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81話 目的っぽい

 強斎がとんでもない発言をして、場は困惑という形で固まってしまった。


「キョウサイ様!」


 それを破ったのは銀髪の少女、ミーシャだ。

 注目は一気に彼女に向けられた。


「どうした?」

「そろそろ……教えてくださいませんか?」


 ミーシャは静かに……しかし、何かを訴えるように言葉を続ける。


「今まで私たちは、キョウサイ様を信じてここまで来ました。ですが、それはキョウサイ様の身の安全が確定されていたからです! この世界から消えるなど、いくらキョウサイ様でも――――」

「ミーシャ、少し落ち着け」


「落ち着けるわけないじゃないですか! だって、この世界から消えるということは……消えるということは……!」


 安全は保証されない。

 ミーシャはそう言いたかったのだが……。


「……っ!」


 言葉が出なかった。

 代わりに目元に涙が溢れてきた。


「ご主人様、私からも説明をお願いします」

「主様……」


 レイアもルナも、複雑な気持ちを抱えたまま強斎を見つめた。

 ゼロは目を伏せて、聞く耳だけ傾けている。


「そうだな、今まで全くの説明もなしに振り回してきたもんな……」


 強斎はルシファーとキャルビスを一瞥する。


「すまないが二人は席を外してくれ」


 二人は無言で頷き、部屋を出て行った。


「さて、そろそろ落ち着いたか? ミーシャ」

「……はい」


「先にミーシャの誤解を解かないといけないな。この世界から消えると言ったが、あれは半分誤魔化しのようなものだ」

「誤魔化し……ですか?」


「ああ。さて、答える前に一つだけ質問する。この世界は人間界と魔界以外に何がある?」

「精霊界と龍界ですよね?」


「そう、それがこの世界の全て。だから俺はその世界から消える」

「??」


「つまりは――――」

「存在すら知る人物は数少ない……『神界』に行くつもりなのね?」

「神界……?」


 ゼロの聞きなれない単語に無意識に首をかしげるミーシャ。


「流石だな。そう、ゼロの言う通り五つ目の世界……『神界』に行くつもりだ」

「じゃあ、この世界から消えるというのは……」


「言っただろ? 誤魔化しだって。ここは四つの世界が全てだと思われている。だから、五つ目の世界はこの世界であってこの世界でないようなものだ」

「……!」


 今更になって自分の早とちりに気づき、顔を真っ赤に染めるミーシャ。


「で、ですが何故そのような誤魔化しを?」


 質問で注目を逸らそうとしているが、殆ど無意味だった。

 強斎は微笑をしてから説明をする。


「ルシファーっているだろ?」

「ええ、あの魔王の」


「もしかしたら、あいつは神界から来た魔王かもしれん」

「それってどういう……?」


「堕天使ルシファー……恐らくだが、神と敵対した天使だ」

「天使……」


「そいつがいる状況で神界の話なんてしたら厄介なことになりそうだからな。だから濁した」

「そういうことだったのですか……」


 ミーシャはようやく納得したようで、何度も頷いていた。


「それともう一つ。俺の目的だったよな?」


 再度、注目の的になる強斎。


「最初は強くなってから仲間と合流して、一緒に元の世界に帰るつもりだった……。だが、人を殺し、人外な力を手に入れると共に逢うのが怖くなってきてな。それから俺の目的は――――」


 強斎は一人一人しっかりと目を合わせて優しく微笑んだ。


「お前たちを含めて、どんな手段を使ってでも守ることにした」

「その為の戦争ってことね」


 ゼロの言葉に頷き、更に話を続ける。


「これから先、もっと壮絶な戦いが待っているだろう。龍人との戦争や精霊とも戦争するかもしれない。最悪、神々とも敵対することになるだろう。だが、俺は必ずお前たちを守る。そして、戦いが終わっても――――俺はこの世界で生涯を終える」


