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84話 ゼロの秘密っぽい

ちょっと違和感あるかも

 強斎は固唾を飲んでイザナミの発言を待つ。


「あやつはな――――転生者なんじゃよ」

「転生者……!?」


 転生者。

 一度死んで、もう一度生を受けた者。


 ファンタジー小説ではありがちなことである。


「そう、強斎と同じ日本からこの世界に来た人間・・じゃ」

「ちょ、ちょっとまってくれ!」


 未だに状況をのみこむことができていない強斎はかなり動揺していた。


「人間だと? あいつは精霊王じゃなかったのか?」

「そうじゃな、精霊王でもあるの」


「……どういうことだ?」


 イザナミは目を伏せ、重々しく口を開いた。


「人間として転生し、自ら望んで精霊になったんじゃよ」

「……すまん、全くわからん」


「ここから先は話が長くなる。先に強斎の用事とやらを聞いてもよいぞ?」

「いや、俺の用事なんて後でいい」


「そうか」


 強斎もだいぶ冷静になったようで、聞くことに徹していた。



「転生後、あやつはちょっと常識外……所謂チートを所持した状態で転生したのじゃ」




「ある程度裕福だった家庭の一人娘として産まれたあやつは、ある日を境に転生前の記憶を取り戻し、チート能力にも目覚めた」




「その力……今では虚無属性の一種になるようじゃな。その力を駆使して最強の冒険者とまで呼ばれるようになったのじゃ」




「勿論、武術の腕も並外れたものじゃった。剣豪に素手で圧勝したり攻撃魔術の雨を剣一本で捌いたりとな」




「容姿も優れておったからな。言い寄ってくる輩もおったが、まるで相手にせんかったのじゃ」




「女には憎まれ、男には下衆な目で見られる。あやつは常に一人じゃった」




「そして、一人が故に悲劇は起こった」




「とある神の遊び道具の標的にされたのじゃ」




「その神自ら創った魔物とあやつを戦わせたのじゃ」




「結果はあやつの惨敗。簡単に殺されたんじゃよ」




「その神は、簡単に死んでしまったあやつに驚愕しておった。そして、あやつに特殊能力を与えた」




「死んでしまっても、記憶とステータスを引き継いだ状態で転生前の記憶を取り戻した日に戻る能力じゃ」




「最初の一回目は震えていた、故に殺された。二回目は別の国へ行った、故に殺された。三回目は戦いから逃げた、故に殺された。四回目は恐怖しながらも戦った、故に殺された」




