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72話 反省っぽい

ルナさんマジぱねぇ…

まさか鈴の好感が落ちるとは思っていなかった

「うっ……ん……」


 ファイが目を覚ましたのは明け方だった。

 まだ完全に覚醒していないファイは周りを見渡し、ここがドレット王国の一室だと理解する。


「あれ……? 私……」


 右脚を撃たれて重傷だったはずだが、今はなんの痛みもなく、怪我も綺麗さっぱりなくなっていることに疑問を感じた。

 そして、段々と今の状況を把握していく。


(私、あいつに負けたんだ……)


 上級に近い階級を持つ自分が、ここまで圧倒的に負かされたのは初めてだった。

 それと同時に、ルナへの警戒度がさらに高まる。


「ん?」


 今まで気がつかなかったが、ファイのそばで寝ている人物がいた。


「……リン?」


 自分の契約者であるリンだった。

 心配をかけたという罪悪感と同時に未遂とは言え、仲間の安全を全く考えずに魔術を使ったことに対しひどく反省する。


(こればかりはあいつに感謝ね)


 あの時魔術を無力化していなければ、もしかしたらこの場に誰ひとりいなくなっていたかもしれない。

 自分は助かるが、契約者を殺してしまってはどの道待っているのは死だった。


「……ファイ?」

「おはよう、リン」


「よかった……目を覚ましたのね」

「ええ、ぐっすり眠らせてもらったわ」


「本当に……よか……った」


 鈴はそのまま目を閉じて、深い眠りについてしまった。

 あまり寝ていないことが目のクマを見れば直ぐにわかった。


「おやすみ、リン」


 ファイは鈴が起きるまでこの場を離れるつもりはなかった。


………

……


「さて、とりあえず二人共ここに正座ね」

「「……はい」」


 最初はファイを心配していた澪だが、朝食が終わると直ぐに二人を正座させた。


「二人共、なんで正座させられてるかわかるよね?」

「「はい」」


「じゃあ、まずファイから」

「あなたたちの安全を考えずに魔術を放とうとしてました」


 すると、ファイの頭にコツンと澪の拳が当たった。


「それもあるけど、それは私たちが弱いってのも原因だから。私が怒ってるのはルナさんに対して突然攻撃した挙句に、驚異だのなんだの言って殺そうとしたこと。ルナさん困ってたのよ?」

「それは根拠があって……」


「言い訳は後で聞くわ。次、鈴」

「明らかにファイが悪いのに、ルナさんに対して鬼畜だの魔術を教えてくれた時のルナさんじゃないだの、挙句の果てにルナさんの主を悪く言ったことです」


「そうです。それと、ファイをしっかりとコントロールしてないのもダメ。お母さん許しませんよ?」

「うぅ……ごめんなさい」


 その時、澪が大きなため息を吐いた。


「……まぁ、何もできなかった私が言える立場じゃないけどね」


 黙って聞いていた他の面々も、少しだけ雰囲気が暗くなった。

 それを察したのか、澪は慌てて話題をふる。


「で、ファイの根拠って?」

「……」


 口を開こうとしないファイに少しだけムッとしたが、鈴が「任せて」と目で訴えたので素直に引いた。


「ファイ、命令よ。私たちの質問に答えなさい」

「……わかったわ」


 観念したようで、ファイは重い口を動かす。


「私があいつを殺そうとした原因……あいつも言っていたように精霊に言われたのよ」

「ルナさん……本当に何者なの?」


 澪の驚きに共感する勇者一行。


「言われたというより、聞こえたと言ったほうが正しいわね。周りの精霊が、明らかにあいつを避けるように行動していたの。完全に怖がっていたわ」

「怖がる? なんで?」


「あいつは危険だ、近づかない方がいい。そんな会話が耳に入ってきた……そして、私も一目見てわかったわ。あいつは危険よ」

「危険危険って……ルナさんは――――」

「ミオは知らないかもしれないけど、精霊ってのは気に入った人に服従したいって子が多いのよ」

「……マゾ?」


「それがなんなのかわからないけど、その特性のせいで無理矢理服従させる能力を持っている人を嫌うことがあるの。そして、力が自分より強かったら本能的に恐怖を感じる……」

「まさか……」


「そう、あいつは強い上に服従させる能力を持っている……戦った感じだと魔王より遥かに強い」

「……」


 もうルナのことに対して驚かない事を決めた澪だった。

 そして、何かを思い出したかのように鈴が質問する。


「あ、そうそう……どうしてファイはルナさんに屈しなかったの?」

「さっきも言ったとおり、他の精霊を服従させたくなかったのよ……それに、あいつに屈したら私まで服従されてたかもしれないから」


「ふーん……じゃあ最後にもう一つ」


 鈴はルナに頼まれた最後の質問をする。



「――――どうして迷宮の入り口を破壊しようとしたの?」



 ファイは驚愕していた。

 まさかこの質問がくるとは全く思っていなかったらしい。


「まさか……気づいていたの?」

「ううん。ルナさんから聞いた。ルナさんの機嫌が悪くなった原因ってどう考えてもこれだよね? ファイは何を企んでいたの?」


「……確かに私はあの迷宮の入り口を破壊しようとしていたわ。あの迷宮……亜空間迷宮をね」

「やはり、あの迷宮は亜空間迷宮でしたか」

「俺も薄々そうじゃないかと思っていたがな」


 ヴェレスとベルクは納得しているが、他は理解できていなかった。


「亜空間迷宮というのは、直接地下に眠っている迷宮とは違い亜空間に存在する迷宮のことです。本来の迷宮だったら80下層という基地外な大迷宮にはなりませんが、亜空間だったら可能です……ただ」


 ヴェレスはファイを初めて睨めつけた。


「亜空間迷宮の入口を破壊してしまったら中の人々は亜空間に閉じ込められます。それを知っていて破壊しようとしたのですか?」

「ええ、その通りよ」


「……どうしてですか?」

「あの迷宮には精霊が一匹もいなかった。それに、下に行くたびに不穏な空気が濃くなっている。明らかに何かあるわよあそこ」


「私が訊いているのは、どうして他の人を考慮せずに入り口を破壊しようとしたのかです」


 今までにないヴェレスの強い口調に、ファイは少しだけ驚いていた。


「あそこまで怪しい場所なんだもん。多少の犠牲を作ってでも早めに除去しないと」


 その瞬間、ファイの目の前の鈴が現れ、頬を叩いた。


「……ファイ。あなたは命をなんだと思ってるの?」

「……命は命。たった一つしかない大切なものね」


「なら、どうして?」

「だから言ったでしょ? 犠牲が必要だって」


「それがファイの勘違いだったらどうするつもりだったの!?」

「ならそれまでね」

「喧嘩はやめなさい」


 澪が二人の喧嘩を止めに入った。


「あなたたち、今は説教中なのよ? 立場をわきまえなさい。それとファイ、そういうのはあまり言わない方がいいわ。私たちは、他の人たちより少しだけ命を重く見てるから」

「……わかったわ」


「鈴も、少し熱くなるのが早いわよ。手を出す前に理由ぐらい訊きなさい」

「……ごめん」


 暗い雰囲気が漂ったところで、今まであまり喋らなかったベルクが口を開いた。


「さて、じゃあ暗黒騎士を討伐しに行くか」


 だが、口にしたのは討伐提案という少しズレた話題だった。

ベルクさんKYでっせ…

さて、反省会をしたところでファイの性格が段々わかってきましたね。

澪を母性溢れるキャラにしたいです…


亜空間迷宮……つまりは基地外迷宮です

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