 強斎の目に迷いなどなかった。

 本心からそう決め込んだようだ。


「これが俺の目的だ」

「……」


 強斎は今まで隠してきた目的を言い切った。

 これ以上の隠し事は無いと思える程に。


 だが、それでもミーシャは納得していないようだ。


「キョウサイ様、一つだけいいですか?」

「どうした?」


「キョウサイ様はそれでいいのですか?」

「?」


「私たちを守ってくれるというのは物凄く嬉しいことです。ですが、その為に戦争するわけですよね?」

「ああ」


「でもそれって……仲間を守るために仲間のいる世界と戦争するってことですよね?」

「……」


「戦争をしてから、どうやって守るのかは考えがあるのでしょう。ですが……いいのですか?」

「……」


 ミーシャはもう一度質問をした。

 しかし、さっきの質問とは言葉の重みが違う。


「最悪……戦う事になりますよ?」

「……ふっ、今更だな」


 だが、強斎は全く動じなかった。


「あいつらは以前より遥かに強くなった。剣を交える覚悟なんてとっくに――――」

「私が聞きたいのは、キョウサイ様の心です」

「っ!」


「一緒にこの世界に来た仲間なんですよね? そんな唯一一緒の世界で生まれた仲間に……敵として見られるのは怖くないのですか?」

「……愚問だな」


「それはつまり……」

「あいつらを守るために戦い、嫌われる。いつも俺が勝手に押し付けている貸し借りと同じだ。……怖いわけがない」


 その時の強斎の目からは真偽を見極めることはできなかった。

 だから、ミーシャはとりあえず納得する。


「ありがとうございます、これでモヤモヤが消えました」

「それはよかった」


 そして、強斎は大きく息を吐き……。


「それじゃあ、行ってくるよ……『神界』に」


 その後、ルシファーとキャルビスに軽く説明をして強斎はある場所に向かった。


………

……


「本から転移するなんて……本当にファンタジーだな」


 ここは魔界にある大図書館。

 しかし、ここの使用許可は強斎たちにしか許されていない。


「へぇ、そっから神界に行けるんだ」


 そう、強斎たち・・にしか許されていないのだ。


「はぁ……で、話ってなんだ? ゼロ」

「話というか……お願いかな?」


「珍しいな」

「そうかな? まぁ、珍しいと思うならちゃんと聞いて」


「で、何なんだ?」

「主人なら大丈夫だと思うけど、改めて……ね」


 ゼロは強斎から少し間を開けて――――。



「これからも、私たちを愛し続けてください」



 ――――深々と頭を下げた。


 強斎はその光景が酷く衝撃的だった。

 ゼロは封印されてたといえ魔神なのだ。

 いくら主従関係といえ、普通とは思えない行為だった。


「お、おい! 頭を上げろ!」


 ゼロは頭を上げても真剣さは消えなかった。


「ああ、お前たちを永遠に愛し続けるよ」

「本当に?」

「本当だ」


 その時、ゼロはへなへなと力なく腰を下ろした。


「ふぅ、緊張したぁ~~」

「緊張したのはこっちの方だ。なんであんな事をしたんだ?」


 ゼロに手を差し伸べて立ち上がらせる。


「ちょっと、ミーシャに影響されてね」

「ミーシャに?」


「うん、ビックリしたでしょ?」

「まぁな。普段とは少し違った」


「ミーシャもルナも……多分、レイアも変わろうとしている」

「……」


「だから、みんなが変わっても主人は変わらずに愛し続けて欲しい。そうお願いしてきたの」

「はぁ、そんなことか」


「そんなことって……酷くない?」

「俺はな、いつお前たちが離れてしまうのか怖かったんだよ」


「つまり?」

「俺の方こそ、俺を愛し続けてくれ」


「ふふっ、よろしい」

「ったく、恥ずかしいこと言わせんな。俺はもう行くからな」


「いってらっしゃい」


 強斎は一冊の本を取り出し、魔力を流し込んだ。

 通常ならありえない程の魔力量……だが、強斎にとっては減った感覚すらない程の微量。


 それだけで充分だった。


「よし、完成っと」

「ああ、なんか懐かしい感じがする」


 本を中心に半径1メートルの円柱の光が輝いていた。


「ゼロは神界に行ったことがあるのか?」

「まぁね」


 そんなたわいも無いやり取りを終えると、強斎はその光の中に足を踏み入れた。


「あ、そうだ主人」


 もう転移するというところでゼロからお呼びが掛かった。


「どうした?」

「帰ってきたら色々と教えてあげる」

「色々って……曖昧だな。まぁ、行ってくるよ」


 そして、強斎はこの世界から姿を消した。

 取り残されたゼロは少しだけ口元をつり上げ……。



『いってらっしゃい。小鳥遊強斎君』



 紛れもない日本語でそう呟いて、この場を去った。

R18絵描いてる絵師さんとお近づきになりたい(切実

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