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79話 龍人っぽい

「はぁ……ここは俺の迷宮だ。勝手に改造されると困るんだが」


 強斎は目の前にいる人物……龍人と対峙していた。


「それについては、誠に申し訳ございません。こうでもしないと応じてくれないと思いましてね」

「……応じる?」


 龍人と言っても体格や顔立ちはさほど人間と変わり無い。

 唯一の違いと言ったら羽と尻尾だ。


 目の前の龍人には赤色の羽と尻尾が付いている。


「ええ、ここの迷宮の製作者……キョウサイ・タカナシさんに……ね」

「……」


 強斎は内心で盛大な舌打ちをしていた。


(ちっ……名前を隠した意味がなくなったじゃねぇか)


 琴音との会話で伏せ字に使っていた『製作者』が原因でばれてしまったのだから。


「それで? そうだったとしたらなんの用だ?」

「肯定するつもりはさらさらないのですね」


 無駄だとわかっていても決して頷かない強斎に、龍人は微笑した。


「まぁ、いいでしょう。あなたが『あの』キョウサイ・タカナシであることを信じてお話します」

「……」


「お話といっても、簡潔に要件だけ――――」

「いいから話せ」


 龍人は少しだけ驚いたような顔をし、そして笑顔で言い放った。


「この迷宮を拠点とし、人間界を占拠します」

「……は?」


 流石の強斎も、今の言葉を受け入れるのには時間がかかった。


「どういうことだ?」

「そのままの意味ですよ。あ、人間界を占拠する意味ですか?」


 場をつなぐために僅かに頷く。


「私たち龍人は精霊と対立していましてね。いつの日か精霊界に戦争を仕掛けにいくつもりなのですよ」

「そのための人間界占拠か……」

「理解が早くて助かります」


 すると、強斎は不敵に笑い始めた。

 龍人も、突然のことで戸惑っている。


「確かに、ここは亜空間迷宮だからな。使い方によっちゃ拠点として充分に活用できる。他にも、使役できる竜や魔物がいることも含まれてるな」

「ええ、その通りです」


「この際だから言っておこう。俺がこの迷宮の製作者。小鳥遊強斎だ」

「名前を逆で言うとは珍しいですが……キョウサイ・タカナシと同一人物という認識で構いませんか?」


「ああ、その通りだ」

「そして、ここで名前を明かしたということは……」


「ここを明け渡すつもりは毛ほどもないってことだ」

「報酬と安全は保証すると言っても?」


 強斎は大きくため息をつき、龍人を強く睨んだ。


「同じことを二度も言わせるな」

「……そうですか」


 次に龍人がため息をつき、強斎を睨む……のではなく鼻を鳴らした。


「では、力ずくでも奪うしかありませんね!」


 そして、無謀にも勝負を挑んでしまったのだ。


「私たち龍人は基本的に魔術は使えません。ですが、大抵の魔物を使役できる上に魔族にも勝る身体能力を持っています!」

「……」


 気が付けば強斎を囲むように竜が配置されていた。


「ふふ、恐怖で声も出ませんか……。そうですよね、先程襲った竜とは桁違いの竜の集まりなのですから!」

「……」


「最後に一言だけ発言の許可を与えましょう。その答えによっては助かるかもしれませんよ?」

「じゃあ――――」





 ――――――――――『跪け』。





 音に出したかすら危うい『声』。

 幻聴と言ってもおかしくはないだろう『声』。


 だが龍人の脳に、身体に、本能に。ありとあらゆるところまで、その『命令』は轟いた。


「!!??」


 意思とは無関係……いや、意思すら洗脳されたかのように龍人は片膝を立てて跪く。

 強斎を囲んでいた竜もこうべを垂らしている。


「お前ら龍人って馬鹿なのか?」


 今度は確実に声に出して話している。

 しかし、龍人に発言は許されていない。


「誰がこの迷宮を作ったと思う? 誰がこの迷宮の魔物と精霊を使役していると思う?」


 強斎は廃棄物でも見るような視線を龍人に向けながら話を続けた。


「お前さ、そこんとこ考えた上で乗り込んできたんだよな? 対策を練った上でここを乗っ取るって言いに来たんだよな?」

「……っ!」


 胸ぐらを掴み、強制的に立ち上がらせる。


「お前、誰かの命令とかじゃなくて自分の意思でここに来たんだろ? 手柄を立てて褒美をもらおうって魂胆か?」

「……」

「ちっ、もういい。『喋れ』」


 地面に放り投げてからもう一度『命令』する。


「ぐっ……はぁ……はぁ……。さっきのは……いったい……?」

「そんなことはどうでもいい。今から俺の質問に答えろ。そしたら命だけは助けてやる」


 既に龍人に選択の余地はなかった。


「ここにどんな仕掛けをした」

「……この迷宮の製作者を知らない精霊は、この迷宮を本能的に警戒するようにした。精霊王に察知されては困るからな」


「それから?」

「人質を確保する為に、強制転移のトラップを数個設置してある。配置は一定時間おきに変化するから教えられん」


「それだけか?」

「ああ、それだけだ」


 龍人は既に脱力していて、嘘をついているような雰囲気ではなかったので、とりあえずは解放することにした。



「ふふ、またいつの日か会えることを願っていますよ」

「は? 誰が逃すと――――」

「では!」


 龍人はどこからか出した転移石を使って消えてしまった。


「……ゼロ、居るんだろ?」

「流石ね」


 龍人がいなくなったことにより、竜たちの意識はなくなってしまった。

 そんな竜の影からひょっこりと顔を出すゼロ。


「転移石に思うところでもあるの? すっごい戸惑っていたけど」

「……まぁな」


「それより、精霊界と戦争か……面白くないわね」

「お前も思うところがありそうだな」


 その時、強斎の顔に一筋の汗が垂れた。

 顔の色を真っ青にして急いで迷宮の出口に向かおうとする。


「ちょ、主人!? どうしたの!?」


 冷静を装ってるつもりだが、全く隠しきれていない。

 こんなにも焦りを露骨に見せたのは、ゼロも初めて見る。


「ルナが大怪我を負った。HPがこれまでにないほど減っている」

「ルナが!?」


「ああ、もしかしたらルナを超えるステータスを持った奴がいるかもしれない」

「だったら私が行くわ」


「だが……!」

「私は主人より回復の適性がある。それに、私なら絶対に負けない」


「……」

「主人は罠の撤去に専念してて」


 冷静に考えた上で、強斎はこの決断を下した。


「……わかった。ルナは任せる」

「ふふっ、任せなさい!」


 そう言って、ゼロは刹那のうちに姿を消した。


「……」


 心残りがあるものの、仲間を信じて罠の撤去を急ぐ強斎であった。

龍人のステータスはキャルビスより下です。

名前と数値を考えるのが面倒だっ……おっと誰かが来たようだ


さて、そろそろ新ヒロインを挿入しますか……

キャラ設定は決まっていて後は登場だけなんですよね!

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