「あの後、何度殺されたのか妾は把握しておらん。それ程の回数分殺され、ようやく魔物に勝利した」




「だが、悲劇は終わらなかった」




「その神は面白がって、また新しい魔物を創った」




「あやつは絶望した。自殺も試みた。だが不可能じゃった。戦うことしか残されてはいなかった」




「勝っても新たに強敵が現れ、何度も繰り返し殺される人生……ざっと600万年程繰り返しておったな」




「既に感情はなく、殺されるその瞬間だけ恐怖という感情が出てくるだけじゃった」




「そんなある日じゃった。あやつは精霊にしてくれと妾たちに頼み込んだ」




「妾たちは了承し、あやつを精霊にした……」




「精霊になったあやつのステータスは、これまでにない化け物じゃった。妾たちを圧倒的に追い越し、当時神々と対立していた魔神を殺し魔神の座についた」




「そして、自らを『虚無の精霊王』と名乗り他属性の精霊王をも圧倒した」




「同時に魔界を制覇したあやつは自分をここまで苦しめた神を殺すため、軍勢を引き連れてこの神界に乗り込んだ」




「じゃが、結果はあやつの負けという形になった」




「あやつがここまで強くなっていたことに焦った神は、あやつの記憶の大半を書き換えて封印したのじゃ」




 イザナミは大きく息を吐き、これ以上はないと言わんばかりに強斎を見つめた。


「なぁ、一つだけ訊いていいか?」

「なんじゃ?」


 イザナミは気がついていなかった。




 ――――――本気でキレた強斎の恐怖に。





「っ!?」


 ただの視線。

 それだけでも神であるイザナミは逆らうことが出来ないと直感した。


「ゼロをそんな目に合わした神はどこのどいつだ?」

「……教えられん」


 しかし、イザナミは逆らった。


「今の強斎では教えても意味などないからの」

「なんだと?」


「教えて欲しければもっともっと強くなることじゃな。話はそれからじゃ」

「今の俺じゃ弱いってことか?」

「その通りじゃ」


 勿論、強斎が弱いわけがない。

 だが、イザナミの目は本気だった。


「……わかった」


 強斎は湧き上がる怒りを抑え、深呼吸をした。


「妾的には強斎の用事が聞きたいんだがの」


 イザナミは何とか話を遠ざけようと、別話題を持ちかけた。


「実はな、人間界に戦争を吹っかけようと思ってる」

「ほう……そんなもの、妾たちの力なぞ借りなくても圧倒できるじゃろ?」


「俺が頼みたい用事はそんなんじゃねぇ」

「ならなんじゃ」


 強斎は少しだけ拳に力をこめた。


「人間界と戦争するとき、人間側に味方してやってくれ」

「無理じゃ」


 即答だった。


「まず、妾たちはそう簡単に下界に降りることはできん。降りることができるとしても、神としての力を封印せなければならぬ」

「そうなのか……」


「そしてもう一つ。なんで強斎と戦わねばならぬ。いくら人間が味方をしても、妾の負けは確定しているじゃろうに」

「それについては考えがあったんだがな……じゃあ、別の頼みだ」


 完全に蚊帳の外にいるイザナギを一瞥してから言葉を繋ぐ。


「人間に近い人形の造り方を教えてくれ」

「……本気かい?」


 ここでようやくイザナギが発言した。


「人間に近い人形ってことは、やろうと思えば人間そのものを創り出す事ができるんだよ? それはつまり――――」

「完全に人間をやめることになる。神々と敵対することになるのも時間の問題じゃぞ?」

「だが、人間をやめるときは人間を創った時だろう?」


「「……」」


 二人は無言で頷いた。


「それなら大丈夫だ。それに……」


 強斎は先ほどの会話を思い出す。


「神と戦う理由もできた。その時になったらこっちから人間をやめてやる」

「……そうか」


 イザナミ、イザナギは顔を見合わせ同時に立ち上がった。


「妾の名にかけて強斎に『殻』の造り方を教えよう」

「我の名にかけて君に『中身』の創り方を教えよう」


 強斎は力強く頷いた。


………

……


「ああー……ご主人に抱きつきたい……」

「最近そればっかりですね」


「へっ、自慰行為までしてるくせに」

「なっ! それはレイアもでしょう!?」

「ミーシャさん、レイアさん。少し落ち着きましょう? まだ真昼間ですよ?」


 ルナは、配下を使って魔界と人間界の現状を把握しながらも二人の会話に耳を傾けていた。


「いや、だってね。もう三ヶ月だよ?」

「そりゃ、色々溜まるわな」


 レイアを無言で叩いてから、大きなため息をついた。


「キョウサイ様の目的を一番把握しているだろうゼロは忙しそうだし、私たちは魔界にいるほぼ全ての魔物を使役できたからやることなし。ルナちゃんは監視だから基本的になにもやらない……」

「そりゃ、色々溜ま――――」


 ミーシャの威圧によって言葉は遮られた。

 レイアもレイアでおかしくなってきているようだ。


 そんな時、三人の背後に立つ者が現れた。

 この三人に気がつかれずに背後に立つ者なんて、本当にごく僅かしかいない。


「もうやることは終わったの?」

「まぁね。後は主人を待つだけ」


 ゼロだ。

 だが、浮かない顔をしていた。


「どうしたの?」

「いや……ちょっと未だに迷っててね……」


「キョウサイ様に話したい事?」

「うん。でも、戦争まで1ヶ月切ってるし……」


「ゼロらしくないですね」

「そりゃ、主人の事を考えると……ね」


 盛大なため息をつき、頭をポリポリと掻く。


「主人の特殊能力……ありとあらゆる『法則の無視』。これはもう、人外ってレベルじゃないわよ……」


 ゼロは強斎の特殊能力について薄々勘付いていた。

 だが、確信を持つことができたのは三か月前……強斎を送った後だ。


 本来、人間が神界に行くことなど不可能なのだ。

 そもそも、神と人間では造りが全く異なる。

 人間が神界に出向くには、神の加護を受けなければならない。

 受けなかった場合、どうあがいても転移など発動しないのだ。


「でも、ゼロはそんな知識をどこでつけたの?」

「そりゃ、こう見えて精霊王だし? 魔神だし?」


 と、ゼロがボケたとき。

 四人は一斉に目を見開いた。


「ようやく……帰ってきたのね」

「ああ、待たせたな」


 この四人の背後を取ることが出来るのは、この世界でおそらく一人だけだ。


「ミーシャ、レイア、ルナ、ゼロ。俺が留守の間、よくやってくれた」


 一人ひとり、小鳥遊強斎は四人の頭を優しく撫でた。


………

……


『最終チェック?』

「ああ、そうだ」


 強斎は暗黒騎士の服を着ながら肯定した。


「お前たちを信用していないわけではないが、俺自ら確認したいとこもあるからな。直ぐに終わらせるから心配するな」


 ついでに、今まで溜まっていたアレは激しい行為によって全員解消されている。

 しかし、ゼロは未だに強斎に話すことを話していない。


「んじゃ、ちょっと行ってくる」


 少しだけ不満そうな四人から逃げるように、強斎はこの場を去った。

(すまんな、これだけは確認しないと気が済まないんだ)




 一瞬にも満たない時間で強斎はとある王国……ドレット王国にたどり着いた。


(あいつら……元気にやってるかな)


 人に気がつかれないように城に忍び込み、記憶を蘇らせる。


(ここは……俺の部屋だったところだな。時間もいい頃だし、飯でも食ってるのか?)


 以前一度だけ食事の時に使った大広間を覗いた。


(………………)


 そこに…………いた。

 ここまでじっくり顔を見るのは半年以上ぶりだ。


(元気にやっているっぽいな……あれは緋凪か? そうか、あいつもこっちの世界に転移してきたのか)


 琴音や信喜、仁とは顔合わせしているので、直ぐに状況を把握できた。


(俺はもうすぐあいつらと戦う……。いつまでもこの平和が続くように)


 小さく鼻を鳴らし、これからすることをイメージする。


(そうだな……まずは、挨拶だな)


 強斎は先程から背後に隠れているつもりの人物に話しかける。


「久しぶりだな、ベルク」

「……ああ、久しぶりだな。ショクオウ……いや。暗黒騎士」


 そこには、シッカ王国の冒険者ギルドの頂点に立つ男。

 ベルク・ローダンが立っていた。

イザナミとイザナギとの会話には続きがあります

追々書こうと思います

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