご主人様。辛かったらやらなくてもいいんですよ? 人間界との戦争は私達でも充分に事足ります
。ご主人様が直々に手を――――」
「ありがとうレイア。だが、これは俺がやらなくちゃならない。あいつらと……勇志と闘う事だけは……絶対に」
強斎はかなりの高スペックだ。
感情を隠すのが得意で、その特技を活かして上手いこと事を運んできたのも多々ある。
だが、澪や勇志等にポーカーフェイスは通用しない。
「……わかりました。ご主人様のその『目』を信じます」
「?」
そう、強斎の感情は大抵『目』で読み取ることができてしまう。
だが、これは勇志や澪レベルで親しい人間に限定する。
「ご主人様。私達と一緒に過ごした時間は一年にも満ちません。ですが、ちょっとした感情ぐらいは読み取れますからね?」
「……はぁ、参ったな」
レイアは強斎の手を取り、自分の胸に押し付けた。
「こうすることで、ご主人様がドキドキしていることも何となくわかっていました。それを強がって隠しているご主人様が私は好きなんです」
レイアは「まぁ……」と言葉を続けて顔を赤く染める。
「私が心臓が張り裂けそうになるぐらいドキドキしてますから、ただの勘違いかもしれませんが」
「ああー……。そんなことはないぞ?」
頬を軽く掻いてから、少しだけ恥ずかしがりながら言葉を続ける。
「こういうのを外に出すと……ほら、変だろ?」
「別に変じゃないですよ? ていうか、その程度で変とか今更過ぎですよ」
何がとまで言わずとも強斎にはわかっていた。
「これでも人間はやめてないんだけどな……」
「わかってますって」
レイアは少しだけ強斎から離れて、尻尾を強調するようにくるりと回った。
「私はどっちのご主人様も好きですよ。あの日出会った時からこれから先もずっと」
満遍の笑みを浮かべたレイアはそう言って去っていった。
一人残された強斎は少しの間唖然としていたが、直ぐに照れくささに変わった。
「『神槍』」
まだ強斎がこの世界に慣れていなかった頃に初めて創った武器――――『光槍』の完全上位互換を手に具現させた。
「イザナミ。何となく理解したぜ」
強斎は人気のない草原に移動し、空を仰いだ。
「強くなれ……その意味をなっ!!」
「この世界での強さはステータスが全てだと思っていたよ……。けど、それだけじゃなかったんだな」
強斎の周りには何も変化は起きていない。
だが、それは見た目だけの話。
圧倒的な魔力を開放したことにより、魔界だけではなく人間界、龍界、精霊界までが震え上がった。
「受け入れる強さ……そうだろ?」
気の遠くなるような距離にいる女性に向けて、呟いた。
強斎は忘れていた。
自分のLUKの存在を。
以前の『光槍』の出来事を。
レベルアップの恐ろしさを。
………
……
…
「おかえり、レイア」
「ああ」
ミーシャに対して素っ気ない返答をしているレイアだが、誰が見ても照れ隠しだとわかる表情をしていた。
「どうだった? キョウサイ様は?」
「……めちゃくちゃ可愛かった」
そう、気持ち悪いぐらいにニヤニヤしていたのだ。
「え、なに。ご主人って素直になったらあんなに可愛いの? 違う意味で発狂しちゃいそうなんだけど」
「ちょっと落ち着こうね? まぁ、可愛かったのは認めるけど」
ミーシャは二人の会話を最初から全て見ていたのだ。
レイアは大きく背伸びをして、満足げに息を吐く。
「久しぶりにご主人を独占できたな」
未だに鳴り止まない胸の高鳴りを誤魔化すように、レイアはこの場を早急に立ち去った。
ひとり残されたミーシャは
「今回だけだからね」
あのとき勝負に負けた自分を悔やむのであった。
やっぱり終盤が雑…